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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第一章:セットアップ編
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9頁:深夜に会議はやめましょう

少しだけラノベ要素入ります。

 五年ほど前、私がまだ中学生だった頃。

 私には夢があった。それは『自分の会社』を持つという夢。


 その夢は私にとっては現実的に手の届く夢だった。現実的過ぎて夢と言うのも躊躇う程だった。


 だが、ある日突然にその夢は潰える。


 世界が歓喜した歴史的瞬間に、私は夢への道を閉ざされた。


 その日のテレビ画面を、今でも私は忘れない。


『これは歴史的発明です。ただ今急遽公開された極小回路《MBI》は従来の集積回路を遙かにしのぐ処理能力を持ち、動物実験で安全性が証明されれば脳に直接接続することも可能になり、医療分野にも画期的な応用が……』







《現在 DBO》

「で、計画とかあるのか?まず場所って言っても、家を買えるほどのお金は流石にないだろ?」


 ノルマを楽に達成して雑貨店のバイトクエストをクリアしたスカイと、思いっきり不利な取引をしてしまったライトは雑貨屋の裏に座ってパンを食べながら話している。雑貨屋で売っていた一個50bの安くて小さいパンだ。


「うーん……あるにはあるんだけど~、正直大分計画を前倒しすることになるから成功するかどうか微妙なのよ」


 微妙な言い回しだ。


「大丈夫だ、引き受けたからには何とかするつもりだし変な案でも笑ったりしないから言ってみてくれ」

「木材から造る」

「うん、無理だな。オレ大工じゃないから」


 リアル男子高校生だ。そんな建物を一から造るような技術は無い。


 だが、スカイの方は冗談のつもりじゃないらしい。


「別に洒落でも冗談でもないわよ~、ちょっと着いて来なさい。日が沈む前に見せたいものがあるのよー」


 現在は日が大分西に傾き始めている。ゲーム内での開始時間は朝7時だったが、いつの間にか半日近く経ってしまった。


「それはいいけどな……実際どうなんだ? 足は」


 ライトは先ほどどっちでもいいと言ったが、実際の所スカイは本当に足が悪いのではないかと思っている。仮に現実世界で足を骨折していたとしても仮想世界では関係ないはずなのだが、どうもそうは思えない。


 すると、スカイは少し目をつぶって考え、深くため息をついた。


「はあー、まあいいわ。どうせいつかはばれる事だし」


「じゃあやっぱり?」


「ええ、私は歩行能力に障害があるわ。何年か前に事故やっちゃってね、それから現実世界では一歩も歩けないし、仮想世界でも戦闘したり走ったりできるほどの機動力は無いわ」


「仮想世界でも?」


「ええ。精神的要因なんだろうけど、別に店の中とか壁際とかなら問題ないのよ。でも、例えば開けた場所……横断歩道みたいなとこだと……波打つのよ」


「波打つ?」

 ライトにはピンとこない表現だった。


「そのままの意味よ。平坦で真っすぐな道でも、まるで小舟の上に立ってるみたいに道が波打って感じるのよ。だから町の中なら壁に沿って歩いてれば問題ないけど、フィールドには出られない。一度転んだらさっき見せたように壁みたいな安定したものが無いと立ち上がるのにも苦労するわ」


 確かにそれでは自力でのゲームクリアは不可能だ。非戦闘員以外の道も捨てざるを得ない。


「ん?じゃあアミダくじみたいにジグザグに行かないと目的地にも行けないのか?」


「別に、道を横切る程度の距離ならゆっくり行けばいいわ」


「ちなみにこれから行く場所は近くか?」


「街の西側よ。そこそこの距離はあるらしいけど」


 このゲームスタート地点の街は『時計の街』とマップでは表示されているのだが、正直やたら広い。おそらく現実世界のちょっとした都市くらいある。


 西側というのがどこらへんかは分からないが、スカイの移動法ですぐ行けるほど近くではないだろう。


「日が暮れるんじゃないか。宿も確保しなきゃいけないし今日はやめて明日にしたらどうだ?」


「でも、先に見せておいて宿で作戦会議とかしたいのよ。時間だろうとお金だろうと無駄は嫌いだから」


「でもスカイの足じゃあなあ……安定したものって言っても、そんな都合よく動かせる壁なんて……」


 すると、スカイはライトを足の先から帽子の先までじっと見つめた。


「なんだいその眼は?」

「良い事思いついた」




 数分後。

「どうしてこうなったんだ?」

「いいから~、しっかり支えててよ~」


 スカイは道の真ん中を普通の速度で歩いている。ただし、その身体は大きく傾いて自分より大きな男の腕ににすがっているようにも見える。


 つまり、スカイはライトといちゃつくように腕を抱きしめているのだ。


「残りの時間と機動力、移動にかかるコストを全て考えれば最高の移動法よ~」


「オレの世間体とか完全に勘定に入ってないだろ」

 正直周りからの『お前らこの非常時に何やってんだ』という視線が痛い。


「大丈夫、これでもおんぶとお姫様抱っこは除外して計算してるから~」


「あー、わかったよ。とにかく早く目的地に行こう」


 ライトが歩くスピードを速めると、スカイがライトの腕に抱き着く力が強くなった。それによって何やらとても柔らかい物の感触も伝わって来る。


「もー、いきなりスピード変えないでよー、ビックリするじゃん」


「スカイさん?何やら柔らかい感触の信号が脳に受信されているのですが……」


 さり気なくオブラートに包んだ表現で胸が当たっていると示唆する。


 これで後から罰金とか言われたら大変だ。

「意識したら罰金1000b」

 今言われてしまった。


「じゃあ話題を変えようか……何がいい?」

「うーん……私の今してるブラジャーは何カップでしょうか? 当たったら500bあげる」

「えっと……たぶんCくらいだな」

「今、意識したでしょ」

「しまった!!」

「あとで500b、何か奢ってくれる?」

 Cカップは正解だったらしい。


「そんな横暴な取引あっていいのか?」

「お触り代としては安いもんでしょ」


 スカイにとってはバイト感覚らしい。とんだ押し売りだ。


「そこをすぐ右よ」

 そうこうしている内に目的地に着いてしまった。

 あとで500bは払うことになりそうだ。





 そこは荒れていた。


 治安が悪いとか、台風の後のように物がそこかしこに散乱しているのではない。


 『時計の街』の西側は広く荒野が広がり、まばらに壊れた家や木片などが落ちている。その光景は『滅びた街』という表現がふさわしい物だった。


「なるほどー……NPCの言ってた通りだわ」


「ここは何なんだ? 本当にここが目的地?」


「ええ、店に買い物に来たNPCの何人かに『家を得るにはどうしたらいいか』って質問をしてみたらみんなここを答えてくれたわ」


 確かにそこかしこに家はある。ただし、全て戸や壁に穴が空いていて、人が安住できそうには見えない。店に使うのも難しそうだ。


「『以前に街を守る魔法の効果が切れた時、大量の魔獣が西側から町に攻め入って街の西側を壊滅させた』ってNPCが言ってたわ。安全エリア襲撃イベントの事なんだろうけどー、ここならもう誰も使ってない家とか物とかがたくさんあるらしいわよー」


「つまり……あのボロボロの家を修理して使うってことか?」


 確かに、よくよく見れば屋根まで壊れた家はほとんどない。そこらへんに転がる木片で穴を塞げば粗末でも家として使えそうだ。普通ゲームで家を買うと言えばものすごく高価な買い物になるはずだが、これならそこまでの財力はなくても家が手に入りそうだ。


「加えて言うなら、ついでに棚とか看板も作ってくれると助かるわ~」

「まあ宿でも探そう。ここに居ると仕事が増えそうだ」


 だが、二人はこの後、なぜこのゲームがここまで簡単に家を得られる仕様になっているのか知ることになる。



「あー、いやもう!!ここもいっぱいじゃないの!!」

「マップに描かれてる宿屋はこれで全部だな。つまり宿屋の部屋はこの町に残ってる全プレイヤーの数より少ないって事だ」

「そんな冷静な判断いらないわよ!!」


 町中の宿屋を探したが、空き部屋は零だった。


 マップには宿と何種類かの店のマーク、それにその他の幾つかの建物には名前が書いてあった。それを頼りに宿のマークのついた建物を全て探してみたのだが••••••全滅。


 町にはまだかなりのプレイヤーが宿に泊まれずに路上にたむろしている。皆宿を取れなかったのだろう。


「つまり、町に溜まってないでさっさと冒険を始めろってことだろうな。そしてどうしてもそれが嫌なら家くらい自分で用意しろと」

「いったい、どんだけ冒険させたいのよこのゲームは!!」


 文句を言っても何も解決しない。このままでは野宿確定だ。


「まあ考え方を変えよう。今日は宿代を使わずに済んだんだと思おう。節約で黒字だろ?」

「精神的に大赤字よ」


 そんな事を言っても宿がないのだから仕方がない。


 暗くなりやることもないので、ライトは他に宿は無いかとマップを見ていたが、あることを思いついた。


「スカイ、今ならまだベットで寝れる可能性あるかもしれないぞ」

「え?」

「早くしよう。子供は寝るのが早い」

「え? どういうこと?」


 ライトはマップのある一つの家に向かってスカイを連れて行った。

 そこは何の変哲もないNPCの家だった。


「NPCの家……まさか……」

「そのまさかだよ」


 ライトはドアを三回ノックした。そして、大声で言った。


「イザナちゃーん、とーめーてー」

「思いっきり不審者ね」


「知らない人にドアを開けちゃダメとかいうのは迷信だよー」

「これ以上ドアを開けちゃいけない発言は無いと思うわ」


「大丈夫、ベットを貸してくれるだけでいいからさー、優しくするしさー」

「しかも表現が危なくなってるわ」


「ドアさえ開けばこっちのもの」

「何するつもり!?」

 完全に強盗のような台詞だった。


 そして、タイミングを計ったようにドアが開いた。

 現れたNPCイザナは何故か髪が濡れ、ホカホカしていた。しかも服も真っ白なスカートなのだが体に貼り付いて未成熟なボディーラインがくっきりと見て取れる。


「……もしかして、お風呂入ってた? 何かごめん」


 帽子を深くかぶって自分で目隠しをするライト。どうやら少女の体とは言えこのような場面には見ないようにするくらいの常識はあるらしい。


 それにしても、NPCがプレイヤーの見てない時に風呂に入っているとは驚きだ。

 タイミングや条件を工夫すれば『風呂場に乱入』みたいなイベントもできるのだろうか。


「えっと……私達、怪しい者じゃないわよ?」

 帽子を被った危ない発言をする男とその手にしがみつく女。スカイは自分で言ってても自信が無いほど怪しかった。


 その二人に対するNPCイザナの返答は……

「今日……お母さん居ないんです……」

「ギャルゲーみたいなイベントが発生した!?」


「でも、べ、別に一人でさびしいわけじゃないんですからね!!」

「さらにツンデレ!?」


「でも、今日だけ『お兄ちゃん』って呼んでもいいですか?」

「ここで妹属性!?」


「『お姉さま』って呼んでもいいですか?」

「まさかの百合バージョン!?」


「ぁ……二人はそういう仲だったんですね……」

「恋愛に敗れたサブヒロイン!?」


「泊めてもいいですけど、空いてるベッドは一つしかありません。狭い家ですがどうぞ」

「しかも最後には攻略不可のサポートキャラ!?」


 NPCがお風呂に入っていたのも驚きだが、その後の発言も驚きの連続だった。


「スカイは突っ込みのセンスあるんじゃないか?」

「私はあの子のAIにボケのセンスがるんだと思うわ」


 家に入った二人はイザナにお金を払い、部屋を借りる事が出来た。どうやらNPCの家もお金で借りられるらしい。


「よく気が付いたわねー、こんなシステム」


「まあ、割と駄目元だったけどな。他のプレイヤーがいるかもしれないし、強いて言うなら、昼間に話したイザナの家がマップで名指しされてたから気になってたんだ」


「なるほどー、昼間の会話がフラグになってたわけねー。『見ず知らずの人』じゃない『知り合い』なら泊めてもいいってね」


「たぶんな」


 ちなみに、このゲームにおいては夜の室内は一定の数の光源を用意しておけばその部屋全体が明るくなるので室内は深夜でも明るく保てる。


 こうして宿を得た二人はイザナに作ってもらった夕食を食べながら、店を出すための会議を始めた。

 会議自体はかなり順調だった。

 だが、最後に重大な問題が残った。


「ベッド、どっちが使う?」


 これはスカイが切り出した。

 この家には空いているベッドが一つしかない。スカイとライトは流石に一つのベッドに二人で寝れるような関係ではない。そもそも今日が初対面だ。


 ライトは平然と言った。

「スカイが使ってくれ。オレは自分で何とかするから」


「え……でも、ここを見つけたのはライトだし、もうちょっと権利を主張しても……」


 本当はスカイも男が女性にベッドを譲るのは当然だと考えている。


 しかし、権利を主張させたうえでベッドを使う権利を買い取って、宿を見つけてくれた埋め合わせを払うつもりだったのだが、ここまで張り合いが無いと逆に困る。


「いいんだ。オレは聖人君子のような奴じゃないが、このくらいは弁えてる」


「でも……」


「オレが勝手にカッコつけたがってんだよ。いいから今日は黙って『無償の善意』ってやつを受け取っとけ」


「……『借り』一つ。それだけよ」

 結局、埋め合わせするどころか『借り』まで作ってしまった。



 スカイが部屋に入って鍵を閉めた後、ライトはイザナに尋ねた。

「この家に他に眠れそうなところないか?」

「馬小屋なら寝藁がたくさんあります」


 確かに眠れなくはなさそうだが……

「オレは聖人君子じゃねえって言ってるのにな……」

 なんで聖徳太子やイエスキリストの生まれた場所で寝ることになっているのか、ライトもよくわからなかった。





 プレイ時間17時間時点。

 丁度ゲーム内の日付が変わる時間、時計台に触れる女がいた。


 だが、それはプレイヤーの絶対触れることのできない『裏側』の扉。通称『GM用通用口』。


 プレイヤーには入れないその扉を難なく通過した女は時計台の中にある一台の≪ノートパソコン≫に触れる。


 ここはプレイヤーには侵入不可な聖域。

 通称『第0コンソール』。


 そこで、女は誰に話すわけでもなく、パソコンの画面を読み上げる。


「ログイン人数7166名、日付変更時生存数6983名。

 最高レベルは14。平均レベルは1.1」


 女はさらに続くデータを読み、一人笑う。


「運悪くあの暴れカカシを起動したのは22名、その内ゲームオーバーは21名……あれを倒したのが1名」


 帽子を外し、リミッターを解除したカカシは難易度が上昇する。しかも、難易度が上がったカカシは装備やレベルを上げても倒せるとは限らない。


 暴走したカカシは、起動したプレイヤーのレベル、装備などのステータスに合わせた強さになる。


 倒すにはゲームに設定された数値の強さではなく、プレイヤーの本当の『実力』が試される。


 大抵のプレイヤーがパニックでその『強さ』を失い、倒れた。


 背を向けて逃げれば背後から全力の一撃を受けて死ぬ。相対しているときと背後から追いかけるときでは、当然カカシの移動力も攻撃力も違う。


 戦略的撤退だって簡単ではない。見たものは高確率で死ぬので噂もたちにくい類の仕掛けだった。


「本当はもっと被害が出てから気が付くと思ってたんだけど、やるじゃんプレイヤー側も。でも••••••」


 女は心の底から楽しそうに笑う。


「本番はまだまだここからよ」

NPCの民家は宿屋よりやや高めな設定です。

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