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救出作戦

 私達は今、アルフとヘイムの救出を手伝ってくれたスバル達の組の事務所に来ていた。

 そして旅の目的なんかをあれよあれよという間に聞きだされる事となる。


「なるほどなあ、賢者の石。おもろいやん……よっしゃ。もうちょい手伝ったる」

「あの、今回の件で充分助かったので」


 というかおそらく反社の人にあんまり借りを作るのはまずい気がするからなあ。


「ええよええよ。というか今回の件はこっちも助かった。あの違法奴隷買ってる側の連中の護衛をうちの子分に怪我なく仕留められたのはお前らのおかげや感謝しとる。だからあれは利害の一致って事で貸し借りなし言う事にしとこ。

 だからオレはまだそっちにこの前の件で貸しがあるままや。借り、返させてくれるよなあ?」


 返済を強要されてる……! これがヤのつく連中のやり方か。


『第三人格大丈夫かー?』

『え、なにが?』

『なにがって……この手の連中怖くないかなって』

『え、この人は怖い人?』


 あー、生まれて大して経ってない人格だから反社の怖さとかよく分からないか。かくいう私もよく分かってない。

 生前、付き合い無かったからな……イメージで語ってるところある。

 そして怖い人判定すると第三人格が飛び出しやすくなる地雷になるので適当に誤魔化しとく。


『分からん。ちょっと圧が強いから怖いかなって』

『僕、なんでも怖がるわけじゃないよお』


 それならいいか。怖くないって事にしとこ。


「具体的には何をしていただけるんですか?」

「そうやねえ。定期的にギルドに指名依頼だしてランク上げのお手伝いと、持ってけるなら今市場に出回ってる錬金素材を買い集めたる。そんなとこやな」


 それはありがたい。

 特に冒険者ランクの上げやすさは大事だ。旅をしながらだとランクの上げる手段も限られてくるからね。


「さらに、や。世間的にはうちの商会が錬金術に手ぇ出そうとしてるように見せるために、依頼内容も雑にして特定の品の納品じゃなくて錬金に使えそうなものの納品ってことにしたる。で、うちの息がかかってる場所なら、納品物持ってってええで。

 別にいらんからな」


 つまりそれは錬金素材を集めるだけでランクが上がって、その素材もこっちのポケットに入るってこと!? ありがたすぎる……


「そ、そんなにお世話になっていいんですか?」

「ええで。ま、こっちもダイヤモンド家のお嬢ちゃんと縁が出来るのは助かるし、シスターのお嬢ちゃんと仲良うなれるんは得やと判断した」

「はあ、私と」


 なんか目をつけられてる? なんだろ。


「あんまピンと来てない言う顔してるな? オマエ、強いやろ? 強者との縁は大事や」


 ああ、そういえばスバルさんと共闘したっけね。あのアルフとヘイム救出作戦の時。

 私はその時の事……というか、救出作戦の時の事を思い出していた。





「なるほど。よー来てくれた。こっちもその手の輩には手を焼いてるんや。手ぇ貸したる」


 立ち上がった彼は、まず手下を呼びつけた。


「モレル! モラス! 子分どもに召集かけーや! カチコミや!」

「へい親分!」


 隠れ蓑の商店で、店員に扮していた男達が指示を受けて行動をはじめる。


「その……まだ人攫いと決まった訳じゃ」

「本当に知り合いと偶然あっただけやと? 頭お花畑かお嬢ちゃん。とはいえ、その手口は最近噂になっとるからな、周囲は騙されるみたいやね」


 頭お花畑って。いつかも誰かに言われた気がする。現代人の良識はちょっとこの世界と合わない……


「世話になる」


 ゴルドが一言声をかけると、それに笑顔で対応した。


「なに、ええて。オレとオマエの仲や。このくらいはな。それに、そろそろ釣れる頃やと思ってた」


 が、その笑顔はすぐに黒くなり――


「親分! この町の構成員、総員集まりました!」

「よし、いくぞオマエら!」


 先頭を切って歩き出したのだ。

 そうして辿り着いたのは一見、古くなって使われなくなったボロボロの会場。こんなところでオークションを……?


「待て」


 手下達を全員連れて突撃しようとするスバルを止めたのはゴルドだった。


「ああ? なんや何か問題あったか?」

「部下達は入口を見張らせてくれ。中に入るのは俺達とお前だけでいい」

「俺達って……オマエと、ダイヤモンド家の嬢ちゃんとシスターの嬢ちゃん? オマエはともかく、こっちの二人はまともに戦力になるんかいな。貴族のお嬢様と神官やぞ」


 なんか突然衝撃的な事言われた気がする。お嬢様なのは知ってたけど、ティアラが貴族……?


「ティアラの方はまあ、自衛くらいはできる。リーダーは……とんでもなく強い。

 それに、俺とお前の二人が揃ってなんとかできない事があったか?」


 それを聞くとスバルはふ、と何かを思い出すように笑みをこぼした。


「それもそうやな。よし! オマエらはここで待機! 中にはオレ達だけでいく!」


 私達は中に突入すると、ちょうどアルフが洗脳から抜け出したところだった。逃げ出す女に、スバルは一枚の鉄貨を取り出すと。


「【狙撃】【投擲】」


 親指で弾き出し、正確に女の後頭部を捕えた。

 そこからは厄介な洗脳スキルをティアラが看破する事で無力化。

 ヘイムが洗脳から抜け出すとほとんどのオークション参加者達は連れている護衛を私達に差し向けて逃げ出した。

 洗脳スキルのトリックを暴かれた女も短剣を構える。二刀流だ。


「お前のせいで私の商売は台無しだ! お前がいなければスバルさんが来る前に売り逃げできたのに!」


 そう言ってアルフに対して短剣を鋭く振る女は、しかしあっさりと躱される。

 それも、今までみたいな大ぶりの回避ではなく、ギリギリを攻めた、達人の回避。一本の毛すらも掠らせない。


「――わかる」


 回避が鋭ければ、反撃も素早い。そして素早ければ、アルフには【剣術】スキルがある……!

 女が受けた一撃は重く、一撃を受ければ動きが鈍る。


「ヘイムに手を出した報いを受けてもらうぜ」


 動きが鈍れば、追撃を受ける。連撃が女を襲った。

 乱れ斬りを受けた女は背中から倒れていく。


「へえ、大した坊主や。ええ仲間に恵まれたなあ、ゴルド」

「ふ、お前も親分と慕われて随分仲間が出来たじゃないか。昔のお前では考えられん」


 背中合わせになりながら、鉄貨を投擲し続けるスバル。そして盾で受け流しながら剣戟を加えるゴルド。

 しかし、その攻撃では倒しきれない。なぜなら敵は金持ちの雇う護衛。耐久力自慢のタフガイだ。身長も高い。


「ならば」


 炎の護符を発動するとゴルドの身と刀身に炎が宿る。燃え盛る一塊の刃となって、敵を焼き切った。

 まず一人。


「んー、参った。これじゃ倒しきれんか」


 コインを投擲しながら、もう片方の手で頭をかくスバル。


「そのまま打ってろ!」


 そこに、スバルの肩に手を乗せ【軽業】を発動する少女が一人。修道服が跳躍する。私だ。

 コインの嵐を隠れ蓑にして【隠密】【気配遮断】を発動。炎の刃が【不意打ち強化】で雇い主の時間稼ぎをする護衛を即座に切り裂く。

 次に二人。


「やるな嬢ちゃん」

「まあな!」

「なんかオマエこの前とちゃうなあ……」


 よく言われる。

 見ると、ヘイムに近寄る一人の高級そうな服を着た男が。


「お前を買えたのは俺のはずだったんだ……! 来てもらうぞ!」


 そう言って、諦め悪く白ローブの少女に近づこうとする彼を防御魔法によるバリアが遮る。

 その男は服の上からも分かる筋肉の塊のような護衛に指示を出し、障壁を破壊しようとする。


「俺達を」

「忘れて貰っちゃ」

「困るぜ!」


 それぞれアルフ、ゴルド、私。

 トリオで発動した同時攻撃が、防御魔法を破壊せんとすることに集中した護衛の男を打ち倒した。

 撃破数――三人。


 そのまま暴れ回って護衛を全滅させると、外ではスバルの手下がオークションの参加者を捕えていた。

 こうして違法人買い事件は無事収束したのだった……





 という事があったのだ。


「あの時の気配の消し方、かなりの腕前の暗殺者じゃないと出せん動きやった。そのくせ、あれだけの魔法使いよる。どっちか片方でもその年齢なら上出来。両方は天才……というには天才がすぎる。そういうわけで、仲良うなりたい言うわけやね」


 楽しそうに笑い、しかし笑みは消え。


「だから――気ぃつけえや。そのダイヤモンド家の嬢ちゃんと付き合った女は皆、よくて廃人……悪けりゃ死んどる。女を破滅させる女言うて、オレの耳にも入っとる。そうやろ?」


 問いかけられたティアラはしばらく沈黙し、そして頷いた。


「殺しとる言うんなら、なんでなるよな? 死んでしまうなら、オマエはきっと、呪いの子なんやろな。呪われた運命を背負っとる」


 運命に打ち勝てるくらい強くなって欲しい――いつか、彼女の言ったその言葉が、頭の中を反芻していた。

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