プロローグ
オリジナル作品を書き始めました。
初めてのオリジナルなので至らぬ点もあると思います。
目が覚めると視界に広がるのは自室の天井。いつもと変わらない光景だ。上体を起こし、欠伸をしながら背筋を伸ばす。眠気はまだあるが、学校に行かなければならないのでベットから出て着替え始める。ブレザーを肩にかけ、かばんを手に持ってリビングに向かう。
「おはよう……っているわけないか」
リビングに入って挨拶をするが、誰もいない。しかしこれがいつものことであり、天涯孤独というわけではない。父親は俺が物心つく前に亡くなったそうだが、女手1つで不自由なく生活を送る事ができるほど仕事ができる母親がいる。仕事ができるということはそれだけ仕事を任されるということなので、早朝から仕事に行くに決まっている。
「ちゃんと朝食を作ってくれるだけで感謝だな」
ブレザーとかばんを自分の座るイスの隣に置いて朝食を食べ始める。朝食を食べ終わると、牛乳を飲みながら時間を確認する。
「……まだ時間あるし片付けとくか」
食器を手に持ってキッチンに向かう。親がいない時間が多かったのでそれなりに家事はできる。食器洗いは小学生の手伝いレベルだから出来て当たり前と思うかもしれないけど。後片付けを終えると、洗面台に行って歯磨きを済ませる。
「……まあ急がなくても遅刻はしないな」
リビングに戻ってブレザーを着ながら時間を確認する。緩めていたネクタイをきちんと締め、かばんを右手に持って玄関に向かう。
「……これでよし」
忘れ物がないか確認し終え、玄関に鍵を閉める。鍵を落とさないようにかばんに入れると、学校に向かって歩き始めた。
*
毎日のように使う通学路で学校に向かう。学校に近づくにつれて生徒達の姿が増えていく。友人と話して楽しく登校している生徒もいれば、俺のように1人で黙々と登校している生徒もいる。大抵は朝からテンションが高いやつは前者であり、高くないやつは後者だ。
「……よ~」
「…………」
「おはよ~!」
「……!」
急に背後から大声で声をかけられた。振り返ってみると誰もいない……と思ったが、視線を少し下に向けるとクラスメイトの女子がいた。
「……朝田か」
朝田 光。顔や体型から1、2歳年下に見える容姿をしており、髪はウェーブのかかったロング。常に輝いて見えるくらいの笑顔を絶やさないおしとやかなやつだ。
この場に立ち止まっていたら遅刻する可能性があるので、振り返るのやめて歩き始める。すると朝田は待てという意味が込められた声を発した後、駆け足で俺の隣に来た。
「神矢くん、挨拶されたのに挨拶を返さないとはどういうことですか?」
「俺なりに挨拶はした」
「あれを挨拶とは普通言いませんよ」
朝田は子供のように頬を膨らませながら言ってくる。笑顔を絶やさないやつと言ったが、感情はすぐに顔に出るので常に笑って見えるというのが正解だ。
「それに前から思ってましたけど、神矢くんはわたしに素っ気ないです」
「別に親しいわけでもないだろ」
ただのクラスメイトという関係なら挨拶と事務的な会話をくらいする程度だろう。素っ気ないと言われるのはおかしいんじゃないだろうか。それにこいつは常に笑顔だから人の警戒心を和らげるのだろう。そのため情報通な一面を持っている。親しく接していると知らない間に弱みを握られそうで怖い。
「なっ……わたしたちは友達ではなかったのですか?」
「名前くらいしか知らないやつを友人とは普通は呼ばん」
「……わたしは神矢くんのこと知ってますよ」
「ほう……俺の何を知ってるんだ?」
強気に返答しているが、内心は恐怖を覚えている。素っ気ない会話しかしてないのにいつ俺のことを知ったというんだこいつは。
「男の子ってことと同い年ってこと……無愛想ってことです」
「…………」
朝田の言葉に何も言えなかった。知っていると言っておきながら、内容は見た目から分かったりすることだけだった。これ以上朝田と話していても得るものはないので歩く早さを早めた。
「ちょっ、急にペース変えないでくださいよ~」
朝田は再び俺の隣に並んできた。なんで人の隣に来るんだこいつ。まさか他に友人がいないのか……いや俺も友人と呼べる仲じゃない。
そういえば女子と並んで登校って良からぬ噂が立つ可能性があるよな……そうか、朝田はそうやって俺の弱みを握るつもりか。
「え、何で急に走るんですか!?」
朝田が何やら騒いでいるが知った事ではない。人を陥れようとするやつの隣に居てたまるか。できるだけ速く走って教室に向かった。
*
自分の教室に着くと一目散に自分の席に座る。朝から余計な体力を使ったから疲れた。少しの間机の上にグタ~としていたが、課題を出さなければならないので席を立つ。
「あっ、おはよう神矢くん」
課題を出しに行くと、課題を並べ替えていたクラスメイト話しかけてきた。綺麗な大きな瞳にシュっとした鼻。文句なく美少女と呼べる整った顔をしており、八頭身とスタイルも良いクラスメイト、高倉 真奈。
「おはよう」
「課題はそこに置いておいていいよ」
「そうか」
高倉が指差した場所に課題を置いて、さっさと自分の席に戻る。平凡な俺からすれば高倉は高嶺の花と呼べる存在。付き合いたいと思うようなことはないので別に話す事は問題ない。だからと言って長く接しようとは思わない。異性と接するのは少なからず緊張するものだし、男子達から嫉妬の視線で見られる。
「神矢くん、さっきはよくも置いて行ってくれやがったですよ」
「なんで俺の席に来る? 自分の席に行け」
「いくらなんでも素っ気なさ過ぎますよ。神矢くんはわたしのこと嫌いなんですか?」
「…………別に」
「悩んだ挙句、好きでも嫌いでもない返答ですか……」
朝田が不機嫌そうな顔に加えてジト目で睨んできた。親しくないということは好きではない。だからといって何かされたというわけでもないので嫌いではない。いや余計な体力を使わされたことと、弱みを握ろうとしてそうなので関わりたくない……しいて言えば嫌いなのだろう。
「ほ~らお前ら、いつまでも突っ立ってないで席に着け。HR始めるぞ~」
俺たちのクラスの担任が注意しながら教室に入ってきた。これからいつもとほとんど変わらない学校生活が始まる。
HRが終わって教材を机に出して待つこと数分、担当の教師が来て授業が始まる。授業を退屈と思う者もいれば、将来の夢を明確に持っているので真剣に受ける者もいる。部活動に励んでいるやつは前者にいるやつが多い。俺は部活動をしていないが前者気味だ。教師が黒板に向かっている間、窓の外を見ながら授業に関係ないことを考えているのだから。
「…………!」
教師が話しているときはちゃんと聞き、ノートもきちんと取る。それで教師が黒板に続きを書き始めたら少しの間別のことを考える。それを繰り返していたら突然床が光り始めた。強烈な光を遮るために瞼をぎゅっと閉じ、その目の前に腕を置く。教室からは悲鳴も上がっている。
「…………なっ……」
徐々に視界に映る瞼の裏が暗くなっていった。光が収まったと思い瞼を開けると、視界に広がったのは見慣れた教室ではなかった。それに教室にいた連中だけでなく、中世の貴族のような服を着た集団がこちらを見ていた。
「……貴様達、勇者としてこの国を救え」