恋は人を変えるか
恋は人を変える、のかもしれない。
呪われた運命を背負っている相手だなんて言われたら慎重な俺ならきっと見捨ててたと思う。
それでも私は思うのだ。そんな事は出来はしない、と。
……性欲かな、性欲かも。
『それで、誰かティアラを見捨てたい人いる?』
私がそう問うと、まずは第二人格が反応した。
『結局、強くなれって事だろ? 上等じゃねえか』
次に、第三人格。
『怖いけど……見捨てる方が怖いかも』
そして第四人格が私の中で話し出す。
『可愛い娘には勝てないわよねえ。
実際、私達みたいな生まれた人格もベースは貴女って事よね』
それはどうだろうなあ。少なくとも女性口調で喋る自分ってのはあんまり想像つかないが。
敬語で喋るくらいはするけども。
『さあ、私。
見捨てられるんじゃないかって不安そうなティアラを勇気づけてあげて? 今回は譲ってあげる』
確かにそうだ。
不安そうにしている彼女を……不安……いや、割と平気そうな顔してるぞ?
ああ、心読んだからもう安心してるのか。誰も彼女を見捨てる選択をしようとする私はいなかったから。
「……ふぅん。なるほど。そういう事かいな。
ダイヤモンド家の嬢ちゃん、あれやね心読めるやろ」
え、なんで分かったんだ!?
「いやもうそっちのシスターの嬢ちゃんのリアクションで分かったわ。ダイヤモンド家の嬢ちゃんはきっちりポーカーフェイスなんやけどなあ。
シスターの嬢ちゃんがちらっと不安そうな顔見せたら、なーんかダイヤモンド家の嬢ちゃんも不安そうな顔になった。で、シスターの嬢ちゃんがいい顔になったら安心した顔しててなあ。
割と油断しとるな? なーんも解決してへんのに」
ティアラはさっき私の思っていた言葉を口にした。
「恋は人を変える」
それを聞くとぽかんとした顔になるスバル。そして、笑い出した。
「いい言葉やね。なんなら運命も変わるとええなあ」
「性欲が人を変えたのかも」
もうスバルは爆笑である。
私は恥ずかしくて顔を抑えていた。
「あー、やけにロマンチックな事言うなあ思うたら、そっちのシスターの嬢ちゃんが考えてたんか」
っ!? まさか、スバルも心が読める!?
「いや、ちゃうねん。これは【情報処理】スキルの力やね。ある程度極まると心読むのに近い能力になるんや。
で、ダイヤモンド家は【情報処理】スキルの才能に恵まれとったから、きっとそっちかと思ってたんやけど……どうにも違うんじゃないかとカマかけた。アタリか?」
ティアラはどう答えるのか、ドキドキしながら様子を見る。
「私は【情報処理】スキルを持っている」
「それは嘘じゃなさそうだけどなあ……ま、ええわ。シスターの嬢ちゃんの方の表情見れば大体分かる。
大丈夫か? スキル教える相手間違うてへん?」
そんな手厳しい一言を頂いてしまったが、ティアラはしれっとしている。
「私が好きなのは強い女。運命よりも強い女。なにも間違ってない」
「はいはい、ごちそうさん」
呆れた顔でこちらを見るスバルに、最後は爆弾を落とした。
「ちなみにお姉様は男。じゃあそういう事で」
「え、それ本当……あれ? なんかスキルがバグってもうた?」
混乱する男を尻目に、我々は退散した。
けど、それって私の事好きじゃないって事にならない?
「秘密」
そう言って口元に人差し指を当てる少女は、確かに人を破滅させるだけの魅力を放っていた。
◆
「で、実際のところどうなんだよ?」
当然、あの場にはアルフとヘイム、ゴルドもいた訳で。
今こうして宿屋で追及されていた。
「【情報処理】スキルは持っている」
ポーカーフェイスで答えるティアラに、アルフは項垂れる。
「【直感】が黙ってた方がいいって囁いてたからさっきは喋らなかったけどさ、教えてくれても良くね?」
「直感スキルは今は聞いた方がいいって言ってた?」
「……いや。でもスキルがバグるとかあるのかなって、さっきのスバルの様子見てたら」
「大丈夫。【直感】スキルはバグらない」
“は”ってなんだよ“は”って……と再び項垂れるアルフの肩に手を置くヘイム。
励ましてくれるのかと喜ぶ少年に返ってきた言葉は。
「私、それよりも【貴方だけの騎士】ってスキルに興味あるなあ」
言われて、顔を真っ赤にするアルフは大声を出した。
「ば、馬鹿! そんな事言えるかよ!」
「ふふふー、そっかそっか。私も情報処理スキルが生えてきたのかなあ」
冗談めかしてそう話すヘイムに、アルフは更に顔を赤くする。
「ふふ、冗談。でもスキルに関する詮索はご法度。そうですよねゴルドさん」
「そうだな。ヘイムが正しい。
我々はパーティを組んだ。だがそれは絶対的な信頼を置いたという話ではない。
常に裏切られる可能性を考えるべきだ」
パーティとは本当にそういうものなのだろうか。
前にもゴルドはパーティが殺し合いになることさえあると語っていた。それは案外、彼の身に実際に起こった事なのかもしれない。
頷くティアラが同意したのはゴルドの発言か、私の思考か。
◆
さて、冒険者ギルドでスバルの依頼を受けた私達は北に向けて旅を進めていた。
その中で感じたのは【直感】スキルの偉大さだ。
特に、【貴方だけの騎士】との組み合わせがあまりにも強い。
男同士の気安さからか、ゴルドにはスキルを話したらしく手解きを受けている。
「いいか、常に自分の行動がヘイムを守る事に繋がると意識しろ」
アルフはそう言われてから、危険感知能力を圧倒的に高めた。
彼がなんか嫌な感じがするといえばなにかある。
それが私達パーティの共通項となっていた。
『うーん、強いな。コピーすべきだと思うか?』
『へえ、お前からそういう発言が出るのは珍しいじゃねえか』
『直感スキルは持ってれば安心だよね。でも確かにコピー能力を使おうなんて考えるのは珍しいかも』
『恋は人を変える、ってワケね』
ここの所、各人格達がその発言をイジってくる。
そして大概続くのが。
『性欲がこいつを変えたのかもな!』
私以外の人格はこれで大爆笑である。私は恥ずかしくてたまらない。
現在は深夜。今は私とティアラが夜の番をしている。
『いいから……意見を』
『おう、賛成だな。スキル数こそ少ないが絶対便利だろ』
『さっきも言ったけど、直感スキルがあるのは安心できそう』
『貴方だけの騎士もいいわよね。アタシ達、ティアラのお姉様だもの』
全員賛成といったところだ。それならば――
「ちなみにコピー能力はアルフとヘイムにはバレている」
複製しよう、とアルフの顔を思い浮かべたところで衝撃的な発言が飛び出した。
「え、なんで!?」
「お姉様の言うところの第二人格がアルフと争った時、お姉様が怒った。その時の発言を聞かれている」
うんざりだ! お前にも! 人格生成にも! 俺はもう絶対にコピー能力なんて使わない!
そんな事を私は言っていたらしい。なのに気付けば第四人格までいるし、第五人格の生成までしようとしていた。
「格好悪い……ですかね」
「そんな事はない。私の為に強くなってくれる事は嬉しい」
「そうですか。それじゃあ、改めて能力をコピーしましょう」
一度見た相手の能力をコピーするというのが私の能力なので、別に直接相手と会ってる時じゃないといけないなどという縛りはない。
ただ、相手の顔を思い浮かべればいい。なのでやろうと思えばスバルも今コピーすることができる。分身だったか。あれも強いよな。
とか考え始めると本当人格の数がやばい事になりそうでなあ。
恐ろしいチートだよこのコピー能力は。
「複製完了。――アルフモッド、導入」
しかし。
「あれ? いつもの返事がない?」
人格が目覚めた時、いつもなら挨拶を返してくれるはずなのだが。
『もしもーし?』
『いねぇな』
『いないね』
『いないわねえ』
第五人格が目覚めていない……? スキルリストを見ると、確かに剣術と直感、貴方だけの騎士が加わっている。
コピーには成功しているのだが……




