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婚約破棄は予定通り、破滅だけが予定外でした  作者: あめとおと


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第6話 王太子の崩れた瞳



 王城の回廊は、夜になると別の場所のようだった。


 昼間の華やかさは消え、石壁は冷たく沈黙している。


「本当に呼び出しとは珍しいですね」


 リシェルは淡々と言った。


 隣を歩くのは――


 アルヴィン・グレイフォード。


「向こうが限界なんだろう」


 彼は短く答える。


「王太子殿下が、な」


 


 足を止める。


 重厚な扉。


 王太子の私室だった。


 


 侍従が静かに頭を下げる。


「……お待ちです」


 


 扉が開く。


 


 そして。


 


 リシェルは、わずかに目を見開いた。


 


「……クラウス殿下?」


 


 そこにいた王太子は。


 以前の彼ではなかった。


 


 髪は乱れ、目の下には濃い隈。


 机には触れられていない書類の山。


 


「来たか……リシェル」


 声が掠れている。


 


 断罪の日。


 あれほど確信に満ちていた男とは別人だった。


 


「……何が起きています?」


 彼女は率直に聞いた。


 


 クラウスは答えない。


 代わりに呟いた。


「おかしいんだ」


 


 沈黙。


 


「最近、記憶が……繋がらない」


 


 アルヴィンの視線が鋭くなる。


 


「ミレイユ嬢と会った後ですか?」


 


 王太子の肩が跳ねた。


 


「なぜそれを」


 


 確信。


 


 リシェルは静かに近づいた。


「殿下。質問に正直に答えてください」


「……ああ」


 


「私を断罪した理由を、今も同じ言葉で説明できますか?」


 


 長い沈黙。


 


 クラウスの唇が震える。


 


「……できない」


 


 部屋の空気が変わった。


 


「確かに、あの日は……確信していた」


 彼は額を押さえる。


「だが思い出そうとすると、霧がかかったようになる」


 


 リシェルはアルヴィンを見る。


 頷き。


 


「魅了系統の精神干渉ですね」


 アルヴィンが断言した。


 


「魅了……?」


 


 王太子の顔から血の気が引く。


 


「ありえない……彼女は聖女候補だぞ」


 


 リシェルは淡々と言った。


「だからこそ、です」


 


 彼女は小瓶を取り出した。


 


「殿下。これを」


 


 魔力安定薬。


 だが本来の用途は違う。


 


 クラウスが飲んだ瞬間。


 


 ――ビキッ。


 


 空気が軋んだ。


 


「っ……!」


 


 彼が頭を抱える。


 


 断片的な記憶が戻る。


 


 涙を流すミレイユ。

 周囲の視線。

 怒り。

 確信。


 


 そして。


 


 不自然なほど強い“守らねばならない”という衝動。


 


「……なんだ、これは」


 


 彼は震えた。


 


「私は……誘導されていたのか?」


 


 リシェルは答えない。


 代わりに言った。


 


「殿下は愚かでした」


 


 真っ直ぐな言葉。


 


「ですが――操られていた可能性があります」


 


 クラウスの拳が震える。


 


「……私は」


「まだ終わっていません」


 彼女は遮った。


 


「問題は、誰がこれを仕組んだかです」


 


 その瞬間。


 


 アルヴィンが低く呟いた。


 


「第二王子殿下が、最近妙に動いている」


 


 沈黙。


 


 クラウスが顔を上げる。


 


「……セドリック?」


 


 初めて。


 王太子の目に恐怖が浮かんだ。


 


「まさか……」


 


 リシェルは静かに微笑んだ。


 


「ようやく、盤面が見えてきましたね」


 


 氷の令嬢の瞳が、初めて戦意を帯びる。


 


 これは復讐ではない。


 


 ――政争だ。





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