表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄は予定通り、破滅だけが予定外でした  作者: あめとおと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/11

第9話 断罪される側



 王城・大広間。


 その光景を、リシェルは静かに見つめていた。


 ――既視感。


 豪奢な天井。

 並ぶ貴族たち。

 中央に空けられた空間。


 


 かつて。


 ここに立っていたのは、自分だった。


 


(同じ場所……)


 


 違うのは、立つ人物だけ。


 


 中央にいるのは――


 


「ミレイユ・ローゼン」


 


 王の低い声が響いた。


 


 白いドレスの少女は震えていた。


 守られるはずだった位置に、もう誰もいない。


 


「王太子への精神干渉、および貴族社会への混乱誘発について、説明を求める」


 


「わ、私は……そんな……」


 


 彼女の視線が助けを求めて彷徨う。


 


 だが。


 誰も目を合わせない。


 


 かつて彼女を囲んでいた貴族たちは、一歩距離を取っていた。


 


 魅了が解けた世界。


 


 それは、残酷なほど静かだった。


 


 前へ進み出たのはクラウスだった。


 


 王太子クラウス・レオンハルト。


 


 彼は長く息を吐く。


 


「……ミレイユ」


 


 呼びかけに、少女の顔が明るくなる。


 


「殿下! 私は――」


 


「近づくな」


 


 その一言で、空気が凍った。


 


 クラウスの瞳はもう揺れていない。


 


「私はようやく理解した」


 


 ゆっくりと言葉を紡ぐ。


 


「君を守らねばならないと、理由もなく思っていた」


 


 拳が震える。


 


「疑問すら抱かなかった」


 


 彼は目を閉じた。


 


「……あの日も」


 


 リシェルを見る。


 


「証拠も確かめず、君を断罪した」


 


 大広間が静まり返る。


 


「私は王太子でありながら、判断を放棄した」


 


 その声は、後悔を含んでいた。


 


「それが魔術によるものだったとしても――責任は私にある」


 


 リシェルは何も言わない。


 ただ静かに聞いていた。


 


 クラウスは再びミレイユへ向く。


 


「答えてくれ」


 


「君は……最初から私を操っていたのか?」


 


 沈黙。


 


 少女の肩が震える。


 


「……違う」


 


 小さな声。


 


「最初は……少しだけだったの」


 


 ざわめき。


 


「みんな優しくなって……怖くなくて……」


 


 涙が零れる。


 


「だから……やめられなかった」


 


 それは悪意というより。


 依存の告白だった。


 


「私、ただ……愛されたかっただけなのに……」


 


 誰も動かない。


 


 その言葉に共感する者もいた。


 だが。


 


 アルヴィンが一歩前へ出る。


 


「結果として国家転覆未遂だ」


 


 冷酷な現実。


 


「感情は罪を軽くしない」


 


 ミレイユの顔が崩れる。


 


「どうして……!」


 


 叫び。


 


「どうして誰も助けてくれないの!?」


 


 その視線が、リシェルを射抜いた。


 


「あなたのせいよ!」


 


 広間がざわめく。


 


「あなたが全部壊した!」


 


 リシェルは静かに答えた。


 


「いいえ」


 


 一歩、前へ。


 


「壊れたのは、“本来存在しなかったもの”です」


 


 静かな声。


 


「魔術で作られた好意は、本物ではありません」


 


 ミレイユの涙が止まる。


 


「だから世界は、元に戻っただけです」


 


 残酷なほど優しい言葉だった。


 


 王が杖を鳴らす。


 


「ミレイユ・ローゼン。王宮魔術院による拘束調査を命じる」


 


 騎士が進み出る。


 


「いや……」


 


 少女は後退する。


 


「いやぁ……!」


 


 崩れ落ちた。


 


 その姿は、かつて守られていた聖女候補ではない。


 


 ただの――孤独な少女だった。


 


 連行されていく背を、誰も追わない。


 


 長い沈黙。


 


 そして。


 


 クラウスがリシェルの前へ進み出た。


 


 深く、頭を下げる。


 


 王太子が。


 侯爵令嬢へ。


 


 大広間がどよめいた。


 


「……謝罪しても許されないことは理解している」


 


 低い声。


 


「それでも言わせてほしい」


 


「リシェル。私は君を傷つけた」


 


 彼女は少しだけ目を細めた。


 


「殿下」


 


 静かな声。


 


「婚約破棄は予定通りでした」


 


 クラウスが顔を上げる。


 


 リシェルは微笑んだ。


 


「ですから、謝罪は不要です」


 


 その言葉の意味を、彼は理解できない。


 


 だが。


 


 アルヴィンだけが、小さく息を吐いた。


 


(……やはり)


 


 彼女は最初から読んでいた。


 


 すべてを。


 


 王城の窓から光が差し込む。


 


 断罪は終わった。


 


 そして物語は、終幕へ向かう。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ