ユニコーンVS非処女
結局、バニースーツはもう一度着る羽目になった。
ティアラが、男には見せたのに私には見せないとはどういう事だ的な事を言われてしまえば仕方がない。
夜、宿屋の女部屋で気乗りはしないが見せる羽目になった。
いくら相手がティアラとはいえ、この格好は恥ずかしすぎる。
テンションの上がる彼女に私が出来る事と言えば。
「ヘイムが見てるから……」
という弱弱しい抵抗だけだ。
その恥じらいが余計に興奮させたのか、夜会話は弾みに弾み。もうぺろぺろだけでは済まなかった。つまり何が言いたいかと言えば。
処女ではなくなった――という事になる。
その後、私を引き合いに出すなとヘイムからはツッコミを受けたが、君はそんな事言いながら布団の中からガン見してましたよね。このむっつりめ。
と、いうような事があって翌日。ゴルドから衝撃の情報が届けられる。
「昨日情報収集したところによると、今から行くCランクフィールドダンジョン<静かなる雪原>でユニコーンが発見されたらしい。
有名なモンスターだ。角の生えた馬、といえば分かるか。モンスターながらに聖属性を備えた清らかな存在。
ユニコーンの血には寿命を延ばす力があると言われていて、これは賢者の石の生成にも役に立つのではないかと思うのだ。
知っての通り、ユニコーンは乙女の前にしか姿を現さないと言われていて……どうした、リーダー? なにか言いたそうだが」
気まずいが、冒険に関わる重要な情報なので話すしかない。
「いえ、ちょうど昨日乙女ではなくなりまして……」
それを聞いて鎧の中で反響するような溜め息一つ。
「君達。始めて冒険する場所にいく前日にスタミナを消費するような行動を取るのはやめなさい」
という、至極まっとうなツッコミを頂いてしまった。
「そうだぜ。ゴルドさんは昨日情報を仕入れてくるって言って夜にも関わらず外に出て行ったんだぜ。見習えよな」
……ほう、夜に。
「ゴルドさん」
「なんだね」
「娼館行きました?」
「行ってない」
「そうですか。黄金の鎧すごいですね」
「それほどでもない」
やはり無実だったかもしれない。
しかも黄金の鎧着てるのに謙虚にそれほどでもないと言った。
じゃあ正解はという事でティアラの方を見てみると。
「ギルティ」
との事で有罪。
情報収集とは娼館で女の子か、客の同業者から聞いた話のようだ。
「仕方ないだろう! 私だけ独り身だぞこのパーティ! リーダーにはティアラがいて、アルフにはヘイムがいる! 娼館くらいいくさ! ああ、いくさ!
それでメイン火力がユニコーンに会えないのではないかとなると、さあどうするかが大事ではないのかね!?」
などとキレだした。性は人を狂わせるなあ。
「わ、私はアルフとはそういうんじゃ」
「あ? そういうのってなんだ?」
もう! とアルフの背中を叩くヘイム。
「いってぇ! 何すんだよ!」
と怒り出すアルフ。
もうめちゃくちゃだよ。
その眩しすぎる光景に、ゴルドは呟くのだ。
「……非童貞の上に非処女の私はどれくらいユニコーンに嫌われるのかね?」
え、それってまさか。男同士で……?
衝撃、という顔をして口に手を当てた私にゴルドは弁明した。
「ち、違うぞ! 女の子にだね! してもらった経験があるという話でね!?」
下がっていくゴルドの信頼度と、朝っぱらからこの話の流れは本当良くないと思った私はリーダーとして仕切り直す。
「はい。ユニコーンは最悪諦めます。
恐らくフィールドダンジョンでは他の冒険者達もユニコーンを探しているはずです。そんな中、さすがにヘイムを一人で囮にって訳にはいきません。
元々ユニコーンを探す計画は無かった筈です。欲をかかずに堅実に行きましょう」
その発言に、それぞれが同意する。
ただし――
「愛の神の名の元に、あらゆる性行為は肯定されてます! 大丈夫ですよ!」
と、フォローを入れてくるヘイム。うん、混ぜっ返さないで?
◆
そうして我々は魔導車に乗り、草原を往く。
すると、何かの区切りでもあるかのように雪が積もっている場所に辿り着いた。そして、ここから先は通る事はできない、という感覚に襲われる。
ここがフィールドダンジョン<静かなる雪原>か……
「ゴルドさん」
「ああ」
ゴルドが魔導車から降りてギルドカードを草原と雪原の境界線上に当てると、何かが割れる音がして不思議な感覚は消え去った。
私達は、はじめてのフィールドダンジョンに侵入する。
さて、私達の冒険は早速ちょっとピンチになっていた。ダンジョンに入った時、なんか嫌な予感がするとは思ってたし、アルフも言っていたのだ。なんか嫌な予感がする、と。
しかしそれは、ダンジョンに入るのだから当然くらいに思っていたのだが……
「敵の数が、多い……!」
まだ外周部。
基本的に中央に行くほど強いモンスターがいるというのが常道。
しかし、それにしてはあまりにも魔物の数が多いのだ。
私はいい、しかし、ティアラを守りながらとなるとこの数は大変だ。
彼女に持たせた護符にも限りがある。出来る限り私が守らねば……
『はっはー! これだけ数がいるとこれはこれで! 雑魚相手でも楽しいなあ!』
『ううー、緊張するなあ人を守りながら戦うって』
『それでもやるしかないわよ。それとも撤退命令だす? アタシは別にいいけど』
今回の目的は錬金素材集め。ともすれば、魔力の圧をぶっぱして殺すと素材として変質してしまう恐れがある。
魔力の圧ぶっぱとは、私が伝説の魔法使いの霊に何度か殺された、純粋な魔力の塊で相手を圧殺する戦い方の事である。
なので出来る限り普通の物理攻撃や魔法で戦っているのだ。それならよっぽど凶悪な魔法でも使わない限りは素材は変質するなんてことはない。それでも焦げて品質が落ちる、くらいはするだろうが。
ただ、普通の戦い方ではこの雪狼の群れやスノウラビットの軍団を一切通さずに戦うのは厳しい。ティアラには指一本触れさせたくない。ともすれば。
『第三人格、あれをやる』
『僕だね、分かった』
私達は人格によって得意な属性というものが存在する。だから思ったのだ、人格を同時に表に出せば、二属性を同時に操る事ができるのでは、と。
ただし、それはあまりにも難しい。二人の人格が同時に表に出るなんてことは今までやっていなかったし、無理だと思っていた。
今でも、魔法を発動させるほんの数秒しか保てない。
「私よ、僕よ。吹き荒れる風と頑強なる大地を我が身に。
合成魔法――風土纏い」
それでも、今は使うしかない。
風と土の同時エンチャント。土のエンチャントによって増強される防御力は、しかし速度を低下させる。
しかし、そこに風の速度を追加で付与したなら……?
雪狼が噛み付いてくる。私はその口にあえて腕を突っ込む。腕を丸呑みにされるが、そこは土の力による頑強さ。びくともしない。
喉奥で【魔刃作成】を行い、即死させる。そのまま体ごと突っ込むようにして次の魔物の腹に刃を突き刺した。
頑強な身体は、ぶれる事無く正確に刃を突き刺し、敵陣に突っ込むと群がり、纏わりつき噛み付いてくる大群を相手に無理矢理身体を動かし刃を振るい続ける。
振るう刃はそのままに、腕の動きと連動して風の刃を生成。射出する。
数が減り、こちらが後は一方的に狩るだけだとなった頃。
力量差を知り、逃げ出すだけの知性をやっと取り戻したのか、魔物達は徐々に逃げていく。そこで私は大声で叫んだ。
人の言葉ではなく、【モンスター言語】で。
<出てくる気はありませんか! ユニコーン! このまますべての命を刈り取る事は、私としても本意ではありません!>
とりあえず、場も落ち着いてきたし声をかけるだけかけてみよう作戦である。
「今……モッドのやつなんて言ったんだ?」
というアルフの疑惑の声。
困惑するティアラ以外のパーティ。
そしてしばらくの沈黙の後。
〈勝手にするがいい、人の子よ。乙女以外が私と会う事能わず〉
そんな言葉がどこからともなく聞こえてきた。
〈この処女は女の子にあげたのですが……それでも駄目ですか?〉
再びの沈黙。そして。
〈女同士……そういうのもあるのか。
穢れてはおらぬ、と。
面白い。我々と話す技能を持つ少女よ。お前とだけなら会ってもいいだろう。こちらへこい〉
チェンジャーの面々に事情を説明し、一人で雪原の奥、雪降る森の中へ入っていく。
ユニコーンの言う事を聞いているのか、他の魔物達に襲われるということもなく、奥へ、奥へ。
そうして、湖のほとりで純白の体を持つ一角獣。ユニコーンと遭遇した。
「そうかあ、女同士かあ……いや、その発想はなかった。君いいねえ! 清い清い! なんか欲しいものある? いや、あるからこうして会いにいたのか! ははっ! なんでもあげちゃう! あっ、でも命とかは困っちゃうなあ! って、いらないか!」
人の言葉を話すユニコーンは、魔物の言葉の時と違ってなんか残念な感じだった。
なんだこの人生……人生? 楽しそうなユニコーンは。




