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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第五章:成長(ビルド)編

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122頁:通り魔に気をつけましょう

『自爆』

 自爆する秘伝技。

 オンオフ切り替え可能だが、基本的に常時発動。

 発動中に使用者が死亡するとレベルに応じた大爆発が発生し、周囲に大ダメージを与える。(同レベルプレイヤーが巻き込まれれば高確率で死ぬ威力)

 また、派生の能力として大ダメージを受けたときにHPを削って小規模な爆発で威力を殺す『バックドラフト』がある。


 強力ではあるが、使用者が死ぬというリスクがある上、パーティープレイ中に発動すると敵だけでなく味方も巻き込まれてしまう危険があり、修得する者は少ない。


 修得には地雷原や爆雷、誘爆ガスなどが無数に配置されたコースを通り抜けなければならず、一歩間違えば爆発の連鎖で死ぬ可能性がある。

 

 6月1日。


 この日は後に『悪夢の6月』と呼ばれることになる事件の始まりとしてプレイヤー達に記憶されることになる。


 デスゲーム開始から一年目の騒乱。

 戦闘職、生産職、前線ギルド、中小ギルド……そしてゲームの攻略に異を唱える『犯罪者』と呼ばれるプレイヤー達。


 歴史を見ても、人は一つになれない。


 この世から犯罪や争いがなくならない理由は、掃いて捨てるほどある。

 思想の違い、貧困、利益、誇り、反抗……


 デスゲームという状況でも、それは変わらない。

 マクロな視点で見れば攻略に向かっているプレイヤー達も、ミクロに見れば皆個人として生きている。それぞれに自分が戦う理由があり、それが必ずしも同じ方向を向くとは限らないのだ。


 それは小さな川を流れる水の流れのようなもの。

 同じ方向へ流れているように見えても、石があれば曲がり、行き止まれば渦を巻き、時にはぶつかり合って砕け、そして自らも石を運ぶ。

 そして……もし、川がせき止められるほどの障害があれば……流れが止まる。


 それは自然の流れを変えてしまう行為。

 摂理に抗う行為だ。

 しかし……それを遥か昔からやってきたのが、人間という生き物なのだ。



 しかし、1日目の時点でそれを意識したのは……6月の争乱を予知したのは、まだ一人。

 

「あ……流れが、止まりそうですね」


 『飛角妃』にそう呟いた運営者の幼い少女だけだった。









《現在 DBO》


 6月1日夜。


「死者0名、負傷者11名、誘拐されたプレイヤーや逃亡したプレイヤーはなく、犯人11人は既に拘束済みです。」


 事件後すぐさま走り回って情報を整理したホタルによってスカイに報告された『第二報』がそれだった。


「……あれ? もう拘束済みって仕事早すぎない? てっきりこれから大捕り物になるかと思ってたんだけど……間違いないの?」


 スカイの訝しむような質問に、ホタルは首を縦に振る。

 何らかの事情があって虚偽の報告をするにしても、もう少し現実味のある報告が上がって来るだろう。犯人が抵抗して怪我人が出たとか、逃亡したのを捕まえたとか。


 つまり……本当にあっさりと、犯人たちは捕まったのだ。


「あっさりし過ぎてて不気味ね……その後、捕まえた犯人たちはどうしてるの?」


「通行人に一撃だけ攻撃してダメージを与えた後、全員もれなく手を挙げて投降。『指導室』の戦闘職員が捕まえて無抵抗のまま所持品を没収し、今は地下の牢獄に収容しています。万が一の場合に備えてメニュー画面を触れないように指枷をつけて見張りを配置してますが、何かをする様子もなく黙秘を続けています。」


 『指枷』とは、拘束したプレイヤーがメニュー画面を呼び出して武器やスキルを使うのを防ぐため、『大空商店街』で犯罪者を取り締まり、捕まえて隔離するための治安組織『指導室』が発明した拘束具だ。指を入れる穴のついた手のひら大の筒のような形状をしていて、穴に指を通して中に速効で固まる接着剤のようなもの(外すには『大空商店街』で管理している特殊な薬品を注入する必要がある)を入れると筒を握り込んだまま指の自由が利かなくなる。このような形状になっているのはグローブ型などだと壁にぶつけるなりして耐久力を削って破壊される可能性があるため、外に拘束具本体が出ないようにするためだ。手はグーのままだが、僅かに隙間を作ってスプーンなどを持つこともできるので食事などの動作は不都合なく行えるが、武器を持つことはできない。拳でなら戦えるだろうが、そのような危険があるプレイヤーには手枷と併用するような措置が取られている。


 地味ながら強力な束縛と見張り。

 捕まった者達には何もできない……はずだが……


「でも、明らかに『捕まるのを前提にした犯行』って感じなのよね~。諦めたとかじゃなくって、計算通りに事が運んでるみたいな……ホタル、一般プレイヤーへの影響はどうなの?」


 スカイは調べるように指示していなかった情報を聞いたが、ホタルはすぐさま答える。ホタルなら言われなくても調べているだろうと分かってのスムーズな会話だった。


「もうかなり情報が広まってます。直接攻撃されたプレイヤーは数値的なダメージより精神的な驚きの方が大きいようで、ギルドのチャットも情報が飛び交ってすごいことになってます。とりあえず『犯人は全て確保』とメールを回しましたけど、やっぱり犯人より『街中でのダメージ発生』ってこと自体が衝撃的なようで」


「ま、それもそうよね。『殺人鬼』って例外もあるけど、基本的にHP保護は絶対だったからね。しかも、『殺人鬼』の称号とは違って確実に複数人が同時にそれを行使できる。そんなスキルなり武器なり技なりがあるってわかっただけでも、相当な衝撃よね……明日には食料品とかを買い込んで対策が取られるまで宿にでも籠ろうとする人が増えるんじゃないかしら。それが続けば……ちょっとした恐慌かもね」


 サラリと恐慌に発展する可能性を指摘するスカイ。

 しかし、スカイ自身はそれを恐れている様子はない。


 まるで、『今は恐慌程度に気を取られてる暇はない』とでもいうような、先を読もうとする目だ。


「……スカイさん、やっぱり今回の事件って……」


「……ホタル、わかってるわ。『蜘蛛の巣』が、本格的に動き出したみたいね」


 『蜘蛛の巣』。

 他のプレイヤーからの搾取や強奪、場合によっては殺人まで行う『犯罪者』の集まった犯罪組織。

 狙いやすいプレイヤーや警戒すべきプレイヤー、犯罪のノウハウなどを共有しているが組織としての結束力は低く、それが逆に芋づる式に犯罪者を捕まえたりといったことを防いでいる。内部がパーティー単位に分かれていて組織としての団結力はないので今まで大規模な犯罪を起こすことはなく、せいぜい一つか二つのパーティーで中級戦闘職の狩りパーティーを襲う程度までだったが……既に11人が関与していて、しかもまだまだ先がありそうに見える。

 それに、ここ三か月ほどは『蜘蛛の巣』の動きに不可解なものが多い。

 単純な強奪や恐喝が減って、代わりに『蜘蛛の巣』が関わっていると思われる攻略の妨害や特定クエストの独占が増えている。


「まあ、ここ最近の動きからして何かを準備してるっぽかったからこっちも対抗策を考えて準備はしてたけど……正直、想定外のことも想定しなきゃいけないかもね。ほとんど地形に近い扱いのNPCショップを破壊するようなのがいるなんてね……どう考えても『蜘蛛の巣』が絡んでる。なんで顔見せだけしてすぐ消えたのかはわからないけど、不安定な戦力なのかしら」


 スカイが警戒しているのは、『同時多発傷害事件』ではなく、その直前に裏で起こった『ライトとナビのデートへの襲撃事件』。

 こちらは目撃者も少なくその直後の傷害事件の方が話題になったので一般にはまだ知られていないが、スカイはこちらの方を重く見ている。


 ホタルを呼び出したもう一つの目的は、その『巨大な怪物』を直接見たホタルから詳しい話を聞くため。


「で……メールに書いてあったことは確かなの?」


「はい、見えたのは一部分だけでしたけど……間違いありません」


 ホタルは重々しく言った。



「色が肌色一色で見えにくかったけど、あのプレイヤーの体の表面には縫い目が……『ツギハギ』がありました」







 6月2日。朝。


「で、オレ達には傷害事件の方の調査を任せるわけか」


 『大空商社』に呼び出されたライトと、それに同伴してきたナビキは話を聞いて自分たちの役割を知る。


「そう、謎の巨大未確認生物(UMA)については心当たりのある私達が独自に捜査するわ。ライトには捕まえた傷害犯達の方を調べてもらいたいのよ。嘘を見破ったりとかは得意分野でしょ?」


「喋らせるだけならマリーも得意そうだけどな」


「マリーはパニック防止と被害者のカウンセリング。と言っても、これは私が頼んだわけじゃなくてマリーが勝手にやってるんだけどね~。ま、あっちはあっちで被害者から詳しく話聞いてくれてるみたいだし、ライトは加害者の方から調べて。ナビキは……ライトと一緒がいいのね?」


「はい! お願いします!」


 頭を下げるナビキ。

 ナビキは残りの時間の少ない『妹』のナビのため、ライトと行動を共にすると決めたのだ。

 それはスカイにも申請してある。というより、申請した直後に事件が発生したためなし崩し的にライトとナビキはセットで事件を調査することになったのだ。 


 今はまだナビは眠っているのが、朝少し起きたので大体の事情は知っている。

 二人で思う存分イチャイチャできないのは残念そうだったが……姉妹水入らずも満更ではないらしい。


 反対意見の無さそうな二人を見て、スカイは薄くほほえむ。


「それにしても……なかなかどうして、お似合いかもしれないわね。能力的にも性格的にもコンビとして相性良さそうだし」


「あ、ありがとうございます! ま、まあ確かに否定はしませんが……先輩と付き合ってるのは『ナビ』であって、私はあの子の保護者として……」


 赤面して慌てるナビキに、実のところ最近活動に支障の出ていたナビの現状をギルドマスターとして大方把握していたスカイは見透かしたように笑う。


「ふふふ、別に良いじゃない。仕事と私事のパートナーが必ずしも同じじゃないといけないわけじゃないんだし。なんならライトを誘惑したりしてちょっとした仕返しをしてもナビは文句言わないんじゃない? 他人に奪われそうになった方が却って熱くなるかもしれないし」


「スカイはオレとナビの恋路をどうしたいんだ?」


「そんなの決まってるじゃない?」


 スカイは迷いなく言った。



「利用したいのよ。せいぜい仕事頑張って、良い所見せ合って、競争して、成果あげてね?」







 30分後。

 『時計の街』西側の『大空商店街』(元荒れ地)にて。


 会議場や消費者センターなどを兼ねる『本部』と呼ばれるギルドホームから数百メートルの位置にある、犯罪者の収容及び尋問を目的とした石造りの建物。

 通称『指導室』。

 今回の『同時多発傷害事件』の犯人達はその地下にある牢屋に収監されている。


 ライトとナビキはスカイからの連絡をすでに受けている監視役のギルドメンバーに通されて、地下に降りる。

 その階段を下りながら、ライトはナビキに話しかける。


「ナビキ、今ここにいるのは主に『反省してない』連中だ。犯罪者でもしっかり反省してたら被害者との交渉とか謝罪を済ませれば割とすぐに出られる。まあ、時々顔だけ反省したように見せて出て行こうとする奴もいるが、大抵はマリーの『カウンセリング』で本当に改心するからな。」


 ライトは後ろをこわごわついて来るナビキを振り返る。ライトがナビはまだ起こさないように指示したのだ。


「だが、ここに長く居続ける奴もいる。誰にも心を開こうとせず、マリーとも話そうとせず、反省を装ったりもしないのもな。それに一度釈放されても同じ事を繰り返して入ったらなかなか出られなくなる。そういう奴はむしろ開き直ってる。心構えちゃんとしてないと気圧されることになるぞ。」


「随分と……詳しいんですね。ギルドメンバーの私もそこまで詳しくここのことは知りませんでしたけど……」


「オレは脱獄できる穴がないかとか調べるために開発当初に関わってるし、何人か捕まえて入れてるからな。自分が捕まえた奴がどんな扱い受けてるかくらいは確認しておきたいだろ? 変な恨み持たれても困るし」


「それはまあ……そうですけど……」


「それに、オレはちゃんと知っておきたいんだ。このデスゲームの世界では一体どんなふうに皆が生きてるのか。どんなふうに世界を攻略しようとしてるのか」


「……」


「オレはこのゲームを制作者の望むとおりに真っ向から攻略するつもりだ。それは、そうやるのがゲームクリアへの一番確実な道だと思ってるからだし、こんな世界を用意したGMへの敬意だとも思ってる。だが……プレイヤー全員がそういうふうに思ってるわけじゃないんだろうな」


「……先輩?」


「ナビキ、これから話すのは多分そういう相手だ。だから、正論で論破できるとか理解し合えるとか思うなよ」


 それは少々ライトらしからぬ乱暴な言葉だった。



「誰から何を言われても自分を正当化しろ。今回の敵はAI制御のモンスターやOCCみたいな人外魔境じゃない……どんな化け物より卑怯で恐ろしい『人間』なんだからな」 




 僅かな蝋燭の灯る通路を通り、ライトは『同時多発傷害事件』の犯人11人が檻の数の問題で二人か三人ずつに分けて収監されている場所まで無言で歩く。

 ナビキも離れないようについて行く。


 空気が重い。

 囚人達から向けられる視線が不気味さを引き立てる。

 一歩一歩進むごとにまるで地獄に足を踏み入れているような感覚を覚える。


 これが彼らへの『罰』なのだ。

 痛みさえも日常となるデスゲームの中で一番精神に響き、反省を促す罰。それは『何もない』というこの環境。

 薄暗い中、ただひたすらカウンセリングや尋問、そして釈放を望んで待つだけの時間。

 相手が自分達を捕まえた敵だろうと恋しくなるだろう。


 そして、その中ですら屈しない信念のある者達。

 あまつさえ、望んで飛び込んできた者達。

 ライトは、つい昨日入ってきたばかりの彼らの前に立って問いかけた。


「今回の件、シャークの差し金か?」


 一人……代表者と決められていたらしき男が答える。


「ああ、確かにシャークさんも関わってる。あんたにはつまらない隠し事は無駄だと言われてる。その代わり、詳しいことは何も知らない。俺は今、あんたに知れて困るようなものは何も持ってないからな」


「……詳しいことを知らないのに捕まる役を演じたのか?」


「ああ、そうだ。」


「隠し事をしないように言われてるなら教えてくれ。あんたらは脅されたり騙されたりしたわけじゃなさそうだ。なら、なんであいつらに協力するんだ?」


 男は、しばし沈黙した後……強い意志の見て取れる表情で口を開いた。



「『借り』があるんだ。」



「『借り』……ですか?」

 ナビキが思わず声を漏らす。

 ニュアンス的に借金や何かといったものではない。どちらかと言えば仁義に近い意味合いの『借り』に聞こえたのだ。

 『悪党』の発言には似合わない言葉だった。


 だが、ライトは驚かない。


「今までの雑兵とは違うな……どちらかというとカガリに近い、本当の仲間か。シャークのやつ、意外と人望があるんだな」


「聞いてたとおり話のわかる奴だな、『ライト』さんはよ。あの人と長いことやりあってる宿敵なだけはある。」


「オレは宿敵だと思われてたのか……まあいいか。そこら辺は今度本人に会ったら聞く。それより、今回の事件について、目的は本当に何も知らないのか?」


「ああ」


「『街中で他人を攻撃する能力』については?」


「それについては全く知らないわけじゃないが、黙秘させてもらう。それに……」


 男は、嘘偽りない目で言った。



「俺は、そんなスキルは持ってねえ。俺を調べても『それ』については何もわからないぜ?」







 『指導室』、地上事務所にて。


 尋問のときの調書を読んだライトが呟く。

「なるほど……『取り調べの際早まって攻撃を加えた者がいたがダメージは発生しなかった』か。それで証拠がなくなって強気に出られなくなったわけだな」


 看守の男プレイヤーが申しわけなさそうに頭を下げる。

 無抵抗で捕まったプレイヤーに乱暴なことをした者がいたことを仲間内で隠していたらしいが、ライトに指摘されてあっさりと白状した。どうやらライトから質問されたときにはもう犯人達から聞いたものと思って覚悟を決めていたらしい。


「まあ、無尽蔵に殺人鬼を量産できるわけでもないだろうし、時間制限か回数制限くらいは設定してあったんだろうな。まあ、街中でも死ぬかもしれない状態のまま捕まるのはリスクが大きすぎるし、それこそ殺すと脅されて情報を吐くかもしれないが……逆に言えば死なないようになってればされることも限られてくるわけだ。上手く考えたじゃないか」


 その隣に、ギルドの幹部として取り調べで暴力を振るったプレイヤーに厳重注意を出してきたナビキが戻ってくる。


「それにしても……結局情報はありませんでしたね。後半は『知らない』か『黙秘』しか、言いませんでしたし。」


「こっちに与える情報量を制限してるんだろ。シャークはオレをかなり警戒してるからな。だがまあ情報はなくても『何も手がかりがない』ってわけじゃない。本当になんの糸口もないとあっちもオレの動きを予想できないから、ちゃんと次へのヒントが用意されてる。あいつ言ってただろ? 『今は困るものは何も持ってない』って。あれがヒントなんだよ……シャークのやつ、オレになら解けると思って言伝たんだろうな」


「どういう事ですか? ……『今』もって無いなら、後で状況が動いたら教えてくれるとか……」


「惜しいな、確かにそれなら多少の時間稼ぎはできるかもしれないが、その待ち時間にオレが何かをしないとも限らない。『今』じゃないが、未来でもないんだよ。」


 ライトは、調書を看守に渡す。



「奴らから没収したアイテムを見せてくれ。あと、持ち出し許可も頼む」




 10分後。


「これは……《鍵》ですか?」


「ああ、彫ってあるロゴを照合してみたらとある町の宿の鍵だそうだ。前線近くで確認しに行くのが難しいから後回しにされていたらしいが……多分これが次のヒントだ」


「どうしてですか? あの人達の泊まってる宿かも……」


「それにしては町の周りのフィールドのレベルが高すぎる。ゲートポイントで転移できる『街』と違って『町』に入るにはフィールドを通る必要があるから、自然と定住するプレイヤーも少ない。犯罪者はプレイヤーの少ない『町』に隠れ家を持ってたりするんだ。」


「……ということは……」


「これは預かり物だな。高レベルのプレイヤーが取った宿の鍵を低レベルのプレイヤーに持たせてオレに違和感を抱かせて調べさせる。もしかしたら罠かもしれないが……」


「ついて行きます! 一人で危険な場所に行かないでください!」


「……だろうな。じゃあ、行くとするか」


 二人はゲートポイントから転移して、目標地に最寄りの『街』に飛んだ。

 そして、フィールドをモンスターをなぎ倒しながら進み、目的の町の宿へ。



 『時計の街』出発から役一時間後。

 鍵番号と同じ番号の部屋の前に立つライトとナビキ。


 そして、ライトが鍵を鍵穴に入れる。


「良いか? 何が起こるかわからないから、よく警戒しろよ?」


「はい」


 戦闘体制を取りながら頷くナビキ。

 そして、ライトが鍵を開け、扉を開くと……



「……あれ?」



 部屋の中には誰もいなかった。

 警戒しながらも入る二人。


「ハズレ……でしょうか?」


 気の抜けたように言うナビキに、ライトは首を横に振る。


「いや、ハズレではないらしいが……予想以上にあっちは焦らすつもりらしい。」


 ライトは、部屋の中央にある机へ歩いて行き、その上の物を手にとった。

 そして、ナビキにそれを見せると……


「それは……また《鍵》ですか?」


「ああ、どうやら先は長いらしい。」









 同刻。


 私は『凡百(ぼんぴゃく)』、脇役だ。


「では、雨森さんとはこの三ヶ月間音信不通のままなんですね?」


「あ、はい。メールも連絡ないし、フレンドマップでも見たことないし……もう死んじゃったのかと思ってましたけど……」


 目の前にいるのは『大空商店街』のサブマスターのホタルさん。

 私より若いのに本当にサブマスなんてよく務まるものだとおもう。今も目下仕事中。

 なんだかよくわからないまま呼ばれるままに緊張して『本部』まで来たけど、行方不明で死んだと思われてた雨森さんについて何か進展があったらしい。私はそのフレンドの一人として呼ばれただけみたい。


 緊張して損した。


「あの……雨森さん、見つかったんですか?」


「いえ、ちょっと……それらしき人が目撃されたと言いますか……それらしい物を見かけたと言いますか……」


「ああ、なるほど。あの人、マスコットですもんね」


「ちなみに素顔を見たことは?」


「それは……すみません、一度もないです。」


「そうですか。忙しい中ご足労いただきありがとうございました。」


 雨森さんはギルドの幹部でもあったから私の他にも集められた関係者は多い。

 ろくな情報を持ってない私との話はここまでのようだ。




 役に立たない『情報提供』を終えた私は、『本部』の前で逡巡する。


 このままゲートポイントを使って拠点(もちろん普通の宿)に戻るのも良いけど、なんだか傷害事件が起きたって噂もあるし一人で帰るのも危ないかもしれない。私がピンポイントで襲われる可能性は低いだろうけど、用心というのも必要だ。

 でも、一人でいるのが危ないにしても私は固定パーティーとかいないし……


「あ、そうだ。イザナちゃんのところにでも遊びに行こ」


 せっかく懐かしき『時計の街』に来たのだし、ついでにここに住む友達の家へ遊びに行くとしよう。

(凡百)「た……助かった……」

(イザナ)「もう追ってきませんね」

(凡百)「そりゃこんだけ逃げてダンジョンの奥まで逃げ込めばね……でも、ここどこだろ」

(イザナ)「えっと……どうやら低レベルでも未発見ダンジョンだったみたいですね」


 サワサワ カサカサ


(凡百)「で……なんか不気味な足音するんだけど……私、生きて帰れるかな?」


 同刻。


(マリー)「謝ろうと思ったんですが……偶然に出くわすってなかなか難しいですね」

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