乱丁17:役割を忘れてはいけません
今回で『乱丁』はひとまず終わって本編に戻ります。
思ったより長くなりましたが、楽しく読んでもらえたなら幸いです。
私は『凡百』、脇役だ。
脇役とは主役を引き立てて、主役のすべき行動を、そのための状況を整える役割だ。
ならば、『主役』とはどんな役割だろう?
私は思う。
『主人公』と『主役』は違う。
『主人公』は、物語を動かすための『意志』を持つ人だ。
『主役』は、物語を動かすために『行動』する人だ。
この二つは、よく似ているようで全く違う。
『主人公』は、一つの物語を通してずっと『主人公』だ。そして、その物語がハッピーエンドかバッドエンドかは、その『主人公』の『意志』と結果がどれだけ一致するか、あるいは一致しないかで決まる。極端な話、何も行動しなくても全てが思い通りに動く人がいたのなら、それはハッピーエンドを約束された『主人公』なのだと思う。
対して『主役』は物語において、いくらいてもいい。そのシーンや場面において、誰よりも物語を左右する『行動』を起こした登場人物……それが『主役』。劇では、その瞬間において誰よりも注目されるべき役割だ。そして、誰よりも物語を動かす立位置にいる存在だ。そこに物語を動かす『意志』は必要ない。『主人公』の目的を知らずに何も知らずに手伝わされる友人でも、何も知らず殺人事件のギミックを見つけてしまう助手でもいい。極端な話、そこに立っていただけで空襲から主人公を守った大きな樹とかでも、『主役』にはなれる。もしかしたら自覚がないだけで、私みたいな脇役でも『主役』として動いてる時があるかもしれない。
『主役』と『主人公』は違う。
実行犯と黒幕くらい、アバターとプレイヤーくらい違う。
だけど……同じ人であっていけないなんて決まりは、どこにもない。
《6月27.5日 Truth Of Liar》
「いきなり、マジで驚いた……で、どこで気付いたんだ? バレるようなボロ出した憶えないんだか」
そういって私の前に立つのは、夢の世界の中でマリーさんに化けてた正記。今は変装(変身?)を解いて、デスゲームの世界に来る前の慣れ親しんだ姿で私の前に立っている。飄々とした態度ではあるけど、一応驚いてくれてるらしい。
そんな彼に、私は呆れてため息をつく。
「そもそも、この『Game Start』っていうのが意味深すぎるよ。私の服装もあの日と同じだし……これが私の夢じゃなくて管理人……つまり正記の夢だってわかったら、すぐわかったわよ。これが、あの日のゲームの続きだって」
『あの日』……正記に告白した私が、交際のための条件として出題された『街中から変装した正記を見つけだす』というゲームに敗れた日。
正記と私が実質的に絶交した日だ。
「ゲームがわかったにしたって……他にも候補はいろいろいただろ。『透明人間』の勇真なんて、怪しすぎてゲーム関係なく警戒されるレベルだろ?」
確かにそうだ。
透明人間、一人だけの大人、私に興味を示さない人達、『死んでから』再会することになった雨森さん……誰も彼もが個性的で、怪しもうと思えばいくらでも怪しめた。
だけど……
「もし正記が『混ざる』なら、絶対に私なんかにわからない、一番私に疑われない人になると思ったから……なんとなくだけど」
ここが夢の世界だというのなら、容姿なんてあてにならない。
体型も性別も年齢も、何もあてにならない。もしそうなら、正記の演技なんて見破れるわけがない。それは演劇部の時に散々見せつけられた実力差を考えると、どう考えても勝てない。昔、読み合わせでのヒロインのセリフで、演技力で負けたときには正直泣きそうになった。
だったら、私は不自然な人を探すことなんてしない。
私が考えるべきは『正記なら、どんなふうに私を騙すか』だけだ。これだけが、私が正記に勝てると思ってる部分だ。私が今まで、どれだけ騙され続けたと思ってるのかという話だ。
「『デスゲームなら、それくらい迷わずすべきだ』……正直言ってこのゲームの意味なんて私は全然わかってない。だけど、正記がそこまで本気なら……きっと、私を完全に騙しきる。だから、直感で一番信じられそうだと感じた人を選んだんだよ」
「マリー=ゴールドからパクった『無条件に信頼を得る能力』が裏目に出たか……だが、何となくだろうが裏をかかれた結果だろうがオレの負けだ。」
正記は、私に微笑んで言った。
「デスゲーム『Truth Of lire』……勝者はおまえだ、モモ。よく、ここまで来たな」
景色は一変する。
真っ白のキャンバスみたいだった世界が、具体的なイメージをもって再構築される。
再構築された世界の姿はまるで……『裁判所』のようだった。それも、私が裁判長の座るべき席にいて、被告人席にいる人物を……俯いて顔を見せないけど見間違えようのない姿の正記を、見下ろしている。
私の左右前方には、それぞれ弁護人と検察の席がある。弁護人席には金髪の女の人が、検察席には赤茶色の髪をした女の子が座っている。
これは、『裁判』だ。
私がそう理解した直後、女の子が声を上げる。
「裁判長、被告人の罪状を提示して構わないでしょうか?」
「え、は、はい。どうぞ」
……驚いて認めちゃったけど、この裁判って正記を裁く裁判だよね? 一体どんな罪状で……
「被告人に確認します。あなたは昨年二月末……クラスメイトの脇田百恵さんを、『殺害』しましたね?」
「……え!? ちょっと待って!!」
「裁判長、静粛にしてください」
弁護人さんに『静粛に』なんて言われちゃった……立場逆のはずなのに。
「そして異議あり。脇田百恵さんは三月以降も生存が確認されています。その罪状は誤りです」
そうだよ。
私は生きてる……死んだ事なんて、まして正記に殺されたことなんてないのに……
「異議を否定。被告人の脇田百恵さんに対する『殺害』と脇田百恵さんの『生存』は矛盾しません。よって、被告人の罪に変更はありません」
「さらに異議ありです。それは頓知ですか? まさか、同姓同名の『脇田百恵』さんがどこかにいて、被告人はそちらの方を誰にも気付かれることなく殺害し、隠し続けていたとでも?」
弁護人さんの誘うような口調に、検察官は平坦に応える。
「肯定します。被告人は間違いなく『脇田百恵』を殺害し、それを完璧に隠蔽し、誰にも察知されることなく隠し通して来ました。よって、高い計画性のある証拠隠蔽も罪にも問われるものと考えます」
「『完璧に』ですか? 彼は今現在見ての通りに罪に問われ、裁かれようとしています。その事実が『完璧に』隠蔽されていたなら、今のこの状況はどうして成立しているのですか?」
会話がイマイチ理解できない。
私が殺されてるならそもそもこの裁判所みたいな場所でライトを見下ろしてるのもおかしいし、殺された本人にもわからない隠蔽なんて想像もつかない。
私の主観と完全に矛盾する、ライトだけの世界の話。
赤い髪の検察官が私に目を向ける。
「……裁判長、証人を呼んでもよろしいでしょうか?」
会話を理解するのに必死で自分が裁判長だったことを忘れていた私は、狼狽えながらも頷くことしかできない。
そして、私の頷きを肯定と見た検察官は、傍聴席から一人の少年を招き寄せる。
それは……
「え、え!?」
被告人席にいるより小さい、中学生くらいの行幸正記。それが、検察官の隣に立つ。
「『彼』こそが証拠であり、証人であり、そして真実です。被告人が如何なる動機で『脇田百恵』の殺害に至り、そして如何なる理由によって『脇田百恵』が未だ生存しているのかを知る人物です。何故なら……彼こそが、被告人自身の切り捨てようとした『心』なのです。被告人、異論があればどうぞ」
被告人席の正記は、俯いたまま微動だにしない。『黙秘権』……というより、何も感じていないように見えた。
「異論はありませんね? では、事件の詳細を確認したいと思います。事の発端は昨年の2月14日。被告人は被害者『脇田百恵』氏より交際の申し入れを受け、そのための条件として一つの『ゲーム』を申し出た。訂正はありますか?」
……黙秘。
それに合わせるかのように、弁護人も何もいわない。
「ゲームの内容は被告人の持つ『秘密』を暴くこと。そのための勝利条件は、被告人のある『嘘』を目撃し、その現場を押さえること。そして、被害者はその条件を呑み、ゲームが開始された……」
検察官が一瞬のための後……一際声を張って言った。
「その『ゲーム』が『デスゲーム』であることも知らせず、失敗した際のリスクも説明せずに、被告人はデスゲーム『Truth Of lire』を開始した! しかも、それに勝ってしまった……それが、犯行の動機ですね?」
「! ……そ、それって……」
「裁判長……」
驚きに、最後まで声が出なかった。
あれが『デスゲーム』? それじゃあ……
「検察の調べによりますと、被告人にはある『役割』があった。それは、ある『秘密』を守ること。そのための行動が行動原理のレベルで組み込まれていた……その中には、『秘密』に近付いた者を『危険分子』として抹消することも含まれていました。それは、自身で招き寄せた人物だろうと関係なく発動するほどに深く、強力なプログラムだった。だからこそ、それは『デスゲーム』となり得た。『秘密』が流出すれば被告人のプログラムも無意味となり消失する代わり、『秘密』にたどり着けなければそのプログラムが発動するはずだったから。事実、『ゲーム』の失敗を確認した被告人は、『脇田百恵』を殺すための計画と準備を始めた」
やるなら完全犯罪……正記なら難しくはないだろう。
その気になれば、そのくらいの脚本は一日とかからず仕上げられる。演劇部でのあいつは、それだけの集中力を持っていた。
「しかし、そこで彼女を救ったのが、被告人の内面にいた『彼』……被告人が、そのプログラムを自らに組み込む前の彼の『記憶』の残滓であり『心』の残響……今は『三木将之』を名乗る人格です。彼は、幼いころから共に時間を過ごした脇田さんを殺させたくはなかった……だから、彼は彼にしかできない方法で脇田さんを護ろうとした……その心を、引き裂いて」
被告人席の正記とは違い、検察席の正記は……『将之』は、力を込めた目をして、二本の脚しっかりで立っている。
「『将之』くんは、被告人が殺人を決行する直前に認識をすり替え、被告人には『彼自身が持つ脇田百恵の認識』を殺させたんです。そして、現実世界に生きている方の彼女を『同姓同名の他人』として認識しなおし、彼女を守ったのです。そして、『将之』くんは今後二度と彼女が狙われることのないように、彼女の記憶を全て自分の中の奥深くへと隠し、独立した人格として分裂した。そして、被告人が今後も同じように誰かを傷つけないように、被告人の心の制限装置となり、本来『秘密』の防衛にのみ徹するはずだった被告人の『良心』となって、周りの人々をも護ってきたのです」
ピクリと、被告人席の正記の肩が揺れる。
「そして、ついにそれは報われた。脇田百恵氏は、自身の能力で被告人の正体を暴けることを示し、被告人の護ろうとした『秘密』の、彼のプログラムの不完全性を明らかにしました。よって……」
被告人席の正記が顔を上げて、私を真っ直ぐに見る。
その顔面には……
「デスゲームのルールに従い、被告人の主人格権限を剥奪した及び、彼の不完全な人格を完全抹消を求刑します。さあ、裁判長……判決を」
影のように真っ黒で、顔が、なかった。
いつしか、被告人席は断頭台に変わっている。
鎖で吊り下げられた巨大な刃が、落ちるのを今か今かと待っている。そして、その鎖の先は裁判長の台の中へ……ハンマーを打ちつける台の下に繋がっている。その隣には、木のハンマーが置かれている。
私がハンマーを振り下ろせば……刃が落ちる。
「む、無理……いきなり、そんなこと言われても……」
これは夢だ。それはわかってる。
だけど、ただの夢じゃない。それも理解している。
ここで彼を『殺す』ということが、彼の心に大きな影響をもたらすことは、なんとなくわかってる。
それなのに……
「さあ、裁判長……判決を、判決を、判決を」
検察官にじっと見つめられて動けない。
まるで、私はただの舞台装置であるかのように、もう決まってる筋書きに流されるように、無意識に右腕が動いてハンマーを握る。
『自分を殺そうとしていた相手を赦していいのか?』その想いが募るほど、手はハンマーを振り上げる。
これは、私の心の動きの表れだ。
手を動かそうとする心の動きじゃない。場の流れに負けて流されている、私の弱さの表れだ。
展開に流される、私の意志とは違う動きだ。
勝手に命がけのゲームにしておいて、負けたからって殺そうと思うなんて、勝手すぎる。
ここで見逃したら、今度は本当に殺されるかもしれない。
あの顔のない正記がいなくなっても、私を助けてくれた『将之』が主人格になるだけだ。むしろ、そんな善人が正体になるなら、それは正記にとっても良いことではないか。
『秘密』なんてものが関係なくなったら、私にもまたチャンスがあるんじゃないだろうか。
殺すのは正記の『一部』だけだ、異常な人格だけだ。倫理観とかも、問題ないんじゃないだろうか……でも……
「……ふざけないで……何様よ、私は」
私は、あいつに『もっと善人になってほしい』なんて思ったことはない。
右手で振り下ろされそうになるハンマーを、左手で掴んで止める。
はは、今時本気で『静まれ、我が右腕よ!』とかってネタやることになるとは思わなかったな……だけど、やってみたら難しくはない。操られていようが流されていようが私の一部なら、止めようとする意志を持って動く手の方が強いに決まってる。
「よくよく考えれば、単純な話だよね。人間誰でも一つや二つ、隠し事くらいはするよね。それを護りたいと思うよね……それを打ち明けようとして、相手が待ち合わせに来てくれなかったら怒るよね。この世界に来てわかったけど、人の生き死になんて、殺したり護ったりする理由なんて、他の人から見ればくだらないものだったりするもんね」
戦える力がある、それだけで見ず知らずの人達を守る命を懸けて戦ってくれる人達がいる。
恋愛感情のもつれくらいで、人を殺そうとする人だってたくさんいる。
戦える力もなくて、何も守れなくたって、それでも死んじゃうまで頑張る人達もいる。
そして……
「だから……私は、判決なんて下さない。私に許して欲しかったのか、裁いて欲しかったのか……もしかしたら自分で決められないから決めてほしかったのか、どれかはわからないけど……私は、答えなんて出してあげない」
彼の一部に殺意があって、他の部分がそれを止めた。それで勝手に後ろめたくなって、私から距離を取った。
人格とか認識とか記憶とか小難しい話はしてたけど、私なりに『普通』の状況に置いたらそんな程度の話だ。
お返しに『死ね』とか言われた方が気が楽になる、この裁判はそんなところだろう。とんだ茶番だ。
「私は『凡百』……脇役だよ。あんたの人生は、あんたが主人公やりなさい。どんな結末にしたいかは、自分で決めなさい。その結果が欲しければ、人にやらせず自分で行動しなさいよ。他人の物語に紛れ込ませて、手軽に自分の役目やらそうとしてんじゃない。私はあんたの登場する物語の主人公でも、あんたの最期を飾る役でもないんだから」
私は、いつの間にか完全に自由になったハンマーを机そのものに叩きつける。
「今回の裁判は被害者の告訴取り下げで閉廷。みんな解散! あと、そこの証人、『三木将之』くんだっけ?」
ここは私の夢でもあるはずだ。
私が無理矢理にでも退場すれば、すぐにでもこんな茶番は終わる。
その前に一言だけ……言っておきたかった。
「助けてくれてありがとう。これからも、あいつがバカし過ぎないように見張ってやってね。あと、今度またゆっくり話そ? 今度は、角砂糖なんて投げたりしないからさ」
「……!」
幻想は消えていく。
私の意識や記憶からも、少しずつ乖離していく。
そんな中、よく理解できなかったけど、私は一組の男女の会話を聞いた気がした。
『「将之くん」でしたっけ? どうして彼女にゲームを仕掛けたんですか? あなたなら、うまく言いくるめて諦めさせることも出来たでしょうに』
『無理言うなよ。本気でやる気になったあいつ止めるとかそれこそ無理ゲーだ。あいつはホント、僕の知る中でも一番すごいやつなんだから』
『あらあら、高評価ですね。もしかして、彼女には隠された能力とか、壮絶な過去とかがあったりするんですか? 本人が忘れているだけで』
『そんなもんねえよ。あいつはただの……』
マリーさんと『三木将之』の姿が……遠ざかる。
その最後に、確かに聞いた気がする。
『「三木将之」の、初恋の相手だよ』
《6月28日 DBO》
「おいモモ、もう朝だぞ。いい加減起きろ!」
「へ、は、はい! ……あれ? 閉廷したんじゃないの?」
「寝ぼけてるのか? ほら、そろそろ帰ったらどうだって言ってんだよ。キングとかに『朝帰りかよ』とかってからかわれたくないだろ?」
「朝帰り……え!?」
ようやく意識が覚醒して、自分のいる状況に驚愕した。
場所は『本部』の一部屋、時間は小鳥の鳴き声が響く早朝。
布団は一つ、枕は二つ、これってまさか……
「まさかの『昨晩はおたのしみでしたね』ってやつ!?」
「待て待て早まるな。ほら、布団の中よく見てみろ」
私の隣、布団の上で胡座をかくライトと私の間の布団をめくると……スヤスヤと幼い顔で眠るメモリちゃん。
「まさかのさらに不健全な方!?」
「ただの『川の字』だよ。想像力働かせるのもいいが、説明くらいさせてくれ。別に、変なことはしてない。ただ、オレの作業が思ったより長引いたから夜食とかいろいろ持ってきてもらっただけだよ。それで、なんか疲れてたのか知らないが、モモがウトウトし始めたから作業を手伝ってもらってたメモリと一緒に仮眠用の布団で寝てもらったんだ。で、オレはメモリを挟んで反対側、メモリが『川の字で寝てみたい!』とかって言うもんだからこうなったんだよ。オレはスペースが足りなくてほとんど布団からはみ出してたけどな」
「夜食……あ、そうだ。差し入れに来たんだった」
思い出した。マリーさんの所からこっちに来て、そのまますぐ寝ちゃったんだ。
「ま、作業自体はもう終わり間近だったから邪魔にはならなかったが……面白い寝言言ってたぞ? 『雨森さんの胸ぺったんこだった』とか、『茶番は終わりだ!』とか……」
「どんな夢見てたんだろ私!? 恥ずかし!」
「そして、一番面白かったのは『透明人間のコスプレ』だったかな。どうやってやるんだよ、透明人間のコスプレ」
「嘘!? そんなこと言ってたの私!?」
「よくわかったな、嘘だ」
「紛らわしいわ!!」
時々こういう変な嘘でからかってくるなコイツ!
「くらえ必殺、枕投げアタック!」
「ぎゃあああ!! 角が目に!?」
「もう一発!」
「グハッ、喉笛!? てかコントロールやたらいいな!?」
それこそ嘘つけ。
大きくリアクションするために自分から当たりに行ってるくせに。
「全く……あんたはホント、昔から変わんないわね。変わったことと言ったら……すごく強くなったことくらいか。今じゃトップクラスのプレイヤーでしょ? 目に枕が直撃したくらいじゃビクともしないくせに」
「いや、さすがに眼球直接は痛いぞ。てか、そういうモモは変わんないな……口喧嘩しても勝てる気がしねえよ」
「そうなったらさっさと降参するくせに。そういう所は変わんないね」
「じゃ、お互いそんな変わってないってことでいいだろ」
「あはは、確かに言えてる」
私達はくだらない話で盛り上がって、何でもないことで笑い合う。
それは、昔も今も変わらない。心の中の何かが変わっても、死地を潜って世界の厳しさを知っても、少し大人になっても変わらない。
「変わんない同士、ずっと仲良くやっていこうや……親友」
「あんたがどんなに変わっても、付き合いやめる気はないけどね……悪友」
切っても切れない、腐れ縁みたいな私達。
この関係に、判決はいらない。
《6月29日 DBO》
『時計の街』のプレイヤーに避難勧告が出た。
犯罪組織の『降伏勧告』の期限が明日に迫り、それに従わない意志を示す大ギルドが破壊を宣言された『時計の街』で迎撃する姿勢を示した……街が戦場になると、そう決まったのだ。
こういう時、無力な『一般人』の対応は決まってる。早々と逃げるだけだ。
今回は前回の襲撃イベントの時の反省を生かして、非戦闘員のほとんどは街の外へ……それも、犯罪組織が簡単には手を出せないであろう場所、『攻略連合』のギルドホームへの避難が決まった。
さすがに何千人というプレイヤーが押しかけるのは狭くなるだろうけど、安全を考えたら妥当だろう。
そして、そのために大事なものだけを持って泊まっていたイザナちゃんの家を後にする時……ふと、後ろから女の人の声が聞こえた。
『本当に、よく動いてくれたわね。あなたの存在は、正しく運命の分岐点になった。少しだけ居候させてもらっただけの身だけど、見届けられて光栄よ』
後ろを振り返っても誰もいなかった。
私は、首を傾げながらも家の外へ出る。
そして……
「おいギルマス、遅いぞ!」
「16秒の遅刻です」
「忘れ物は、ないか?」
「……」
「おはようございます、ギルドマスター」
待ち合わせていた『OCC』のみんなと……
「んじゃ、私達も配置につきましょうか」
「キシキシ、サポートは任せとけ」
「コホコホ、微力ながら」
淡島さんを含めた『妖怪』達。
私の頼れる仲間達。
私は、一応はリーダーらしく歩み出て、後ろのみんなに声をかける。
「じゃあ、行こうか」
遠くから、また声が聞こえる。
『そういえば昔の絵の中に、こんな感じに百鬼夜行を引き連れて歩く変わった人外がいたわね……ただ人に紛れるのが上手いだけのクセに、妖怪達の親玉なんて呼ばれる、変なやつが。この子を人外にたとえるなら、ある意味ピッタリかもしれないけど』
すぐに忘れてしまうような薄いイメージだったけど、私は……
『「ぬらりひょん」の脇田百恵……人外魔境を統べる人間にはピッタリの称号かもね』
そう、誉められた気がした。
そして、同刻。
一般プレイヤーの避難完了を待って、ある『緊急連絡』が発信されようとしていた。
それは、あまりにも意外で、あまりにも意表を突く、あまりにも大胆な逆転の一手。
私はそれに、目を見開くことになる。
『本日未明、「イヴ」の確保に成功。各ギルドの決議の結果、明日6月30日、「イヴ」の本体……プレイヤー「ライト」の公開処刑を執り行う。』
ライトvs凡百……勝者『凡百』。
最終的に凄い成長した感がありますが、凡百さんはあくまで『普通』の女子です。
ただ、誰にでも『普通』に接するだけで、大変なときでも『普通』の自分を心がけてるだけという……
『普通の人はこんなに事件に遭遇しない』?
……それは、みんな意外と自分の行動が周りに与える影響を自覚していないということで。




