167頁:倫理に反することはやめましょう
次回からしばらく、やや久しぶりの『脇役』の時間です。
ドクターがレベル50で手に入れたのは『素体生成』。小動物型で成長の早い『実験動物』を生み出す技だった。戦闘に使えるような強さではないが、薬品や合成生物の実験に使いつぶせる実験動物は彼の研究に大きく役に立っていた。プレイヤーのプレイスタイルから生成される技と言われるだけはあって、彼の研究には最適だった。
しかし、あくまでそれは『試作品』。
弱い実験動物をベースにしても強いモンスターは作れない。精々、珍しい能力やアイテムの素材となる部位を持つ小型モンスターを量産できる程度だった。攻略のための戦力にはならない。
そこで、そのモンスターから作った抗体や薬で能力を一時的にでもプレイヤーに適応できないか試みてみたが、思うように行かなかった。
その『研究』が一気に飛躍したのは、彼がコツコツと新しい調合や合成に成功することで得ていた経験値でレベル100を超えたこと。そして、『蜘蛛の巣』に関わってモンスター化したナビキの分身『黒いもの達』を得たときだった。
『素体融合』……それが、ドクターのオーバー100の固有技。
効果はモンスターとモンスター、またはモンスターとプレイヤーの融合。弱い合成生物を核にして強いモンスターと融合させて操ったり、モンスターの器官……場合によっては尻尾や翼までもプレイヤーに移植し、武器として使うことの出来る技だった。
使い方次第では、とんでもない化け物を生み出せる可能性のある技だった。組み合わせ次第では『相性』が悪く弱体化してしまう場合もあったが、彼はそのパターンをいくつも試し、法則性を見つけるために『研究』した。元々の研究と相まって、彼は一気に技術的壁を越えた。
そして、普通ならそうそう生け捕りになど出来ない高レベルモンスターをいくらでも確保できるシステム……『黒いもの達』の量産により、彼の研究成果は実戦レベルまで押し上げられた。
最初の『ヒト型』には、彼の手はほとんど加わっていない。強いて言うなら、増殖を促進するために組織から任されていた〖蠱毒の蠱蠱〗から選んだ『シロアリ』と『カタツムリ』の能力をナビキ自身の持っていた『強奪スキル』を利用して取り込ませて木だろうと石だろうと食べれるようにした程度だ。
そして、6月2日の襲撃の際の対プレイヤーでの『戦闘実験』の結果から、改良を加えた。
『ヘビ型』『トカゲ型』『トリ型』『タマ型』は《ガラスの靴》による形状変化、能力値再選択の限界を確かめるための実験。『野獣型』と『乙女型』は凄まじい咬筋力で攻撃を食べてしまう『カミキリムシ』と熱や光を光合成でエネルギーに変える『ミドリムシ』の能力を取り込ませ、腕の大顎や触手のような姿に変身させた『黒いもの』をドクターの固有技で武器のように装備させた進化型。
『イヴ』自身と同様にモンスター化してもEPの燃費はその身体を作るのに用いられたアバターの数に反比例するので増殖のペースが落ちるものの、戦闘能力的にはモンスター化した上での『複製災害』と『素体融合』のコンボでかなり強力なものを作れることが実証された。
『ムシ型』はその燃費問題を解決するためにアバターのサイズを一番小さくまとめ、携行食としてデザインしたものだ。
そして、『アルラウネ型』『アラクネ型』『メデューサ型』『ハーピー型』は大量の『黒いもの達』をまとめ、増殖力を度外視して一個体の戦闘能力を高めたタイプ。『蜘蛛女型』の材料である〖ヒトサライ〗も、元々は〖蠱毒の蠱蠱〗の一部……『ハエトリグモ』と『黒いもの』を組み合わせて作った合成生物だ。
前線級の奇襲部隊との戦いで四体とも撃破されてしまったが、その強さはドクターの満足のいくものだった。
そして、その究極系が『ワーム型』……彼の『右手』として使われていた巨大モンスター。
何百という『黒いもの達』を束ね、彼がこれまで研究して作成に成功してきた特殊能力を取り込ませて部位ごとに機能を持たせ、完全に一個の生命として動かせるようにした傑作。
彼はオリジナルの『イヴ』にも匹敵するスケールの『力』を文字通りに自分の『手』にした。それは、彼の研究の目指していたところでもあった。
だが、彼の真の研究目標は……自分一人の強化など、考えてはいなかった。
《現在 DBO》
追いつめられたドクターが研究室の壁の奥から召喚したのは、十体あまりの『異形』達。
現れた『それ』は……ジャックの目には、とても醜く見えた。
形は様々、共通項を挙げるなら皆が人型に近い姿で、身体の所々が影のように黒く……明らかに人の道から外れた雰囲気であること。
「ウォォ……」
「オクスリ……チョウダイ……」
「ドクゥ……」
ある者は呻きながら身体に不釣り合いな巨大な腕を引きずっている。
ある者は『クスリ』をせがみながら、本来無いはずの尻尾から毒液を垂らす。
ある者は『四本』の脚でドクターにすり寄る。
それらの表情は正常な人間のそれではなく……『狂気』とはこんなふうなのかと思うようなものだった。
ジャックは目の前の『証拠』から、その真実を察する。
「人体実験だね……あんた、この人たちに何をしたの?」
すると、ジャックが自分の研究成果に興味を示したと思ったドクターは上機嫌に答える。
「どうだい美しいだろ? 我が研究は、レベルが最も高かった『110010011』系コピーアバターをベースにした合成生物との融合によって本来攻略に参加できないような雑魚プレイヤーでもレベル100以上のステータスで戦える戦闘力を与えることに成功したのだ!! この技術さえあれば、ゲームの攻略など容易いことだろう!!」
『110010011』系コピーアバター……おそらく、『黒いもの達』の家系のようなものだろう。エリザに聞いた話だと『複製災害』は個体の区別のため分裂時にプレイヤーネームをある程度変更できるらしい。二進法でその区別を行っているのは、どの分身がどの分身から派生したのかわかりやすくするためだろう。
ナビキの独立した分身は別々に経験値を得て独自にレベルを上げていく。その結果、長く生き残った分身は経験値を集めて高いレベルになる。
そして……その区別は、高いレベルの『黒いもの達』を保存して増殖のための『種』にするためだけではなく……より高いレベルのアバターを、プレイヤーと融合させるために使われた。
四肢を置き換えることでそのパワーやスピードを、内臓や皮膚まで融合させることでその耐久力を無理やり植え付けた。
だが……ジャックには、そんなものが都合良く出来るとは思えなかった。
「……馬鹿げてる。ベースが低レベルのプレイヤーならいくら手足や臓器をすげ替えても限界がある。無理にそんな力を使わせても、元々のプレイヤー部分には強い負担がかかるし、多分相応の苦痛もあるはず。ボクもたくさん解体してこのゲームでの肉体や臓器がどのくらい融通が効くのかある程度把握してるからね」
そして、明らかに正気に見えない異形達の表情を哀れむような見る。
「……それに、知り合いの話だと尻尾とか本来の身体と違う身体を操るのは結構精神削るし、普通の精神でやり続けると精神が崩壊することもあるらしいね。それを全身になんて……その壊れ方は大方、仮想麻薬(VRドラッグ)で言うことを聞くように壊したのか……少なくとも、人体実験の被験者は立候補した人ばっかりじゃないんでしょ? 最初に捕まった人質の数は減ってないらしいしこのプレイヤー達は……この街を占領して閉じ込めた人質達を囮に救出を試みた人達か。ミイラ取りがミイラになったな」
この街に捕らわれた誰かを救おうとして、逆に捕まった勇気ある愚か者達。
おそらく、死も覚悟して踏み込んできた彼らが受けたのは……死よりも酷い仕打ち。化け物のような姿に変えられ、精神を壊され、あまつさえ武器として利用される。
「さあ! どうだ? まだまだ試していない組み合わせも、とびきりのレアで強力な能力の素体も残っている。無理やり試すのもやぶさかではないが、望むなら好きなだけ選ばせてやろう。他の脆弱な精神を持つ者では強力な素体は適合しなかったが、我が輩の『右手』は精神の鍛錬で自由に動かせるようになった。オマエのその強靭な精神ならきっとどんな素体だろうと動かせるようになる」
ドクターは、ジャックの呆れ顔も気にせず声高に言う。
「見ただろうオマエが手も足もでなかったあの力を! あの力をその手にしたいとは思わないか? オマエなら、きっと『イヴ』を超える最強の作品になる! どうだ、人の姿など脱ぎ捨てて……その心に見合った、強い身体が欲しくないか? 潔く協力してくれるなら……『そいつら』を元に戻すのも、やぶさかではないぞ?」
ジャックを囲む異形達。
思惑は言わずともわかった。断れば、この異形達をけしかける。力ずくで、実験に使う。それが嫌なら降参しろ、そういうことだろう。
異形達は死体の合成生物とは違い生きたプレイヤーだ。それらを殺せば、本当に人を殺すことになる。
それも、理不尽に壊された、罪のない『可哀相な』プレイヤー達。殺される謂われもない、十分に情状酌量の余地のある者達。操られ、強化され、襲ってくる人質。
しかも、元に戻せる可能性もあると……ご丁寧に、救済の余地を残している。
それを殺すというのは、人質を助けに来たプレイヤーにとっては本末転倒……おそらく、不可能なことだろう。
ジャックは深く溜め息を吐き……呟いた。
「『真っ当なヒーロー』には出来ないだろうね。別行動になって、正解だったよ……あいつに、こんなことさせられない」
そして、目の前の異形達を壊れた精神でも怯ませるほどの殺気を込めた目で睨み……怒鳴る。
「誇りを取り戻せ人間ども! あんたらは、自分達だけは獣とは違うと自惚れるような自信家じゃなかったか! 身体は殺されても魂だけは残り続けるような我の強い奴らじゃなかったか! 殺人鬼の天敵は……そんな簡単に殺されるような、弱い心を持ったやつらじゃなかったはずだ!」
いかに殺人鬼でも……人の身体は簡単に殺せても、心はそう簡単には壊せない。
時には、致命傷を受けた後ですら一矢報いようと、たとえ無駄な抵抗だとわかっていても食らいついて来る。仲間を逃がす足止めのため、一傷だけでも与えるため、仲間を護るため……命を賭して、落としても戦うことが出来る。
このデスゲームの中で、ジャックは少なからずそんな者と出会い、戦ってきた。戦って、殺してきた。
ジャックは一度として、相手の死を確認するまで油断したことはない。致命傷を与えたところで、殺すのを止めたりしない。
それは……認めているから。
自分を人間の天敵であると理解しながら、人間が自分の天敵だと理解しているから。
先天的な戦闘能力の有利と、圧倒的な個体数の不利。『死に際の一傷』は、命尽きても残る魂の残滓は、侮ればいつか致命的な奇跡を残された者に起こさせる。
だからこそ……
「……本当に『最期』まで、獣のままでいいの? そんな姿にされて、心まで壊されて……そのまま死んじゃったら、そんなみっともない死に様じゃあ、あんた達の大切な人が……悲しむよ」
大人になれない子供達のギルド『ネバーランド』の生き残りとして、仲間達の最期を看取ってきた彼女だからこそ、そして数多のプレイヤーの命を直接終わらせてきた彼女だからこそ、人間の『最期の瞬間』の意味を知っている。
その瞬間こそ、人生の総決算。
だからこそ……
「本当に、そんな死に方でいいの?」
それは彼女なりの死亡宣告。
理不尽に踏みにじられ、目の前の『死』によって理不尽に殺される人々への、せめてもの情け。殺すことは決定事項だが、心だけは救われて欲しいという、呼びかけ。
ドクターはそれを理解できないように眉を寄せている。ジャックが異形のプレイヤー達を説得しようとしていると思っているのか、『無駄なことを』という呆れたような表情をしている。
しかし……異形達は、ジャックの言葉を聞き、壊れた精神でその意志を汲み取り……
彼らの目からは、僅かながら涙が零れた。
返事は、それで十分だった。
ジャックは、銃に弾を込め、刃を構え……言葉なき『人の意志』に応える。
「わかった。人殺しのボクが保証するよ……キミたちは、最期の瞬間まで……ちゃんと『人』だった」
狙うは、『黒いもの達』と融合した身体に残った、低レベルプレイヤーの脆弱な部分。相手はステータスこそ高レベルだが、元々戦闘慣れしておらずその上精神に異常をきたしたバランスの悪いモンスターもどき。
仕損じる心配はない。
これ以上、無意味に苦しむ必要はない。
「さあ……全滅の時間だ」
一方、赤兎は刀を振るっていた。
敵は、洞窟に待ちかまえていた『黒いもの達』。それも、クエストボス並みに強い『植物女型』『蜘蛛女型』『蛇髪女型』『鳥女型』などの多数複合型。他にも、様々なモンスターと組み合わされたらしい個体が数体。クエストボス並みが占めて十体。
いくや赤兎が強くとも、一人で戦うにはやはり多い。
その上、地の利はあちらにある。
ガツガツ……バリバリ……
動かなくなった『ワーム型』の死体を食い、その巨大な仮想の血肉をエネルギー源にして休む間もなく襲いかかってくるそれらは、赤兎の手にあまる。
「くっ……せめて一体ずつの勝ち抜きなら負けやしねえのにな……」
一体一体の攻撃が強力だ。
『メデューサ型』の髪の毛(蛇)による猛烈なラッシュ、『アラクネ型』の飛ばす粘性の糸、『アルラウネ型』の蔓状の触手、『ハーピー型』の空中攻撃。絶え間なく繰り出される技に深く攻め込めない。
『ドラゴンズ・ブラッド』で無敵モードになって捨て身の攻撃をする手もあるが、ダメージを受けなくとも捕まって効果がきれるまで抜け出せなくなったら詰む。
どうしたものか……そう思ったとき、突如として『ワーム型』の身体が体内から切り裂かれた。
身体にかぶりついていた『黒いもの』は、狙ったような軌道で首を落とされる。
『真っ赤な鎌』によって。
赤兎も、他の『黒いもの達』も動きを止める中……『ワーム型』の身体を切り開いて姿を現した少女……エリザは、赤兎に言う。
「久しぶり、赤兎。手伝う」
異形と化したプレイヤー達占めて『12名』……その死体『47個』。
それが、五分足らずの戦闘によりジャックが作り上げた殺人現場に転がる、死体の状況だった。
絶命した後、その死体から生前の身元が分からないように……彼らの知人が死体を見たとしても、その無残な異形を知人とわからないようにと、ジャックなりに遺族に配慮した結果だった。
そして、最後の一人ドクターはジャックに銃を向けられ、壁際に追いやられて残った左手をハングアップしている。
言うまでもなく、『次はオマエだ』という雰囲気のジャックに、ドクターの足は震える。
だが、同時に顔は笑っている。
「素晴らしい……さすがは殺人鬼。助けられるかもしれない人質にも容赦はないか……して、次は我が輩を殺すのか?」
「そうだよ……と言いたいところだけど、あんたはいろいろ情報もってそうだから後にしてあげる。とりあえず拷問ね」
さらに言えば、一応赤兎とは『プレイヤーを殺さない約束』があるので、後で『プレイヤーを使ったキメラだった』と言い訳できる異形達とは違い、ドクターは問答無用で殺すわけにはいかない。少しばかりのズルはしても、やはり約束を破った咎で赤兎を怒らせたくはない。精々半殺しと異形達に関する口止めをする程度でいいだろう。
あまり抵抗するようなら正当防衛として殺すことも考えたが、ドクターは直接戦闘には向かない生産職であり異形達が倒れていく中、一人追いつめられていくだけだった。やはり、直接戦闘の備えはない。モンスターと融合しなければ戦えない彼は、『ワーム型』と切り離されたことで戦闘能力を失っていたのだろう。普段ならそんなこと関係なく、むしろ殺しやすくなっただけと喜んで殺すところだが、今回はいつも通りに殺すわけにはいかなかった。
そう、普段通りなら、ドクターの動きに反応して即座に引き金を引けたのだ。
だが、動きを制すためだけに使うには大口径の単発銃から発射される《ダムダム弾》は、強力すぎた。急所でなくとも身体のどこかに当たれば致命傷を与えかねないその銃は……そのようなプレイスタイルをしていたジャックは、ドクターの不審な動きにとっさに対応出来なかった。
「そうか……ならば、今日はひとまず失礼しよう……『素体融合』!」
ドクターは半ばで吹き飛ばされた右腕を袖から抜き、壁に隠されていた穴に突っ込んでいた。
ジャックがそれに気付いて反応した時には、既に壁の中に隠されていたものはドクターの一部となっていた。
壁が砕け、巨大な『口』がのぞく。
「……! 『ワーム型』、もう一体いたのか!」
「『右手』と違って一本しか無いがね、また会おう殺人鬼!」
ドクターは自ら『口』に飛び込み、中で左手を繋ぎ直して『ワーム型』と共に壁を掘って逃げていく。
逃走用に調節してあったのか、その動きは土を掘り進んでいるとは思えないほど速かった。全長7mもない『小型ワーム』はあっという間に尻尾の先まで見えなくなる。
ジャックはドクターを追うのは不可能になったと判断し……呟いた。
「『また会おう』か……ボクの恐怖を知ってそんなことを言ったのはキミが初めてだよ。マッドサイエンティスト」
6月26日。
7時00分。
『大空商店街』への匿名の報告と人質達からのメールによって『切り株の街』の犯罪組織メンバーの無力化の情報が送られ、『アマゾネス』『戦線』メンバーによる調査隊によって無力化されていた犯罪者は拘束された。
そして9時00分、街の安全が正式に確認された。
6月26日の正午。
プレイヤー達の間に『大空商店街』からの公式発表が行き渡った。
『犯罪組織に占拠されていた新エリアの奪還に成功。人質約40名解放、行方不明者十数名。犯罪組織メンバーの大部分は匿名の戦闘職ソロプレイヤーの合同パーティーにより鎮圧され、一部はゲートから別エリアに逃亡したが、犯罪組織の拠点から収集した情報により他の拠点も目下調査中。進展があり次第、即時公表する』
絶望に沈んでいた一般プレイヤー達に突然舞い込んだ情報。
最初はデマだという噂もあったが、『大空商店街』の公式発表により情報が保証され、次第にそれが都合のよい夢ではなく現実なのだとプレイヤー達は理解する。
そして、それは同時に昨日の『降伏勧告』に対する雄弁な応え……『徹底抗戦』の姿勢を示すものだと言うことは、誰もが言うまでもなくわかっていた。
そして、同刻。
ドクターの研究室に入り込んだライトは、そこにある資料や実験材料を観察する。
スカイに頼み、手を着けずに維持してもらった研究室には、その持ち主の足跡が……行動パターン、思考パターンがそのまま残っている。
そして、それを元にドクターの思考を逆算し、暗号化された資料を読み解いていく。
そして、その中の一つを抜き出し、それを他人にもわかるように書き直して……一緒に来ていたもう一人のプレイヤーに渡す。
「ほら、お探しのものだ。悪かったな、ずっと温存して。そろそろ本気で動いていいぞ……マリー=ゴールド」
それを受け取ったプレイヤーは……マリー=ゴールドは、ニッコリと……しかし、凄みを感じさせる笑みで応える。
「本当に……待ちくたびれましたよ、ライトくん。じゃあ、この一ヶ月の『お礼』とガマンした利子の分……とりあえず、30倍くらいにして、お返ししましょうか」
人類の頂点『金メダル』が動き出す。




