幽霊が誰かを憎むまで。
ある日、あたしは死んだ。
とはいっても、別に殺人事件とかそういうのではない。
アレだ。交通事故というやつだ。
ちょっとボーッとしていたら、いつの間にか道路に出ていて、そこに丁度やって来た車に、
キキーーーッ!! ドンッ どちゃっ
、とやられたのだ。
気がついたら、あたしだったモノが足下に落ちていた。
周りには、人だかりができ、救急車が来た。
突然自分の身に起きた出来事に、まだ頭が混乱して全然働かないが、ひとつわかった事がある。
あたしは、死んで、幽霊になったのだ。
ずっとその場にいるのも、なんか嫌なので、とりあえずいつものように学校に行こうか。
……あたしは高校生なのだ。勉強が大事なのだ。
そう、死んでいる暇なんて、ないのだから。
………現実逃避100パーセントなセリフだな、これ。
学校に着いたら、いつも通りの光景が広がっている。
いつも一人で本を読んでいる上川さん。
何やら先生の悪口を言っている山口君たち。
あたしの友達の長岡百合ちゃんと山田萌ちゃんは、あたし抜きで楽しそうにおしゃべりをしている。
あたしの幼馴染みで、この学校一の美形だともいわれる倉田友斗も、のんきにあくびなんかしちゃっている。
平和だねー。
あたしがこんなことになっているとも知らないで。
そして、朝礼の時間。
真っ青な顔をした先生が入ってきて、言った。
「白崎紫さんが、今朝、車に引かれて、亡くなりました」
ざわ、ざわ、ざわ………
教室がざわめいた。
まあ、そりゃそうなるか。
知り合いが死ぬなんてこと、めったにないもんね。
ところで、百合と萌は、どんな顔をしているのだろう。
ちょっと覗いてみよう。
「嘘でしょ……」
百合のほうは、戸惑いを隠せないという感じだ。
萌のほうはというと、
「………」
無表情だった。何か思うところはないのか。
友達でしょうに。
友斗は「アイツが……?」、とつぶやいて、頭に手をあててうつむいている。
やめてよ。そんなところを見せられたら、胸が痛くなってくるから。
友達たちは、一日中そんな感じだった。
本当に、あたしは死んじゃったのだろうか、ほんとはドッキリだったんじゃないかって、そう信じていたかったのだけど。
触れることはできないし、あんな顔させちゃうし、
うう……。なんだか哀しくなってきた。
あはは……。
なんで、あたしが、こんなめに。
放課後、友斗と萌たちが何か話していた。
どうやら萌は、友斗を励まそうとしているようだ。
「倉田君。そんなに落ち込まないで」
その言葉を聞いているのかいないのか、いや、あの状態の友斗ならたぶん、何も聞こえていないだろうな。
「悪い、もう帰るから……」
そう言って、友斗は教室を出ていった。
そして、教室に残されたのは、萌と百合だけになった。(あと、一応あたしも)
百合が何かもの言いたげに萌を見ている。
「何?」
「萌、紫が……死んだのって、やっぱり」
「ええ。昨日のアレが原因よ」
萌が笑ってそう言う。
昨日のアレって何のこと?
「アレは本当に効果があるって、最初に言ったじゃないの」
「っでも。でも……」
なんだ、なんの話をしている。
「何よ。百合もあの子が倉田君に近付いて邪魔だって、ウザイって言ったじゃない」
「でも……」
あの子って。あたしのこと?
ウザイって……
「でも、本当に……死んじゃう…なんて……」
あたしは萌たちに何かされた、ということ………なの?
そのせいで、あたしは、こんなめに、あって、いるの?
「呪いをかける、っていうのはね、遊びじゃないのよ。そんなつもりじゃなかった、じゃないの。それに、ほら、倉田君に近付く邪魔者はいなくなったのよ」
「………」
萌と百合は、あたしのこと、そんな風に思って、いたの?
友達だって、信じてたのに。
しんじてたのに、
あたしのこと、邪魔だって、じゃまだから、
そんなことで、あたしの、これからを、未来をうばったんだって
~~なんだか、幽霊始めた時よりも頭が働かない。
二人が
「ほら、もう帰りましょう」
憎い
「……うん」
こいつらさえ、いなければ、
こんなやつらが、いるから、あたしは、
そうだ
けしてしまえばいい。
そうすれば、あたしは……
次の日の朝礼の時間。
またしても真っ青な顔で入ってきた先生は、こう言った。
「昨日、長岡百合さん、と山田萌さんが、亡くなりました……」
最後まで、読んでいただき、ありがとうございます。