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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第五章:成長(ビルド)編

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151頁:女の子には優しくしましょう

 ハイペースになってしまいすいません。

 今回はほとんどが会話シーンだけです。

 疑問などなかった。

 後悔などしなかった。


 嘘に嘘を塗り重ねて作り上げたもう一つの『自分』。

 上書きされ、消え去った『自分』。

 自分として生きるのを諦め、死んだ『自分』。


 学習はしても反省はしない。

 前を向きながら過去を踏みにじる。

 ただただ、設定の通りに動く機械のように進み続ける。 

 いつしか最初の目的も忘れて。

 いつしか自分を駆り立てた感情も忘れて。

 もはや理由など顧みることなく、いつか設定した『自分』を演じる。

 人でなしのクセに人を演じる。


 あるいは、演劇の役者のように。

 あるいは、舞台装置のように。

 自分の心などどこかへ捨てて、観客の望み通りに役を演じる。


 だが、そんな『彼』も夢見ることがある。

 嘘に嘘を重ねても、どんなに役に徹しても、忘れないものがある。

 それこそが、『彼』の能力の源。

 それこそが、『彼』の能力の本質。

 そして……


「『哲学的ゾンビ』。『最も人に近い人外』、私のかわいいゾンビくん……楽しみなさいよ、ゲームに参加したくてもできない数多のプレイヤーたちのかわりに」


 『背の高い女』は、期待を込めて世界を見下ろす。











《現在 DBO》 


 『ナナミ』への拷問のような『実験』が終わると、物語の時間が一気に進む。

 おそらく『本』の中では時間の流れが一定ではなく、物語の流れを優先しているのだろう。次へ進む伏線(フラグ)やシーンを消化すると次の場面まで時間が一気に進み、全体的にはダイジェストのようになる。そうでなければ、作中時間で何年もの時間が経過するような成長模写などは上手くたち行かない。


 ナビキは、速まった時間の中でライトに語る。


「交通事故に遭った『七美姫七海』……そちらはきっと、本当にいたのかもしれません。でも、それは私ではないでしょう……私は、治療を装って特殊チップを実験するために作られたクローン。事故以前の記憶などあるはずはなく、リハビリなんてする必要はありません。培養液の中で成長を早められて、親なんてなく、人と人の間なんかじゃなくて機械で量産された人間もどきだったんです」


 ナビキは苦笑する。


「明確に特定できてはいませんが、私と同じようなプレイヤーが何人もいるはずです。一見人間に見えるものの、人間らしからぬ能力と出自を持つ人間もどき……たとえば、『OCC』の中にも何人かいるかもしれませんね。あ、ちなみにマリーさんはどちらかというと天然物の『超能力』らしいです。だからあんまりあの人は巻き込みたくないですし、正直あんな『本物』の人外とやり合いたくないです。それに、今回のゲームの運営者達の目論見に乗っかるのも嫌です。多分、私達『量産型』と『天然物』の性能比較もこのゲームの目的の一つでしょうからね」


 ナビキは『うっかりした』というような顔をする。


「すいません、そういえばもったいぶってこのゲームの目的を説明してませんでしたね。もしかしたら、先輩ならここまでの話でもうすっかり分かっているかもしれませんが……このゲームの主目的は『兵器』としての『私達』の性能実験です。このゲームの全ては、生物兵器の開発なんていうくだらないもののためだったんですよ」


 ダイジェストのように光景が流れる。

 記憶を消された『ナナミ』が病院で『事故』の説明を受け、それを信じ込んで『人間』としての生活を始める。

 記憶の障害のせいで学校に馴染めず、辛い思いをした中学時代。

 そして、『行幸正記(ライト)』と出会った高校時代。


「『有機的アンドロイド』をベースにした生物兵器の主な目的は、人間集団へ潜入して破壊工作や暗殺、諜報活動や情報収集を行うこと。それらは……このデスゲームでいつもプレイヤーがやってることと同じですよね? 実験の第一段階で『実験体』はチップや投薬、暗示で記憶を消され、偽られ人間社会に放り込まれてその順応性と潜入能力を試されました。まず、『人間』としての振る舞いをテストされたんです。実在した人と入れ替わったか、ご家族のふりをしている人たちが嘘をついているか、記憶を弄られているか……先輩の場合はきっと記憶操作でしょうね、嘘が通じませんし先輩は性質上周りの人たちとの記憶に矛盾が生じても自分で修正できますから。そして、第二段階であるこの実験では戦闘能力、生存能力、人間関係の構築能力、情報収集能力、そして学習力。それらを調べ、より完成度の高い『完成形モデル』を決めるため。このゲームをクリアしたとき、この実験は完了します。そして……実験が完了すれば、『完成形』以外の『実験体』は『失敗作』として処分されます。そうなれば……誰がゲームをクリアしようと、私と先輩が現実世界で会うことは二度とありません。このゲームは、その他大勢の人間を巻き込んだ人外たちの選定の試練なんです」


 ナビキは感情をこめて声を上げる。


「おかしいと思いませんか? 目的があって造られたからって、殺し合うしかない道しか用意されてないなんて、おかしいですよね! 不条理です、横暴です、人間達の身勝手です! だから、私はこのデスゲームを……ぶち壊すことにしたんです。この実験を中止させるために……私は『イヴ』になったんです」


 『本』の登場人物の『ナナミ』は、ゲームの始まりに到達する。

 シーン全体の光度が下がり困惑するプレイヤー達の中、十数人にスポットライトのような光が当たる。

 『本』の演出効果なのだろうが……スポットライトの当たったプレイヤー達は、ライトも良く見た顔ばかりだった。


「ジャッジマンさん、マサムネさん、スカイさん、椿さん……その他にも攻略を引っ張る支配者的人物の大部分はこのゲームの主催者側の人間、実験を円滑に進めるための研究員です。既にその中心人物は大方ゲームから排除しています。椿さんは排除に失敗しましたがそれなりに痛手を負わせることができましたし、スカイさんはなかなか隙のない強敵ですが……今の私なら、きっとなんとかできます。諸悪の根源は、必ず私が潰します」


 ナビキはライトに微笑んだ。

 まるで、『心配はありません』とでも言うように。


「仮にも『兵器』の実験なら、使用者に扱いきれないと分かれば実験は中止されます。『開発』に投じられた資金や労力を考えるとそのまま破棄とはならないでしょうし、保留……実験第一段階の『日常』に戻ることが出来るはずです。特に先輩はこのゲームの中でもその性能を評価されているはずですから、捨てるには惜しいでしょう。実験をぶち壊す私はそうはいかないかもしれませんが……心配しないでください。詳しくは言えませんが、私自身については考えがあるのでそのまま破棄されることはないです。むしろ、機能(のうりょく)を完全に使いこなした私は、実験の副産物としてみれば大成功かもしれません」


 ナビキは少々自慢するように明るく言う。


「ところで、プレイヤーの『固有技』って変だと思いません? 『プレイスタイルから自動的に生成される』なんて、そんな機能他のゲームにないですよ? 実のところ、この『固有技』は実験体の『機能(のうりょく)』を再現するためのものなんです。そして、私の機能(のうりょく)は『複数の肉体の同時操作』……私の脳内のチップと思考を共有するプログラムをダウンロードしたチップで他の肉体を操る、諜報活動や暗殺などに利用した後は自分で自分を抹消することのできる使い捨てのスパイ。私の記憶消去はその『端末』が捕まったり行動不能になったとき情報漏洩や苦痛の逆流を防ぐため。後は情報のオーバーフローを防ぐためですね。現に私はそれを応用して分身の受ける痛みは別人格の記憶として保存して、分身を消す時に同時に忘却して逆流を防いでます。そして……私の機能(のうりょく)は、先輩の機能(のうりょく)と組み合わせることで真の力を発揮します。」


 ナビキはライトに歩み寄り、そっと抱き着くようにする。

 その背後では、『本』の登場人物としての『ナナミ』と『ライト』が出遭い、『ライト』が救いを与えるように手を差し伸べている。


 そして、ナビキはライトの耳元に囁きかける。


「先輩の『自分の人格を操る機能(のうりょく)』と、私の『肉体を操る機能(のうりょく)』は対になってるんです。だからこそ、あの日私達はあの部室で出逢うように仕組まれていたんです。先輩と私の思考を共有すれば……私達が一つになれば、普通に生きている人間と見分けのつかない人間を創ることができる……思考を共有し、完璧な人格を持った新しい種族を生み出すことができます。だから、私は『イヴ』になるんです。実験動物の……人外の『私達』が自立するには、先輩という『アダム』が必要なんです。私には、先輩が必要なんです。」


 ナビキは……ライトの顔を見つめ、一貫して全く嘘の混じらない真剣な顔で言う。



「一緒に、このデスゲームを終わらせましょう」



 『本』の中の『ライト』と『ナナミ』は部活の先輩後輩として再開を喜び、お互いを抱きしめる。

 そして、これからのゲームの展望を予想し、お互いの役割を決める。

 無言でその姿を見たライトは……ゆっくりと口を開いた。


「『わかった、信じるよ。』……とでも言うんだろうな、『行幸正記』だったら」


 その口からは……まるで『行幸正記(ライト)』のことを他人事のように言う言葉が紡がれた。

 その言葉に……ナビキは困惑する。


「……先輩?」


 ナビキは疑問符を浮かべてライトを見る。

 なんとなく……気配が変わった気がしたのだ。

 まるで、良く似た……しかし微妙にそりが合わない兄弟のような雰囲気の違い。あるいは、性格の違う同一人物……それこそ、ナビキとナビのような違い。

 『行幸正記(ライト)』のことを他人のように言う……まるで、今この瞬間に他人に『なった』かのような変化。


 ライトの『豹変』、ナビキの知る中で一番近い現象は……


「先輩の……『別人格』、なんですか?」


 ナビキは、自身の口からこぼれた考えに多少の驚きと共に軽い納得を覚える。

 ライトの『人格を操る』機能(のうりょく)は、全く別の人格を形作ることすらできる。ならば、その人格をいくつか予めストックしておけるという可能性もあるし、それが不意の驚きで表に出てしまうこともあるかもしれないし、急に人格が切り替わること……あるいは切り替えることなど、ライトにとっては造作もないだろう。


 だが……ナビキは、ライトの変化に不安は覚えなかった。

 どんな人格になろうと、ライトはライトだ。

 『自分』を完全にコントロールし、先入観や偏見、一時の感情に流されることなく冷静に考えて理解してくれる。むしろ、そのための人格変更なのだろう。

 『行幸正記(ライト)』は絶対に自分を拒絶しないはずなのだから……


「だが『僕』はこう答えるよ……『どこで道を間違えたんだ?』」


「……へ?」


 ナビキの口からは、思わず間抜けな声が漏れる。

 違う……ナビキの知る『ライト』と決定的に何かが違う。

 混乱するナビキに、ライトは嘲笑を隠すような下手な愛想笑いで答える。



「これは失礼、ナビキと顔合わせるのは初めて見たいなもんだったな。改めまして……僕は『三木(みき)将之(まさゆき)』、キミの慕う『行幸正記(ライト)』の元主人格だ。どうぞよろしく」







「直接会うのは初めてだが……なるほど、正記が好きそうな薄幸少女って感じだな。なんか小説ではヒロインになってトラウマを乗り切ろうと努力させられそうな感じの雰囲気だ」


 『行幸(みゆき)正記(まさき)』というライトの本名とは似て非なる名前『三木(みき)将之(まさゆき)』を名乗る人格は、値踏みするようにナビキを観察する。

 その態度は、まるで本当に初対面のような……赤の他人のようなものに見えた。

 困惑するナビキに、『三木将之』は語る。


「さて、混乱させたままじゃあれだから少しだけ僕自身の説明もしようか。さっきはナビキに一方的に語らせちゃったし、今度は僕からの一方的な自己紹介を突っ込みなしで聞いて欲しい。さすがに話しっぱなしで疲れただろう? 僕は正記と違ってそのくらいの気遣いはできる人格なんだ」


 将之は普段のライトとは違う、年下のナビキをたしなめるような口調で言う。


「そもそもだが、正記の能力は天然物だよ。いや、後天的で自分で望んだ結果だというのを踏まえれば『人工』とも言えるかもしれないが、とりあえず『行幸正記』には混じりっけない『人間』だった時があった。まあ、嘘判定能力だけは物心ついた辺りから使えたが、それくらいは出来る奴はいくらでもいる。隠し芸程度の芸当だ。問題は……人格改造の能力の方だ。これはとあることから自分と同じ能力を持ってる人にもバレない嘘をつこうとした結果なんだが……これが、『僕』と『オレ』、『三木将之』と『行幸正記』を分けることになった」


 将之は帽子の上から頭をかきながら、やや恥ずかしそうに言う。


「別にこんなところで回想に回想シーンを重ねる気はない。簡単に要点だけまとめると、当初の僕……オリジナルの『行幸正記』は嘘を完璧にするために自己暗示で自分自身の記憶や認識、価値観を操作して全くの他人を完璧に装うなんて人生のイカサマみたいなことを何百回とやり続けていた。そして人格の切り替えを何百回と繰り返して、自分の中の嘘と本当を取り替え続けて、記憶すらも弄り回した末、とうとう自分の中の何が本当かわからなくなった。本当の自分、本当の感情、本当の世界、本当に大切なもの……どれもこれもが定かじゃなくなって、それをどうにかするために周りの状況に合わせて人格を調節して振る舞いを変える人格『行幸正記』……おまえの普段認識している『ライト』が生まれた。」


 将之は、少々誇らしそうに語る。


「『ライト』をちょっと神格化してるらしいおまえには悪いが、こいつは別に『世のため人のため』とか『見知らぬ他人のため』とかそんな大義名分で動くやつじゃない。その行動原理に『環境順応』とか『新たな人格のサンプル収集』とかってのがあるだけだよ。あり合わせの人格のクセに増長してさらに進化しようとしやがって……それでいてハイスペックで役立つから元主人格って立場からでもあんま文句言えないから困るんだよな……」


 それはまるで、自分より出来のいい弟のことを語る兄のような姿。


「話がちょっと逸れたな……『行幸正記』は人格の改変をやりすぎて元の人格を失った。ま、正確に言えばどこぞの刺青お姉さんにトドメ刺されたりしたんだが、どちらにしろ『行幸正記』は取り返しの付かないところまで来ていた。『三木将之』っていうのは、正記が必死に騙そうとしていたある人間の前で名乗ってた名前だよ。そいつの前でだけは、自然な『僕』で……ある意味、『本当』の自分でいたかったんだ。そのために、本来の人格を失っても、仮面としての『三木将之』には安定した人格が必要だった。そこで、人格を自由に改変できる『行幸正記』はある裏技を使った。」


 将之は苦笑する。


「自分を偽るために鍛えた人格改造能力とそのための見本として他人の行動パターンや思考パターンを模倣してきた。その応用で他人の人格、特に『もういない人間』の人格を模倣する能力で、『自分自身のオリジナル人格』を再現した。そうして新たに生まれたのが僕だ。早い話、主人格から必要な時だけ呼び出される仮面(ペルソナ)の一つに降格されたんだ。今の僕には主人格としての権限はないし、普段はよっぽど意見が割れない限り『行幸正記』の一部として、行動パターンのモデルの一つとして同化しているくらいだ。だが……今回は、口を出させてもらう。僕は正記みたいに甘くないし、完璧な『人格者』なんかじゃないんだ……場合によっては本気で怒る。」


 『三木将之』は……今まで押さえ込んでいた怒りを爆発させるように言い放った。



「大層な理由があれば正当化してもらえると思うんじゃねえぞこのメンヘラ人外娘(モンスター)。『行幸正記(オレ)』は笑って赦しても、『三木将之(ぼく)』は絶対赦さない」



 その言葉に、ナビキは凍りついた。


 普段のライトは、決して他人を否定しない。敵であるシャークのことも、このゲームを作った運営者のことすらも否定しない。そのライトが、明確な拒絶の意志を示している。

 いつものライトとは、やはり根本的に違う。

 あの人並みはずれた精神を感じられない……強いて言えば、『人間らしい』怒りの感情を感じる。


 ライトの中の『人間』の部分が……牙をむく。


「……『イヴ』になってたときのこと、今なら思い出せるよな?」


「え、は、はい!」


「なら……『イヴ』として、今まで何人殺したか……何人踏みつぶしたのか、憶えてるか?」


「え、そ、そんなこと……」


「『ヒト型』に喰われたやつ、商店街を守るために『イヴ』を止めようとして突進に巻き込まれた奴、それに新エリアで抵抗した奴……確定してる数で最低17人だ。そのほとんどが、明確な攻撃の意志もなく、ただ進行方向にいて『障害物』として蹴り飛ばされ、踏みつぶされたんだ。おまえは、そいつらになんて言って赦してもらうつもりだ?」


「た……たった17人です! まだ5000人以上生き残ってるこのゲームを終わらせるために必要な犠牲です! 今までこのゲームで死んでいった人達の数と比べても全然少ない、ほとんど先輩とは無関係の人達じゃないですか! 元々能力的にもポジション的にもそれほど重要でもない、いくらでもいるただの人間の十人や二十人……彼らの命でゲームが終わるなら、それだけの犠牲で済むのなら……」


 ナビキのそれは、自分を正当化するために自分に言い聞かせ続けた……言い聞かされ続けた言い訳だった。大のために小を切り捨てる、それは必要で尊い犠牲だと……そう、言い聞かせてきた。


 だが……ナビキの『大義』に、『将之』の『正論』が襲い掛かる。


「ふざけんなよ!! 『無関係』? 『それほど重要じゃない』? おまえ何様のつもりだ!? 『ただの人間』? ただの化け物風情が勝手に人の価値決めつけてんじゃねえ!! 勝手に人間よりすごくなったと思って上から目線で言うな!!」


 その眼に、ナビキは射竦められる。

 予想していなかった……想像していなかった……


 『人間』の本気の怒りが……『人間』が、ここまで恐ろしいものだとは思わなかった。


「ただの人間なんてくくっちゃダメなんだよ!! そんな、いっしょくたに出来ないんだよ人間は!!」


 ライトはまくしたてる。


「『草辰』は一度は戦闘職として攻略に参加しようとしてだが本当にやりたかった武器屋に転職した、『大空商店街』の『楠』は八百屋と戦闘職の二足草鞋でマイマイとライライの店にも安く商品を入れてやってた、非戦闘要員の『アズサ』は攻略本の情報提供の最多記録のオレを越そうと努力してた、中級戦闘職の『耕太』は襲撃イベントのとき負傷した仲間を巨大モンスターの下から背負って助け出したのが自慢だった、反物屋の『アイム』は友達の雨森がいなくなった服屋を必死に守ろうと残ってた、武器の修理専門の鍛冶屋だった『岩鉄』は貯めた金でやっと欲しいレアな砥石を手に入れたところだった、中二の『マッチ』はマリーに保護されそうになったがチュートリアルで隣にいた男に一目惚れしてその話を蹴って戦闘職になった、『コッコ』は病院のナースNPCに恋しちまって悩んでた、最初に出遅れた『タヒチ』はいつか前線に追いつこうと時々『戦線(フロンティア)』へ行って稽古つけてもらってた……他にも皆、それぞれの物語があったんだ。それを、おまえは何も考えずに踏みにじって終わらせた。『ただの人間』? 『いくらでもいる』? 冗談じゃない、そんな気持ちで踏みにじって良いものじゃないんだ。」


 死者たちの『物語』を諳んじる『将之』に、ナビキは動揺する。

 ただの『敵』や『障害』として見ていた、そして踏み越えてきた人々が、それぞれ別個に価値を持つ『人間』だったと気づかされる。


「で、でもデスゲームが続けばもっと死ぬ人が……」


「それに、おまえは一つ大きな、とても大きな……滑稽なまでにヒドい勘違いをしているぞ」


 将之は……はっきりと言った。



「騙されてるんだよナビキは。オレとおまえは部活の先輩後輩なんかでも、実験体仲間でもない……赤の他人だ」




 同刻(そのとき)……ナビキの脳内(こころ)のどこかで、何かが壊れた。

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