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隠密スキルを超えた目立ち方

 魔導車は私達<チェンジャー>を次の町まで手早く運んでくれた。

 そしてこの町から少し行った所にCランクまでが入れるフィールドダンジョンがある。

 錬金素材を納品するためにも頑張ろう、そう考えていたところに待ったをかけた人物がいる。

 裏のネットワークを使って私達がこの町に来た事を知った分身体のスバルである。


「すまんなあ、嬢ちゃんら。ちょーっとお願い聞いてもらえへん?」


 曰く、ちょっとバニースーツを着て賭場で働いてくれたらいい。

 そういう依頼なんだそうな。

 ……怪しすぎる。というか。


「バニースーツなんて一般的なものなんですか?」

「何言うとるんや。バニーガールは賭場で働く女のコスチュームだと遊びの神が言っとるって話やぞ。なんでシスターの嬢ちゃんが知らんの」


 などというものだからもう一人の神官であるヘイムの方を見ると、頷いていた。

 まじかー。お告げスキルとかそういうのがあるのかね。もしそうなら、お告げスキルがあれば神々はMODである私を見ていると言っていたはずなので、感想なんかも聞けるんだろうか。

 それはいいとして。


「なんか企んでます……よね?」

「そりゃそうやろ。お、聞きたいか? 聞いたら戻れへんよ」


 嬉しそうにそう言うスバルを見て、私は溜息を吐いた。


「私がやります。なんでティアラとヘイムには手出し無用という事で」

「ええよ。バニーガールなんてタッパと胸がでかい方が目立つからなあ。シスターの嬢ちゃんがやってくれるなら文句なしや。ダイヤモンド家の嬢ちゃんにはタッパがない、白ローブの嬢ちゃんにはタッパも胸もあんまないからなあ。はっはっは」


 こんなんでも裏の組織のトップでかつ、北の支配者。イラッときても怒れないのだから冒険者というのも案外不自由なものだ。

 というかヘイムは怒ってるけどアルフに押さえられている。


「胸の! 事を! 言ったら! 戦争でしょうが!」

「やめろ馬鹿! 依頼のお得意様相手だぞ!」


 そんなことをやってる二人を尻目に、私は聞かざるを得ない事がある。


「……で? 本当にバニーガールしてるだけでいいんですか。他にやる事があるんじゃ」

「話が早くて助かるわぁ。そやねえ、――って事を頼みたいんやけど」


 それを聞いて、露骨に嫌な顔になる私を、やはりこの男は楽しそうに見ていた。

 ああ、やっぱり。ティアラはヘイムには任せられないなこの依頼。

 というか私が盾になるのを見越していたな、などと思うなどしたものである。





 私はモレソー、スバル様の部下である。

 というのが表向きの顔。

 本来はこの国の中央部にいる騎士団の一員。つまりスパイ活動中という事。

 今日は部下との交流を深める一環として、この賭場に部下を集めて楽しく賭け事、という訳だ。楽しそうで何より。

 そして私はこの機会に乗じてスバルから情報を集めたい。違法な事にどれくらい手を出しているか、という事を知っておきたいのだ。

 金貸しをしているのは知っている。だが違法性は認められない。

 人身売買に手を出している。合法の範囲内で。

 毒を使うらしい。モンスターに使うのだと言われればそれまでだ。

 だから今日、この機会にどんな悪事を働いているのかを掴んで見せよう。

 そもそもこの地下賭博場もこの男が開いたもの。どんな裏がある事か……なんなら違法賭博の可能性もある。

 ちなみにこの場合の違法賭博とは、手持ち以上の金をかけさせる事である。大事なのは、そこで借金をしてまで賭けるのはその人の自由、という事だ。

 分かり辛いか。ううむ、つまり。

 一回に10金貨を賭けた勝負があるとする。これを1金貨しかないのに勝負の場に立たせるのは違法。

 しかし、その人が9金貨の借金をして賭け事をする分には合法なのだ。

 違いとしては、金がないのに賭けたのでじゃあはい借金してね、が駄目なのだ。金がないから借金してきたよ。がセーフ。

 じゃあ金を持たずに賭け事をすればいいじゃないかって? 当然、バレた時点で叩きだされる。持ち物を引っぺがされるくらいは普通にあり得る。

 そのくらいのリスクを呑み込むのがギャンブラーらしいが、私にはよく分からん事だ。

 さて、地下賭博場ではトランプが主流だ。娯楽の神が下したという神託から生まれた、錬金術素材で作られたカードの束。

 これを使って様々な勝負をする。そして、その辺にはバニーガールと呼ばれる少女達が、酒などの注文を受け付ける。

 これがまたいやらしい格好で。真っ赤なボディ部分に黒いストッキング、バニーと呼ばれるだけあって兎の耳をつけている。

 私はこのバニーガールというやつが大好きでたまらんのだ。

 ――しかし、今日はバニーを鑑賞する日ではない。スバルの情報を引き出すために視線を向ける。

 なのだが、スバルの元に向かった一人のバニーガールが私を捕えて離さない。

 水色の長い髪が、赤いボディ部分とややミスマッチ。だが、そういうものだと思えば意外と似合ってるような気もしてくる。むしろ、似合ってないからこその不慣れさ、のようなものを感じられた。特に前髪を隠しているという気弱そうな見た目から繰り出される、その派手な衣装。

 尻もでかい。後ろから見れば足から尻から、素晴らしいスタイルをしている。

 そして、その胸。でかすぎて、衣装があってないのか今にもはみ出そうなギリギリのスタイル。これは……おかしい。


「スバル様。その女性は?」

「ああ、ギルドで依頼出したんや。まわりうろうろする人間がうちの人間だとオレのイカサマ疑われるからな。冒険者の女にやってもらう事にした。

 そしたら上玉やってんけど、ちょっと置いてある衣装じゃ胸元が足りんかったみたいでなあ。悪い事したわ」

「はあ、それはそれは」


 まったくもって眼福である。


「冒険者の嬢ちゃん、こいつはモレソー。バニーガール好きで有名や。変な事される前に離れとき」


 なんということを言うのか。私は紳士である。

 しかし女性は酒を配り終えると、言われた通りさっさと場を離れてしまった。勿体無い。

 だが、彼女は確かに私に向けて深い谷間を見せつけてくれたのだ。


「ほんじゃ、酒も行き渡ったな? オレ達スバル組の繁栄とオマエらの変わらぬ忠誠に期待して、かんぱーい」


 音頭を取るスバルに、それぞれ酒を飲み始める部下達。

 そして、トランプによる賭博が始まった。

 スバルと雑談を出来る距離に陣取り、ブラックジャックに興じる。

 しかし、あまりにもスバルが強すぎる。部下もイカサマしてるんじゃないですかー? などと冗談めかして言うくらいだ。


「そんな事ないんやけどなあ。んじゃ、ディーラー変わって貰おか。

 オレが指名すると何の説得力もないし……ほな、モレソーお前あれや、誰か指名せえや」

「はあ。私ですか。誰でもいいんですかい?」

「ええよ。今日は遊びのトランプや。ただカード配るだけなら誰でもできるやろ」

「遊びのトランプ……ですか」

「おっと、口が滑ったか。ま、本当にただカード配るだけならディーラーなんて要らんっちゅうこっちゃ」


 やってるんだろうな、この賭場はイカサマを。だが、今日のスバルは酒も入って口が緩い。もう少し決定的な証拠をつかんでからでも遅くはないか。


「では……先程の胸の大きい冒険者に頼みましょう。イカサマ防止のために呼んだんでしょう? ちょうどいいじゃないですか」

「それもそうやな。おーい、冒険者の嬢ちゃん」

「はい」

「ちょっとカード配ってーな。何、難しい事は何もあらへん」


 そうして私は合法的にあの爆乳バニーガールを視界に入れる事に成功した。ディーラーを見る、だなんてのは当然の事だからな。

 再開されるゲーム。しかし勝つのは、やはりスバル。


「いやあ、お強い。なにか秘訣でも?」

「ああ。オレは情報処理スキル持っとるからなあ。ブラックジャックはお手の物や」

「なるほど……」


 いける。今日のスバルは口が軽い。もっと大事な情報を吐き出してもらう――


「で、オマエは? なんかオレに言うことあるんちゃう」

「さて……? 何のことでしょう」

「そうやなあ、例えばお前が本当は騎士団の人間で、俺を捕まえに来たっちゅうこととかなあ」


 一瞬にして顔が青ざめたのが分かる。しかし、表情には出していないはず。


「駄目や駄目や。今のでもう分かった。というかもう分かってたんやけどな」


 周囲の子分達が、一斉に睨みを効かせる。ただし、今日は誰も武器を持っていない。なぜなら今日はスバル組の交流会の日。荒事があるとは誰も予想していない……

 一枚の鉄貨を構えるスバル。それは当然、私に向けられていて。


「どうする? オレの元で二重スパイやるって選択肢ならあるで」

「戯言を。【刀剣生成】」


 私のスキルは刀剣類を自由に出現させるというもの。ほぼ無手のこの面子、私ならば無力化できる。

 まずは親分のスバルを……

 殺気を向けた瞬間だった。

 バニーガールの少女がアクロバティックに台の向こうから軽業で飛び込んできた。揺れる胸に目がいく。


「すみませんが、これでもこの人はうちのパーティの上客なので……」


 この女も結局グルか! ならば勿体無いがこの場で。

 振るった腕から風の刃が繰り出される。

 無詠唱で、触媒も無く!?

 二撃、三撃と繰り出される風の魔法を、しかし私は剣技で切り裂いていく。


「なるほど……お強いようで」

「君もね。今なら見逃してあげることもできるけど。本気を出した私はこんなもんじゃない」


 というか、逃げてくれないかなあというのが本音。ちょっとこのバニーガール強すぎる。

 何かを考えているような素振りを見せる彼女は。


「分かった。やってみるか。

 ……いくぞぉ! 俺!」


 態度と表情が豹変する。そして、使う魔法の属性も変わる。

 風ではなく、炎が彼女から吹き出し、一つの剣が形を成した。

 炎の剣を両手で持つ彼女が次に繰り出すのは近接攻撃か……? たしかに、ちょっとかじったくらいの剣技スキルはあるように感じるが。


「私よ、俺よ。燃え盛る炎に風よ宿れ。

 合成魔法――焔舞」


 炎の剣を媒体にした風魔法が、炎を乗せて容赦なく私に襲い掛かる。

 圧倒的な奔流に抵抗することも敵わず……



 目が覚めた私は、スバルに見下ろされていた。

 怪我は、いつの間にか治っている。


「もっかい聞くで。オレの元で二重スパイやるって選択肢もある。嫌だって言うんなら……ま、もう死んでもらうしかないわな」


 そう言われてしまえば仕方がない。私は――



 大体分かったかもしれないが、スバルが私に頼んだのもう一つの依頼は護衛だった。あとモレソーさん? バニーガール好きの人。あの人の酒にだけ毒を入れる事だった。

 といっても致死性のものではなく、他の人が飲んでも大丈夫なちょっと動きが鈍くなって口が軽くなる、そんなものだ。

 しかし、元男がバニースーツ着るのはさすがに恥ずかしいな……隠密スキルも使ったけど明らかに目立ってるせいであんまり効果を感じられなかった。

 なんにしろ、依頼は達成。

 これにより私はDランクになって、報酬として依頼で使ったバニースーツを報酬として得た。使う機会がない事を祈るが!

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