15頁:装備のデザインにも気を配りましょう
進みが遅くてすみません。
あと、もうお忘れであろうかとは思いますが、主人公のキャラ立ての時間です。
ちゃんと、今日の出来事は余すことなく日記に書いた。
目覚ましもかけた。
明日の時間割に必要な教科書も鞄に入れて、宿題も忘れていない。
「おやすみなさい」
電気を消した。
今日は疲れたからすぐに眠ってしまうだろう。
明日は、何もないといいな
「……あれ? ここ、どこ?」
目をつぶった直後、眼前には見知らぬ光景が広がっていた。
パニックになった大勢の人。
笑う時計台。
理解するのには時間がかかったけど、その様子を見たらわかってきた。
私は、最悪の世界に来てしまったのだ。
《現在 DBO》
「えっと……≪順応毛皮≫に≪水筒≫……って、これ絶対モンスタードロップじゃないわよね? さっきから時々あるけど、この人工物はなんなんだろ?」
デスゲーム開始から四日目の早朝、スカイは『店』でライトが集めたアイテムを整理している。
だが、ライトが戦闘している間スカイが寝ていた時間があり、その間のドロップアイテムも整理しなければならない段階になって、何やらドロップではなさそうなアイテムが多発したのだ。
「一体どこで手に入れたんだろ? ほとんど一緒にいたはずだし……」
こんなことは本人に聞くのが一番早いのだが、その本人が今出払っているので困っているのだ。
だが、そのライトもそろそろ帰ってくる予定だ。
そんなことを思っていたら、丁度扉が開かれた。
「スカイ、イベントの詳しい情報がわかったぞ!!」
「それは助かるけど、『お遣い』もちゃんとして来たんでしょうね?」
ライトは机に向かって来ると、メニューを手早く開いてアイテムを実体化した。
それも、一つ二つではなく、ばらばらと大量の金属製アイテムが解放された。
「……まあ、確かに頼んだものはちゃんと揃ってるけど、余計な物多くない?」
「使えそうなもの見つけたから一緒に集めておいたんだ」
確かに、頼んだもの以外のものはどれもそのまま販売しても良さそうな物ばかり。『研磨スキル』『武器整備スキル』を使って磨けば見栄えもよくなるだろう。
「あ、そうだ。この≪水筒≫とか、一体どこで手に入れたの? モンスタードロップじゃないでしょ」
「ああ、それは荒れ地で木材集めるついでに『ダウジングスキル』で辺り探ってたら見つけたんだ。今持ってきたこれもダウジング」
「じゃあ、この≪異臭ハーブ≫とかって植物系のは? 地味にたくさんあるけど」
「ああ、そっちは『園芸スキル』の派生技能で『野草採取』を使ってスカイが寝てる間にフィールドで集めた。モンスターが出てこなくなったから半径50mくらいで探してみた」
スカイは思わずため息を漏らす。
確かに、店の品揃えが増えて大助かりではあるのだが、整理してる傍から増やすのはやめてほしい。
そもそも、ライトに頼んだのはライト自身がスカイに設計を頼んだ物を組み立てるために必要な『部品』を集めてもらうことだけだったのだが、ライトは頼んだ仕事の三倍の仕事をしてきてくれたらしい。
ライトが行ってきたのは『時計の街』の七時半くらいの方向にある『屑鉄山』という場所だ。廃棄された金属製のアイテムが山のように積み重なり、そのほとんどは壊れているが、中にはまだ使えるものや貴重な金属が使われていて高価なものが混じっているらしい。
スカイがライトに頼まれて設計している物に、幾つか木製部品では不安な部分ができたのでライトにリストを渡して必要な部品を手に入れて来てもらった。しかし、ライトはそれに加えて≪銀の皿≫≪オルゴール≫≪ランタン≫などの売り物になりそうな物まで集めてきたのだ。
正直、上司としての資質を問われている気がする。
そのうち『契約を取って来てくれ』と言ったら、契約相手の会社を乗っ取って来るかもしれない。
だが……
「まあ、いいわ。整理しきれなければ整理してから売ればいいのね。……それより、イベントの情報ってなに? 店を開店する方が急ぎの用事だから『お祭り』なんて参加してる場合じゃないと思うけど?」
今は時間がもったいないのだ。
ライトの予測した最悪のシナリオが現実のものとなってしまった場合、この街のプレイヤーは全滅する。そして、先ほどちらりと街の様子を確認したところ、その兆候……『飢え』の気配が漂い始めている。
そのシナリオを回避するためには、スカイの店をいち早く有名にして、街の外のプレイヤーを呼び戻し、この街に食料が行き届くようにしなければならない。
だが、それを感知し、誰よりも危機を信じているはずのライトは『祭』の話をしたいらしい。
ハーフタイムイベント『魔女の誕生祭』。
300人目(実際には最初からログインしていない人もいるので正確には少し少ない)のゲームオーバーをタイミングとして指導する一種の時限式イベント。
今は二日間の準備期間の一日目だ。
どうしても遊びたいなら、準備期間中に店を有名にして当日に遊べばいい。
だが、ライトはそうは思っていないらしい。
「この『魔女の誕生祭』はどうやら大々的な催し物らしい。この街の中だけじゃなく周りの地域からも行商人やら旅芸人やらが集まってすごい賑わいになる。もう既に街の外からNPCが集まり始めてるし、そこら辺は祭り当日にこだわる必要はないからもう商売を始めてる」
ライトは少しだけ『溜め』を作って、スカイに言った。
「そして、『クエスト』もできるようになってる。普段はこの地域に散ってるスキルやアイテムを手に入れるためのクエストが、一気にこの街に集まってるんだ」
スカイは少し遅れて理解する。
これは『チャンス』だ。
新しく珍しい商品、情報、それを追って集まってくるプレイヤー達の需要。
この『準備期間』とは運営がクエストを始動するための『準備』ではない。プレイヤーがこの街に集結するための期間なのだ。元からこの街にいて、他の町から移動して来る必要のないスカイやライトは一歩先んじて他のプレイヤーが受けていないクエストを受け、手に入れていないアイテムを集められる。
さらに、ライトは一枚の紙を実体化する。
「それに、この『お祭り』限定のこのクエスト。この部分、使えるんじゃないか?」
そこにはサーカスのチラシ。その右端に『アシスタント募集』と『出し物』という二つのクエストを匂わせる文言。
スカイはその頭脳をフル活用して最も利益の出る方法を選択し、検討する。そして、現実的に実現可能なスケジュールを組上げ、コストを算出し、今進めている計画との合理的な統合を試みる。
そして、全ての計算が終わった後、スカイはギラギラと欲望を剝き出しにした笑みを浮かべる。もう、ライトの前では本当の笑みを隠すなんて配慮はしていない。
戦闘面ではほとんど活躍できなくとも、スカイの『強欲』はこのような場面では、強力な武器なのだ。
「このお祭り、仕事のついでに全力で楽しみましょうか」
ライトはそのギラギラとした笑みを見て、安堵したような声で呟く。
「これはまた、忘れられない思い出になりそうだな」
「ねえ、そういえばライトって大量に食料持ってたよね? あれどうしたの?」
一時間後、とりあえず行商人の店(道に布を広げてアイテムを乗せただけ)を十軒ほど回って街の外の相場を知り、価値のありそうな物、使えそうなものを一通り買った後、思い出したかのようにスカイは尋ねた。
ライトは初日にお婆さんの話を聞くクエストで大量の食料アイテムを手に入れていた。それでストレージはほぼいっぱいだったはずだが、それから『ダウジングスキル』や『園芸スキル』で手当たり次第にアイテムを拾ってるあたりストレージが圧迫されている様子はない。スカイも預かってはいない。
「ああ、あれは…………イザナに渡した」
「はい?」
なんでここで道案内NPCの名前が出てくるのかわからなかった。
「イザナに貢いだ」
「え、いや、言葉を変えられても困るんだけど」
「じゃあ……餌付けした?」
「いや、それは違う。違ってほしい」
確かに、先ほどから時々見かけるイザナとライトのすれ違いざまの会話は、イザナからライトへの好感度が以前よりかなり上がっているようにも感じる部分があったが……
「まあ、先行投資ってやつだ。イザナも一々お駄賃要求しなくなったし」
「本格的に攻略ルートに入ったんじゃないのそれ? もしかしてあの子メインヒロイン?」
イザナは9歳ほどの少女型NPCだ。それがメインヒロインなら、ライトはその手の趣味があるのだろうか。
「ま、まあ、食料ならフィールド行けば自力で取れるしそこまで問題はないだろ。それより、スカイの方はどうだ? いい買い物はできたか?」
今のところはクエストは受けていない。品物がたくさんあるうちに商品がみられるショッピングの方が先決だというスカイの判断だ。別行動という選択肢もあるが、ライトもスカイのエスコートとクエストを受けられる場所の下見のために一緒に行動している。
「ええ。良い材料もたくさん手に入ったし、買い物に出て来て正解だったわ。これならライトの要求以上のものができると思う。あ、あと『フレーム』は後で作って机の上に置いといて。パーツが揃えば速ければ今日中にでも組み立てられるから」
「『フレーム』か……内容は決まってるのか? 一応手当たり次第に使えそうなの集めてるが」
「量的には十分だけど……質的にはもう少し『前線受け』するものが欲しいわね……この祭りで集められるといいわね」
これは、ライトが考え、スカイが計画し、二人でなければ成しえない『切り札』。
これを最大限に生かすためには、祭の当日に間に合わせなければならない。
正直、準備期間の間に集めた『材料』を整理して当日に売れるものに仕上げるのはスケジュール的に厳しい。
ライトには悪いが、限界まで働いてもらう必要がある。実はこの買い物は、ハードワークの前に少し休憩させる意味合いもあるのだ。
最初は『女子の買い物は男子にとって拷問だ』みたいな反応をされるかと思っていたが、案外ライト自身も買い物を楽しんでいるようだ。
まあ、文句を言われたらお詫びという名目でライトの安っぽい帽子をもう少し良い物にするつもりだったが、本人が楽しいならまたの機会にしよう。(その過程で変なデザインの帽子を被らせて笑うのを楽しみにしていたのだが、それも今度だ)
「あ、それください」
いつの間にかライトは行商人から何かを買っていた。
先日の『狩り』で得たアイテムと金の配分については商品目的のためアイテムはスカイがほぼ総取、金は『男女平等』と『ライトと違い戦闘のできないスカイの冒した危険』を武器にしたスカイの交渉で『ライト2:スカイ8』で決着した。
そのため、今ライトは給料後で財布の紐が緩いのかもしれない。
先ほどから、ライトはよく服や装飾品のアイテムを見て時々その場で購入している。だが、時折センスを思わず疑うような品や、どう見てもライトに似合わない服を買っている気がする。
本気でライトの服装のセンスが心配になってきた。
考えながら歩いていると、いつの間にかライトが立ち止まっていた。腕に掴まっているスカイも止まる。
何やらスカイと反対側の店を凝視しているらしい。
「ねえ、ライト? 何見てるの?」
スカイは首を伸ばしてその店を見ようとしたが、その前にライトが自由な左手でスカイの肩を掴んだ。そして、真剣な珍しく表情でスカイに向き合う。
「スカイ、店を開くに当たって重要なことがある。その選択によっては同じ店でも人気に天と地ほどの差が出る。何か分かるか?」
あまりの真剣さにスカイは威圧された。元々長身のライトだが、肩を掴んで真剣な顔をされるとここまでの迫力があるとは思わなかった。
「な……なんなのよ?」
もしや、これからスカイが考えもしなかった準備の不備でも指摘されるかと緊張した。
だが、ライトの答えは想像の遥か斜め上を行った。
「それは、特徴的なほど店を印象付け、しかし一つ間違えばその客は二度と来ることはなくなる、お客と向き合う店舗販売と切っても切れない重要な関係性を持つ最重要ファクターといっても過言ではないアイテムそれは……これだ!!!!!!」
ライトは身体を扉のように裏返して『その店』をスカイに見せる。
そこには、行商人が広げた布の上の木製の家具から吊り下げられた数々の特徴的な『商品』。
フリフリのレースがあしらわれた物から、逆にほとんど材料を最小限にしか使わず、逆に使用者を露出させることを目的としたような物すらある。それ……
「店員のコスチュームだ!!!!!!」
「『だ!!!!!!』じゃないわよ!!!!!! 緊張して損したわ!!ただのコスプレ専門の服屋じゃない!!」
そこは、メイド服、貴族風ドレス、修道服、水着、拘束服、囚人服、海賊服……それらの確かに一度見れば印象に深く残りそうな服が売られていた。
「いやいやスカイ、よく考えて見ろ。俺達は今もって初期装備の服のままだ。確かに、このまま商売出来ないことはないだろう。だが、それがこんな印象の強い服を着ていればそれだけで話題に上がるし、その格好目当てで来てくれる客もいるだろう。メイド喫茶を考えてみろよ。あれはほぼ服装だけの力で客に割高なメニューを楽に買わせてるんだ。だったらその力を取り入れないなんて手はないだろう!!」
「長いわよ!! どんだけ力説!?」
大声で周りの注目が集まり始めている。
「さあ選ぶがよい!! そなたの勝負服はこのメイド服か?」
「私の店はメイド喫茶じゃありません!!」
「この拘束服か?」
「いかがわしい店でもありません!!」
「じゃあこの……裸エプロンか?」
「それはただのエプロンです!! それも着ません!!」
「着ない!? なら全裸だというのか!? 流石にオレも引くぞ」
「何想像してんのよこの馬鹿!! 取り敢えず露出の多い方向から離れなさい!!」
ライトの目の色がいつもと違う。モンスターの群れに囲まれたときですら、ここまで真剣じゃなかった。
そこまでして私にコスプレさせたいのか……いっそのこと適当な服で…いや、選択によっては精神的に大赤字だ。この店にある物はダメ。
しかし、さっきの理屈も正論だけに強行突破は難しい。
一体、どうすればいいのだ?
追い詰められていくスカイ。このままでは少なくとも『試着』はする事になりそうだ。
そんなとき、外から救いの手が差し伸べられた。
「あの、お話中すいません。そちらの男性のかた、こっちを向いてもらえますか?」
「「……え?」」
二人を見ていた通行人の中の一人が突然話しかけてきたのだ。しかも、騒音を怒るためではなさそうだ。
ライトと共にスカイも同時にその声の主を見た。
声の主は高校生くらいの、髪を一本の三つ編みおさげにした少女だった。自信なさげな表情が庇護欲をかきたてると同時に、なんだか急かしたい衝動を沸き上がらせる。
その少女を見たライトは、少々驚きの混じった声を発した。
「七美姫……さん?」
その反応を見て、少女は安心したというように一瞬表情を緩めた後、泣き出しそうな顔になり、ライトに走り寄って抱きついた。
その後の声はくぐごもっていて周りの観衆には聞こえなこったが、至近距離にいたスカイには確かに聞こえた。
「行幸……先輩」
同刻。
時計台の第0コンソールにて、複数の画面を同時に見ながら仮想のスナック菓子を摘まむ男がいた。
この画面に映る映像は街の中を動き回るNPCの視界から作ったものだが、そこには祭の始まる雰囲気に浮かれるプレイヤー、頑固に座り込みを続けるプレイヤー、そして雰囲気に触発されて動き始めるプレイヤーなど、様々な反応を示すプレイヤーが映っている。
「攻略は一休み。ここは一時休戦してみんなで楽しく英気を養うと良い」
そう言って、スナック菓子の袋に手を伸ばすが、袋が空なのを知り、メニューを開いて新しい袋を取り出す。
別に無限に菓子が出てくる袋ぐらい作れないことはないのだが、それは彼の趣味ではない。
新たな袋を摘み、封を切って新たなチップを取り出して言った。
「なんて言うと思ったか? 残念ながら、気を緩めすぎると痛い目を見るぞ?」
新キャラ投入しました。