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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第一章:セットアップ編
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8頁:不利な契約はやめましょう

ここからはどちらかというと、スカイメインのエピソードになります。

 いつだったか『仕事』をしているとメールが届いた。


『我が最大の親友へ

 突然で悪いけど、土曜のコンサートのチケット二枚手に入らない? 部活の後輩と見に行きたいの』


 出だしが仰々しい割に内容が実に自分勝手だ。

 だが、このメールのやり取りが一番の楽しみだったりする。


『我が永遠の親友へ

 いいけど、高いよ? ぼったくるよ?』


『我が最大の親友へ

 堂々とぼったくる気!? 私に恨みでもあるのかこの悪魔!!』


『我が永遠の親友へ

 恨みならあるよ~。リア充爆発しろ』


 本当にこのメル友が羨ましい。

 高校に行って、友達と遊びに行って、趣味に没頭して。本当に羨ましい。


 そんなことを考えながら『仕事』に戻る。

 『仕事』が嫌いなわけではない。


 だが、時々思うことがある。

「一度でいいから青春してみたいな~」






≪現在 DBO≫

「まいど~、また来てね~」

 ここは雑貨店の店先。


 腰ほどまで長く髪を伸ばした髪を揺らしながら、看板娘と呼ぶにふさわしい営業スマイルを振りまく店員がいる。

 現在最高金額の所持金を持つプレイヤー、スカイだ。


 先程までは武器屋で武器を売っていたが初心者用武器のブームも去ってしまったので、今度は雑貨屋で地図や食料、それにポーションなどを売って次の町に向かうプレイヤー達を笑顔で送り出しながら歩合制でまた儲けている。


 今、丁度客が切れた所でスカイは椅子に腰を下ろして一息つく。


「さて、出だしはこんなもんよね~」


 ここまでの手順はほぼ完璧だ。


 まず武器屋でバイトクエストを受けて武器を売って金を手に入れた。


 しかも、バイトクエストではオマケも付いてきた。

 バイトクエストに伴い『商売スキル』を習得できたのだ。そして、このゲームでは戦闘以外でも経験値を得ることができる。


 スカイは『商売スキル』を得てそれを通じて戦いの危険を冒さずに経験値もそこそこ手に入れた。今ではLV13、スキルも『商売スキル LV104』を習得している。


 4時間前からは雑貨屋で地図を買い、バイトで稼ぎながら

 『次の町には今日中に着ける。ここら辺のリソースは狩り尽くされる』

 という噂を流して需要を増やしてまた儲けた。


 ついでに有望そうなプレイヤーには少しだけサービスして顔も売った。

「ま、一つ問題があるとすればあいつよねー」

 8000bという大金を貸し出した、というよりぶんどって行ったあのプレイヤーだ。


 実の所、もしこのまま次の町にとんずらされたら大損だと言う事もあって、スカイは唯一地図を売っているというこの雑貨店でバイトをしながら包囲網を張っているという側面もある。


「ま、デビュー戦で死んでる可能性もあるんだけどね~」


 そうなったらここで張ってる意味も無いし、8000bは回収でいきないし大損だ。

 ぜひスカイ自身の利益のためにも生き残ってて欲しい。


「あ、フレンドリスト見てみよ~」


 ライトとはメール交換のためにフレンド登録したはずだ。


 客がいるのにメールをいじる店員は態度が悪いが、今は客が途切れているし丁度いいだろう。


 フレンドリストをみると『フレンド位置』という欄があった。開いてみるとゲートから真っ直ぐ雑貨店に向かう光点がある。


「あれ、武器屋には寄らないの? もしかして次の町へ逃げる気なのかしら~?」


 もしそうだったら雑貨店の店先にいるスカイを見たらさぞ驚くことだろう。何せ逃げようとしたら自分からその相手に向かっていたと言う事になるのだから。


「5、4、3、2、1、いらっしゃーい」

「スカイ、みーつけた」

「はい?」


 様子が予想と大きく違う。行くときにはしていなかった帽子をしているが、高い背に長い髪、スカイの知っているライトに間違いはなさそうだ。


 てっきり自分の目を疑い二度見くらいするかと思っていたが、それどころかあちらもフレンドリストからスカイを探していたみたいな反応だ。


 とりあえず、第一印象をスカイからも示しておく。

「なにその帽子!! 安っぽいしセンスわっるいわよ~!!」

 爆笑。


「……予知できたとしても直球で言われるときついな。まあ、自覚はあるからあんましつこく突っ込むな。それより、モンスターと戦って来たぞ。これはその戦利品」


「へ~、どうだった?」


「……ああ、まあ勝てない相手じゃないな。あと、強そうなプレイヤーからパーティーに誘われたけど断った。それと……」

 何か意を決する予備動作と取れるような深い呼吸をする。


 もしかして、たった2時間にも満たない時間で8000bを返すアテがついたと言う事なのか。

 それとも、モンスターと戦ってみて8000bを稼ぐのは無理だと思って≪ハードグローブ≫そのものを返しに来たのか。


「ちょっと話があるんだけどいいか?」

「はなし? お金絡みのはなしなら大好きだけど?」

「ああ、そういう事なんだけど……」

 スカイは身構えた。


 もし、8000b稼ぐアテがついたというならそれは真っ当な方法ではないだろう。なにせ、プレイヤー達の話によるとここら辺のモンスターは一体平均50b、しかもプレイヤーが一斉に狩りをしているのでポップ率も今は低い。そんな状況で8000b。そんな儲け方があるなら交渉して絶対に聞き出さなければならない。


 逆に、グローブを返しに来たなら商品価値の下がったグローブには利子をつけてもらわなければならない。スカイ自身はグローブで戦うようなタイプではないから、これは次の買い手を探す労力がかかるから少し損だ。

(さあ、どっち……)


「このグローブさ、片方だけじゃ戦いにくいんだ。悪いけど、もう一つ分貸してくれない?」

 スカイは椅子から転げ落ちた。


 スカイの予想をまたも覆したライトの発言から二分程後、スカイは気を取り直して椅子に座り直して聞いた。


「戦いにくいって、それがどのくらいなのか私が納得するような説明、および8000b貸したくなるような材料があるのかしら? 先に言って置くけど、あなたのスリーサイズとか小学校の時のあだ名とかって情報は交換材料になりませんからね」


 ライトは腕を組んで考え込むような動作をした。

「じゃあ、まず第一に……この武器、片手で使うように造られてないんだ。『インビジブルカッター』って糸を刃物みたいに使う技があるけど、グローブをつけてない方の手で糸に触れると手が切れるから両手で手繰り寄せられない」


「片手でも使えない事は無いと思うけど? 時間をかければいいわけだし」


「第二に、仲間がいるときはその仲間に引っかかると危ないから余計に操作が難しい。ヘタするとスカイの売った武器が『味方殺しの武器』という不名誉を受けるかもしれない。スカイの売った武器がだ」


 なるほど、確かにそんなうわさが広まればスカイはプレイヤー達から白い目を向けられるかもしれない。確率は低いだろうが、ライトが噂を広めようとすれば広まるだろう。


「最後に……すごく痛い。もう何回も自分の体を切ってもうトラウマになりそうだ」

「この世界での痛覚は外の世界での半分でしょ? 誇張表現しないでよ」


 メニュー内のチュートリアルの説明はしっかり読んだ。


「半分って言ってもさすがに四肢切断とか指詰めは痛すぎる。これ見てくれ」


 ライトはスキルリストを開いてスカイにも見えるように操作した。

 その中に、初期のスキルの中には無かったスキルが二つあった。


『糸使いスキル LV15』

 糸を操るスキル。罠にも応用可能。

『自傷スキル LV21』

 痛みに慣れるスキル。防御力にすこし補正が付く。


「自傷スキル?」


「自分を傷つけ続けてると習得できるらしい。病院で習得できた。いつの間にかこっちの方がレベルが高くなってたけど」


「なるほど……まあ、じゃあ片手では不便だというのは認めましょう。でも、だからって貸すとは言ってないわよー?」


「ああ……ところでさ、スカイって運動部系の部活やってた?」


 突然ライトは話題を変えた。違う話をしながら策を練ってるのだろうか。


「何よいきなり。残念ながら、バリバリ室内系のコンピュータ部だったわよ」


 スカイはうっかりリアル情報を少し流出してしまったと思ったが、まあこのくらいなら問題ないだろう。ライトの狙いが個人情報を盾にとったゆすりなら不発だ。


「でも、体育は4はあったでしょ?」


「残念、低い方だったわよ」


「じゃあさ……」


「何が言いたいのよ?早く言いなさい」



「……スカイってさ、足悪いだろ。それもたぶん日常生活に支障をきたすレベルで」



 一瞬の沈黙があった。


「……なんでそう思うの?」

 スカイは動揺を決して顔に顔に出さないように平静を装いながら聞いた。


「まず、オレがさっき急接近した時、すぐ足がもつれた。それに、普通は精神的にショックがあったとして、転げ落ちた椅子に座り直すのに二分はかからない」


「……」


「そもそも、スカイは全く町を出て戦おうとしてないんだ。最初からその道を捨ててるからこそ、こんな非戦闘員として特化した振る舞いが出来るように見える」


「だったらどうなのよ」


「否定しないんだな……」


「肯定もしてないわ」


 すると、ライトの口元には薄い笑みが浮かんだ。もしかしたら帽子の影でよく見えない目も笑っているのかもしれない。


「スカイが歩けるかどうかなんて正直どっちでもいいんだ」


「何よそれ」


 本人にとってはすごく重要な事だと思う。


「エレベーターとエスカレーターの違いくらいどっちでもいい」


「いや、それは車いすの人とかにはかなり重要な事だと思うわよ? 紛らわしいけど」


「障害者用トイレと多目的トイレくらいどっちでもいい」


「それは逆に健康な人が使えるかどうかが変わっちゃうと思うけど」


「じゃあ『employer』と『employee』くらいどっちでもい」


 片や『雇い主』、片や『雇われ者』だ。


「それは立場が逆転してる」


「多重債務者と金貸しの違いよりは重要だけどな」


「そっちの方が重要でしょ!?」



 閑話休談。

「まあ、別にスカイが歩けようが歩けまいが関係ないんだ。オレが言いたいのは、スカイが『戦闘職』じゃないって一点だけだ」


「『ゲーム攻略に貢献できないならせめて武器の提供でもしろ』って言いたいの?」


 スカイの視線が鋭くなる。だが、ライトは少し顎を引いて帽子のつばで目を見えにくくするだけでそれを流してしまう。

 交渉においてポーカーフェイスというのは強力な武器になる。帽子は表情を隠して交渉を有利に進めるための武器として被っているのかもしれない。


「違う。見当違いもいい所だ。スカイみたいな『非戦闘型』のプレイヤーもこれから必要になる。だけど、片方だけじゃこのゲームは絶対クリアできない」


「あなたは何が言いたいの?」


「取引だよ。凄く原始的な形の最初の取引。農耕民族と狩猟民族のやってた取引だ。オレはスカイ一人にできない事を手伝う、スカイはオレに必要な物を用意してくれ」


 スカイは一瞬キョトンとした顔になった。だが、すぐに体を震わし始める。


「フフ、フッ、フハハハ、ハッ……なるほど、確かに原始的だけど立派な取引だわ……となると、あなたは私の望む事をしてくれるわけね」


「しかも今ならサービス価格、『借金の権利』だけの取引だ。グローブの代金は後で必ず返す。さあ、ご注文はどうします?」


 まるでライトが商人であるかのような口調だ。


「なんでもいいの?」

「なんなりと。ただし、ゲーム攻略に関係あること限定で」


 ライトの口元は確実に笑っている。きっと、このゲーム初期段階での頼みなんてクエストだろうとなんだろうと、難易度には限度があると思っているのだろう。


 だが……


「フフフ、ハハハハ、アッハッハッハ!! 全く、私に対して二度も駆け引きを挑むなんて予想の範囲外だわ」


 答えは爆笑だった。また椅子から転げ落ちそうなほど腹を抱えて笑う。

 久しぶりだ。ここまで笑うのは何年ぶりかわからない。


「え、ちょ、オレなんか変な事言ったか?」


「いやいやごめん。こんな正々堂々と、面と向かって、正面から駆け引きを迫ってくる相手なんて何年ぶりだろ……全く、あなたといると退屈しなさそうね」


「それは褒め言葉……か?」


「うん。まあそうね……さっきの言葉をお返ししましょうか『口から出た言葉は回収できない』それでいいわね?」


「……ああ」

 スカイはライトに負けないくらいの笑みを浮かべた。それも悪魔じみた意地の悪い笑顔だ。


「いいでしょう。じゃあ私の注文は……」

 『なんでも願いをかなえる』そんな言質は簡単に与えていいものではない。

 そして、スカイが知る限り世界で一番それをやってはいけない相手はスカイ自身だ。


 スカイは高速タイプで『契約書』のメールを作成してライトに送信した。

「『商売スキルLV100』から持つことが可能になる最大のアイテム。『プレイヤーショップ』よ」


「ショップって……店?」


「さあ、どうするの? 店名を言ったらプレイヤー全員がわかるくらいになるまで付き合ってもらうけど」


 『口から出た言葉は回収できない』。ライトがスカイに使った手だ。

 仮にここでライトが約束を反故にすれば、それはスカイの勝利だ。


「まったく、下手に言質なんて与えるもんじゃないな」

 ライトはメールを送り返した。 

 

 ライトは後に『スカイに下手な言質を取られると豪い目に遭うぞ』と赤兎に語っている。




 同刻。


 『時計の街』の中心の時計台を見つめるプレイヤーがいた。


 中心の時計台はどこから見ても真正面に見えるという物理的にはあり得ないゲーム仕様だ。


 そのプレイヤーは時計台を囲んでいる広場に二つの≪鏡≫を置く。


 時計台を中心として直角になるように角度を微調整する。


 時計台を中心に一つが真南、一つが真東。そして自分は北に移動する。


 これで二つの鏡を通して時計台の真後ろを見ることができる。そう考えたのだ。


「あの裏、何かありそうですからね」


 二つの鏡を通して見た時計の裏側の風景はかなり小さくなる。だが、そのプレイヤーは正面とは違うデザインの裏側を視認できた。


 実験に成功し、思わず笑みを零す。

 そこには簡素なデザインの『扉』が映っていた。

説明に入ってませんが、設定ではスキルのレベルが100になるとその職業になれます。

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