11頁:オーバーワークに気を付けましょう
急展開、および急な引きですみません。
ある4月の中旬。
空気感染
それが私の通り名です。
仕事の内容は……経営アドバイザーです。
大きな会社のデータベースからお金の流れを計算して『無駄使い』を見つけたら、こんなふうに優しくその会社の偉い人に教えてあげます。
『このデータをマスコミに送られたくなければ、指定の口座に下記の額をお支払いください。
追加料金をいただけるなら、これまでの部分の修正も行いますので是非とも一度検討下さい。』
僅かばかりの料金をいただきますが、それに見合った仕事はさせていただいております。
もし、仕事の出来に問題があればうかがいますので是非ともお出で下さい。
何分一人でやっておりますので応対出来ないときもあるかもしれませんが、精一杯のおもてなしをさせていただきます。
追記。
仕事仲間募集中。
……誰か、一緒に楽しく仕事しませんか?
≪現在 DBO≫
スカイの修得済みスキル(初期設定を除く)
『商売スキル』
物を売り買いするスキル。
内容に『接客』を含むバイト系クエストで洩れなく修得可。
『武器整備スキル』
武器を手入れするスキル。
クエスト『銀の棚』で修得。クエストの内容は武器屋で接客の合間に武器磨き。
『鑑定スキル』
アイテムを鑑定するスキル。
クエスト『埃を被った秘宝』で修得。クエストの内容は雑貨店で接客の合間に棚の整理。
ただし、以上のスキルは一日目に修得していたためノーカウント。
以下は二日目。
『機械工スキル』
機械を扱うスキル。
クエスト『カラクリ仙人の挑戦状』で修得。クエストの内容はカラクリ屋敷の門の鍵となっている歯車パズルの解錠。
『設計スキル』
設計図を作るスキル。
クエスト『ミニチュアシティー』で修得。クエストの内容はミニチュアの家の未完成の設計図の完成。
『ペイントスキル』
絵を描くスキル。
クエスト『ファット・イズ・ディス』で修得。クエストの内容は画家の肖像画を描くこと。
『組み立てスキル』
パーツを組み立てるスキル。
クエスト『ミニチュアハウス』で修得。クエストの内容は事前にクリアした『ミニチュアシティー』での設計図に従って家を組み立てること。
『梱包スキル』
アイテムを保護するスキル。
クエスト『割れ物注意』で修得。クエストの内容は馬車に詰め込む荷の梱包の手伝い。
ライトの修得済みスキル(初期設定、『糸スキル』を除く)
『自傷スキル』
痛みに慣れるスキル。
イベント『要注意患者認定』で修得。
一定期間内の自分自身によるダメージの仮想痛覚のポイントが一定値を超えると病院で回復する際に修得できる。
以下二日目。
『研磨スキル』
磨きをかけるスキル。
クエスト『ピカピカ大作戦』で修得。クエストの内容は錆びた甲冑一式の整備。
『木工スキル』
木材を加工するスキル。
クエスト『新しい家』で修得。クエストの内容は木材から犬小屋を完成させること。
『筆記スキル』
文字を書き留めるスキル。
クエスト『〆切間近』で修得。クエストの内容は作家NPCの推敲の手伝い。
『裁縫スキル』
布を加工するスキル。
クエスト『ファッションメーカー』で修得。クエストの内容は一枚の布からの衣服の製作。
『穴掘りスキル』
穴を掘るスキル。
クエスト『思い出採掘』で修得。クエストの内容は荒れ地に埋まったオルゴールの捜索、発見。
『ダウジングスキル』
地中のアイテムを見つけるスキル。
イベント『ここ掘れワンワン』で修得。
『穴掘りスキル』を修得した上で荒れ地の野犬に餌を与えるとイベント開始。一定時間野犬に付いていき、最終的な目的地で穴を掘ると修得できる。
『園芸スキル』
植物を集約的に育てるスキル。
クエスト『雑草一掃』で修得。クエストの内容はNPCの家の庭の草刈り。
『斧スキル』
斧を扱うスキル。
クエスト『樵の日常』で修得。クエストの内容は木の伐採、および薪割り。
『釣りスキル』
釣りをするスキル。
クエスト『ヌシとの遭遇』で修得。クエストの内容は釣り堀で水生モンスター〖ヌシ様〗とエンカウント。
『細工スキル』
アイテムに細かい加工をするスキル。
クエスト『大輪開花』で修得。クエストの内容は木片を削って花の形にすること。
結果。
修得スキル数5対10でライトの勝利。
「スキル修得クエスト地味に難易度高いわよ!! てか、よく10個もクリア出来たわね!?」
デスゲーム二日目の夜9時。
スカイとライトはプレイヤーショップ(予定地)に再集合した。
今朝、唐突に『スキル修得対決』を開催した二人は、12時間の制限時間の後、時間通りに朝別れた場所に集合した。
だが、スカイの顔には疲れがありありと浮かんでいた。
「まさか、ここまで一つ一つに時間がかかるなんて……」
「ああ、一つやってみて『あ、これ勢いで行かないと厳しいな』って思ったからあの地図作ったんだよ」
ちなみに、地図は一枚しかなかったので機動力にハンデがあるスカイが使った。ライトは記憶頼りだ。
だが、結果はライトの大勝で終わった。
「ホントに、あんなの下手したら4、5時間かかるんじゃない? 得意分野でも面倒なレベルよ?」
スカイ個人としてはカラクリ仙人が一番大変だった。しかも、これで門の解錠だけなのだから後にどれだけキャンペーンクエストがあるのかがわからなくて怖い。
なにせ、操作を間違えると最初にリセットされるのだ。面倒臭いことこの上ない。
「まあ、これで文句なく『イージーシリーズ』はオレのものでいいよな?」
「いいわよ。どうせ捨て値で売りつけられた物だし」
正直、『困ってる人への支援』なんて交換条件はさっさと処理し終わりたい。
「さて、じゃあ変な因縁も消化したし、スキルも集めたし、そろそろ本格的に『店』を造りましょう。じゃあ、私はちょっと休んでるから何かあったら言って」
スキル集めは本来、建物を直すための『木工スキル』修得のついでだ。
ライトは予定通りに『木工スキル』を修得した。これで『店』を準備できるはずだ。
「あ、社長。問題発生」
「早!! 何があったの!?」
ライトは『木工スキル』を修得した時に同時に入手した《基本設計図一覧》という冊子をめくりながら淡々と言った。
「今の俺の『木工スキル LV15』じゃ『扉』は作れない。『扉』が作れるのはレベル50からだ。どうしよ」
「……上げなさい」
「え?」
「棚とか家具とか何でも作りまくってスキルのレベル上げなさい!! これは社長命令です!!」
翌日。DBO三日目。
店舗(予定地)。
早朝なのにも関わらず、生活リズムの崩れた生活を送っているはずのスカイが起きている。
適当な瓦礫を椅子の代わりにして、ボロボロの机の上で図面を描いている。
そして、スカイはつぶやいた。
「あ、朝だね~」
「そうだな、てゆうか寝たければ寝てもいいんだぞ?」
「でも、これは先に仕上げておきたいのよ」
「それ、何枚目だ?」
「うーん……7枚目かな?」
徹夜だ。
スカイは昨日から一睡もしていない。
描いていたのはライトに作らせる商品棚、椅子、カウンター机などの設計図だ。初めは扉を作った後ゆっくりと揃えようと思っていたのだが、扉より先に他の物を作らなければならなくなったので急いで図面におこしている。
対して、ライトは荒れ地を歩き回って木片を集め、工作に必要な釘などを買ってきて、スカイが幾つかの設計図を書き上げるのを待ってから作業を始めている。
具体的な作業の内容は大きく分けて二つ。
一つは荒れ地に放置してある瓦礫から木材を集める作業。
もう一つはその木材を『木工スキル』『細工スキル』で家具や小物に加工する作業だ。
一見、スキルのレベルを上げ、店の備品を揃えるという一石二鳥の作業にも見えるが、実のところ木片から家具を作るのは手間がかかり、一石どころか少なくとも三石くらいは投じるレベルの労力を使っている。
そして、スカイもまた楽ではない。
本来なら小物から始めるべきなのだろうが、スカイには設計の経験があったためいきなり大きな家具に取りかかっているのだ。図面も十分に重労働だ。
それにしても……
「これでも結構なペースで描いてるんだけど、なんでもう追いつきそうなわけ?」
ライトの作業が予想以上に速い。
ゲーム上のスキルとか関係なく作業の手際がいいし、手慣れていて素人とは思えない。一応作りの単純なものを選んでいるがそれでも速い。
「『設計図スキル』で作った設計図を基にすると設計通りの所に工具が動くから、測量する手間もかからない分速いんだろ」
「いやいやいや、それでも速すぎるわよ!! てか、時々スキルモーションの方が遅いから自力で釘打ったりしてるでしょ!?」
「レベルが低いと遅いからな。でも段々追いついてきたぞ」
語るに落ちた。
しかも、よく見ると何やら作業の合間に小道具を作っている。
「何作ってるの?」
「んー……社長への開店祝いのプレゼント? サプライズの」
「わかりやすい嘘つかないでよ。疑問符になってるし」
というか、サプライズプレゼントなら言っちゃ駄目だ。
スカイはライトを見てため息をつく。
本当に理解できない。
ここまでの才能があるなら自分になんてついてこないでも一人でやって行けるだろう。そもそも、戦闘職になる必要はないし、このまま大工として大成するのも夢ではないだろうし。戦闘職になりたいならここまで生産職のスキルを真剣にとる必要はない。
そもそも、ライトはこのゲームで何をしたいのだろうか。
攻略がしたいのか、はたまた日銭を稼いで生き延びられればいいと思っていてそのために自分に取り入ろうとしているのか。
まあ、その時は従業員としてこき使ってやろう。
やる気のない有象無象よりましだ。
「ねえ、そういえば座り込んでる人たくさんいたわよね」
「……ああ。増えてたな」
ゲーム開始から丸一日が経過するとプレイヤーの中で『助けは来ない』という絶望感が強くなった。そして、町のあちこちで絶望に打ちひしがれて何をするでもなく呆然としているプレイヤーを見かけた。
「座り込んでるくらいならクエストの一つでもしてたらいいのに」
「怖いんだろう。どこに危険が眠ってるかわからないから」
そういうライトは全く恐怖感なんて感じさせない。
「そもそも、自分の力でクリアしようって発想が浮かびにくいかもな……自分たちは物語の脇役で、出番なんてなくて、できることなんて何もないと思ってる。……それを『観客』と勘違いしてるのはちょっと腹立つけどな」
ライトは話しながらも手を付けていた家具を完成させて、次の家具に取り掛かる。
一息つく気配もなく、ペースも落ちない。
「……ねえ、どうしてそんなに頑張れるの? 何がそんなにアナタを動かすの?」
スカイは自分自身の強欲さを自覚している。だからこそ、常に『求めて進む』スタイルを貫いてこの世界でも順応できている。
ライトにも同じようなものがあるのだろうか?
ライトは少し沈黙した後、あまりにも予想外な返答をしてきた。
「社長はさ、ゾンビ映画とか見るか?」
「ゾンビ? ウイルス兵器とかで人間がなるやつ?」
「大方合ってる。まあ、アイツらはハイチのゾンビの亜種みたいなもんだがな」
唐突すぎる。
なんでモチベーションの話がゾンビの話になるのだろうか?
「じゃあ、その映画のゾンビはなんで人間を襲うんだ?」
「たしか……人間の時の生物的欲求が残っていて、その内の『食欲』が暴走するって設定じゃない? 大抵の映画では」
ライトは返答を聞きながらも手を休めない。
「じゃあ、なんで『共食い』しないんだろうな。変に生きた人間狙うより楽そうなのに」
「そんなの設定上の問題でしょ? ゾンビ映画なんて『ゾンビが和解の余地なく敵対して来るからあらゆる手段で敵を殺す』ってのが前提なんだし」
ライトは手を休めない。
「……ああ、ゾンビってそういうものだよな。『本人の意志と関係なく行動する』ってのが存在理由なんだ。人間同士の殺し合いの映画は教育に悪いから、誰かがやらなきゃいけないから、ゾンビは休まず動くんだ」
手を休めない。
「だからオレも今はそんな風に動いてる。もしかしたらオレ以外にも動いてるヤツはいるかもしれないが、状況を見るときっと多くはない」
休まない。
思えば、ライトはほとんど休んでいない。ゲーム開始からこの方、ベッドはスカイに譲ったし、スキルを10も修得したところを見ると別行動中にのんびりする暇はなかっただろう。
二日目の朝もスカイより早く起きてクエストの下見までしていたのだ。
ライトはあの夜、本当に寝たのか?
未だに疲れた様子を見せていないが、それは『疲れていない』とイコールで結んでいいのか?
余裕だから動いているのではなく、動かなければならないから余裕に見せているのではないのか?
それこそ、主人公の銃口に臆せず襲いかかる映画のゾンビのように。
「何をそんなに焦ってるの?」
ライトは初めて手を止めた。
もしかしたら、この質問をずっと待っていたのかもしれない。
「……本当に聞きたいか? どちらかというと悪い話だぞ?」
その先の内容は覚悟なしに聞くには、覚悟のない人間に聞かせるには重大すぎるものだったから。
「下手をすれば、数日中にこの街のプレイヤーは『全滅』する」
我が永遠の親友へ
あなたは、こんな悪魔が仲間と一緒に人助けなんてしたら笑いますか?
そんな偽善者ぶった悪魔を、笑って赦してくれますか?
近いうちに前書き、後書きの内容も面白いものを考えます。