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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第一章:セットアップ編

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12頁:プレイヤーは協力し合いましょう

ストックが大量になってしまったので、来週からは月曜にも投稿します。

 空気感染フライングデビル)

 誰にも見つからず侵入し、感知されずにウイルスを送り込み、被害しょうじょう)が出てから感染源を探しても特定出来ない。


 姿なき悪魔。

 不可視の恐怖。

 インビジブルハッカー。


 一部のプロハッカーに被害者の投資家が賞金を出して足取りを掴もうとしたこともあったが、逆に賞金を持って行かれた。


 誰にも見つからず、誰からも縛られず、自由自在にどこにでも入り込む。まさに無色透明の空気を介して侵入するウイルスの如し。


 しかし、そんなのは他人の決めた評価だ。

 自由自在なんて勝手な想像だ。


「こんな1LDKのマンションからも逃げられないのに、どこが自由なんだろう」


 安いマンションの一室でそう呟いても誰も返事をしてはくれない。


「透明か……全く、そこだけはよく言えてるわね」


 私がここにいることを知る人間はほとんど皆無。

 知ったところで関わり合いたくないだろう。


 私はただ、ここで金を集めるだけ。合法、犯罪の区別の仕方なんてだいぶ前に忘れた。


 ネット上で何でも出来たって、物理的な行動制限は変わらない。


 一つだけ手があるとすれば、やはり金を集めるしかないのだろう。それも、一生かけても届かないような大金をだ。


 だから私はウイルスをバラまき、その手掛かりを探す。そうすればきっと、たちの悪い冗談みたいなチャンスを見つけられると信じて。


「そのためなら、人間だってやめてやるわよ」






《現在 DBO》


「全……滅? それは数日中に襲撃イベントがあるっていうこと? でも、それなら対策の立てようもあるし、悪くても壊滅くらいで……」


「『幸運に恵まれて』も壊滅だ。まあ、この町に残ってるのは5000人超って辺りか? その内の数十人が生き残ったくらいでも壊滅って言うならさっきの『全滅』も壊滅なんだろうけど」


「……もし、その話が本当だとして防げるものなの?」


 ライトの声には適当さは混じっていない。被害はライトなりの計算で出した正確な数値なのだろう。だが、仮に本当にそんな大惨事が起きるとしたら一人二人で止められるようには思えない。


 だが、ライトは自信を持った声で答える。


「オレじゃ無理だな」

「無理なの!?」

「だが、スカイならできると思うんだ。というか、スカイは一度やってる……ゲーム初日と同じことをやってほしい。今度はバイトなんかじゃなく『自分の店』で」





 ライトはやっとLV50に届いた『木工スキル』で『店』となる家屋を修理しながら話す。家の横に馬小屋の骨組みだったものを発見したため、そちらは倉庫および工房に改造するのだ。


「まず第一の条件として、オレ達は最初の襲撃イベントをなんとしても回避して先送りにしなければならない。これに失敗すれば全滅ルートは避けられない」


「最初? まるで何回も襲撃があるみたいな口ぶりだけど」


「あるよ。少なくともゲーム中10回」


 ライトの声に嘘偽りは混じっていない。


「……あの時計台の文字盤? あれが新しい時間を指すごとに襲撃が来るってNPCが言ってたの?」


 ライトはスカイの見ていないところでたくさんのクエストを受け、たくさんのNPCと会話している。そんな情報が入るかもしれない。

 だが、ライトは首を横に振る。


「いや、イザナちゃんを含めて誰も時計台と襲撃を結び付けて話してたNPCはいなかった。だから、これはオレの推測に基づく勝手な危機意識だ。だが、オレはこの推測が正しいと確信してる。そうじゃなきゃ、わざわざ7200なんて数を合わせる必要はない」


 スカイは証拠のない推理にいきなり驚かされるが、ライトの声が確信を持っているのでそのまま聞く。


「第二に……方々に散った戦闘職のプレイヤーをもう一度この町に戻って来させる。定住しなくてもいいが、目的を持ってここに来るくらいには意識を引っ張りたい」


「ゲーム攻略の妨げになるんじゃない? 戦える人たちがいち早く、より深い場所まで攻略してくれた方がゲームは早くクリアできるでしょ?」


「その方法だとこの先厳しい。このゲームは強いだけでクリアできる仕様じゃないみたいだからな」


 ライトは道具を持ち替えて作業を続ける。

 スカイは朝食を食べながら休憩中だ。


「第三に、いま『脇役』に甘んじてるやる気のないプレイヤー達を舞台のよく見えるところまで引きずり出すぞ。あいつらはこのままじゃただの穀潰しだが、うまく働けばいい戦力になる。」


「街で座り込んでる人達ね……」


 この街に残っているプレイヤーは大きく分けて三つのタイプに分けられる。


 一つは街から離れず、レベルの低い場所で安全な狩りを続けるタイプ。次の町の情報を待って様子見している側面もあり、徐々に街から流出している。


 二つ目は街の中でクエストをして金を稼ぐタイプ。ライトとスカイは今の所このタイプに属するだろう。


 そして、圧倒的に多いのが何もせず助けを待っているタイプだ。初期の所持金を削りながら宿や食事を維持している。


 この街に約5000人いるとして、狩りをするのが多くても500人、クエストをするのも多くて500人、そして、残りの4000人以上が何もせず、絶望に沈んでいる。


「『ある程度経験値を手に入れて安全なレベルになったら次の町に行こう』って流れが出来てるのよね。だから少しでも動けそうな人はどんどん街から出て行く」


「それ以上に最初の段階でやる気や自信のあるプレイヤーはさっさとパーティー組んで先行っちゃったからな。ここに残ったプレイヤーのほとんどは必然的にネガティブなヤツだけになる。そして、空気が悪いから少しでも動けるヤツも出て行きたくなる。悪循環だな」


 足の悪いスカイのように意志があっても移動出来ない者は稀なのだ。


「でも、戦えない人は下手に動かさずに安全圏にいてくれた方がいいかもしれないわよ? 現に、初日と昨日じゃ死亡率激減してるし、これなら襲撃まで大分余裕があるんじゃない?」


 1日目は慣れないプレイヤーが普通のゲームと同じ感覚でフィールドに出たり、夜になっていきなり出てきた夜行性の凶暴なモンスターにやられたりしたが、その噂が広まりプレイヤー達はかなりの警戒心を持ってフィールドに出るようになっている。当然死者数もかなり減った。


 だが、ライトはそんな現状を否定する。


「だが、ゲーム開始から一週間もすれば、街の中で大量の死者が出る。それまでに、何とかしないといけない」



 ライトは、手を止めず語る。


「まず、確認したい。一昨日、オレがスカイと始めて会ったとき、『イージーシリーズ』はどんな状態だった?」


 あの時、初心者用武器は売り切れていた。だからライトは困ったのだ。


「そう。売り切れていた。あ、別に社長へのあてつけじゃない。え? 鈍くさいオレが悪い? ……そうか。だが、オレ的には完売なんて出来てしまうような設定にした運営が悪いと思う。え? いや、別に言い訳したいわけじゃない。本筋に関係する話だ」


 ライトはスカイに問いかける。


「大事なのはオレが『金はあるのに買えない』って状態になったことだ。ところで社長、バイトしてたらお客側じゃ見れない数値とかあっただろ? 何があった?」


 スカイは思い出す。

 アイテムの売り値、買値、そして……


「『在庫数』があっただろ? オレもパン屋で少しバイトしてみたが全ての商品にあった。あ、ちなみにクエストは途中でやめたけどな。時間がかかりそうだし」


 店番の類は一定数のお客が物を買っていかなければクリアできない。ライトはその時間が惜しかったらしい。


「これが一番大事なこと。このゲームではNPCショップの商品ですら『有限』なんだ。毎日補充されるらしいが、それでも十分じゃない。見て回った限りでは、この街のプレイヤー全員が食べて行くにはギリギリなんだ」


 スカイは初日の夜を思い出す。

 宿がなく、路頭に迷うプレイヤー達。それと同じ状況が食料面でも起こる?


「ちなみに、社長は朝ご飯を食べてるけど、なんで食べてるんだ? お金の無駄じゃないのか?」


 無駄ではない。

 ゲーム内では時間が経てば空腹を感じるのだ。


 それに……


「メニューの中のチュートリアルによるとこのゲームには『餓死』が設定されてる。活動の度合いにも寄るが、三日何も食べなければ街の中だろうとHPに関わらずゲームオーバーになる。そして、今すでにその兆候が出始めているプレイヤーもいる」


 ゲーム開始から三日目。時間は気付けば10時前後。ゲーム開始から丸二日以上が経過している。空腹は感じるからうっかり餓死することはないだろうが、食料が手に入らなければ餓死もあり得る。


「商品が売り切れた店で聞いたらこう言ってた。『お客が多くて備蓄がもうない。』ってな。プレイヤーが食材を売りにくれば作る量も増えるらしいが、今はこの街で食材を売るプレイヤーなんてほとんどいない」


 街の近くで狩りをするプレイヤーはある程度育ったら次の町へ行ってしまう。多少は食料を売ることがあったとしても、すぐにこの街を離れてしまう。場合によってはその時食料を持って行く。


「しかも、戦闘では『EP』ってゲージを使うんだが、これは食べ物を食べて回復する。だから、戦闘職は食べ物をストックしておきたいはずだし、売りよりも買いの方が確実に多い。結果として、この街の食料は減る一方だ。三日で一気に死ぬ訳じゃないだろうが、だいたい一週間で限界に達すると思う」


 そこはただの目算なのだろうが、そのくらいを見ておいた方が良いだろう。餓死者が出てこの事実にプレイヤーが気付き始めたとき、一気に『買い占め』が始まる可能性も高い。


「しかも、問題はそれで死者数が600を越えたとき、この街には飢えた虚弱な難民達しかいないってことだ。そうなれば、すぐに襲撃での犠牲者は600を越えるだろう」


 本当にそうなれば後は負の連鎖だ。被害者が次の襲撃イベントの呼び水になってさらに強力な敵が来たら、その流れは全滅するまで止まらない。


「もちろん、襲撃イベントは同時には起こらない仕様かもしれないし、案外数十人で対処できる敵かもしれない。だが、オレはこのゲームがそんな易しいとは思えない」


 この時点でここまで予測できるプレイヤーは他にはいないだろう。いたとしても、どうにも出来ない。


 だが、ライトは諦めてこの街を捨てて逃げようなんて欠片も思っていない。


「だから、オレがその最悪のシナリオを書き換えてやる。協力してくれとは言わない。スカイが次の町に逃げたいなら其処までの護衛もする。だが、出来ればスカイの店に協力させてほしい」


 スカイはライトに問いかけた。


「私が店を作ることがその全滅ルートの回避に繋がるって言いたいの? 風が吹けば桶屋が儲かるみたいな話ね」


「スカイの店が繁盛して有名になってくれれば、攻略に行ったプレイヤー達がこの街に戻って食料をうるようになれば餓死者は減らせる。それに、この街のことを意識してもらえば襲撃の時、防衛戦をお願いできる」


「つまり、こういうこと? 後たったの五日で店をこの街の名物にして街興ししろってことなの? 出来ると思う?」


 五日どころか一ヶ月あっても難題だろう。しかし、ライトは自信を持って答える。


「ゲーム開始から五時間で10000の武器を売ったんだ。スカイならできるし、スカイ以外には出来ない」


「あの時は需要が凄いタイミングに乗っかっただけよ」


「『無ければ作ればいい』そうだろ? むしろ、今度の方が簡単だ。なにせ、スカイはすでにほとんどのプレイヤーと顔見知りで、今度は商品も宣伝も自由な自分の店だ」


 ライトは本気だ。

 本気でスカイならこの登場人物7000人の物語のシナリオを変えられると思っている。


 スカイは懊悩する。


 確かに、これはビジネス的にも大きなチャンスだ。この飢えた街に外からの食料を仲介出来ればその宣伝効果と利益は計り知れない。


 だが、それは時限爆弾を時間ぎりぎりまで解除し続けて英雄になるのに等しい。いざ最悪の事態になればスカイは逃げられない。



 次の町で店をやってもいい。

 別に主力がいなくなるわけじゃない。ゲームクリアは可能だ。


 生きてこそのものだね。

 死の危険を犯す必要はない。


 だが……


「ここで目の前の物に目が眩むのよね。ホント、私って欲張りね」


 スカイの『強欲』は目の前の物を選んだ。


 スキルを修得するために壁づたいに駆けずり回った『時計の街』。せっかく完成間近の自分の店。磨けば光る可能性のあるプレイヤー達。そして……


「勘違いしないでよね。私は見知らぬ他人のためなんかじゃなくて、自分の夢のためにやるんだから」


 ああ、本当にツンデレの真似事なんて似合わない。


 夢なんて相手に伝わるわけがない。


 仕事仲間と仕事をする。

 そんなくだらない夢、超能力でもなきゃ伝わらない。












 仮想の太陽が頭の真上にくる頃。


「よっしゃっ、完成!!」

「ホントに半日で全部作ったのね」


 二人の目の前には一軒の家屋がある。しかし、馬小屋を改造して部屋を作り、室内には商品棚、カウンターなどが揃っている。


 ここは、もはや廃墟ではない。

 システム的にも公式に認められたスカイのプレイヤーショップだ。


 まだ商品はほとんどない。看板も出していない。

 しかし、それはこれから揃える。


「さて、じゃあ早速この街を救うために商品を棚いっぱいに揃えましょうか。でも、攻略で次の町に行ってる人まで目を引くものって何かしらね? 散々私を煽っといて、何も案が無い訳じゃないわよね?」


 スカイは意地悪な笑みを浮かべて横目にライトを見る。


 だが、ライトはそれにスカイそっくりのギラギラした笑みを返す。


「いいが、これはアイデア料として最初の契約とは別におこぼれ貰うぜ?」


 そう言って、ライトはメニューを操作し、スカイに『企画書』というタイトルのメールを送る。


 届いたメールを読んだスカイは驚きで目を見開いた。


「な、本気なの!? 今からこんな物作ろうとしたらとんでもない仕事量になるわよ!!」


 だが、ライトは止まる気配を見せない。


 この『切り札』こそ、ライトが運営のシナリオも、バラバラに動き回るプレイヤーも、全ての状況をひっくり返す改心の一手。


「設計図の方は任せた。さあ、これで街の外の主人公気取りの薄情者も、やる気のない脇役共も、全部巻き込むぞ!!」

バトル展開もその内出すつもりです。

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