人格はどこへ消えた?
神は言っていた。
ただのコピー能力では面白くないから人格の追加のデメリットをつける、と。
ならば今回は特別にコピー能力だけ発揮しました! だなんて都合のいい状況だと考えるほど私は甘くない。
とはいえ、出てこない理由が分からないのも確か。こういうの、分からないのは不安だよな。
こういう時は。
「ティアラ、何か分かりませんか?」
「お姉様の事は分かる。でも他の人格の深層までは読めないからいるかいないかも分からない」
さすがにそう甘くないか。
自分の事は自分がよく分かってる筈。それなのにその自分が分からない事を他の人に求めるのはおかしな話かもしれない。
仕方ないので能力の方に意識を向ける。【貴方だけの騎士】による補正を【直感】にかけることで、効果が段違いに分かりやすくなる。
なんなら、今狙われてる。【暗視】と【鷹の目】により遠くを見れば、盗賊どもがうろちょろしている。
ならば、と連中にこっちが気付いていないかのように番をしているように見せる【幻術】をかけて、その間に三人を起こす。
「起きてください。久しぶりに人間の相手が来ましたよ」
「……ああ。寝てる間は【直感】働かねえからなあ。助かる」
「ふぁぁ、おはようございます。師匠」
「賊か。さっさと倒してもうひと眠りといくか」
幻術にかけられた盗賊達が何かおかしいと気付くまでにはもう私達は命を狩る寸前まで来ていて。
何の面白みも無い処理を行えば、また野宿の続きとなる。
それでもなんの反応も無かった事を考えると、新しい人格は本当に目覚めてないお寝坊さんか、戦いに興味のない人格なのか。
目覚めてないなら、起きた時どうなるのか。戦いに興味が無いなら、何に興味があるのか――そしてそれを知るのは、朝食のタイミングだった。
「これから先、食事は全部ウチが作る」
それは私の発言で、しかし私の中の誰でもない私だった。
「はあ……師匠が全部。今まで料理の作れないティアラさん以外の持ち回りで負担を減らせてたと思うんですが。いいんですか?」
「ああ、構わない。ウチは料理が好きでね」
「今までそんな事言ってなかっただろ」
呆れた口調でツッコミを入れるアルフを気にした様子もなく、唐突に雷の轟音が鳴り響いた。
「うおっ!? いきなりなんだ!」
「私の魔法だ。……そこの金ぴか鎧」
「承知した」
阿吽の呼吸で、とでも言うべきか。
落下してきた数匹の焼け焦げた鳥をゴルドが捕獲。
それを手渡された私は、笑顔で伝える。
「今日の朝食は鳥肉だ」
雷魔法。それが新たな私の得意魔法らしい。
今までそれぞれ風属性を得意とする主人格である私、火属性を得意とする第二人格、土魔法を得意とする第三人格、水魔法を得意とする第四人格と分かれていた。
偶然なのか、得意魔法は性格によって違いがでるからバラバラなのか、その辺は分からない。
そうして私は料理を手際よく始めていくと、それと並行して錬金術も始めていた。
甘味のあるポーションを作成している。
そしてそれを料理に投入。
「できたぞ。甘ポーションの鳥照り焼きだ」
完成した料理を食べた各人の感想は――
「ほう……これは」
「うめえ!」
「凄いです師匠!」
「大したもの」
絶賛の嵐。結果に満足したのか、新たな私は身体の操作権を私に返した。
で、なんで今まで我々四人格が何も言わなかったのか。
実は言わなかったわけではない。何を言ってもガン無視されたのだ。
それでまあ、身体も操作し終わった訳でそろそろ何か言ってくれるだろうと期待して心の中で話しかけたのだが。
「ウチは君達別人格と慣れ合うつもりはないのだよ」
との事だった。
『君達はウチがやりたい事以外の生活をする自動の手足といったところか』
『……君がやりたい事って?』
『分かるだろう。人生で楽しい瞬間。料理と錬金術。これだよ』
それは、ぶっちゃけ助かるだけだな? むしろ君が自動の手足だよ。とは思ったが特に口にはしない。
皆に持たせてる何かあった時の為の護符も割と消耗品だし、作るのに必要な素材には困らないが必要とはいえ手間だなあとは思っていたのだ。
『ええと、旅の目的はそこの銀髪のちっちゃい小動物みたいな子に賢者の石を作ってあげることなんだけど』
『賢者の石! いいだろう、作り方さえわかればなんとかしてやろう』
『って、作り方分かんねえのかよ』
などと第二人格が茶々を入れる。
『仕方ないだろう。ウチは生まれたばかりの人格だからね。ちょっと主人格からデータを持ってきてちょっと工夫するくらいしかできん』
『なんで返事しなかったの? あれめちゃくちゃこわかったんだけど』
第三人格が文句を言う。
『だから、お前達と慣れ合うつもりがないからだ』
『まあまあ、そう言わず。でもなんで今になって出てきたのかしら。ずっと無視して料理と錬金術してればよかったじゃない』
そういう第四人格に、新たな人格――第五人格は。
『決まっているだろう……ほら』
そういってなにかを催促し始めた。しかし、私達の察しが悪いと感じたのか、ちょっと不機嫌そうに言った。
『やれやれ、料理の感想を言えと言っているのだがね』
なんだこいつ。関わるつもりが無いといいながら料理の感想の催促とかちょっとかわいいぞ。
だがそういう事なら返事は一つ。
『おいしかった』
私達の心はまとまっていた。
『よろしい』
むふう、と言わんばかりのしたり顔……したり声で第五人格は満足した様子を見せる。
『それじゃあウチは精神の深層にいるから話しかけてもムダだぞ。そこで料理と錬金術のアイディアを考えている。さらばだ手足ども』
え、精神の深層ってどこ? 私の心に私の知らない部位があるのは不気味なんだけれども。
『げ、あそこにいんのかよ。物好きな奴だぜ』
『あそこ怖いよねえ』
『怖いというか……情報量がちょっと』
とか思ってたら別人格達は知ってるらしい。知らないの私だけかー。
『てか、お前の知識を司ってる部分だよ。脳ってやつか』
『僕達は知識をそこで共有できるわけだね。僕達の生まれ故郷』
『能力の複製と同時に、脳からアナタの知識で人格が生成されてるのよね。だから、アタシ達はアナタの一部よ』
な、なるほど? なんか分かんないけどなんか分かった!
『で、そんなとこで第五人格は何を?』
『だから、お前の知識の情報を読み取ってんだろ』
『えーと。そう、現代知識チート!』
『錬金術と料理で使えるでしょ? その辺の知識』
私はあんまり有効に使える知識がないなあと思ってやらなかったのだが、まさかできるのかそんな事が。
素材だけはスバルから貰って影魔法のなかに収納してあるが……押し付けられたけどこれ借りがやばいと思ってるから本当早く返したい。
とにかく素材はある。ただレシピがないから大したものは作れないと思っていたのだが、そこをなんとかできるんだろうか。
そしてその夜、料理を作るのに身体の操作権を貸し出し、野菜料理にドレッシングをつけるという発想を見せつけてくれた後、錬金術をヘイムを助手に始めた。
その時間はあまりに長くてさっさと寝ろとゴルドに言われたのにも関わらず無視をして。
結果として出来たものが。
「……馬車?」
「馬の代わりに椅子あるぞこれ」
「人が乗るところについてるのがタイヤっていうそうです!」
「モンスター素材で作った馬車か。頑丈そうだが……だが一番の問題がある」
そう、馬車を作った所で馬がいない。
『そのための座席部分に決まっているだろう。アルフも言っているように椅子になっている。ウチが座れ。他は中に乗り込め』
「あー……とりあえず乗ってください」
第五人格に指示された通り、全員を箱の中に乗せて私が馬車の前の椅子に座ると更なる指示が出た。
『魔力を込めてみろ。少しずつだ』
すると徐々にタイヤが回転し、たしかに走り出したのだ!
「うお、すげえ!」
「はやいですよね!」
「今まで徒歩だったからな。この速度は助かる」
「びっくり」
普通の馬車以上の速度を出し、皆の乗る部分やタイヤによる強度の増加。これは確かに大した発明だ。
『魔導車、と言ったところかな』
『すごいな。でもこの世界では金持ちは普通にこういうの乗ってるんだと思ってた』
『ウチは頭が硬いな。ならティアラ嬢に聞いてみろ』
そういうので、ティアラに問いかけてみる。
「ティアラは貴族だと聞きましたが、こういうのははじめてですか?」
「はじめて。馬の代わりにドラゴンを使うとか、それくらいしかしない」
そっちのが凄くない?
『そしてこれは魔力をバカ食いするので、伝説の魔法使いの能力をコピーしたウチくらいしかまともに運転できん。それがある意味では盗難防止にもなるわけだが』
『なるほど、すごいなあ! 乱暴者で変な事ばっかり頭が回る第二人格に、臆病で腹黒い第三人格……女好きでナルシストの第四人格とロクな人格がいないと思ってたけど今回は大当たりだ! 君は天才発明家の人格だ!』
『ふふん。まあ、この後の事は保証しないがね。帰る』
なんだ、まさかこの魔導車に何か問題が――?
『ほう、てめえ』
『僕達の事』
『そんな風に思ってたのねえ』
あ、まずい。テンション上がってつい本音が。
助けて第五人格ー! 帰ってきてー!
……この後めっちゃ怒られた。




