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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第五章:成長(ビルド)編

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110頁:デート系イベントは楽しみましょう

『地幽霊』

 オーバー50。使用者……ヤマメ。

 白骨のアンデット化する技。

 地面の材質によっては地中を潜って移動することもできる。

 3月14日。早朝。

 マリー=ゴールドは教会を抜け出し、自作の模様が描かれた『透明マント』を羽織って『時計の街』を歩いていた。


 目的地は特にない。

 強いて言えば、ホワイテトデーのチョコレートと一緒に、義理チョコのお返しとしては受け取るのが心苦しいような高級品をプレゼントしてくるプレイヤー達から隠れられる場所に行きたい。


「感謝してくれるのは嬉しいのですが……一口サイズのチョコのお返しに宝石をプレゼントされても困っちゃうんですよね……」


 生まれつき人の心を動かす才能を持つ彼女の悩みの一つがこれであった。

 昔からそうなのだ。

 マリーがデザインしたもの、作成したものは人の心を惹きつける。そのため、油絵だろうがクレヨンだろうが絵を描けば買い手がつくし、バレンタインで安上がりな手作りチョコを配れば割に合わないお返しを贈られてしまう。


 ライトはわざとだと思っているらしいのだが……実は割と無意識にやってしまうのだ。


「私の影響を受けないライトくんには不自然だと思うのでしょうけど、私はずっとこうだからあまり『普通の人付き合い』というのがわからないんですよ……黒ずきんちゃんに『普通の女の子』を教えるなんて言うのも、ちょっと傲慢かもしれませんね」


 苦笑気味に独り言を呟くマリー。

 今は周囲から認識されていないので、独り言も意識されにくくなっている。


「お返しはチョコレートだけ教会に置いていって貰うとして……ほとぼりが冷めるまでどうしましょう? 黒ずきんちゃんは……最近忙しいようですし……やっぱり、ライトくんにでも匿ってもらいましょうか」


 ライトはマリーにとっては貴重な『愚痴』をこぼせる相手だ。クリスマスの頃からか、偶に愚痴を聞いてもらっている。他の人間ならマリーの愚痴に過度に共感して気分が沈んでしまうが、ライトはマリーのストレスを受けても精神にダメージを受けないのだ。


 そう思い立ち、フレンド権限でライトの位置を特定しようとしたとき……



 ドン



「きゃっ」

「うおっ!? 悪い、ぶつかった」


 前から来たプレイヤーにぶつかった。

 どうやら走っていたらしく、激突の強い衝撃でマリーの着ていた『透明マント』が外れて落ちる。


 マリーとぶつかったプレイヤーは、倒れたマリーに心配そうに手をさしのべる。


「悪いな、ちょっと走ってて気付かなかった」


「いえ、こちらこそ……」


 そこでマリーは気付く。

 マリーは『透明マント』を羽織っていたのだ。気付かないのはしょうがない。

 しかし、『ぶつかる』というのはおかしい。認識されていなくても、普通は相手が無意識に避けて通ってくれるのだ。走っていたとしても避けて走れないほど全力疾走ではなかったようだし……


「……大丈夫か? というか……」


 マリーは自分を心配して手をさしのべ続けるプレイヤーを見る。

 年は15か16の少年。

 ジャージ姿だが……走っている内に暑くなったのか、この三月半ばと言うゲーム内でもまだまだ寒い時期に上のジャージを脱いで薄いランニングシャツ、脱いだジャージは腰に結ぶという絵に描いたようなランニングの格好だ。

 しかも野球帽をかぶって首にタオルをかけているところがスポーツ少年という印象を抱かせる。


 その格好で一瞬信じられなかったが、その顔には見覚えがあった。


「もしかして……マックスくん?」










《現在 DBO》


 クエスト『カラクリ仙人の遊戯』。

 歯車やゼンマイを組み合わせてギミックを構築するパズル系クエストが提供される屋敷『カラクリ堂』の地下に展開された巨大迷宮を探検し、迷路内の定位置で起こる小規模な付属イベントをクリアして行けば、最後には屋敷の主『カラクリ仙人』から特別な報酬をもらえるらしい。


 ライトとスカイは入り口で迷路の地図を受け取り、案内役らしきカラクリ人形からの解説を聞いて先に進もうとしたが……


『最後に、ラブラブカップルさんに主からのお言葉があります……「リア充爆発しろ!!」』


「NPCのセリフじゃねえだろそれ。てか、男女ペア限定クエストってその僻みを言いたかっただけか?」


「リア充ね……ま、いいんじゃない? 言わせておけば」


 ちょっとギャグっぽいクエストの気配がした。




 やけに楽しげなイラストの描かれた壁や、罠の一つも配置されていない床に時たま現れるマスコットらしきキャラクターの彫られたマンホール、さらにはお土産品まで売っている売店などが配置されたダンジョン。さらに、高レベルプレイヤーなら乗り越えられそうな壁の高さから全力ジャンプでも届かない天井の高さまでは差があり、天井に描かれた青空の絵やダンジョン内に流れる陽気なBGM。


 そして、迷路を進んだ二人は、やがて一つの結論に達する。

 


「ねえ、このダンジョンのモチーフってさ……」

「ああ、さすがにもう疑いようがないな……」


 二人は、目の前に現れた最初の付属イベント『暴れ回り木馬』の舞台である木製のメリーゴーランドらしき装置を見て、声を合わせて言った。


「「『遊園地』」」


 どうやら、このホワイトデー限定クエストは、カップルがクエストという名目で『遊園地デート』を楽しむためのクエストらしい。

 配られた地図も進んだ分だけその道筋が見られるようになっているようだが、そこにもいかにも楽しげなメリーゴーランドなどのアトラクションの絵が描かれている。全体を踏破したら遊園地のパンフレットに載っているマップのようになりそうだ。


「ま、デート目的だからお誂え向きではあるけどね……」


「これも運営者からの気遣いなんだろうな。じゃ、とりあえずやってみるか」


「……そうね。もうそんな年じゃないけど」


「もう子供じゃないのにってか? だが……」


 スカイももう今年の一月で20歳、ライトは17歳。

 メリーゴーランドで喜ぶのは少し恥ずかしい年である。


 しかし、ライトはやや気乗りしない様子のスカイの手を引っ張り、笑った。


「別に無理に大人になる必要はないと思うぞ。少なくともオレの前ではな。……強欲で我が儘で、自分に正直なスカイで良い。」


 それを聞き、スカイは溜め息を吐く。


「ほんと演技させたら一流よね~。本気で口説く気かと思っちゃうわ~」




 足の不自由なスカイを気遣い、ライトは同じ木馬に乗り、後ろからスカイを支える。

 むき出しの木を彫刻として加工したような馬だが、座りやすいように背中には座席のような凹みがある。しかしそれは一人用のようで、一人なら余裕だが、二人で座るとかなり密着する形になる。


「……ライト、後ろからセクハラしたら罰金だから」


「しねえよ。むしろ、スカイの方が『離さないで!』って頼むことになるだろうな」


「どうしてよ? たかがメリーゴーランドでしょ?」


「いや、オレの予知的には多分これ……あ、始まる。ま、すぐわかるだろ」


「?」


 首を傾げるスカイを左右から囲うように手を伸ばし、木馬の首を掴むライト。スカイもとりあえず木馬の背中につけられた取っ手を掴む。

 そして、二人しか乗っていない木製のメリーゴーランドが、軽快な音楽と共に揺れ始める。


 その直後……


『ヒヒィーン!!』

「え!?」

「ほらな」


 突然、木馬がリアルな馬の鳴き声をあげ、前脚を両方上げて身体を大きく傾けた。


「ちょっ、何これ!?」

「そりゃイベントの名前が『暴れまわり木馬』だからな。振り落とされないようにしっかり掴まれよ」


 木馬は一頭だけメリーゴーランドの台から離れ、背中のライトとスカイを振り落とそうと身を大きく震わせながらメリーゴーランドの周りを回るように走る。


「ちょ、台じゃなくてこっちが回るの!? って、これメリーゴーランドじゃなくてロデオじゃない!?」


「さ、これ多分音楽が終わる前に振り落とされたら一からやり直しだぞ。しっかり掴まれよ」


「あ、『予知』して内容知ってて黙ってたわね!?」


「あんま喋ってると舌噛むぞ。ほら、デートだろ。楽しもうぜ」


 絶叫マシンの奇襲に黄色い悲鳴を上げるスカイ。

 そして、その後ろでスカイが落ちないように支えながら見守るライト。

 音楽が終わるまで、二人は密着して木馬に張り付き、振り落とされることはなかった。



 そして、三分ほどして音楽が終わり、木馬が台の所定位置に戻ると、スカイは気が抜けたように脱力し、背後のライトにもたれかかった。


「ライトの~……ばか~……あんたの子孫借金まみれ~」


「なんでだよ。母親デベソより酷いぞ」


 恨みがましそうにライトを上目で見るスカイに、ライトは平然とツッコミを入れる。


「なんで先に教えてくれなかったのよ~……先に心構えだけでも出来てたらあんな悲鳴あげなかったのに~」


「ああ、すごい悲鳴だったな。後ろで聞いてても耳が痛くなりそうだったぞ」


「そんなこと言ってもどう考えても加害者はライトよ……ていうか、なんでライトはそんな平然としてるわけ? 後ろで不気味なほど安定してたし」


「乗り物を乗りこなす『騎乗スキル』とか、バランスを維持する『玉乗りスキル』とか、腕の力でしがみつく『クライミングスキル』とか持ってるからな。あのくらいで振り落とされないぞオレは」


「忘れてた……そういえばライトはこういうスキル馬鹿だったわ」


 スカイは目頭を押さえてため息を吐く。



 ライトはゲーム初期から『攻略本』の陰の編纂者として、本に載せる情報の真偽の確認のためという名目で数多のクエストの未確定情報を検証し、プレイヤーの中でも並ぶ者がいないほどの数のクエストをクリアしている。

 『大空商店街』が出来てからは他にも検証のための人員は増やしたが、やはり一番クエストの検証が速いのも、検証の数が多いのもライトだ。特に、難易度が地味に高いことで有名なスキル修得系のクエストに関してはほとんどがライトが確認しているため、攻略本に記載されているスキルでライトが持っていないものは無いと言ってもいい。


 ライトの強さはそのスキルの数だ。

 一つ一つのレベルは低くとも、先程のように似た効果のスキルを重ねて使うことで、あらゆる状況に対応する。

 ステータスも全て平等に上げるという長所も短所も作らないバランスビルドだが、修得したスキルの中には基本的なステータスに補正がつくものも多く、持久戦を考えずに全力を出せば瞬間的には一極特化型ビルドにも引けを取らないパワーやスピードを発揮できるらしい。

 多数のスキルを同時に操る都合上、消耗も激しくなるが、ライトはそこもスキルの数で押し切る。『大食いスキル』『気功スキル』『仮眠スキル』などの回復系スキルを重ねがけして回復するのだ。

 戦闘は多種多様なスキル攻撃で相手の弱点を見つけてそこを貫き、見つからなくてもスキルの数を生かした怒涛の連続攻撃でごり押ししてしまえる。


 スカイから見ても好き勝手し過ぎている。

 正直、このゲームではスキル修得の数が無制限に設定されているとしても、そろそろGMから真面目に注意されてもおかしくない頃だと思う。



「いや、これでも自重してるぞ? ユニークスキルは一つもないし」


「ユニークスキルまで制覇したらもうチートとかじゃなくてただのバグよ。私がGMならボスの設定いじって事故死させるわ」


「あー……一回やられたかも」


「マジで!?」


 ライトが言うと冗談に聞こえない。

 話しながら先に降りたライトに木馬から下ろしてもらい、スカイは木馬に寄りかかる。


「まったく……ライトと一緒にクエストとかすごく久しぶりだけど、ホントに規格外ね~。本当に人間?」


「三千人規模の超巨大ギルドのギルドマスターに比べたら地味なもんだよ。ところで、一つ聞いていいか?」


「なに~?」


 スカイは眉をひそめる。

 そろそろ、何故突然デートなどといってライトを連れ出したのかを尋ねられるのだと思ったのか、周囲をさり気なく伺い、他に誰もいないかを確認する。


 だが、ライトの質問はやや予想外のものだった。


「楽しかったか?」


「……なんですって?」


「今のメリーゴーランド、楽しめたかってことだよ。オレの見た感じでは、悲鳴上げてた割に楽しそうに見えたぞ」


「……そうね、悪くはなかったわ」


「……遊園地、好きなのか?」


 ライトの質問に、スカイはやや目をそらし……


「久しぶりなだけよ……さ、次行きましょ」


 ライトの腕にしがみついて顔を次の通路に通じる扉へと向ける。

 そんなスカイに対し、ライトは見透かしたように呟いた。



「やっぱり……スカイは本当は『子供』なんだな」











 同刻。


「なんでオレが姉貴の暇つぶしに付き合わなきゃならねんだよ」


「そないな寂しいこというなや、どうせ赤仁もチョコ攻めで難儀しとったんやろ?」


「たくホントだよ、なんでお返しチョコのお返しが用意されてんだ? もう無限ループだろ」


 軽口を交わしながら一緒に歩くのはジャージ姿で威厳というものを感じさせないが一応『アマゾネス』のギルドマスターである花火と、動きやすいタイプの和服を着て腰に刀を下げた『戦線(フロンティア)』のエース赤兎。リアルでも旧知の仲であり、去年の末にお互いがこのデスゲームに参加しているのを初めて知った二人だが、お互いの立場もあり、なかなか個人的に会うこともなかった。


 しかし、今日はホワイトデーのチョコを持ってきた赤兎を見つけ、ギルド内での友チョコのお返しが激しかった花火(活動的でたよりになるため女子からモテる気質なのだ)がチョコ攻めから逃げ出すために赤兎を無理やり連れて『こいつと遊ぶ約束しとったの忘れとったわ!』と下手な言い訳をして脱出。

 その後、すぐにギルドに戻るわけにはいかないので赤兎と行動を共にしているのだが……


「で、ライトはどこにおるんや? この辺なんやろ?」


「いや、居場所はわかってるけど……クエストやってるみたいだ。邪魔するのも悪いし……」


 ライトの所に遊びに行く計画は続行中。


「あ、いやこれ『男女ペア』って書いてあるで! 丁度ええから二人でやろや赤仁!」


「なんでかわからないけど、これをやったら今病気で寝てるアイコに後で殴られそうな気が……」


「なにわけわからんこと言っとんねん。ほら行くで!」


「うおっ、首根っこ掴むなって! たく、姉貴はほんとに昔から変わってないな思いつきで動くとこ」


 花火に引きずられてダンジョンに入っていく赤兎。

 そして、入り口の内側で予想外の人物に出くわす。


「あら、赤兎さん。それに花火さん……でしたよね」

「どうしたんだ、まるで反応がない屍のように引きずられて」


 そこにいたのは、コートを着た金髪美人のマリー=ゴールドとアメコミのヒーローをモチーフにしたらしいマントを装備したOCCの前衛マックスだった。

『花火』

 女系ギルド『アマゾネス』のギルドマスター。

 ちょっと怖いけど面倒見のいい姉貴肌。

 (ただし、戦闘以外はカラキシなので大抵はそのままサブマスターに丸投げ)

 仲間にセクハラなんてしたらただじゃおかない。女性プレイヤー達の用心棒的存在。


(スカイ)「この人ちょっと苦手なのよね……」

(マリー)「利益交渉とか通じなさそうですからね。ちなみに、赤兎さんの幼なじみだとか」

(スカイ)「似たもの同士よね~。ギルドマスターなのに戦闘力100%だもんね。こういっちゃ悪いけどデスクワークとか苦手そうだし」

(マリー)「ちなみに、デスクワークだけじゃなく方向感覚も良くはないそうで方向音痴なためよくダンジョンで迷子になるそうです。」

(スカイ)「無駄に強いのにボス攻略に来ないのははそのせいか……」

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