14頁:モンスターの群れに突っ込むのはやめましょう
今回は少し長くなります。
本当は戦闘シーンと区切るべきかと思いましたが、場面の転換の区切りが良いところまで行かせてもらいました。
「キミは時々自分を人間だって錯覚してない?」
12月23日。
ミカンはクリスマス会の準備をし……ているライトの横でホログラムのゲームをしながら正記に話しかけた。
今回のゲームはサンタクロースが自衛隊や軍隊に撃ち落とされないように誘導するというゲームだ。
「いや、人間ですよ? 少なくとも生物学的には人間扱いになってるはずですけど?」
正直こういうことは部長が率先して準備するべきだとも思うのだが、この部長にはそんな人間社会の常識は関係ないらしい。
「別に遺伝子とか化学組成とかはどうでもいいのよ。たとえば、キミはサンタクロースが人間だと思う?」
ミカンの操作するサンタクロースは地上からのミサイルを華麗に避け、プレゼントを模した爆弾で空母を破壊した。
「サンタクロースってもともとセント=ニコラウスって実在する人ですよね。だったら人間ですよ」
「じゃあ聞くけど、現代の一般人が『サンタクロース』って聞いて想像するのって本当にその『聖ニコラウス』とイコールで繋がる? トナカイに乗って空を飛んだり、一晩で世界中の子供たちの家を回るなんて流石に常識的に考えて人間の範囲からちょっと外れてない?」
なるほど。
確かにそう言われれば、サンタクロースは人間の姿をしていても人間ではないことになる。それに生物的に人間なオリジナルがいても、もはや人間ではない。
「大事なのは周りの認識よ。たとえば、中世の魔女裁判なんていい例よ。生物学的な分類なんてなんの意味もない。周りの人間が仲間外れにすれば、仲間だと認識できなくなれば、それはもう人間じゃないのと同じこと。魔女は怖がられて、サンタクロースは神聖視されて、もはや人間じゃなくなってる。性能、功績、振る舞い、なんでも異常に飛び抜けたものがあれば人間は神にも悪魔にもなれる」
そして、ミカンはゲームを新記録のハイスコアでクリアして正記を見据える。
「ゾンビ君、キミは人間に近いタイプだから自分でも自分を人間だと認識してていいかもしれない。でも、キミが全力を出せば人間はまずついて来れない。それは憶えておかないといけないよ」
思えば、ミカンの傍にいつもいるのは正記だけだ。他の部員は活動の時には一緒に行動するのだが、プライベートや部活後に一緒に遊んだりというのは聞かない。ミカン自身、正記以外の部員に気を使ってクリスマス会の本番にも本当は出ないのだ。
嫌われているわけではないはずだ。
ただ、ミカンはなんだか……別格というか、桁が違うというか、次元が違うような雰囲気があるのだ。たとえば、学校にゲストで有名なサッカー選手が来て、特別企画で一緒に試合をするような感じだろうか。
ただ一人、正記だけがその傍に居続けている。
「オレが『ゾンビ』なら、師匠はなんなんですかね? もしかして『神様』だったりして」
すると、ミカンは優しく微笑みながら正記に言った。
「そうね……私はもうちょっと人間っぽさが欲しいから……『超人』くらいにしときましょうか」
ライトはそれを聞いて、以前から自分の中で勝手にミカンにつけていたあだ名を組み合わせて口に出してみた。
「人類代表、『超人』の天照御神。かっこいいですね」
演劇部で行われたクリスマス会前日に密かに行われた、二人きりのクリスマス会での他愛の無い会話だった。
≪現在 DBO≫
今、スカイとライトはフィールドで大量のモンスターに囲まれている。いわゆる絶体絶命だ。
スカイは歩行能力に問題があり一人で逃げ切ることは叶わない。
ライトは逃げ切ることも敵を殲滅することもなんとかできなくはないが、スカイを守りながらでは無理だ。
だが、スカイはただの足手まといではない。
危険なフィールドで居眠りしてしまうほど迂闊ではあっても、馬鹿ではない。
なんの防衛手段もなくフィールドに出て来てしまうほど不用心ではなかった。
「『商売スキル』の奥の手? そんなものがあるのか? てか、あるならなんで今まで使わなかったんだ? 一切手を出す気配もなかっただろ」
「だってあんまりこれ使いたくないし。リスクの方が大きいから」
そう言って、スカイはストレージからアイテムを取り出した。何かがぎっしり詰まった丈夫そうな袋だ。
「でも、背に腹は代えられない」
その表情には覚悟の色が見えた。
ライトはそれ以上異論をはさむ気はない。ただ、スカイの何が何でも生きようとする貪欲な意志がわかればそれで十分だった。
「さあ、帰るまでが遠足。舞台袖に引っ込むまでが戦闘シーンだ」
敵が迫る。
薪を消したので速度は落ちているが、それでも薪のあった場所目掛けて着々と包囲網を狭めている。
全てを相手にしようとすれば、敵の数は軽く50体を超える。一方向を突き破って撤退戦をするにも最低でも10体は倒さなければ包囲網は抜けないが、それも素早くしなければ囲まれてしまうし、突破した後も後ろからの追撃を覚悟しなければならない。
≪ハードグローブ≫を装備した右手にナイフ、左手に棍棒を装備したライトは『荷物』を右肩に背負って東の街の方向を見据える。街は僅かに光が灯り、方向を間違えることは無さそうだ。
ライトは小さな声で『荷物』に囁く。
「五秒後に出撃する。『荷物』は壊れやすいからなるべく気を付けるが……攻撃が掠ったらごめん」
「誰が荷物よ!!」
背中の『荷物』……スカイは小声で突っ込む。
今のスカイは布系アイテムをいくつか組み合わせ、『裁縫スキル』を使い、突貫で作った≪寝袋≫に入って上半身だけ出している。確かにパッと見ライトが荷物を背負っているように見える。
「5」
ライトは二つの武器を構える。
「4」
ライトは右手のグローブの『仕込み』を確認する。
「3」
スカイは腰に装備した袋を少し開けて、中のものを握りしめる。
「2」
ライトは寝袋の持ち手の部分がちゃんと肩にかかっていること、簡単には壊れないことを確認する。
「1」
二人は余計な言葉は交わさず、覚悟を決めた。
もう目が慣れている。暗闇だって怖くない。
「行くぞ!!」
ライトは町に向かって駆け出した。
目の前にまず立ちはだかるのは緑の光る眼を持つ身長1mの猿型モンスター〖ドワーフエイプ〗が三体。レベルは7,8,8。
「『シンプルスイング』、『シンプルカット』、『キックステア』!!」
『メイススキル』基本技『シンプルスイング』。
横殴りに左方向から来た猿の一体を吹っ飛ばす。
『ナイフスキル』基本技『シンプルカット』。
右から来た猿の顔を斬りつける。
『足技スキル』初級技『キックステア』。
正面から襲い掛かって来る猿の顔面を踏みつけて、そのまま前方に跳ぶ。
一気に三体を退けたが、棍棒で殴られた一体以外はまだHPが残っている。
「そのまま進んで!!」
背中でスカイが叫ぶ。だが、言われるまでもない。
今の目的は倒すことではなく退けること。作戦通りだ。
次に前方に現れたのは二体のモンスター。今度は種類が違い、一体は黄色い目を持ち体中に刃物のような突起のあるキノコ型の〖スラッシュマッシュルーム LV9〗、もう一体は赤い目の狼のようなモンスター〖ワイルドパピー LV7〗。
〖スラッシュマッシュルーム〗は近づくと突起を飛ばして来るトラップのような攻撃を仕掛けてくる。〖ワイルドパピー〗は軽いフットワークと夜の闇に隠れる黒い毛皮が厄介だ。
「『スロウ80』、『クイックパンチ』……『ノッキングネイル』!!」
『投擲スキル』初級技『スロウ80』。
時速80㎞近い速度でナイフを投げてキノコが攻撃に入る前に牽制。
『拳術スキル』初級技『クイックパンチ』。
素早い狼が飛びかかってくるタイミングで、軽くて出の速いパンチで迎撃。
『木工スキル』戦闘応用技『ノッキングネイル』
キノコに刺さったナイフに向かって棍棒を振りおろし、深いダメージを与えて致命傷にする。
「ちっ、スカイ、次は揺れるぞ!!」
目の前にいたのは緑の目を持つ全長1.5mのサソリモンスター〖バックスコーピオン〗が三体。レベルは9,8,9。このモンスターの戦い方は少し特殊だ。
ライトとの距離が近くなるとこのサソリは背を向ける。しかし、逃げるわけではない。このサソリの最大の武器は後ろ向きについているのだ。
三体が三体とも一斉に足を踏ん張って後ろ飛びの予備動作を取る。この体制からの後ろ向きの突進が厄介なのだ。こちらが見えないせいなのか、軌道が不安定で避けてもずれた攻撃がヒットしかねない。
タイミングを読む。
遅すぎても早すぎても駄目だ。攻撃が始まって軌道が決まる瞬間を見定める。
「ギ、テ、『テレホンキック』!!」
最初の二体はフットワークで躱したが、最後のレベルが低い一体は攻撃のタイミングは少し遅く、その一体だけは『足技スキル』の基本技で迎撃する。
今度は前方に4体。
〖バックスコーピオン LV6〗〖ドワーフエイプ LV8〗〖ワイルドパピー LV9〗〖ワイルドパピー LV7〗。バリエーションも揃っていて手強いが、この4体を倒せば包囲網は突破できる。
「後ろ追いついて来たわよ!!」
先ほどから倒さずに退けてきたモンスター達が追撃して来たらしい。スカイを背負ったライトの移動速度では追いつかれるのはわかっていた。
前から4体、後ろから……ほとんどが手負いの6体。
流石に前後からの挟み撃ちは一人では厳しい。
「スカイ、後ろは頼む!!」
ライトは右手を振り『仕込み』を作動させる。
先ほどキノコに刺してそのままにしていたナイフが手元に戻り、さらに前へ飛ぶ。それ以外にも、小さな釣り針が四本飛ぶ。
スカイは後方のモンスターを見つめ、握りしめたものを空中にばらまいた。
それはコイン。一枚10bの価値があり、本来捨てるようにばらまいていいものではない。
だが、それは今やただの通貨ではない。
空中のコインは途中で落ちるのをやめ、空中に留まった。
そして、スカイはモンスターを見ながら勢いよく手を合わせた。
同時にライトは指を細かく動かし、準備を整えた。
奇しくも二人の声が重なる。
「『インビジブルカッター』!!」
「『細銭投銭』!!」
スカイは技名を言い終わってから、もう一回手を鳴らす。
『柏手』だ。
空中に留まっていたコインは全て軌道を変え、まっすぐに後方のモンスター達を狙って飛ぶ。
もともと、体力を削られていたモンスター達はコインに貫かれてバタバタと倒れていく。
これが、スカイの持つ『商売スキル』の戦闘応用技『細銭投銭』だ。コインを消費して、消費したコインの価値に比例して威力が大きくなる技。
二人の前方と後方が一気に開けた。
「今だ!!」
「いっけぇえええええ!!」
後ろからまだモンスターは追ってくる。油断はできない。
だが、これは大きな一歩だ。
スカイとライトはモンスターの包囲網を突破した。
二十分後。
ライトとスカイは街の壊れた西門から荒れ地に入り、もう敵がいないのを確認してその場に座り込んだ。正確には、ライトが寝袋に入ったスカイをゆっくりと下し、自分はそのまま背中合わせになるように座った。
「いや……すこし、危なかったな」
「ええ、後ろからすごくたくさん来るんだもん。スリル凄かったわよ」
「前も時々モンスター出てくるからドキドキだったよ」
「そう……」
「ああ……」
包囲網を抜けた後も、スカイを背負って足の遅くなったライトは何度も追いつかれ、先回りされた。
だが、互いに互いの背中を守りながら何とかたどり着いた。
一瞬二人の間を沈黙が埋めた後、二人は声を潜めてどちらからともなく笑い出した。
「わはははははははは」
「あはははははははは」
そして、二人が声を合わせ、示し合わせたかのように互いに言った。
「「おつかれさま、おかえり」」
それから二人はしばらく空を眺めていた。
流石にすぐに次の作業に戻れるほど人間離れしていない。少なくともスカイには休憩が必要だ。
暫くすると、スカイはポツリと言った。
「ねえ、私を置いていくって考えはなかった?」
ライトは軽い口調で答える。
「あったよ」
「あったの!?」
「スカイなら一人でもなんとかできるかなって」
「まあできたけど……それにしても、あの時、よく私を戦力として信用したわね」
確かに、スカイには奥の手があったから、一人で取り残されてもなんとかなったかもしれない。だが、その時は大変な散財をしていたことだろう。ライトとの関係も終わっていた。
「オレ、人の心が読めるんだ」
ライトは唐突にそんなことを言った。
「じゃあ、私の本名わかる?」
「悪い。固有名詞はわからない」
ライトは帽子を深く被った。
「ただ、オレには少し特技があるんだ。それを使ってスカイが信用できるか確かめた」
ライトは少し間をおいて言った。
「オレには人の嘘がわかる。目さえよく見えていればその言葉が『真実』か『嘘』かがほぼ百発百中でわかる」
小さな子供の時から他人の表情を観察する内、何時しか気が付いた嘘のパターン。本人の真実と言葉が完全に矛盾したときだけ現れる生体反応。
この現代社会、嘘をつかない人間なんていない。むしろ人間関係を良好に保つための嘘が推奨されるような社会で、そんな能力があると知られたらきっと避けられる。
だが、代わりに裏切られることもまずない。
相手が『信用して』と言えば、それだけで駆け引きが終わる。
「いい能力じゃない。黙ってれば自分だけが相手に嘘発見器を使ってるようなもんでしょ」
そんなのは超能力とはよばない。ただの読心術だ。
『その程度なら便利で丁度いいだろう』とスカイは思った。世の中には完全な記憶力のせいで一生トラウマが消えない人間もいる。
だが、ライトはそうは思ってないらしい。
思えば、ライトは一日目から帽子を被っている。それは、他人の顔を見えにくくするためかもしれない。
「ああ、実にいい能力だよ。何せ中学の時、父親が仕事だって嘘ついて浮気相手とデートしてるのも発見出来たくらいだ」
「…………なんか、ごめん」
世の中には知らなくて良いことがたくさんあるらしい。隠された物とは誰かが隠したかった物なのだ。
だが、ライトは父親の浮気なんて世間話の延長だったと言うように明るい口調で言う。
「あと、スカイの本名に『空』かそれに類する文字が含まれてるのも知ってる。外国語の可能性のないわけじゃないけどな」
「……なんだ、ばれてたの」
スカイが自分の個人情報を隠すために吐いた嘘。それは逆説的に個人情報を流出させていた。
「スカイ、なんでこんな話をしたかと言えば、実は取引のためなんだ。背中合わせならオレには真偽はわからない。スカイが隠してること、話したければ話してくれ」
「……え?」
スカイの思考は一瞬止まった。
ライトはさらにやや弱々しい小声でスカイに呼びかけた。
「オレも手伝うから一人で抱えようとするなよ。オレに合わせて倒れるまで頑張るなよ。そんなことしてたらその内……人間やめることになるぞ」
スカイの思考はゆっくり動き出した。
もし、今回スカイが戦闘手段を持っていなければ、きっと最終的にはライトはスカイを守ろうとして一緒に死ぬか、一人だけ生き残っていただろう。
三日間の徹夜がライトにとっては余裕だったとしても、同じことをスカイに強いたせいでスカイが死んだというトラウマが残るだろう。
だから、ライトはスカイが頑張る理由を知り、頑張るのを抑えさせたいのだ。
スカイは考える。
ここで『隠してることなんてない』と言うのは簡単だ。しかし、ライトが嘘を見破れる能力を持つ以上、これからはライトの目を警戒しなければならないし、関係も悪くなる。
『言えない』という手もあるが、それではこれから言いたくなっても言い出しにくくなる。
全く、そんな風には見えないのにとんだ策士だ。この戦闘の後で気がゆるんだタイミングを狙って来るなんて。
少しだけ間をおいてスカイは口を開いた。
「これ他人に言ったら、罰金100億円ね」
スカイは話の聞こえる範囲にライト以外いないことを執拗に確認してから、ライトが黙って聞かなければ聞き取れないような小さな声でしゃべり始めた。
「私ね、実は結構大きな会社の社長令嬢だったのよ。しかも長女で天才で、美少女だったのよ……自画自賛じゃなくてただの事実よ。少なくとも、開発会議室に遊びに行ったときに考えたギミックが新商品に取り入れられるくらいには天才だったわよ」
そう、天才で長女で美少女で、明るい未来が待っているはず『だった』。
社長の娘としての英才教育もそれほど苦ではなかったし、漫画のお嬢様のように庶民の暮らしに憧れたりはしなかった。
「本当に幸せだったわよ。あの日までは……あの、教科書にも載ってる人類の記念日……『MBIチップ』が開発された日、私の人生は大きく変わったのよ」
極小の情報集積回路。
その発明はあらゆる情報機器を刷新するほどの画期的な大発明。
これまでの機械で出来たことがより小さな機械で、より高性能で出来るようになり、さらには今までできなかったことが出来るようになった日。
しかし、『刷新』とは新しいものを取り入れると同時に、古い物を捨て去ることでもある。
「私の父親はね……日本一の情報通信産業の大会社の社長だったの。あらゆる携帯端末の中で関わってない機器はないくらいで、あらゆる周波数を掌握していたくらいの大会社……『だった』」
ライトは黙って聞いていた。その後のことも察したかもしれないが、最後まで聞いてほしい。
「でも、あのチップを作った会社がその技術を使って全てをひっくり返したわ。おかげで、一番得意な部門で負けて、会社が大きかった分、世間の流れに合わせて進路や技術を乗り換えるのも遅れて、お父さんは頑張ってたけど頑張りすぎて倒れちゃった。それが致命傷だったのね……うちの会社は一年も保たず倒産したの」
最後は酷いものだった。
技術者は新しい技術を求めてライバル社へ行き、幹部達も部下をごっそり引き連れて敵陣に引き抜かれ、彼らが担当していた顧客も盗られた。
当時のスカイだって頑張ったのだ。
英才教育で得た知識を技術、経営に向けて全力で活用し、父をサポートしてなんとかしようとした。
開発会議室でたった一人、頑張ったのだ。
しかし、チップの開発者である『どこかの誰か』にはかなわなかった。恐らく、そちらはサクセスストーリーの主人公のような幸せな人生を送っているのだろう。
「で、ここからは負け犬の聞くに耐えない後日談よ。結局お父さんはそのまま死んじゃって、あり得ないような多額の負債が……借金が残った」
今でも思い出せる。
父の死に嘆く自分の元に来たのは、救いの神でも死神でもなく、借金の取り立てだった。
「私は天才だったから、水商売やなんかをさせるより、株やら違法アクセスやらの方が稼げるって……それからは、狭い部屋に一人で軟禁されながら、ネット上で金を集めることになったわ。ずっと一人きりでね」
与えられたのは1LDKの一室と、僅かな元手の資金とネット接続のために移植された忌々しい『MBIチップ』。そしてドアの向こうの監視。おそらく、負債を返してもらいたい人達に雇われた非合法集団の方々。
「お金を集めるためには株以外にも何でもやったわ。売り手と買い手を都合があえば、軍の兵器をテロリストに売り渡す取引の仲介なんてのもやったことがあるわ」
だが、それでも天文学的な借金は返しきれなかった。
「思ったわ。このままじゃ、私は死ぬまでこの部屋から出られないって。だから、どんなに危険な手段でも、胡散臭い噂話でも、ネットで集められる情報は全部集めた……そして、ここに辿り着いた」
スカイは天才だ。
しかし、先立つ物が無ければ大金を稼ぐことはできない。
スカイなら100億とまで言わず、その十分の一でもあれば借金を返せる自信があった。
「もう、300に近い人数が死んだ。私なら、デスゲームの情報をばらまいてゲームを止められたけど、自分のためにそうはしなかった」
事前にパターンをいくつか予測して対策を立て、最大限の立ち回りが出来るようにした。
「もし責めたいのなら責めても良いわよ? ばれてしまったときの対策だって考えてあるから」
ライトは最後まで黙っていた。
責められるかもしれなかった。嫌われるかもしれなかった。
だが、ライトはそんな事で怒るなんてつまらない反応をするとは思っていない自分がいた。
「zzzzzz」
「……っておい!!」
まさかの展開。
まあ、スカイもライトが命懸けの時に居眠りしたので他人のことはとやかく言えないが、この一大告白でそんな反応をされると逆に腹が立つ。
「zzz……ん、でスカイが本当に美少女だったのかどうか……」
「ほとんど聞いてないわね!?」
「ああ、ほとんど聞いてない」
「自白した!?」
「何も聞いてないから、誰にも何も話せないな」
「……え?」
「まあ、人間はしゃべる相手が居ればカカシだろうと、河原に掘った穴だろうと気は晴れる。スカイの気が楽になったなら幸いだ」
ライトはいきなり立ち上がった。
背中に寄りかかっていたスカイは後ろに倒れそうになり、慌てて地面に手をついた。
「ちょっと、いきなり立たないでよ!!」
軽く怒るスカイに、ライトは右手を差し出す。
「さ、時間もないしお互い睡眠はとった。そろそろ活動再開だ」
「全く、忙しいわね」
立ち上がったスカイに、今度は『腕』を差し出す。スカイが支えにするためだ。
そして、ライトは小さな声で言った。
「だが、死なない程度にはちゃんと休めよ……今は、一人きりじゃないからな」
スカイはそれを聞いて思わず笑みをこぼした。
ほんと、どこまで聞いていたんだか
同刻。
時計台を見上げる少女がいる。
少女と言っても人間ではない。
道案内NPCのイザナだ。
彼女の見つめる時計台の時間は0時29分を指していた。
だが、その針はすぐに表す時間を変える。
カチッ
とうとう、長針は真下を向いた。
同時に、チュートリアルの時に開いた時計台の口が開かれ、何かが飛び出す。
それは、歯車と鉄板でできた機械の鳥。
鳥は自分の翼で軌道を変え、大空へ羽ばたいた。
そして、イザナは呟く。
「『お祭り』の始まりです。どのお店に行きたいですか? ご案内します」
機械の鳥はまず時計の街を旋回し、さらに隣町に飛んでいく。
頭上を通過されたプレイヤーには、全て同じ内容のメールが受信されていた。
『 from 時計台
ハーフタイムイベント発令。
これより、二日間の準備期間の後、
ハーフタイムイベント『魔女の誕生祭』を開始します。
開催場所は時計の街。期間は一日間です。
超能力と言っても異能バトルもの程ではなく、探偵ものにでてくるくらいの感覚でとらえてください。




