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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第五章:成長(ビルド)編

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143頁:伏兵に注意しましょう

 一畳もない部屋でナビは夢現に考える。


 狭くなったな…この部屋も……


 ここは精神空間。

 七美姫七海の脳内におけるナビの支配領域を示すイメージ。

 マリーによって人格の混同を防ぐために区分けされたある種の仮想空間。最初は八畳ほどの広さがあったが、今は自由に生きることができない狭さだ。


 これで良いんだ……これで……


 今、ナビキはライトと共に戦っている。

 ナビキとしての人格の情報処理が増えれば、ナビの部分はますます圧迫され、淘汰されていくだろう。


 もはや風前の灯火。

 近い内にこの部屋ごと、自分の居場所はなくなるのだ。


 不満を言うつもりはない。

 ライトは、大事件で大変な裏で自分の願いを聞き、可能な限り一緒にいてくれた。この一ヶ月、彼がほぼ睡眠をとっていないことくらい知っている。たった一つしかない身体で、たった一人で全てを解決しようとしている。いくつもの身体(アバター)を同時に操るなどという能力は、本来彼が使うべきなのだと思う。


 それに比べてあたしは……ただの足手まといか……


 もはや、身体一つをも満足に動かせない。

 何か一つでも、恩返しがしたい。

 自分の残り少ない時間を、自身の貴重な時間で彩ってくれた彼に使いたい。報いるためにはどうすればいいのか……


 自分は何を残せるか……


 そんなとき、ふと脳内のある情報が浮かび上がった。



 










《現在 DBO》


 ダンジョンに奇襲をかけるため集まったのは、『戦線(フロンティア)』から18人。『アマゾネス』からギルドマスターの花火と、チイコを孫のように可愛がっていたヤマメ婆の二人。『大空商店街』のナビキ。そして、その他のライト。


 合計22人。人数的には未知数の戦力の潜むアジトに挑むには少なすぎるかもしれない。

 だが、メンバーはほとんど攻略最前線の最古参。そうでない花火のようなメンバーも、高い戦闘能力を持ったプレイヤーだ。


 その強さは、ダンジョンを進む内にも発揮され、シャークの嗜好を凝らした罠を打ち破っていく。


 先陣を切り開くのは『戦線(フロンティア)』。

 『戦線(フロンティア)』の攻撃と防御のエースである剣士赤兎と重装甲壁戦士のアレックスはトラップを正面から斬り伏せ、受け止めていく。特に赤兎の勘は鋭く、隠された罠でも不意打ちにならないことも多いほどで、『戦線(フロンティア)』メンバーはその反応に常に注意を払い、忠告や制止を挟まずに突然起動するトラップを突破していく。その他にも、落ちてくる岩を素手で払いのけるアイコや、高速の連携で安全を確保しながら先に進むメンバーなど、頼もしいプレイヤーが揃っている。


 『アマゾネス』の花火はダンジョンの経験が浅く、しかも猪突猛進気味なので危なっかしくはあるが、そこは周りが……特に同じ『アマゾネス』のヤマメ婆が引き止める。

 ヤマメ婆は世話焼きの老婆であり、同時に有能なサポート役でもあるため周囲のことに良く気がつく。骸骨を呼び出す魔法を扱い、それらを盾にして罠を防いだり先行させて罠を起動させて解除したり、話を聞かない上に方向音痴な花火がはぐれないように道を通せんぼしたりと道中の安全を確保してくれている。


 『大空商店街』のナビキはギターを携え、回復や支援の歌を響かせながら同行する。トラップをかわしきれずにダメージを受けても、回復しながらスピードを緩めず先に進む。


 そして、ライトはこれまでのシャークとの対決からその思考の傾向を導き出し、トラップを予知する。


 並大抵のトラップでは足止めにはならない。

 しかし、そんなことはシャークも承知の上だった。




 暗い一本道を進む奇襲部隊。

 真っ先に感知したのは赤兎。感知系スキルとも、単純な五感による認識とも違う、無意識下の感覚……『第六感』が警告を鳴らした。


「敵襲来るぞ!!」


 赤兎が手で合図した直後、一本道の左右の壁が崩れ、二つの人影が部隊を左右から襲う。

 二人とも闇に紛れる漆黒の装束に身を包んでいるが、その身体は小さい。中学生程度の背丈だとわかる。片方は少女、もう片方は少年。


「『マーダーズ・バースデイ』!!」

「『ブラッディーパーティー』!!」


 技発動のエフェクトと共に、強制的に少女に視線が引きつけられる。

 同時に、反対側の少年が赤く染まった石を振り上げ、部隊の進撃を引っ張る赤兎に必殺の一撃をたたき込もうとする。


 だが……


「おのれ、人の弟分に何さらすつもりや?」


 振りかぶられた金属バットが割り込み、それを相殺する。金属バットを武器にするのはもちろん花火。その破壊力は少年の攻撃に勝り、彼を弾き飛ばす。


 さらに、少女には一人のプレイヤーが飛びかかり、その腕関節を『()る』。他の攻撃態勢になっていたプレイヤー達は予めその効果をわかっていたため、攻撃を踏みとどまる。

 そして、腕を捕ったプレイヤー……アイコは、その腕を放さないようにがっちりと掴む。


「ライトから聞いたよ。あなたの能力は攻撃を『受ける』ことで発動するってね。返り血のエフェクトに触れると操られる。でも、あたしはあなたに血を流させないよ」


 パニックの調査でわかったこと。それは、『激しい陽性タイプ』の『模倣殺人(フェイクマーダー)』は大元の鬼に石で攻撃『される』ことで発動し、『静かな陰性タイプ』の『模倣殺人(フェイクマーダー)』は大元に武器で攻撃『する』ことで発動する。正確には、返り血のエフェクトに触ると操られてしまうのだ。


「この子はあたしに任せて先に行って!」


「頼んだぜ、アイコ!!」

「「「おう!!」」」

 先に進む奇襲部隊20人。


「っ!!」


「おっと、行かせへんで?」


 少女に駆け寄ろうとする少年の前に立ちふさがる花火。


「……どけ」


「あーあー、聞こえへんで? それに今はあんま難しく考えられんのや、話は後にし」


 よく見れば、その耳には粘土のようなものが詰まっている。さらに、花火は左手で酒瓶を傾け、残り半分ほどになっていた一升瓶を一気に空にする。


「……『模倣殺人(フェイクマーダー)』対策か」


 戦場で酒を大量に飲むなど自殺行為。

 しかし、相手によってはそれが秘策にもなる。『殺人鬼』の思考パターンを植え付ける技に起因する精神や行動の操作はアルコールに弱い。さらには、万が一の時のために命令が聞こえないよう粘土の耳栓までしているのだ。

 酒で思考力は低下し、しかも聴覚を封じた縛りプレイ。しかし、花火は全く衰えていない戦意で、『意気軒昂』という表現が相応しい気迫で叫ぶ。


「ほんじゃあ……この前の御礼参りやでこのクソガキが!!」


 花火による、少年……カインへのリベンジマッチが始まった。







 花火とアイコに『模倣殺人(フェイクマーダー)』の二人組を任せて先に進んだ20人は、再び足を止める。

 何故なら……


「なんだ……これ?」


 光源に乏しい暗いダンジョンの中でも、『暗視スキル』を持つプレイヤーは一定の明度で景色を見ることができる。

 しかし、その道はそれでも『真っ黒』に見えた。

 明度が確保されていても、壁や床が黒一色になっているようにみえる。

 それはつまり……


「『黒いもの』……『ムシ型』ってわけか。それも、百は下らない。」


 体長50cm以上のズングリとした昆虫型の『黒いもの』。飛べるかどうかはわからないが、現代人の多くが生理的恐怖を感じる形状のそれが何百と集まって道の壁や床、天井までを埋め尽くしている。そして、ここを通らないとキングとライトの予測したアジトのポイントには行けない。


「うわ……これはちょっと……」


「生理的恐怖はともかく、このサイズで踏み込んだ途端一斉に襲いかかられたらただじゃ済まないだろうな……」


 ライトは手の中に作り出した《マジックドロップ》を投げ込む。すると、着地地点付近の『ムシ型』の背がまるで虎バサミのように開き、池の魚の群に餌を投げ込んだ時のように我先にと飴玉を取り合う。カメムシの仲間には背中の模様が人の顔に見える種類もいるが、動きを見る限り『ムシ型』は本当に背中に顔がある。間違えて踏みつけでもしたら、その途端足に食いつかれるだろう。


「どうする? 踏み出す勇気あるか?」


 勇猛果敢なプレイヤー達と言えども、流石に飢えたピラニアの群れのいる池に飛び込むような勇気はないらしい。

 ライトの呼びかけに赤兎が答える。


「ライト、そりゃ勇気じゃなくて無謀ってやつだろ。刺激するのは危ないかもしれないが、踏み込む前に範囲攻撃で倒すなり追い払うなりした方がいい。ナビキ、頼む」


 赤兎が音楽と魔法を組み合わせた遠距離攻撃、範囲攻撃を得意とするナビキに声をかけるが、ナビキはそれに応じず、闇の奥を見つめている。


「赤兎さん、先輩……来ます」


 赤兎やライト、それに他のメンバーがナビキの視線の先を見る。すると、そこには暗い中ではわかりにくいが黒い輪郭を持つシルエットがある。それも、『ヒト型』とも『ヘビ型』とも『トカゲ型』とも『トリ型』とも『タマ型』とも『乙女型』とも『野獣型』とも『ムシ型』とも違うシルエットが三体。



 一体は足下から顔までは『乙女型』に近い。傘のような器官はないが、スカートをはいた女性のような輪郭に見える。しかし、その頭が異様だった。頭髪の代わりに何十もの蛇が……『ヘビ型』が『生えて』いる。真っ黒なため距離があると大きさを捉えにくいが、そのサイズが以前戦ったアナコンダ並みのサイズなら、『髪』を除いた身長は3mは下らない。ヘビとは別に顔にある本来の口もさらに不気味に見える。


 一体は腰から頭の先までが『乙女型』とほぼ同じ。こちらも傘はない。しかし、腰から下は全く別物。蜘蛛だ……巨大な蜘蛛の背から女の身体が生えている。乗っているのではなく、境目なく『生えて』いるのだ。蜘蛛のサイズは体高1m、脚を除いた体長では2mほど。〖ヒトサライ〗より二周りほど大きいが、身体の釣り合いなどは〖ヒトサライ〗とほぼ同じ。その巨大な蜘蛛の脚で、天井に『立って』いる。


 一体は他の二対よりさらに異形に近かった。

 脚は見えない。地面に着いているのは脚ではなく、五枚の花弁を持つ巨大な『花』のようなもの。そして、そこから『生えて』いる上半身は『乙女型』に近いが、その両腕の手に当たる部分は傘のような器官が裏返ったような、四枚の花弁を持った花のような形。不気味なのは、下半身と手の花にはそれぞれ牙が生えていること。下半身は全体に複数の口があった『タマ型』を展開したように表面にそれぞれいくつかの口が、手の花は花弁それぞれが牙の生えた顎のように開閉するようになっている。

 さらに、下半身の代わりの『花』との接着部分から生えているのは、数本の蔓のような器官。


 それぞれが、まるで人間と他の生物を掛け合わせた伝説上の人外(モンスター)のような姿をしている。


 それらを見て、ライトは呟く。


「『蛇女(メデューサ)型』、『蜘蛛女(アラクネ)型』、『植物女(アルラウネ)型』……今までの奴を掛け合わせて進化させた感じだな。こいつら、今までのとレベルが違う。『中ボス』って雰囲気だ」


「ああ、オマケにだ……戻るにしても楽じゃなさそうだぜ?」


 周囲に集まってくる気配。

 僅かに視線を周りに移すと、見たことのない、しかし人に似通った姿のモンスターが多数ゆっくりと迫ってきている。しかもレベルがこのダンジョンに不釣り合いに高い上、武器を使っている個体も多い。おそらく、プレイヤーを材料にした人造生物(キメラ)。本人の意識が残っているわけではなさそうだが、プレイヤーの面影があって戦いにくい。


「何かあったらメールするように言ってあるし、アイコと姉貴は大丈夫だろうが……入り組んだダンジョンの脇道に隠してやがったな。ライト、まさか戻るとか言わねえよな。ここが敵陣の真っ只中だってのは、来る前からわかってたことだしよ……ここまで来て、チイコを置いて帰れるわけねえからな」


 ライトは赤兎の言葉を受け、すぐさまうなずき返す。奇襲をかけたのが相手にわかっている以上、チイコの身に何かされないという保証はどこにもない。下手をすれば、チイコがライト達をおびき寄せる『餌』としての価値しかないのなら撤退することでその価値すらないと判断され、殺されてしまう可能性もある。


「ここからは、五人パーティー四つに分かれて行こう。赤兎を含む五人は『先陣スキル』の突破力で『ムシ型』を切り開いて、あの三体の横を突っ切って先へ行く。その後に続いて、他の三パーティーはそれぞれクエストボスを攻略する要領であの三体と戦闘。他のモンスターは取り巻きに相手する要領で対処。これでどうだ? うまく行けば、あの『ムシ型』が邪魔になって他のモンスターは引き離せるかもしれない」


「なるほどな……わかった。俺と一緒に行くのは誰にする?」


「実質、チイコを助けるための救出部隊だ。前提として先陣を切り開く赤兎は当然として、それなりに戦力がいる。それも、あの三体全ての初撃の的になる役だ。とりあえず発案者のオレも参加させてもらうつもりだが、並のやつは連れていけない」


 ライトはまず自分を数に入れる。この先新たな敵が現れる可能性もあり、臨機応変に対応できるスキルを持ったライトは確かに必要だろう。それに、人の面影が残っているキメラの相手は『人の姿をした物を壊せない』ライトには難しい。


「初撃の防御なら任せろ。俺が受けきってやる」


 次に名乗りを上げたのが重装甲のアレックス。チイコとは仲が良かったこともあり、自分の手で助けたいという強い意志を感じさせる。


「後方支援は私がやります」


 ナビキも手を挙げる。

 ナビキはライトの側を離れずサポートするため、迷うことなく救出に参加する。


 そして、残り一人は……


「フェ、フェ、フェ……なら儂も行こうかのう。」


 そう言って前に出るヤマメ婆。腰の曲がった老人だが、彼女は確かな足取りで前に進む。彼女も、また、チイコを孫のように思っていた人物であり、実力的にも足手まといにはならないだろう。


「前衛二人、中衛一人、後衛二人。それなりにバランスのいい組み合わせだ。なら、これで行くか」


 議論している時間はあまりない。他のメンバーもそれぞれ五人パーティーを即席で作り終えている。

 最後に必要なのは……勢いだ。


 赤兎が刀を抜き、切っ先を進むべき先に向けて叫ぶ。



「みんな行くぞ!!」

「「「おう!!」」」




 






 同刻。


 殺人鬼ジャックは目を閉じ、感覚を研ぎ澄まして気配を……殺気を探る。


 検知するのは針山の殺気。

 他の人よりわかりやすい、どこか歪な殺気。


 買い出しに行ったきり何日も帰ってきていない。

 これは、明らかに異常事態。もちろん、仮に敵襲があったとしても針山が簡単にやられるとは思えないが、万が一ということもある。


 何度も殺気を探っているが、全く反応がない。まるで、この世界にいないかのように殺気が絶たれている。

 もしや、もうこの世にいないのか……いや、それはないはずだ。針山の殺気は特徴的。襲われたとすれば応戦するときに殺気が出てそのときにわかったはず。そのために、買い出しは少し近めの街に行ってもらった。


 どこかに……どこかにいるはず……


「……いた!!」


 ジャックは検知した僅かな殺気を頼りに走る。

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