97頁:フレーバーテキストはよく読みましょう
第百話はクリスマスに投稿する予定なので(内容的に)投稿を調節してます。ご理解ください。
12月22日午後。
ライトは、『戦線』のギルドホーム『戦士の村』にやってきた。
そして、一番に鍛冶屋に足を運び、そこで働くチイコに会う。
「チョキちゃん、ちょっと良いか?」
「ラ、ライトさん!! ねえ、赤兎さんに負けたって本当!?」
「……ああ、誰から聞いた?」
「メールの一斉送信で赤兎さんから……その後、フレンド切られちゃったみたいで連絡着かないし……」
「フレンド権限で動きを探られるのを防ぐためか……他の奴らは? 赤兎を止めようって気はないのか?」
「あるけど……皆、それどころじゃなさそう」
チイコは声を落とす。
「何があった?」
「ギルドの中でね、今回の戦いを始めた『連合』の方と……戦争しようって言ってる人達がいるの。これからは勝手なことさせないように傘下にしてしまおうって……マサムネさんとかは、それを引き留めるのに必死で……」
「赤兎を探すのに人員は割けないってわけか……」
「あ、でもアイコさんは探しに……」
「今、赤兎にアイコを会わせるのは逆効果だ。あいつは情けない自分を見られたくないから……下手すると切腹とかやりかねない。まあ、フレンドが切られてるなら一人では簡単には見つけられないだろうが……」
「ライトさんにもアイコさんにも説得できないなら、どうすれば……」
頭を抱えるチイコに、ライトは力強く言う。
「根本的な部分を解決する。死者を甦らせるのは無理だが、無謀な特攻さえしなければ時間をかけて説得できるからな……オレが先に魔女を仕留める。協力してくれ」
「……相変わらず自分勝手だね。でも、ライトさんのそういうところ好きだよ……何すればいいのかな?」
ライトが来たときからなんとなくライトの目的を察していたらしいチイコが尋ねると、ライトはギラギラと笑った。
「魔女にやられて死んだ奴、生きてる奴のポジションと強さ、それに戦い方が知りたい。それに、魔女の城に入ってからボス部屋に着くまでにどんなことをしたか、出来るだけ詳しく聞き出してくれるか?」
《現在 DBO》
ライトはボス部屋の外にメモリを待機させ、一人でボス部屋に入る。
「分かってるな、オレが入ったら事前の指示通りに動いてくれ」
そして、部屋の中を見回し、全ての配置を頭に入れる。
巨人がティータイムをしているテーブルのような円形の部屋。
カーペットはテーブルクロス。
手前の大皿の上には山のようなビスケットやチョコレートや飴玉、中央の大皿の上にはホールケーキ、左手の器の上にはクッキー、奥のティーカップの中には紅茶……
そして、部屋の反対側には面を着けたドレス姿の少女。
そのHPはたった一段。
しかし、抑えられた迫力を感じる。
『あら一人なのね? 前の人たちは五十人くらいで来たけど、友達はいらっしゃらないのかしら?』
少女はティーカップに立てかけてあったオールのようなスプーンを掴み、杖のように向ける。
そんな少女にライトはあろうことか帽子を脱ぎ、頭を下げる。
「オレはライト、失礼ながらあなたを攻略しに来ました……〖飽食の魔女〗」
『随分と礼儀正しいのね。嫌いじゃないわ、そういうタイプの殿方は』
「ご機嫌そうで何より。では、無粋な友人が迫ってますし……始めようか」
ライトは帽子をかぶり直す。
「『ツールブランチ』」
呼び出すのは、一本の『枝』。
ライトの数多のスキルを最大活用する、ライトだけの武器。
『……まさか、檜の棒でボスに挑む殿方が本当にいるなんて、思いもしませんでした……しかし、あなたがそのつもりなら……お茶会を始めましょうか』
〖飽食の魔女〗がスプーンを振ると、部屋中の食器が震え出す。
人型のビスケットが立ち上がり兵隊になる。
十字のクッキーが鳥となって飛び立つ。
チョコレートが融け、飴玉と混ざってゴーレムとなる。
紅茶が生き物のように脈動し、スライムとなってティーカップから這い出てくる。
ケーキが浮遊し、スライドしてくる。
「魔女の特徴は人間並みのHPと優れた魔法、それに強力な使い魔……遺跡の暗号の通りだな。火力を競えば巨大レイドでも苦戦する。だが……」
ライトは巨大レイドを相手にする規模のモンスター達を前に、『枝』一本を携えて前進する。
「昔話の時代から、魔女には力比べじゃなく知恵と勇気で勝つものと決まってるんだ」
先兵はビスケットの兵隊。
数十体が隊列を組み、剣を持って襲ってくる。
アレックスの情報では、このモンスター達は単体での戦闘能力は低い。薄いビスケットの体は脆く、耐久力は一撃で砕ける程度だ。
しかし、その脆さは弱点ではなく罠。
敢えて砕かれやすく出来ており、クッションのようにプレイヤーの勢いを殺してしまう。
「雑兵を相手にしてる暇はない」
ライトは兵隊達を相手にせず、『枝』を変化させる。
軽業スキル『フェザーステップ』
体重を十分の一にする技。
忍術スキル『猿飛』
小さな足場で跳躍する技。
球乗りスキル『バランスポイント』
安定して着地する技。
折り紙スキル『紙風船』
紙で足場を作る技。
穴掘りスキル『地盤沈下』
足下の地面を陥没させる技。
兵隊達の上を駆け抜けたライトは、地面を陥没させ、動きを封じる。
ビスケットの兵隊達を封じ、自分は空中の足場に立つライトに、クッキーの鳥が群がる。
この鳥はビスケットの兵隊より硬いし速い。
こちらは威力の低い遠距離技の一発や二発では撃ち落とせない耐久力で、そのスピードで自身が粉砕するまで突進してくる。
「上から回り込んだらこいつらか……甘いな」
虫取りスキル『フライヤーキャッチ』
巨大なタモで浮遊物を捕まえる技。
相撲スキル『ウエイトブースト』
体重を倍増する技。
ペイントスキル『ペイントボム』
塗料をぶちまける技。
農作スキル『マッドフレア』
スコップで泥をかける技。
園芸スキル『ロープラント』
ツタ状の植物で相手を捕らえる技。
ネットで一度に捕まえた鳥達を地面に落とし、ビスケットの兵隊と共に泥をかけ、そこにツタを繁殖させて動きを縛る。
巨大なチョコレートと飴玉のゴーレムと紅茶のスライムが、流動的な体で襲いかかる。
ゴーレムはチョコレート部分が柔軟に動き、飴玉部分で硬く重い一撃を叩き込むパワーの強いモンスター。遠距離でも飴玉を射出してくる、要塞のようなモンスターだ。物理に強いが熱に弱い。
対して、スライムは粘性が低く水に近い。高水圧の刃と高温の蒸気を放つ。熱に強いく物理攻撃はほとんど抵抗無くすり抜けてしまうが、中にある弱点であるコアを正確に狙えば倒せる。
「どっちもクエストボスクラスか……だが、遅い」
魔力生成スキル、筆記スキル複合技能『魔法陣』
事前に書き込んだ魔法術式に魔力を流し、詠唱を省略して魔法を使う技能。
土属性魔法スキル、風魔法スキル複合魔法『石灰嵐』
石灰の砂嵐を起こす魔法。
炎属性魔法スキル、水属性魔法スキル複合魔法『熱疲労』
急加熱の後に急冷却する魔法。
光属性魔法スキル、闇魔法スキル複合魔法『光陰矢の如し』
時間経過を早める魔法。
危険物取り扱いスキル、梱包スキルコンボ技『ハードラッピング』
対象を包み込み、封じ込める技。
スライムに石灰を注ぎ、ゴーレムを溶かして冷やして両者を固め、スキルで強化した布で包み込む。
一時的だが……敵の動きを止めた。
魔女に向かって走り出すライトの前に、もはや山のようなサイズのホールケーキが六分の一に分裂したショートケーキの壁が立ちふさがる。
このケーキは防御力がかなり高い。
魔法防御力も高く、衝撃も吸収する。
そして、ホバリングのように若干浮き上がって移動し、プレイヤーを挟んで潰そうとする。
「次は大きくて速いが……小回りが効かないな。」
野球スキル『スライディング』
滑り込む技。
ダンススキル『ダンシングステップ』
踊るように身をかわす技。
クライミングスキル『ロッククライム』
壁を登る技。
走行スキル『連続縮地』
連続で高速移動を繰り出す技。
鞭スキル『アナコンダ』
鞭を蛇のように操る技。
ライトは迫るショートケーキの間をすり抜け、よじ登り、ケーキ同士の衝突を誘発しながら『枝』の変化した鞭でケーキ達を縛り上げる。
ケーキ達は立体的にぶつかり合い、互いにくっつき、すぐには動けなくなる。
そして、ボスの……〖飽食の魔女〗の前に立つ。
『!!』
「さあ、直接対決と行くか?」
『……あなた、本当に人間ですか?』
「そう言うおまえは、何なんだろうな?」
ライトは腰の竹光を抜き放ち、魔女の首に刃を当てようとするが……
ガキンッ
途中で阻まれた。
「……魔法障壁、知ってるよ」
魔女はボスモンスターとしてはHPが低い。
だが、防御力はまた別だ。
その優秀な魔法によって障壁を張り、本来のHPの倍近くの攻撃をノーダメージで受けきることができる。
ただし、それは……本来のHPとは違う。
首や胸といった弱点でも末端でも障壁に与えるダメージは変わらない。
そして、攻撃を受けて障壁が出ている間は魔女からも攻撃が出せないのだ。
取り巻きを挟んだ遠距離の弾幕戦ならそれほどの不利ではないが、接近戦ならそれは呪縛になる。
「ちょっとそれ破るぞ、ちょっと踏ん張れよ」
『そんな軽く……』
「『EXスキル』オリジナル技『カカシ拳法』……『開拓』から『荒廃』まで混成接続」
ノックバックの強い、接続前提で組み上げられたオリジナル技群。
間を空けない攻撃で障壁が常に出現し続け、魔女は一方的に攻撃されるしかなくなる。
そして、ノックバックで魔女は壁際まで追いやられる。
だが、まだ魔女に触れることはできない。
『!?』
「もうちょい」
スキルの連続使用でEPがほとんどなくなってしまったライトは、懐から小瓶を取り出し、中身を飲む。
《魔女の栄養剤》。
EPを全回復するレアな回復アイテムだ。
フレーバーテキストでは、〖飽食の魔女〗の作った秘伝のレシピで作られたものとされている。
「『大食いスキル』限定技『消化吸収』」
本来は反映に時間のかかるEPの回復を高速で行う限定技。
レアアイテムの効果もあり、即座にEPが回復する。
『!?』
「さあ……そろそろその障壁、破らせてもらうぞ」
秘伝技『熊之抱擁』
相手を強く抱き締める高威力の秘伝技。
秘伝技『燕返し』
剣で初見の相手には大ダメージを与える秘伝技。
秘伝技『猪突猛進』
タックルで移動しない対象に大ダメージを与える秘伝技。
秘伝技『アイアンクロー』
強い握力で相手の頭を掴む秘伝技。
秘伝技『破壊拳』
自分の拳が破壊される威力で突きを放つ秘伝技。
バリン!!
障壁が破られた。
『……』
「……さあ、どうする?」
ライトは『魔女』の仮面にゆっくりと手を伸ばす。
魔女は壁際に追い詰められ、逃げることはできない。
だが、何もしていないわけではなかった。
障壁が破られるまでの間に、小声で『イベントにおけるボスが言わなければならない台詞』を『詠唱』し終えていた。
『……かわりに、あなたを食べさせて』
出現する黒い魔女。
実体を持たず、一方的に相手を補食する即死技。
三十人のプレイヤーの命を奪った怪物だ。
「来たか……」
魔女は、ライトに顔を寄せ、高い鼻が触れそうなほど接近する。ライトは息を潜め、魔女がいつ動き出しても避けられるように身構える。
そして……
動かない。
『まさか……』
「やっぱり、これが正しい攻略法か」
ライトは黒い魔女を無視して残った手で〖飽食の魔女〗の仮面に触れて叫ぶ。
「『グレイティア』……それがおまえの真名だ!!」
その瞬間に、〖飽食の魔女〗の顔を隠していた仮面は砕け散った。
デスゲーム開始から100日目。
ライトは『魔女の足跡』というダンジョンの奥で、『魔女』についての記述がされた壁画を発見し、ダンジョンの道中に隠されていた暗号解読法のマニュアルに従ってそれを読み解いた。
『魔女は世界の調節者
肉体は人間
魔力は神に匹敵し
究極の魔法を手に敵を屠る
しかし、その原点は人
人と魔女を隔てるのは謎
正体を仮面に隠し、人の領域を超える
魔女の謎を解き、仮面を暴き、正体を明かせ
謎が解ければ権能は消え、魔女は人に落ちる』
「耐久力は人間並み、だが技が規格外か……それに何かすごいの隠してるな。」
ライトは暗号を読み解き、さらにその裏を読む。
「そして……倒すのは力ずくでは無理ゲーになる。正しい倒し方は……謎解きだ」
塔のように直立して動かなくなった黒い魔女。
砕け散った仮面。
拘束を逃れようともがくのを止めたお菓子達。
そして、素顔を曝されて驚愕の表情を浮かべる〖飽食の魔女〗と、その顔を見つめるライト。
「ど、どうして私の真の名を……」
いきなりの事に戸惑うようなふうに話し始める少女だが、ライトはいきなり左手でその腕を掴んで、壁に右手を突いて顔を寄せる。
壁ドンだ。
「きゃっ!!」
驚く少女の耳元に口を寄せ、ライトは囁くように言った。
「演出はセルフなんだろ? ロールプレイは無しでいい。その代わりオフレコで話がしたい……この世界の調節者(GM)さん」
同刻。
『アマゾネス』の主力である弓矢部隊とどこからか飛んでくる隕石のような剛速球を乗り越えた赤兎の前に、ジャージを着た女が立ちふさがる。
「はじめまして……って言おうと思ったんやけどね」
花火は鋭い目つきで赤兎を睨む。
赤兎は驚きの表情で花火を見つめる。
「まさか……あんたが……」
「うちも同じ気持ちや……せやから、挨拶を変えようとおもう。」
花火は、予期せぬ運命的な出会いに喜ぶように、口角を上げる。
「友あり遠方より来る、また悦ばしからずや……久しぶりやな、赤兎……いや、赤仁」
「あ……姉貴!?」




