112頁:たまには息抜きも必要です
『闘牛スキル』
闘牛のスキル。
突進技に対して特化した戦闘系スキル。
突進をかわして側面から攻撃を打ち込むという戦闘法をベースとして、回避技、カウンター技が多く含まれている。
五年ほど前、彼女には二つの選択肢があった。
父の会社が倒産し、父の会社を中心としていた財閥も奪われ、もはや一生をかけても返せないと思えるほどの負債を抱え、そしてその父の負債を受け継いでしまった彼女の前には高圧的な男たちと、父と知り合いであった弁護士が来た。
男たちは、借金を返せと少女に群がった。
弁護士は救いの手を差し伸べるように一つの提案をした。
『自己破産』
自身の持ちうる全ての資産を金に換えても、負債は返しきれない。
だが、自己破産すれば、全てを支払い、負債をまとめてゼロにできる。
片や人生のどん底のマイナスの道。
片や全てを捨ててやり直すゼロの道。
もはや、どうやってもプラスには戻れないが、それでもマイナスよりはマシな道があった。
しかし、少女にはどうしてもゼロの道を行けない理由があった。他人にはそこまでするのかと理解できないかもしれないが、彼女には人生を棒に振っても譲れないものがあったのだ。
だから、少女は弁護士の救いの手を断った。
「借金は、私が一生かけても自力で払います」
≪現在 DBO≫
「私はあなたが欲しい。だから、私の物にはならないで」
観覧車の中、自分とライト以外の誰もいない密室でスカイはそう言った。
その目には嘘や冗談の色はなく、言い間違いや錯乱などではない。
本気だ。スカイは本気で矛盾したことを、矛盾していると自覚した上で言っている。
「ごめん、こんなふうに言ってもわからないよね。さすがのライトでも」
スカイはやや弱弱しくなる。
スカイは普段ギルドではギルドマスターとして気を張っていて弱みなど見せない。むしろ男勝りなほどに憮然と、強気にふるまう。客には営業スマイルを振りまきながら常に自分が優位なように振る舞い、ギルドの『指導室』で捕まえた犯罪者を檻越しに見るときすら余裕を失わず、怖気づくことはない。
しかし、スカイは完璧超人ではない。
本当に稀にだが、スカイは『巨大ギルドのギルドマスター』ではなく『か弱い少女』の顔を見せる。周囲のプレイヤーのほとんどはそれをスカイの他人を油断させる演技だと思っているし、本人もそれをほのめかしている。
しかし、ライトには嘘を見破る能力がある。
そして、知っている……『か弱い少女』が演技でないことを。
「まず先に言っておくけど、ライトに対して恋愛感情があるのかどうかはよくわかんない。恋愛とかしたことないし、私は他人のことを利用価値抜きで見られないから私の『好き』っていうのは普通の人の『好き』と違うかもしれない。でも、それを考慮したうえで良いなら、私はライトを『好き』だと思ってるわ。それこそ、喉から手が出るほど欲しい。今みたいな借金の担保みたいな所有権じゃなくて、私の専用のものとして誰にも渡さずに、私の物としてずっと使い物にならなくなるまで使い潰したいと思ってる」
……『か弱い少女』のままでも、基本的にはスカイはスカイなので考え方などはあまり変わらない。
『か弱い少女』=『普通の女の子』ではない。
だから決して、ギルドの権力争いなどで精神的に追い詰められて極端な思考に走っているわけではない。紛らしいが、彼女にとってはこれが素だ。
「でも、欲しいからこそ……ライトを手に入れたら満足できそうだからこそ、私はライトを手に入れるわけにはいかない。満足してしまったら、きっと私は戦えなくなるから……私は飢えてないと戦えないから」
『腹が減っては戦えない』、昔からそんな言葉がある。
しかし、野生の獣が一番狂暴になり危険なのは何日も断食し、極限まで飢えた状態の時だ。
自分の存在を脅かすほどの飢えは、他者から『奪う』こと、『手に入れる』ことにおいてどんな理屈にも勝る原動力になる。『必要』は発明の母であるが、『必要』の母は『不足』……そして、『不足』の最上級こそが『飢餓』なのだ。
スカイの何よりの武器は妥協を知らない向上心……満たされない『強欲』に他ならない。
「矛盾してるかもしれない。満たされたくていろんなものを求めてるのに、いざ満たされそうになるとそれを避ける。でも、私は止まるわけにはいかない。もう、私の人生は後戻りできないから」
スカイはだんだん俯いて話すようになっていた。
しかし、その声には確かな覚悟が現れている。
ライトはスカイの様子を見て、重々しく問いかけた。
「何があった……いや、何をしたんだ?」
スカイは、俯き……自分の足を見つめて答えた。
「対価を払ったのよ……人生を奪い返すために、この足と、私の青春をね」
スカイはゲーム開始から二日目、ライトに嘘をついている。
それは彼女の歩行能力について。彼女は、足を事故によって損傷し、その結果として心身に仮想世界でも歩行に支障が出るほどのダメージを負ったと説明した。
しかし、実のところそれは偽りだ。
彼女の足は事故で損傷したのではない……自分自身の手で、歩けないように腱を切ったのだ。
それは、覚悟を示すため……そして、自力では逃げられないことを物理的に確定し、軟禁されながらもその中である程度の自由を得るためだった。
そして、中学校を卒業してからの本来高校生として青春を謳歌すべき時間を軟禁生活でほとんど誰とも触れ合わず、ひたすらネットの電脳世界と向き合い、人生を奪い返すための金と情報を集めるために過ごした。スカイが不健康な痩せかたをしているのもそのときの不摂生がたたったため。満足な食事すらせず、全てを人生を奪い返すために注ぎ込んだ。
それに、スカイは自身が仮想世界でもまともに歩行出来ない本当の理由を知っている。ほとんど使わなくなった脳の姿勢制御の機能が代わりに電子情報の処理に費やされるようになったからだ。まるで彼女の覚悟を反映したかのように、歩行機能は退化した。
「もう払った対価は戻らない。クーリングオフなんて利かない。だから……私はまだ、戦いをやめるわけにはいかないの。まだ、満足しちゃだめなの」
まるで呪いのようにスカイは言った。
いつか目的を達するその日まで、飢え続けなければならない。いくら手に入れても満足せず、妥協せず、停滞せずに貪欲に、強欲に、必死に前に進まなければならない。
振り返ってはならない。進み続けなければ、自分を保てない。
スカイとライトはその意味ではよく似ているかもしれない。
ライトは知らず知らずの内に道を踏み外し、父の死でそれを振り返ったときに完全に自分を失った。
スカイは父の死をきっかけに自分の意志で道を外れ、振り返らずに進むことで自分を保っている。
『絶対に振り返ってはならない』……まるでどこかの神話で神が仕掛けるゲームのようだ。
スカイの話を聞き終え、ライトは納得したように呟く。
「なるほどな……『青春を対価にした』。だから、スカイは『子供』のままなのか。」
ライトの言葉に、スカイは顔を上げて聞き返す。
「『子供』? 私が? 一応、今はライトより三つも年上なんだけど?」
「まあ、実年齢で言ったらそうだろうな。だが、スカイは中身が子供のままなんだよ。さっき恋愛感情とかわからないって言ってただろ? それは利用価値でしか人を見れない冷酷な人間だからじゃない。単純にそれを理解できるほど精神が成熟してないんだ。なまじ知能が高いし大人びてるから紛らわしいが、本当の精神年齢は中学生くらいだろ。だからオレに胸押しつけるのも抵抗がないし、頑張るのを恥ずかしがらない。それに、想像力も中学生のままだから普通の大人が思いつかないような、思いついてもやらないようなことを当然のようにやれるんだ」
「中学生って……私って、精神的にはホタルより年下なの?」
「ホタルはホタルでやたらマセてるから話が違うかもしれないが……まあそうだな。人間が精神的に『大人になる』っていうのは時間が経てば自然とそうなるもんじゃない。『子供』が生きていく中で『妥協』とか『加減』とか『限界』とかを学習して、そういうパーツをくっつけて『大人』になるんだ。オレの人格の組み換えだってそのパーツの組み立て方次第で大抵の人間にはなれる。だが、普通この国では中学、高校、大学が一番『大人のパーツ』をくっつけやすい段階なんだ。そしてパーツは、他の人間との関係性の中で手に入れるもの。だがスカイはその時期をクラスでボッチとか引きこもりっていうのとはレベルの違う本当の『一人きり』で過ごした。『天才性』は『知識量』と『発想力』の積に比例するなんて説があるが、本来大人になるにつれて知識が増える代わりに常識に染まって発想力は乏しくなっていく。だがスカイは『青春』を対価として払った代わりにその子供のままの発想力を固定したまま知識量を増やした……つまり、『青春』の代わりに『天才性』を得たんだ。」
成長期に強い精神的ストレスを受けていた人間の脳は発育に異常をきたす事がある。
そして、エジソンなどの歴史的天才は脳に障害があったために、その部分を補うために違う部分が発達し、それによって天才的な頭脳を持ったという話は有名である。
ならば、不可能ではないだろう。
人間の脳の可塑性、そしておそらく本人の強い意志があれば……自分の人生、脳、そして魂を相手が悪魔だろうと対価として売り払えるくらいの覚悟があれば、『天才になる』という願いも不可能ではないのだろう。
その代償に、精神の成長を止めたとしてもだ。
「……『子供』ね。言い得て妙だわ。確かに、私の時間はあの時から止まってる。でも、私は『子供』だからって、つまらない『大人』に負けてやる気は欠片もないわ。ライトだって『子供は引っ込んでろ』なんて言うつもりはないでしょ?」
スカイは調子を取り戻したような口調で切り返した。そして、ライトもいつもの調子で応える。
「ああ、さっきも言ったが、『大空商店街』にはスカイ以上のギルドマスターはいない。大人にはできない発想やその頭脳でこれからも皆を支えてほしい。ただ……」
「何なの?」
「別に無理に大人のフリする必要はない。子供っぽく振る舞えとは言わないが、もっと素直に楽しんでもいいと思うぞ。ホントは遊園地、結構楽しみにしてただろ」
「……どうして?」
「こんな手頃なデートクエスト偶然知ってるわけないだろ。ホントは権力争いのストレス解消に遊園地で遊びたかったんだろ」
「そ、そんなことないわよ。勝手に変な属性つけないで~」
「嘘吐き属性よりツンデレ属性の方が需要高いんだぞ。なんなら遊園地を心の底から楽しんでるスカイの写真撮ってホタルに売ってやろうか。そうすればデートの件も許してもらえそうだし」
「それやったら肖像権で訴えてやるわ! あの子にそんな写真渡ったら何に使うかわからないわ!」
「いや元々スキャンダルになるつもりだったんだろ! 第一デスゲームの中だからって労働基準法無視しまくってるスカイに肖像権で訴えられてたまるか!」
そうこうしているうちに、観覧車が二周目を終えて、下に着いた。
さすがに三回乗る気はないので二人は扉から出る。
「ところで……本当に改革派の連中は来るのか? 見られてないならデートのフリする必要がなくなるんだが……」
「このダンジョンは男女ペア限定だから、パートナー見繕ってるんでしょうね。それに、人が居なさすぎるとかえって尾行しにくいし、ギルドチャットあたりでこのダンジョンの告知とか、クリアしたプレイヤーへの賞品とか用意して人集めてるんでしょ。ま、そのうちリア充軍団が押し寄せてくるだろうし、それまではアトラクションでも楽しみましょうか。遊園地の貸切してるようなもんだし……」
ドカーン
上の方で音がした。
どうやら、観覧車のてっぺんでゴンドラが爆発したらしい。十中八九イベント用のクイズ爆弾だろう。音が派手な割に、ゴンドラは黒くはなったが完全に原型を保ったままだ。
「…………」
「貸切じゃなさそうだな。もうワンペアいるんじゃないか?」
ボンッ
「…………」
「ワンペアじゃなくてツーペアね……ていうか音、一回目のと違わなかった?」
ライトとスカイは気になったので観覧車の前でゴンドラが降りてくるまでの十分待つことにした。
そして……
「ゴホゴホッ……やっぱ『神様の言うとおり』じゃあかんかったか」
「ゴホゴホッ……だから勘で切ろうって言ったんだぜ姉貴。最近オレの勘良く当たるんだからな」
「なんやうちに楯突くんか赤仁。成長したな」
「話そらすなや姉貴……あ、ライト。お前もいたのか」
黒こげっぽくすす汚れのついた赤兎と花火が降りてきた。爆弾の解除には失敗したらしい。
話から察するに『神様の言うとおり』と『勘』で切るべき銅線の決め方を言い争ったようだが……どっちもどっちだ。
「てか、珍しい組み合わせだな。アイコはどうした?」
「風邪だよ、リアルボディーのな。」
どうやら恋人が風邪で安静にしている間に花火とデートすることになったらしい。
赤兎は花火を実の姉のように思っているが、実のところ近所の幼なじみであっても血縁はないはずだ。(嘘が苦手で口の軽い花火から聞いた話だ。間違いはあるまい)
ライトには『予知』したわけでもないのに後でアイコにボコボコに殴られる赤兎の姿が鮮明に想像できた。
スカイも同じことを想像しただろうとライトがスカイの方をみると……スカイがやや足を引き、ライトの後ろに隠れるのに近い位置に移動している。
「どうしたんだ?」
「いや、私ちょっと……『アマゾネス』のギルドマスターと非公式に密会はダメかな~……なんて、ね」
「ああ~」
スカイは借金取りを思い出すのか、リアルで『少しカタギではない職業』に就いている花火が苦手なのだろう。
『アマゾネス』のサブマスターの椿は『大空商店街』のサブマスターのホタルを天敵のように思っていて、『大空商店街』のギルドマスターのスカイが『アマゾネス』のギルドマスターの花火を少々苦手に思っている。不思議な釣り合いが取れている。
そうこうしていると……
「ケホケホッ……だから紫を切ってくださいって言ったじゃないですか」
「いや、正解したところで本当に解除される保証はない。これで良かったんだ」
赤兎と花火の次のゴンドラから降りてきたのは赤兎や花火よりもさらに真っ黒なマックスと、セキをしながらもほとんど汚れず、いつも通りの白い肌と金髪が映えるマリー=ゴールド。
「あ、ライトくん。てっきり先に行ってしまったものかと思っていましたが……二周くらいしてたんですか?」
「まあそうなんだが……マリー、一つ言っておきたいことがある」
「なんでしょう?」
「いくら爆弾が嫌だからって他人を盾にして防ぐのはどうかと思うぞ。しかも答えわかってて」
「ち、違いますよ! 私はちゃんと正解のコードを切ろうとしたのに彼が勝手に……」
「レディに危険なことをさせるわけにはいかないのだ!」
マリー=ゴールドの弁解に割ってはいるマックス。
真っ黒だがマントを翻し、アメリカンコミックのヒーローをイメージしたらしくタイツに近い身体のラインがくっきり出る服で、さも余裕だと言わんばかりに胸を張る。しかし、鍛えても筋肉が膨らむタイプではない細マッチョタイプらしいのであまり様になってはいない。
「見たか秘伝技『ボディカバー』!! 範囲技のダメージを自分一人で引き受けて味方を完全に守りきることができるのだ!!」
「いえ、多分見えなかったと思いますよ? 皆さん他の部屋に居たようですし」
「なに!?」
どうやら技でマリーをかばって爆発を一人で受けきったらしい。
しかもマリーに操作されたわけではなく自主的に、マリーの助言を無視する形でだ。確かに、正解のコードを切ったところで本当に爆発しないという保証はなかったが……実のところ、そこまで穿った見方をしなくても良かった。結果から見れば、無駄に体を張っただけだ。
そんなマックスを見て、スカイはライトの耳元にに小さな声で問いかけた。
「前から思ってて今まで確証が持てなかったんだけど……もしかしてあのマックスって、『痛い人』?」
やたら高いテンション、取って付けたような話し方、目を引くファッション。
確かに、一般的に見たら『痛い人』として認定されてもおかしくない。
だが、ライトは小さく首を横に振る。
「あいつは別にどこもおかしくない。驚くほど『普通』の奴だよ。」
「……普通?」
「ああ、この場にいる誰よりも『普通』だ。ほとんど『一般人』だと言っても良い」
「?」
少数精鋭最前線ワンパーティーギルド『OCC』の一人マックス。奇人変人の集まりとまで言われる『OCC』でも一番わかりやすい変人とまで呼ばれるマックスを、ライトは確信を込めて『普通』だと言いきる。
スカイが首を傾げていると……
「おいライト! どうせなら一緒にこのダンジョン攻略しようぜ!」
「うちと赤仁はもちろん前や、ライトは後ろ頼むわ。スカイちゃん、しっかり護ったるんやで」
赤兎と花火がなんの思いつきかライトとスカイを誘う。
「あらあら、悪いですよせっかくのデートを邪魔しちゃ……」
「よし、なら邪魔させないためにも我らが同行しよう!」
なし崩し的にマリーとマックスも参加してくる。
人を動かすのが上手いマリーだが、マックスに関しては思うように動かせないらしい。
「え……でも、二人でデートしないと意味が……」
スカイがデートの『本来の目的』を思い出し、断ろうとするが……
「そうだな……せっかくだし六人パーティーで攻略するか」
「ライト!?」
デートの『本来の目的』を知るはずのライトも手のひらを返したように言う。
そして、スカイにだけ小声で……
「遊園地貸切なんて寂しいだろ。どうせなら皆でわいわいやった方が、きっと楽しいぜ」
そう言った。
そして、赤兎達にも聞こえるように言い直す。
「じゃあ、今日は攻略もギルドも忘れて、皆で息抜きと行こう。いつもはどうだか知らないが、今日は純粋にただのゲームとして楽しもうぜ」
多くのプレイヤーは、それを用心が足りないと言うかもしれない。
命を失う可能性のあるデスゲームを、純粋にただのゲームとして楽しむなど、危険な考え方だと思われるかもしれない。
だが、ここにいるメンバーは……
「ん、それもいいな」
「うちはいつも楽しんどるで?」
「皆でダンジョン攻略ですか……たまには私も参加しましょうかね」
「安心しろ、危険になったら必ず助けてやる」
「意思統一確認完了。じゃ、行こうぜ」
そんなこと言うまでもない、とでも言うように笑顔を返す。
嫌々付き合うというような者は居らず、スカイに気兼ねするような面子でもない。
スカイがライトの意図を察するのに時間はかからなかった。
「『無理に大人になる必要はない』ね……ま、たまの休日くらい童心に帰るのも悪くはないかもね」
『子供はひっこんでろ』とは言わないが、『子供らしく素直に楽しめ』と言っているのだ。
策略や損得抜きで楽しむ時間も必要だと。
スカイは苦笑し、さも『仕方ない』というように応えた。
「確かにせっかくの遊園地だし、楽しまなきゃ大赤字よね。」
ライトとスカイの関係は恋愛関係などではないが、金のつながりがなければ赤の他人と言うわけでもない。
強いて言うなら……
(同じゲームで一緒に遊んでくれる『遊び相手』ってところかしらね)
同刻。
『カラクリ堂』のダンジョンの入り口にて、一人の女が仁王立ちしている。
服装はまだまだ寒いこの季節に合致しない。
袖がなく背中の中程までしか丈のないジャケットの内側に同じく袖がなく短すぎてヘソ出しになっている薄手のシャツを着ていて、さらにストッキングに包まれながらも見ているだけで寒くなりそうな脚を根本近くまで晒すショートパンツ。さらに、足には踵が高く爪先立ちのように見えるようなヒールを履いている。
はっきり言って、見ているだけで寒い格好だ。
年は二十歳前後だろうか。髪はショートヘアーをピンクに染めている。そして、その顔には寒さに苦しむ様子はなく、むしろどこか心地良さそうな笑みを含んでいる。
「ターゲットはこの中、だけどもクエストに条件がかかってて男がいないと入れないか……」
女は腕を組みしばし考え……何かを思いついたように偶然近くにいた男性プレイヤーに声をかける。
「ねえそこのお兄さん、ちょっと来て☆」
陽気な声をかけられた男性プレイヤーは女のあまりに寒そうな服装に驚いて二度見した後、おそるおそる近付いてくる。
「えっと……俺ですか?」
「うん、あなた男のプレイヤーだよね? 男っぽいけど実は女とか無いよね?」
「は、はあ……普通に男ですけど……その格好は寒くないですか? 上着貸しましょうか?」
男性プレイヤーはあまりに寒そうな女に同情し、優しく言うが、女は笑顔で首を横に振る。
「別に上着なんていらないよ☆ それよりさ……ちょっとツラ貸してくんない?」
「え?」
次の瞬間、女の蹴りが男性プレイヤーの股間にめり込んだ。
「!? ~~~!!」
股間を押さえてのたうち回る男性プレイヤーの髪を掴みダンジョンへ引きずりながら、女は陽気に言った。
「よし、これで私も入れるね☆」
『ヤマメ』
『アマゾネス』最年長の戦闘職。
七十越えても若いもんには負けてない、ゲーム慣れしたコンピューターおばあちゃん。
魔法で呼び出すスケルトン軍団はボス戦のサポートに欠かせない。
(マリー)「リアルでは趣味が『自作VR空間で遠くに住んでる孫と遊ぶこと』だそうです。」
(スカイ)「時代に順応してるわね~。」
(マリー)「ちなみに、所属は『アマゾネス』ですが、よく『戦線』の攻略パーティーにも混ざっているとか」
(スカイ)「フットワーク軽いわね~」
(マリー)「余談ですが、最近の趣味は『スケボー』だそうですよ」
(スカイ)「おばあちゃん若っ!!」




