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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第五章:成長(ビルド)編

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164頁:いいことは堂々とやりましょう

 キャラクターのファッションセンスが全体的にちょっと突っ込みどころがありすぎるのは、作者の服装知識の無さが原因です……でも、ジャックの服のセンスはあの世界でもアレな方です。

 『切り株の街』。

 そこは、今なお多くのプレイヤー達が捕らわれ、攻略の止まった街。


 街の玄関である転移施設(ゲートポイント)はバリケードで囲まれ、街に入ろうとした者も、逃げ出そうとする者も集中攻撃を逃れることはできない。交代で見張りする犯罪者達と、常に巡回している『黒いもの達』の目を逃れてゲートポイントを通過出来る者など、いるはずがない。


 しかし、何事にも例外があった。

 突破不可能とされたトロイの城壁も、難攻不落と言われた岐阜の山城も、地球を包む大気の壁すら、人類は突破してきた。


 幸運だったのは、占拠された当時ボス攻略の直後に敵を追って新エリアに密かに進行していた『彼』が街にいて、人質に紛れ込んでいたこと。

 そして彼が『見つからずに移動する』デスゲーム『The Closed Circle』の経験者であり、皆を助けるため一人で動ける勇気を持つ『勇士(ヒーロー)』であったこと。


 彼の存在は、そして彼の行動は人質達の希望となった。

 そして、彼の勇敢なる行動は……その2日後の夜明けに、実を結ぶこととなった。










《現在 DBO》


 6月26日。夜明け。

 『切り株の街』……その中心部の広場、ゲートポイントの周囲には、半径3mと10m、高さ3mと5mの二重の壁が築かれている。


 材料は主に石や砂利を詰めた箪笥や棚などを積み上げ、倒壊しないように漁船用のネットでまとめたもの。数日の間に急造されたありあわせのバリケードだが、一部を破壊しても全体が壊れるわけではなく、動かすにも重量が大きい。侵入者を阻む壁としては十分な耐久力を持っていると言えるだろう。

 しかし、このゲームでプレイヤーはレベルが100も超えれば戦闘職なら十分に超人的な身体能力を発揮できる。3mなら全力で跳べば飛び乗れる程度、5mなら多少の足がかりさえあればそれほど苦労せず乗り越えられる程度の高さだ。壁だけでは、プレイヤーの侵入は阻めない。


 しかし、そこにはもう一つの障害がある。

 それは、二つの壁の間にいる『黒いもの達』と、壁の外の建物からゲートを見張る『蜘蛛の巣』の構成員達。

 壁の高さは建物からの遠距離攻撃を阻まないように設計され、壁を乗り越えようとするプレイヤーを狙い撃ちできるようになっている。レベル100のプレイヤーに相当するステータスを持つ『黒いもの達』と戦いながら、一方的に見舞われる遠距離攻撃を受ける。狭い壁は、大軍での力業での突破を防ぐためだ。


 他にもトラップや対策はいくつも用意されている。

 この街を攻略するのは不可能だ。

 少なくとも『蜘蛛の巣』のメンバー達は、そう思っていた。そう、予測していた。



 だが、夜明けと共に現れたプレイヤーは……『予測不能』な存在だった。


「……おい! 警戒しろ、ゲートが開くぞ!」


 見張りの『蜘蛛の巣』メンバーの一人が、ゲートに灯る光を見て声を上げる。

 しかし、待機していた仲間の反応は鈍い。

 見張りの交代時間が近かったこともあり、朝早い時間で寝ていた者も多かったのが手伝ってか攻撃用意に手間取っている。


 起きていたメンバーは仕方なく一人で石弓を構えて窓からゲートを見つめる。

 そして、そこから現れるプレイヤーを目視した。


「な……なんだ、あいつら?」



 そこにいたのは……二人の『鬼』だった。

 黒革の装備に身を包み、顔を真っ白な鬼面で隠したプレイヤーの……『二人組』。片方はナイフ、片方は長剣を持っているが、それぞれが少々特徴的な形をしている。

 ナイフは血に濡れたように赤く染まり、出刃包丁のような形状をしていて、鋭利な刃の輝きに見ているだけで背筋が凍るような感覚を覚える。

 それに対して、長刀は刃が所々欠けてボロボロだ。切れ味はどう見ても良くない。だが……何故か、見ていると異様な恐怖が湧いてくる。不気味な刀だ。


 黒革の装備に真っ白な鬼面。それはかの『殺人鬼』の特徴と一致する。

 だが、『殺人鬼』は一人だけのはずだ。どちらかは似た装備を集めただけの偽物。もしくは……


「両方ともパチモン……殺人鬼のふりをして動揺を誘う気だな?」


 『蜘蛛の巣』組織内では、殺人鬼のことは時々噂に上がるが、その行動パターンには共通の認識がある。

 『犯行』は単独犯であり、かつ表立って目立ってしまうような行動はしない。だからこそ神出鬼没であり、情報もほとんど流れない。

 殺人鬼が仲間を募り、表向きにも注目されているこの街を襲うはずがない。


「奇策を気取っていたらしいが、甘かったなコスプレマン。こちとら、相手が誰だろうと狙い撃ちにできるところに位置取ってるんだよ!」


 見張りのメンバーは石弓を放つ。

 放たれるのは、予め大量の矢を消費して作られた『増える魔弓』という魔法のアイテム。半径3mの壁の中に万遍なく矢が降り注ぐ。


 侵入者の装備がただのコスプレならこれで撤退するだろう。

 そう思い、勝ったつもりで『殺人鬼もどき』を見下ろした見張りメンバーは……驚愕した。



 そこには……自分達に『当たる矢』だけを見極めて全てをナイフと刀で振り払った、無傷の二人がいた。



「あ……」


 唖然とするしかない見張りメンバー。

 そして、ナイフを持っている方の『殺人鬼もどき』が、矢の発射点である彼の方を見て……こう言った気がした。


『さあ、全滅の時間だ』




「さて、初弾は様子見……ってところだろうね。盾や鎧でも防げるけど、それだと重くなって壁を越えにくくなる。かといってこんな程度の飛道具の対処に気を取られてたら、すぐに魔法攻撃の詠唱が完了して逃げ場のない中で潰されちゃう。ま、情報通りなら見張りの交代時間直前で寝ぼけた頭での詠唱は普段よりずっと遅いだろうけどね」


 そう言って、ジャックは殺気を探る。

 広域センサー並みの感度を持つジャックの殺気感知能力は、『敵』の正確な居場所まで特定する。


「……うん。概ねあの紙に書いてあった通りだよ。罠も心配してたほど強力じゃないし、予定通り行けそうだ。さ、行こうか」


 ジャックは壁を乗り越えようと身構え……反応のない赤兎を振り返る。


「なに? 今更怖じ気づいたとか言わないでよ?」


 すると、赤兎は自分の装備を見て、溜め息を吐きながら答える。


「はあ……いや、そういうわけじゃねんだけどさ……これ、脱いでもいいか? 暑苦しいし動きにくいし……」


「ワガママ言わないでよ! あんたが殺人鬼とつるんでるって知られるとマズいから予備貸してあげてるんだから!」


「絵に描いたような悪役ってかんじでちょっと恥ずかしいし……」


「いつも和服着てるサムライ野郎に言われたくないよ!」


 赤兎はやや躊躇してから、ジャックに促され壁に向かう。

 そして、最後の『打ち合わせ』をする。


「いいか、確認するけど……」


「わかってるよ。ボクが『黒いもの達』、あんたは『それ以外』でしょ。全く……その刀、大事に使ってよ?」


 ジャックは赤兎の手にある刀を指して言う。

 赤兎は、それをゆっくりと鞘に納め……頷いた。


「わかってる……ありがとな。気を回してくれて」


「……別に、あんたのためじゃない。仲間が自分の代わりに使ってって言ったからなんだからね」


「どこへ向けてるかよくわからないツンデレご苦労さん。んじゃ……そろそろ行くか」


 二人は同時に壁の上に飛び乗り……最後に一言だけ、言葉を交わす。


「「……好きに暴れろよ、戦友」」


 二つの壁の間に犇めいていた『黒いもの達』が、侵入者に襲いかかる。







 たった『二人』の侵入者に……街が震えた。


 人質となったプレイヤー達が集まった宿に……ざわめきが起きる。

 外を徘徊する『黒いもの達』に怯え、部屋に籠もって互いに身を寄せ合っていたプレイヤー達が、異常を察知して窓を開け、外を見て……その光景に唖然としていた。


 次々に宿の中で『外を見ろ』という声が連鎖し、四十人あまりのプレイヤー達が同じ方向を見る。


 その先に起こっていたのは、異様な光景。

 建物の陰になって直接は見えないが、ゲートポイントの周囲に眩い光が何度も発生して夜明けの暗い空を照らす。街中を徘徊していた人質達の恐怖の象徴である『黒いもの達』がまるで呼びつけられたかのようにそちらへ集まって行く。


 それは、詳しい様子がわからなくとも人質達に一つの事実を確信させる。

 それがどれだけ困難で、奇跡的なことかわからないが、事実として起こっていることを確信させる。

 数日前に一人だけ抜け出し、自分達の希望を外へ繋いでくれた少年のことを思い出させる。


 『誰か』が……助けに来てくれた。


「みんな……もう少しの辛抱だ」








 一つ目の壁の上に立つジャックは、二つ目の壁を乗り越える赤兎の背中を見送る。


 赤兎の道を塞ごうとする『黒いもの達』には投げ針や刃物を投げつけて、注意を自分へ引きつける。

 そうして、赤兎だけを先に行かせて……自身は、『黒いもの達』の引きつけ役になる。それはもちろん、赤兎に『人殺し』を止められたから。


 赤兎が十分先に進んだことを確認し……『黒いもの達』の中に飛び込む瞬間、ジャックは呟いた。


「ごめんねナビキ。ちょっとだけ殺すけど、まだ残ってるからいいよね?」


 ジャックの着地地点に待ち受けるのは腕と腹に巨大な顎を持つ『野獣型』。その開かれた大きな口は落ちてくるジャックを丸呑みにしようと不気味な闇を覗かせている。

 しかし、ジャックはそれを見下ろして……一つの『球』のようなものを腰から外し、呟く。


「忍術スキル『虚影』」


 ジャックが呑まれそうになった瞬間、一瞬だけその姿が『消える』。

 そして、その一瞬の間に着地点をズラして着地したジャックは、『野獣型』を背にして周りの『黒いもの達』に横一閃に刃を振るう。


「秘伝技『一刀両断』」


 防御力の低いものは急所を裂かれ一撃で倒れ、そうでないものも大きく怯む。

 そして、ジャックの真後ろで待ち伏せに失敗した『野獣型』が振り返り、ジャックの後ろから食らいつこうとするが……


「後ろに注意だよ」


 そのさらに背後が爆発。

 尖った金属片のようなものが爆風とともに射出され、周りの『黒いもの達』に突き刺さるが、ジャックは『野獣型』を防壁代わりにしてそれを防ぐ。

 爆発したのは、先ほど落下に紛れ込ませた卵形の爆弾。


 用済みになった『防壁』を爆発に気を取られた隙をついて斬り伏せ、ジャックは悠々と歩く。


「自動操縦の木偶人形なんてこんなもんか……ん?」


 ジャックは殺気を感じて近くにいた『ヒト型』を引き倒す。すると、その背に矢が突き刺さりまるでジャックを庇ったような格好になる。


「ほらほら、ちゃんと狙わないと味方に当たるよ……って、別に『味方』ってわけでもないのか。まあ、ボクからしたらこれだけの『壁』があれば飛道具気にしなくていいからやりやすいんだけ……ど!」


 ジャックは盾にした『ヒト型』の首を切断し、空中へ投げる。

 すると、まるでその首を狙っていたかのように魔法攻撃が着弾し、派手に爆発する。


「さすがに範囲攻撃とかは一々対処するの面倒だし……早く、片付けてくれない?」




 一方、見張りメンバーは侵入者の動きに驚愕していた。

 速すぎて……強すぎる。とてもじゃないが、正攻法では勝てそうにない。


「く……移動だ!」


 侵入者が現れたときのマニュアルは頭に入っている。ある程度攻撃したら逆狙撃や強襲を避けるため射撃のポイントを移すのだ。

 『敵』の実力を垣間見た彼は少しでも直接対峙の危険を避けるため、他の仲間が遠距離攻撃を仕掛けている間に予め決められたルートで建物の中の別の部屋へ移動する。そうすれば敵に位置は特定されない……はずだった。



「ん……思ったより早かったな。ま、そっちの方が都合はいいけどよ」



 そこにいたのは、長刀を持ったもう一人の侵入者。

 まるで移動のルートを予め知って待ち伏せしていたかのように通路のど真ん中に立っていた。

 そして、平然と言う。


「さて、降参するなら手荒なことはしないつもりだぜ? もしそうじゃないなら、ちょっと強引に押さえ込むけどな」


 見張りメンバーは反射的に……あるいは恐怖から石弓を構えていた。


「誰が降参なんてす……」

「そうか。じゃ、ちょっと痛いぜ」


 一瞬だった。

 あっという間に接近され、ボロボロの刀で斬られていた。

 ダメージは発生しない。街中のプレイヤー同士の戦闘では、それが当然だ。


 だが……ゲームの世界では味わったことのないレベルの『痛み』が走った。


「ぎゃぁぁあああ!! いたいいたいたいいたいいたい!!」


 見張りメンバーを斬った侵入者は、刀を鞘に納めて、慰めるように言う。


「《拷問刀・(のこぎり)もどき》……ダメージを与えない分、その威力を痛覚に変える特殊な武器だ。痛みでしばらくは動けないだろうが……動けるようになっても向かってくるって言うなら、いくらでも相手してやるよ」


 傷口を押さえて倒れる見張りメンバー。

 まるで、切れ味の悪い刃物で無理やり斬られたかのような痛みが走り、動けない。動けるようになったとして……きっと、目の前のプレイヤーには立ち向かえない。


 圧倒的な実力差を前に、見張りメンバーは自分達の敗北を悟り……動こうとするのをやめ、ゆっくりと目を閉じた。







 同刻。


 夜明けの光の中、街の陰に残された暗い闇に同化した『夜の女王』が、屋根の上に座り誰にも気付かれることなく街を見下ろしている。


「ここも潮時かしらね……この街なら『イヴ』なんて名乗るような珍しい子に会えるかと思ってたけど、分身しかいないんじゃつまんないわ」


 喪服のようなドレスに身を包み、妖艶な笑みを浮かべる貴婦人。人並みはずれた体格などはしておらず、武器なども持っていないが……その姿を見れば忘れることはないだろう。

 一目見れば惹きつけられ、一声話しかけられればその声が心を奪い、一度触れれば全てを委ねてしまいそうな魅力を持つ、まるで神に創作(デザイン)されたような美女。


 しかし、その姿を見つけられる者はいない。


 彼女は『闇』そのものなのだ。

 ただそこにあるだけで何もしない。害意も敵意もなく、迷い込んだ者をさらに深みに沈める深い闇。

 人はそのようなものから無意識に目を逸らし、離れようとする。

 触らぬ神に祟りはなく、近付かなければ触れることもない。


 そして、闇そのものである黒い貴婦人の姿は朝日に包まれて消えていく。

 そして、完全に消える直前……彼女は、誰に言うともなく呟いた。



「やっぱり見てるだけじゃつまんないし、ミカエルには『仮にもラスボスなんだから自重しろ』って言われてたけど……私もゲームに参加しようかな……」

 すみません、『苔の国』『切り株の街』の『街』と『国』の名前が以前と入れ替わってしまっています。

 修正のため、使用回数の少ない以前の『苔の街』の方を新しい『切り株の街』に変更しました。

 物語の大筋には変化はありませんが、混乱させてしまうような誤植をしてしまい、申し訳ございませんでした。

 まだ直っていないところなどがあれば、遠慮なくご指摘ください。

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