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異世界の学生剣士  作者: 夜神
アルカディア脱出編
2/39

01

 突然、装飾が施された王冠を身に付けている威厳のある人物が玉座から立ち上がった。そして俺達に勇者としてこの国を救えと告げてきた。俺達はたださえ何が起きてここにいるのか分かっていない状態だ。


「な……何なんだよ!?」

「ど、どういうわけなの?」

「訳が分かんねぇ……」


 クラスメイト達は徐々に騒ぎ始めた。自分よりも困惑している人間がいる所為か、鈍りかけていた思考力が戻ってきた。王冠を身に付けていることからこの場で一番偉い人物であることは分かる。


「貴様ら騒ぐな! 王の前であるぞ!」


 側近と思われるもうすぐで老人と呼べるだろう人物叫んだ。騒いでいたクラスメイト達はぴしゃっと話すことをやめた。


「よい、この者達は見た限り現状が呑み込めていないのだろう。勇者として国を救えといきなり言ってしまったが、まず最初に説明をするべきだったな」


 王はそう言った後、先ほど怒鳴った側近に手で合図した、側近は俺達の目の前に来ると一度咳払いして話し始めた。


「貴様達はこのアルカディア王国に召喚された勇者と従者達だ。貴様達の役目はこの国をあらゆるものから救う事だ」


 俺達が勇者でこの国を救うために召喚しただと……何を勝手なことを言っているんだ。了承を得る事な

くここに来させたのにも関わらず、知りもしない国を守れだと。俺と同じようなことを思ったのか、クラスメイト達も小声で何か呟いている。


「もちろん、その度に結果を残せばそれ相応の望みは叶えてやろう。何やら騒いでいるが、今から魔王を討伐しに行けなどといった命令をするつもりはない。勇者、勇者の従者である貴様らとはいえ見たところ武器も持っていない。色々と準備が必要であろう」


 この世界には魔王がいるというのか。いや、いなければ勇者を召喚する必要はない。勇者と魔王はコインの表と裏の関係と呼べるようなものだ。

 本当は色々と言ってやりたい気持ちがあるが、周囲には武装した兵士達がいる。俺達には側近が言ったように武器はない。制服を着ているだけだ。そもそも武器を持ったことすらない俺達に武器があったところで何も出来ないだろう。


(現状の話をまとめると、俺達の役目はよくある話のように最終的に魔王を討伐するということか)


 それを達成すれば俺達は元の世界に……帰れるという保障はどこにもない。そもそも魔王を倒すまでに命を落とす可能性は高いのに、そんな未来の話を想像できるはずがない。


(……待てよ、いま俺が考えたことはどこかおかしいんじゃないか?)


 側近は魔王を討伐しろと命令するつもりは今はないと感じられる言葉を言った。その前に側近は何と言った? 

 俺達はアルカディアという国に召喚された勇者と従者。教室にいた生徒全員で40人ほどいる。あちらの立場で考えれば、これだけ人数がいれば全員が勇者ではなく、勇者と従者だと思うことにおかしくはない。


(……ここは特に問題はない)


 その次に言ったのは……この国をあらゆるものから救うこと。一見おかしくないように思え……ない。もし魔王を討伐することが最終目標なら魔王を倒してこの世界を救えでいいはずだ。まるで言い方が魔王だけでなく、この国の敵となる存在全てから救えと言っているようだ。

 いや実際そうなのではないのか。その後言った事はその度に結果を残せば相応の望みを叶えるということだった。その度という事は戦いが起きる度ということだろうし、望みとは褒美とも解釈することができる。魔王の討伐だけならこの国から離れるはずだ。つまり王達に望みを言える状況ではない。


(……こいつらは俺達を勇者や従者として扱うが、本当の狙いはこの国の戦力にすることじゃないのか)


 例え魔王を倒せたとしても元の世界に帰るという望みは王達は叶えない気がする。こいつらからしたら魔王を倒せる戦力を自国に置いておきたいに決まっている。準備に時間がかかるとか言って何もしない可能性が高い。


(……まさか帰る方法がないってことは…………その可能性は充分ある)


 自分達のことだけ考えて育った人間なら他人の都合など考えるはずはない。ましてや王族ともなるとなおさらだ。召喚するだけで帰還の方法まで考えているだろうか……。


「さて、貴様達の中で勇者である者は誰だ?」


 負の方向に考えていると側近が声を発した。それにより我に返ることができた。まだ俺はこの世界のことは何も分からない。

 召喚の儀式か魔法かは知らないが、それをこいつらが作ったものでないのなら、普通はベクトルが逆のモノも作るだろう。今は現状のことに集中しよう。


「勇者は名乗りを上げぬか」

「……勇者は俺だ!」


 状況も分からないのに名乗り上げるやつはいない……と思っていたが、ある人物が勇者と名乗りを上げた。

 その人物の名前は天宮 祥吾(あまみや しょうご)。運動神経抜群に加え、整った容姿をしている。外国人の血が混じっているらしく髪色は金髪、瞳も俺のように黒ではない。学校中の女子だけでなく、他校の女子からも人気のあるやつだ。男子からもそれなりに人気があるが、美少女に近づく男子には絡むという話を聞いたことがある。

 正直に言って天宮はなんで自分を勇者だと言ったのか分からない。勇者というなればそれだけで命の危険が増す可能性があるんだぞ。従者なら任される任務などは勇者よりも多いだろうが、危険性は勇者の立場で行うものより低い可能性が高い。


「……ふむ、確かに貴様は勇者と思える」


 側近は何を持って天宮を勇者と判断したんだ? 見た目だけで勇者と判断したというのか。一目見ただけでその人物の潜在能力などが分かるならまだしも、天宮を上から下まで見たようにしか見えなかった。どう考えても見た目で判断したようにしか思えない。


「他にはおらぬのか? これだけ人数がいれば他にも勇者がおるのではないか?」


 側近が問いかけてきたが、天宮以外は誰も名乗りを上げようとはしない。しばらくの間沈黙が続いた。側近はまあいいといった感じに息を吐いた後、再び口を開いた。


「勇者はこの場に残れ。他の者達はあの兵士について行け」


 側近は周囲にいた兵士を指差しながらそう告げた。その兵士はついて来いと俺達に言うと歩き始めた。クラスの連中はこの場から動こうとはしない。


「…………」


 誰かが行こうとしなければ動く気配がない。

 周囲には武装した兵士がいる。このままでは機嫌を損ねる恐れがある。そうなっては連行される形になるか、手荒なことをされる可能性がある。

 俺が歩き始めると、後方から徐々に足音が聞こえ始めた。足音の大きさは歩く人数が増えているのでどんどん大きくなっていった。



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