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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第五章:成長(ビルド)編

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142頁:臆病さは武器になります

 近い内に少し別の短いシリーズも並行して投稿したいと思います。ストックが少ないのに何やってるのか自分でも疑問ですが、良かったら読んでみてください。

 その『挑戦状』は、ある所では火竜にばらまかれて、またあるところでは脅されて指示を受けたプレイヤーにばらまかれて、またあるところではそれらを受け取り驚いたプレイヤーが他のプレイヤーに見せたことで一気にプレイヤー中に広まった。


『前線の戦闘ギルドは役立たずだ。


 自力でエリアボスを倒すこともできず、新しいエリアに進むこともできない。こんなことでこのデスゲームを攻略できるのか、私達の命を託していいのかは甚だ疑問だ。


 この程度で攻略を掲げて大きな顔をすることが許されるというなら、それは横暴もいいところだ。

 それならいっそ、私達こそが代わりに攻略をしてやろう。強者こそが正義だというなら、今回のエリアボスを倒した我々こそが正義になるだろう。今こそ、攻略の方針を転換し、君達が私達を認め、全面的に協力するべきなのだ。

 私達に協力するなら、今の無能なトップ集団にはない大きな力での確実なゲーム攻略、そして現実世界への帰還を保証する。



 追記。


 前線ギルドの中でも「戦線(フロンティア)」は特に頼りにならない。弱き者を守るどころか自分達のギルドマスターの命すら守れず、ギルドに住み込んでいた生産職の少女も愛想を尽かしてこちらに寝返った。その証拠がこれだ。

 彼女は、私達が新しい「仲間」として丁重に可愛がっている。』


 一緒に張り付けられていたのは、何をされたのかわからないが虚ろな目で『元気にやってます♪』というフリップを持つチイコの写真。

 洞窟系のダンジョンの中のような岩壁の暗い背景に写り込んだ、窓に板が釘打ちされているらしい小屋が犯罪的な印象を引き立てる。その中で何が行われたのか……そして、これから行われるのかを想像すると、とても『元気』とは思えない。



 どう考えても、これは見え見えの挑発だったが、しかしそれがわかっていたところで、我慢できるものではなかった。










《現在 DBO》


 6月21日。


「おい! トップギルドがマスターやられてたってどういう事だ!」

「前のボスを倒したのが『蜘蛛の巣』の奴らだってのは本当なのか!?」

「あんたら本当に私達を守れるのか?」


 『時計の街』に仮設された警備事務所に詰め寄る数百人の一般プレイヤー。

 その様子を向かいの家の屋根の上から見て、ライトは呆れてため息をつく。


「はあ……暴動が起きたな」


 その隣には、OCCの暫定ギルドマスターである少年キングがいる。

 金髪、サングラス、浮ついた派手ながらのシャツとチャラい雰囲気が滲み出る格好をしているが、見た目12か13歳なので妙に背伸びしたがっているだけのように見えて、風貌自体はあまり悪印象ではないが、暴動を見てそれを面白がるような顔をしている辺りは少し性悪に見える。


「ま、あんな煽り方されちゃあ無反応とはいかないだろな。オレ様みたいな無力なプレイヤーとしちゃ、戦闘ギルドが頼りにならないとなると丸裸にされたようなもんだからな」


「他はともかく、おまえは『無力』じゃないだろ。OCCはどうした?」


「おいおい、オレ様は一応サブマスだったから繰り上がってギルマスになっただけで、そんなガラじゃねえぜ? 元々サブマスだったのもただの財布係だっただけだしな。オレ様の言うこと聞いてくれるのなんてマックスと無闇くらいなもんだろ。」


「トップギルド『OCC』は実質崩壊状態ってわけか……それにしちゃ、おまえは元気に見えるけどな。いいのか? ジャッジマンに引きずり込まれただけとはいえ、一応おまえの居場所はあそこだったんだろ?」


 ライトが睨むと、キングは少々不機嫌そうな顔をする。


「ま、売り買いする元手を稼いでくれるギルドがなくなるのは面倒だけどよ。オレ様は別に、居場所がなくなる程度のことで堪えたりしねえの……慣れてるしさ。むしろ、今回は最後まで付き合ってやるつもりなだけマシだと思ってるさ」


「……ま、あのジャッジマンの代わりが務まるやつなんてまずいないか。だが、それはおまえらが問題児だからじゃなくて尖りまくったハイスペックだからだ。ギルドで集まってなくてもそれぞれ単体ですごい能力を持ってる。オレが呼び出した理由、わかってるだろ?」


「はいはい、オレ様の能力(ちから)を借りたいって話だろ。ほら、これが約束の物だ。今回はサービスで無料(タダ)にしてやるぜ」


「サンキュな。ま、タダより高い物はないらしいから若干不安だが、仕事自体は確かなんだろ?」


「ああ、当然だぜ」


 キングは十枚ほどの紙束を差し出す。

 そこには様々なエリアの地図にマークやグラフ、写真などが張りつけてあった。


「写真の背景の岩質や天井の高さ、多少改装はされてるが地方によって微妙に違うダンジョン内の安全エリア休憩所のデザイン、ビラの流通経路、プレイヤーの人口密度とかから割り出した比較的確率の高い場所を十カ所くらい押さえといた。ま、確率としてはそれぞれ10%以下だけどよ。これでいいかい?」


「ああ、問題ない。ここまで絞れれば後はシャークあたりの思考を読めば特定できる。さすがだよ、その『不確実予知』の能力は」


 キングは面白い冗談を聞いたかのように笑う。


「へへ、あんたらみたいな自称『予知能力者』の方が何倍もすごいだろって。オレ様なんか、確実に当たるなんて保証はできねえよ」


 ライトはギラギラとした笑みを返す。


「確証がないかわりに、少ない情報から現状で確率の高い答えを算出できるって能力の方が汎用性があるし便利だろ。むしろ基本に忠実だ。オレ達みたいな特化した分野に慣れたタイプはあんま低い確率だと切り捨てて認識から外れちまうからな。こういう情報が少なすぎるときは助かるよ」


「ま、オレ様としては満足してもらえたならいいけどよ。それでどうだ? 見つけられそうか?」


「ああ、この中ならシャークの好みにピッタリの場所があるが……これは確実に罠だな。遅かれ早かれ特定される前提でアジト作って、チイコを餌に罠にはめる気だろう。あいつオレを過大評価し過ぎなんだよ……ま、危険そうだしとりあえず……」



「『とりあえず他人には秘密で偵察に行ってみる』ってか? そんなの、わかりきってんだよバーカ」



 後ろからかけられた声にライトは振り向く。

 そこにいたのは、戦闘用の燃えるように赤い着流しを着た赤兎。


「……てっきり暴動に巻き込まれないように隠れてるもんかと思ってたが?」


「『なんとなく』、ライトが手掛かりを見つける頃なんじゃないかと思ってな」


「キングに負けず劣らず万能の『第六感』か……ま、見つかった以上は一人で偵察とか無理だろな。どうする? 二人で行くか? なんならキングもついて来るか?」


 冗談めかして言うライトに、キングは苦笑いしながら首を横に振る。


「生憎オレ様はバトルとか苦手だから遠慮するぜ。それに、その席を欲しがってるやつは他にもいるみたいだしな。そいつらに譲ることにするよ、ただし有料でな」


 キングが足下……屋根の下を親指で差す。

 そこには……


「キング……『オレに情報を売る』って情報売ってやがったのか?」


 アレックス、アイコといった最初期からの『戦線(フロンティア)』メンバーが二十人ほど。さらにチイコと親しくしていたヤマメ婆やナビキ、特攻服を着た花火もいる。



「オレ様の商売は『なんでも売る』っつうのがスタイルだからな。他からたんまり稼げたから、ライトにはサービスしといたんだぜ? 文句言うなら金払ってからにしろよ」


「『タダより高い物はない』……まんまその通りだなこりゃ」







 そして、その日の夜。

 キングが目星をつけた場所の一つにて。


『見張りの武装プレイヤーが二人、眠気で警戒は緩め』


 メールによって連絡が交わされる。


 メールを送ったのはアンデット化するオーバー50『地幽霊』で半分地面に潜りながらあるダンジョンの入り口を見張るヤマメ婆。

 それを受け取ったのは、距離を置いた安全地帯に待機する二十人の奇襲部隊。赤兎が刀を布で拭いたり、ナビキが歌に備えてかのど飴を舐めていたり、花火が金属バットで素振りをしていたりと、それぞれがアイテムを確認、整備したり緊張を紛らわしたりして奇襲の準備を整えている。


 キングの挙げた候補の中、ライトが第一候補として目星をつけた場所には、やはり『蜘蛛の巣』のアジトがあった。

 証拠に、数時間ごとに交代する二人の見張りがおり、その中には表立って顔の知られた構成員もいる。


「前線から遠い低レベルの中規模ダンジョンでモンスターの出現率も低め。天然のトラップもさほど難易度は高くない。だが、道が入り組んでて死角が多いし地面や壁の耐久力が低いから加工しやすい。」


 ライトは『攻略本』を作成するときに調べたダンジョン内部の地形や特徴を図解しながら説明する。


「罠を仕掛けやすくて予想外の事態が発生しにくい。シャークが好きそうな居住地(アジト)だよ。おそらく、あいつならこれくらいの戦力で攻め込むことも計算外じゃないだろう」


「随分とシャークを高く買ってるんだな。あの最初のボス戦で誰よりも先に逃げたやつだぜ?」


 『戦線(フロンティア)』の初期からのメンバーがライトの警戒を過剰だと笑うが、ライトは首を横に振る。


「わかってないな……『臆病さ』ってのは戦略を立てる上では強力な武器なんだ。あいつはこの一年で戦術の経験を積みまくってる……主にオレへの嫌がらせのためにだがな。対プレイヤー戦を前提とした戦術ならボス攻略レイドの参謀より上かもしれない。今のあいつなら、罠を張っての防衛戦ともなれば万全の備えをした上で何重にも予備策を用意してるはずだ。ここはそういう基準で選んだときに最高の場所だからな」


 ライトの声色に全員が押し黙る。

 その中には、心の底からの評価と警戒心がにじみ出ていた。


「これはオレの想像だが……シャークの犯罪の動機は『撤退』を選んだ自分を軽蔑したプレイヤー達への復讐だ。その点、ここにいるメンバーは今のボス攻略メンバー……奴にとって自分の指揮官としての実力を見せつけて雪辱を晴らすのにこれ以上ピッタリの相手も他にいないだろう。むしろ、この時のためにあいつは『蜘蛛の巣』の参謀になったのかもしれない」


 最初のエリアボス攻略でピンチになったときに一目散に逃げ出し、他の戦闘職達から軽蔑されるようになってしまったプレイヤーシャーク。

 しかし、彼はそれで戦いから逃げ出すことはしなかった。自分を軽蔑し、見下した者達に反発し、見返すためにその指揮官としての才能を犯罪のために開花させた。


 何度となく、ライトに挑み、負け続けることでライトの致命的な弱点を暴いた。

 犯罪者を狩るプレイヤーを逆に狩る戦術を立てることで、アウトロー達からの信頼を得た。

 臆病であることを武器にあらゆる敗走、失敗を経ても捕まらずに学習を続ける。


 何度負かしても強くなって再挑戦してくる人間の恐ろしさ……ライトはそれを身をもって知っている。


「頼むから油断しないでくれ。こっちも臆病にならないと、シャークの臆病さにはかなわない」




 見張りは二人。

 総勢二十二人の奇襲部隊の前では壁にもならなかった。

 しかし、彼らのそもそもの役割は『壁』ではなかった。


「かかれ!!」


 有無を言わさず、助けを呼ばせないように一斉に飛びかかる隠密行動の上手いメンバー四人。見張りの二人は本当に襲撃があるなどと思っていなかったのかあっさりと取り押さえられ、口を押さえられて助けを呼べないようにされる。

 そして、今回の襲撃の方針は『敵は戦闘不能にして縛って拘束』としていたため、とどめを刺すようなことはせずにその場で地面に組み伏せることとなったが……初撃の成功を確信する奇襲部隊の中、ただ二人、ライトと赤兎だけは『上』を見ていた。


「赤兎!! 『斬れ』!!」

「ライトは『防げ』よ!!」


 二人は示し合わせたように動く。


「オーバー100『ドラゴンズフレア』」

「オーバー50『ツールブランチ』」


 同時に始動する固有技。

 それと同時に、組み伏せられたプレイヤーの腹の下の地面が輝く。しかも、それは導火線のように壁へと導かれてやがて洞窟の入り口の天井へ……


「地雷型の魔法陣!?」


 奇襲をかけたメンバーが叫んだ直後、天井が爆裂しその破片と大量の液体のようなものが仮想重力に従い落ちてくる。


「んりゃあ!!」

「危険物取扱スキル、傘スキル複合技『アンチアシッド』」


 それを赤兎がエネルギーを纏った刀で吹き飛ばし、ライトが散った飛沫を特大の鉄傘で防ぐ。わけが分からないように見張り二人を取り押さえながらじっとしていると、飛沫の付着した壁から妙な音がした。


 ジュッ


「な……強酸? ダンジョンの天井になんでこんなものが……」


「天井と同じ材質の石で作った偽物の岩を天井に張り付けておいたんだろ。この程度、シャークにしてみれば挨拶みたいなもんだ」


 もしライトと赤兎がカバーしていなかったら、酸を浴びていたのは見張りを倒したプレイヤー。しかも、見張り二人も強酸は知らなかったらしく、とてもではないが察知できなかっただろう。


「ん、なんか天井の形が変だと思ったら酸なんて仕込んであったのか。危なかったな」


「シャーク相手ならこの程度で驚いてたらキリがないぜ。ほら、さっさと行こう。今の爆発音で気付かれただろうからな」


 当然のように罠を防ぎ、先に進もうとするライトと赤兎。

 他のメンバーは危険の認識を改める他無かった。




 そして、捕まえた二人を捕虜として道案内をさせながら進むと……


「うわっ!! 矢がいっぱい飛んできた!!」

「全員伏せろ!!」


「ここなんか臭いで?」

「ナビキ! 風魔法で吹き飛ばしてくれ! 毒ガスだ!」


「なんか魔法陣から出てきた玉状の岩が坂から落ちてくるぞ!!」

「アレックス、止めてくれ!」


 出迎える罠の数々。

 それも、見張り二人の知らないものばかり。

 おそらく、見張りを立てたのは外との連絡を円滑にするため。そして、アジトであることをわかりやすくするためであり……捕虜になって『安全であるはずの通路』として道案内したとき、実のところ見張りには知らせていなかった罠へ相手を導くためだったのだろう。捕まった二人を気遣うことのない本気のトラップ群に、奇襲部隊の緊張が高まっていく。


 だが……ライトは事も無げに呟く。


「まだ肝心の『兵隊』が出てこない、自動発動のトラップばっかりだ……本番はこの後だな」










 同刻。


「やあ元気かい? 今キミを連れ戻そうと、キミの知り合いの人達が駆けつけてきているよ。チイコちゃん」


 子供のような口調で、一人の老人が語りかける。


「そんな仲間思いの人達にはサプライズを用意すべきだと思うんだ。こういう展開だと、人質は予想外の登場をした方が面白いだろ? だからさ……」


 老人の脇に控える少年が何かを懐から取り出して見せる。

 それは、指くらい簡単に切断できてしまいそうな大きなハサミ。



「この機に、ちょっとイメチェンしてみないかい?」

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