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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第一章:セットアップ編
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13頁:戦闘中の寝落ちは危険です

 待望 (かもしれない)戦闘パートです。

 スカイとライトは街の中を移動していた。

 店舗も完成し、これからの行動のために必用な資材を買い集めに行くのだ。

 移動速度を優先し、またもライトを支えにしている。つまり、カップルのようにスカイがライトの腕を抱きしめているのだ。


「本当にお二人は仲良しですね」


「あ、イザナちゃん!?」

「あ、イザナちゃん!!」


 ハモった。


 スカイ的には相手がNPCでも恥ずかしいから、見られていたと知って驚いたのだが、ライトはほかの理由で驚いたらしい。


「どうしたの? その格好」


 イザナは前は飾り気のない白いワンピースを着ていたのだが、今は少し意匠の凝らされた刺繍のされた赤いワンピースを着ている。


「お祭りが近いからおめかししてるんです。お二人はやっぱりお祭りは一緒ですか?」


 ライトがよく周りを観察すると、他のNPCの服装も少し高級になっている気がする。


「お祭りって何のお祭り?」


「魔女様をお祀りするお祭りです。毎回すごいお祭り騒ぎになる楽しいお祀りのお祭りなんですよ」


 『おまつり』が多すぎてわけがわからない。


「……『まつり』がすごいことだけは伝わったわ。でも、『魔女様』ってなんなの?」


 スカイの質問にイザナは胸をはって答える。


「そんなことも知らないんですか? 魔女様は魔物を追い返す結界を作ってこの街を作ったんですよ」


 結界とは安全エリアの設定だろうか。


 ストーリー上とても重要なことを聞いた気がする。この街の安全エリアが消えるというのは、その魔女の結界に異常が発生するということだろうか。


 そうだとすれば、襲撃イベント自体も防げる可能性があるかもしれない。


 スカイはイザナに優しく尋ねた。


「そのお祭りっていつやるの?」


 イザナは時計台を指差して笑顔で答えた。


「あの長い針が真下を指す頃です」










《現在 DBO》


 襲いかかってくる巨大なネズミ型モンスター。


 ライトはそれを避けて、その首に正確な剣戟を加える。そして、ネズミのHPがなくなったのを確認して、ライトは叫ぶ。


「〖オリジンマウス LV6〗、《原始の肉》《キーンファング》、56bだ!!」

「わかった!!」


 スカイはライトの報告を聞き、手許の『帳簿』にそれを書き留める。


 ライトは手慣れた動きでポケットから汚れた布切れを取り出し、血を拭うように剣を拭く。


 ライトとスカイは10mほど離れた場所にいる。


 スカイは高さ1m以上の台状の岩の上、ライトは草村に近い密度で雑草が生える地面に立っている。そして、ライトの周りの地面にはライトを囲むように弓、槍、棍棒、ナイフが置かれている。


 ライトが布切れをポケットに仕舞うと、スカイが遠くを指差して叫ぶ。


「西からキノコ一体!!」


 ライトもそちらを目視して叫び返す。


「確認!! 23秒後に接敵!!」


 そう叫ぶと、ライトは剣を捨て、地面に置かれた棍棒を手に取る。


「目標〖マッシュボム LV8〗、戦闘開始!!」


 ここは街の中ではない。

 モンスターが現れて命を脅かす場所。


 戦場フィールド)なのだ。



 店舗が完成した後、次にしなけれなばならなかったことは商品の確保であった。


 だが、商品は街の中で購入出来るものでは意味はない。そこで、フィールドに出てモンスターを狩ることになった。


 しかし、本来は戦うどころか逃げることも難しいスカイもここにいる。これはかなり危険なことだ。


 時計の街の周囲のフィールドには今スカイが乗っているのと同じような岩や、上りやすい木がある。これらはここいらのモンスターが登れない形になっていて、『疑似安全エリア』とも呼べるものとして重宝されている。


 なぜスカイがこんな危険区域にいるかと言えば、目的の一つに『補給』が挙げられる。


 このゲームはスキルが上達すれば新しい派生技能が発現することがある。スカイの『商売スキル LV109』には持てるアイテムの最大量が増える『収納術』と、ライトが店の倉庫を作ったことで使用可能になった『在庫整理』という派生技能がある。

 『在庫整理』は倉庫の持ち主であるスカイ限定だが、遠隔で倉庫のアイテムや金を出し入れでき、しかも一定範囲内のプレイヤーにそのアイテムを送ることが出来る。


 つまり、スカイは増加した自身のストレージに加えて、倉庫まで含めた大容量のアイテム受容量を持つのだ。


 さらに、ライトとスカイはそれぞれ新たに『武器整備スキル』『筆記スキル』を習得した。お互いが一度クリアしたクエストなので協力すればかなり速くクリアできた。

(『武器整備スキル』は『一定数の客が武器を買う』というクリア条件があったので、スカイが必要回数に分けて武器を購入した)


 『武器整備スキル』でこまめに武器を磨けば、武器の耐久力は落ちにくくなり、毎回微量に回復する。

 さらに、手に入れたアイテムはスカイを通して倉庫に入れ、代わりに回復アイテムと交換できる。


 これにより、ライトとスカイは街に補給しに戻らずに最大効率で狩りを続けられるようになった。


 もちろん、スカイも遊んでいるわけではない。今も開店に必要な計画書や帳簿を書き、その合間にライトの発注した『設計図』も描いている。


 正直、かなり無茶なスケジュールで計画を進めているのだ。


 これも、徹夜明けで何時間も戦い続けられるライトの異常な集中力、持続力が無ければ成立しない。


 だが、スカイの目から見てライトの戦い方は非常に安定している。なにせ、もう2時間は戦っているが、まともにモンスターの攻撃を受けていない。


 今は大体三時半くらいだろうか。

 日射しもピークを過ぎて今は心地いい。ライトは今もあの安っぽい帽子を被っているが、ピークを過ぎた今なら眩しくはないだろう。


 なんであんな視界の暗くなるような帽子をしているのだろう。


 本当は寝ながら戦っているのではないか?


 思えば、ライトもスカイも徹夜で働いていたのだ。ここは、ライトに社長命令で仮眠を申告するべきかもしれない。


 今度は、イザナの家の固めのベッドを『半分こ』して……







 ライトの目の前に更に二体のモンスターが現れた。


 一体は金属質の光沢を放つ外皮を纏った体長1mほどの芋虫〖ヘビーメタルワーム LV9〗。刃物が通りにくく打撃武器で戦った方がいいモンスター。


 もう一体は鼻で石を掴んで投石してくる子象モンスター〖ツールエレファント LV7〗。ここら辺の低レベルモンスターの中で唯一遠距離攻撃をして来るモンスター。出てくる確率は低いが、HPが高く、煉瓦サイズの石を投げてくるので他のモンスターより比較的手強い。


「〖ヘビーメタルワーム LV9〗、〖ツールエレファント LV7〗、接近!!」


 ライトは叫んでスカイに報告する。スカイからは報告を確認したという返事があるはずなのだが……


 返事がない。


「どうした!! スカイ!!」


 まだ10mほど離れたところから〖ツールエレファント〗が石を投げてきた。ライトはそれを手に持っていた槍の石突きで弾き飛ばす。


 モンスターは二体とも移動が遅いタイプだ。〖ツールエレファント〗の投石も次の石を拾うまで時間がかかる。


 そして、槍を捨てて急いでスカイのもとに駆け寄った。


 スカイは岩に元からあった段差に座っていた。ついさっきまでは岩の比較的平らで水平に近い部分を机代わりにして、様々な書類を書いていた。


 しかし今、スカイは机代わりの岩に突っ伏している。


 そっと頭を撫でるように、表情が見える方向に顔を向けさせると……


「zzzzzz」


 幸せそうに寝ている。

 寝落ちしている。


 まあ、よく考えれば驚くことではない。昨日から徹夜なのはスカイも同じだ。しかも、戦っているライトと違ってスカイは心地の良い日差しの中、座って書き物をしていたのだ。

 眠くならない方がおかしい。


「なにも、こんな寝づらいところで寝なくていいのに」


 こんな限界まで頑張ってくれたスカイを揺り起こすなんて発想はなかった。


 だが、ここはフィールド。

 モンスターは関係なく出てくる。


 ライトの背後でうなり声がした。


 初心者のための親切設定なのかもしれないが、プレイヤーが無視しているとモンスターはうなり声で存在を教えてくれる。


 だが、今のライトにはそんなのは大きなお世話だった。


 地面に落としてあったナイフを手に取り、暗殺者をイメージして逆手で構える。


 ライトのレベルはクエストや生産系スキルのボーナス、そして戦闘の経験値で13まで上がっている。ライトは知らないことだが、これは攻略最前線でも通用するレベルだ。


 だが、それでも気は抜けない。

 複数のモンスターを相手に倒れたところを袋叩きにされて死んでいるプレイヤーもいる。


 だが、ライトは静かに笑みを浮かべて自分を狙うモンスターに呼びかける。


「静かにしてくれ。スカイが起きるだろ?」









 夢を見た。

 夢の中では、足どころか指一本すら動かなくて、仮に動いたとしても絶対に出られない鉄の部屋に入っていた。


 すぐに理解できた。

 ここは牢屋なのだと。


 投獄される心当たりならあるが、捕まるようなへまをした心当たりはない。


 だから、直接看守に尋ねた。

「私、なんでここにいるの?」


 看守はあっさりと答えてくれた。

「自分で入って来たんだろ?」







「ぅぅ……がう!!」

「え、うわ!!」


 スカイは獣の鳴き声で目が覚めた。

 しかし、目を開けても周りがよく見えない。


「がう!!」

「きゃ!!」


 驚いて声の方を見る。するとそこには赤く光る二つの光点があった。


 慌てて離れようとするが……


「スカイ、動くな!!」


 呼び止められて動きが止まる。だが、その間にも二つの光点はスカイに襲いかかろうと接近して来て……


「『インビジブルバインド』!!」


 見えない力に引っ張られるように横に吹っ飛んだ。さらに


「『インビジブルカッター』!!」


 光点の周りで僅かに光の線が走った直後、光点は光を失い、何かが立て続けに落下した音がした。


「大丈夫か?」


 声をかけてくる人物に、スカイは安堵する。

 自分の大事な仕事仲間だ。暗くともわかる。


「おかげさまでね、ライト」



 どうやら、スカイは仕事中に寝てしまったらしい。そう認識して、すぐスカイは言うべきことを言った。


「ライトは寝てないのに、私だけ寝ちゃってごめんなさい」


 ライトはおそらく丸三日まともに寝ていない。それを、最初にベッドを使わせてもらった自分ばかり居眠りとは、上司としての面子が立たない。


 だが、ライトはそんなことを怒っている様子はない。というより、何か別のことでそれどころではないように見える。


「どうしたの?」


 ライトは少し悩んだ後、スカイに問いかけた。



「スカイって歩けないんだよな……走れるか?」

「何言ってんのよ。歩けないのに走れるわけないじゃない、答えが『自動車』の頓知?」


「自動車があったら楽なんだけどな……」


 段々目が慣れてきた。

 どうやら、もう夜になってしまったらしい。僅かに仮想の星空と、遠くで燃える焚き火が光源となっている。


 いや、それだけではない。

 遠くに先程の赤い光点によく似た光点が複数、他にも青や緑、黄色の光点も複数あり、一つ一つは小さな光源だが集まっているのではっきり認識できる。


 しかも、それは一方向からではなく、複数方向から段々近づいているように見える。


「あれって……まさか……」


「色的に〖ワイルドパピー〗〖ドワーフエイプ〗〖バックスコーピオン〗〖スラッシュマッシュ〗だな。レベルはここからじゃわからないけど」


「待って!! あの光全部モンスターの目!? 囲まれてるの!?」


 本当に面子どころの話じゃない。

 今は完璧に命の危機に直面している場面だ。


 今も着々と生存率が下がり続けている。


 それにしても、どうしてこんなにもモンスターが集まってきてるのだろうか?


「迂闊だったな……動物避けに焚き火は効果あるらしいが、そういえば人喰いだと効果ないんだよな。むしろ集まって来てる」

「『迂闊だった』じゃ済まないでしょ!!」


 食べるかどうかは知らないが、モンスターは大抵人を襲うタイプだろう。


「どうするのよ……あれ全部倒せる?」


 スカイは駄目元で聞いてみた。しかし、ライトの返事は意外に見通しの明るい答えだった。


「今のオレのレベルは17。装備もほぼフル装備だし、スカイが起きたなら回復アイテムも使える。EPは心許ないがなんとか全部倒すことは出来ると思う」

「じゃあ」

「だが、スカイを守りながらだと難しいな」


 ライトはスカイの寝ていた岩を見て言った。


「どうやら、夜行性のモンスターの中にはこの程度の岩くらい登れる奴がいるらしい。さっき同じくらいの岩を〖ワイルドパピー〗が登ってた」


 つまり、夜にはこの疑似安全エリアは安全エリアとして機能しなくなる。


「なんで、こんなになるまで起こしてくれなかったのよ」

「オレ一人でもなんとか倒せると思ってたんだ!! だがな、まさか岩を登れるモンスターが出てくるとは思わなかったんだよ!!」


 言い争ってる場合じゃない。

 逃げるには早いに越したことはないだろう。しかし、スカイの移動速度では確実に囲まれる。ライトに掴まって少しばかり速く移動できても結果は同じだろう。


 だが、ライトだけなら高確率で生き残れる。

 もし、ライトが今からスカイを置いて全力で走って逃げればスカイには追いつけない。


「ライト……」


 ライトは何も言わない。

 ただ、沈黙している。


 言い出せないのかもしれない。スカイを置いて逃げるなんて選択肢は。


「うーん、駄目だな。ここらには『木』はない。木だったら登って朝までやり過ごす手もあるんだけどな……」


 ここは街の西側で街から結構な距離がある。都合の悪いことに、以前の襲撃でなぎ倒された設定なのかもしれないが、こちら側は木が少ないのだ。


 もう、時間もない。


 だが……


「ライト、私も戦うわ。私が自分の身を自分で守れればいけるんでしょ?」


「……戦えるのか?」


 スカイはこの状況でギラギラとした笑みを浮かべて答えた。


「見せてやるわよ。『商売スキル』の奥の手……戦闘応用技を」







 同刻。


 『時計の街』をフラフラと歩くプレイヤーがいた。高校生くらいの少女で、髪を一つの三つ編みにまとめている。


 その目には生気が無く、何かを呟きながら歩いている。


 誰も彼女を呼び止めようとはしない。そんな余裕のあるプレイヤーなんてほとんどいないし、同じような状態のプレイヤーは珍しくない。


 だから、その口から漏れ出るもはや声と呼ぶべきかわからない音が、名前を紡いでいるのに気付く者はいなかった。


「ミユ…キ…マ…キ……セン……パイ」

さあ、うっかり寝落ちして起きたら絶対絶命。二人は無事生きて帰れるのでしょうか。(棒読み)

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