貴方だけの騎士
スバルという裏稼業の人間を捕まえない……その選択は正しかったのか。
私は悩んでいた。
そして、それは私だけではなかったらしく、アルフとヘイムも難しい顔をしている。
足取りの重さに気付いたのか、ゴルドが全員に声をかける。
「あれは仕方のない事だった。北を目指す我々にはどうしても敵対できない相手だ。あの男の影響力はあまりにも大きい。
それに冒険者は正義の味方じゃない。依頼によっては悪を成すこともあろう。
神官も同じだ。信じるのは自身の思い描く正義ではなく神のはず。そして神は無数に存在している。故に正解というものは存在しない。
何が言いたいかというと、だ」
「臨機応変にいこう、とゴルドは言いたいらしい」
最後の一言をティアラが奪い、ゴルドがあからさまに落ち込む。
だが、恐らくゴルドは本気で気を落としている訳じゃない。そんな自分を見せる事で、私達を笑わせようとしてくれている。
なので私はそれに乗っかり、ふふ……と笑みをこぼした。
アルフとヘイムも笑っている。やっぱりゴルドは大した男だ。鎧さえ着ていれば、という前提こそあるが。
さて、今向かっているのは交易町のコーエ。様々な街の中間地点にある町で、各地の様々な商品が飛び交っているらしい。
そしてそこには非合法な商品も流れているらしく……まあ、あのスバルという男によるものなのだろう。
「一応、スバルが目を光らせているらしいが未だに違法な人身売買も行われているらしい、人攫いには気をつけろ」
「あ? むしろあの野郎が奴隷を扱ってるんじゃないのか?」
アルフの問いかけに、兜を横に振る。
「合法な奴隷は取り扱っている。違法な奴隷は取り扱っていない。悪を以て悪を制す。そういうやり方しかできない男だ、奴は。
一応あれでも世の中を平和にしようと考えてる……らしいが。ううむ」
しかし、ゴルドはスバルに詳しいな。
そもそもあの時絡まれたのも、ゴルドを見かけたからだ。
どこで知り合ったのか。どれくらい深い仲なのか。ゴルドも裏の世界の住人なのか? 思うところは色々ある。だが今は飲み込むことにした。
なぜなら交易町についたから! 各地の名産品が集うこの場所で、野暮な話は無しってものだよな……!
「とりあえず宿を取りましょう。迷子になってもそこで合流するようにします」
賛成の声が全員からあがる。
とりあえず人通りのある通りにある宿で二部屋取った。人通りはね、無いとね。殺人鬼とかに狙われるから(トラウマ)
そういう訳で自由時間。といっても全員で行動してるのだが。
そして安心できるのがゴルドが鎧を着ている事。
割とこの町を警戒しているようで、何か起こるかもというのと、鎧を盗まれるのではないかと思っているらしい。治安大丈夫かこの町。
とはいえ、栄えてるのは確かで携帯食料の種類もかなりある。そしてそれを見て、選んでいる間にアルフとヘイムが軽食を買いに並びにいった。
まあ割とお財布の紐も緩んでしまい色々買い込んで、楽しく買い物をしたのだが――二人の姿が見えない。確かに近くの屋台に並んでいたはずなのに。
『さっきまでいた。間違いねえ』
『ど、どどど、どうしよう? これって誘拐……?』
『とりあえず聞き込みをしましょ』
第四人格の意見を採用。ゴルドと手分けして周囲の人に話を聞く。ティアラは私に付き添ってもらう。そうじゃないとティアラもまた誘拐されそうな見た目をしているので。
「ねえ、そこのお姉さん。貴女ここに並んでいた軽装の戦士風の少年と白いローブの可愛らしい少女の二人を見なかったかしら」
「ああ、それなら誰かに声をかけられてたわね。仲良さそうな雰囲気だったから知り合いだと思ってたんだけど、違ったの?」
「どうかしら。私は貴女と仲良さそうな雰囲気になりたいのだけれど……」
『あとにしろ、馬鹿!』
などと第四人格がナンパして第二人格が窘める一幕もあったが。なんにしろ知り合いだったなら構わないんだけれど。
「とりあえず宿に戻ってみる」
「そうするしかないか……」
「――いや、ここは奴に借りを返してもらおう」
心配しすぎて過ぎるということはない。そう言って、ゴルドは私達を連れて一つの商店へ向かった。
そこにいたのは毒で借金を返しきれなかった人を殺させた裏稼業の男だった。
「なるほど。よー来てくれた。こっちもその手の輩には手を焼いてるんや。手ぇ貸したる」
目つきの悪いメガネの男は立ち上がると、一度メガネのズレを直した。きらりと光るレンズがいかにも知恵者という雰囲気を醸し出していた。
◆
「それじゃあ、君達のスキルを聞いてもいいかな? 僕達友達だろ?」
「――ああ。俺は剣術だけだ」
「――はい。私は回復魔法、防御魔法、聖女の卵です」
一人の女がアルフとヘイムに親しげに話しかける。そしてスキルを聞いてほくそ笑む。
「こっちの少年はハズレだけど、少女の方は大当たりか。しかも特大のアタリ――売れる」
本当に友達なら、それを売るなどという発想になるはずもなく。
彼らは今、彼女が友人であるかのように錯覚させられていた。
「じゃあ、こっちにおいで。僕の他の友達を紹介するよ」
そう言って連れられたのはオークション会場の舞台。
そこでは人間が値段を付けられ、買われていく。
ここは非合法な人身売買の取引を行う場所だった。
「さあ、次の商品はこちら! スキル、【聖女の卵】持ちだという少女! 値段は金貨100枚から!」
金貨100枚。それは日本円にして約一億円。
ちなみに貨幣の価値は、大体ではあるがそれぞれ鉄貨が一枚百円、銀貨が一枚一万円、金貨が一枚百万円である。それ以上もあるらしいが……一般人には関係のない世界なのでここでは省く。
「110枚!」
「120枚!」
「150枚!」
釣り上がっていく値段にほくそ笑む女。上機嫌でアルフに話しかける。
「君は売れないだろうからあ。今のうちにこの子とはお別れしときなね」
「俺が……ヘイムと別れる……」
「そ、この子は高値で売れて、サヨウナラ。でも大丈夫。僕らは友達だろう?」
「――違う。俺の【直感】が言ってる。お前は友達じゃねえって」
催眠状態から抜け出したアルフは、ロングソードを構えて女に迫る。
「何!? 剣術スキルしかないって言ってただろう!? まさか、スキルに目覚めたのか!?」
「ああ、俺のスキルは【剣術】【直感】【貴方だけの騎士】」
「なんだ……そのスキルは!?」
「【直感】はなんか嫌な気配を感じ取れる。もう一つは――」
言い淀むアルフを尻目に、女は逃げ出した。
「くそっ、他の町でやり直しを……ぐえっ」
一枚の投擲されたコインが、女の後頭部を叩く。
「ようやってくれたなあ。泳がしてやってたのに気付かん阿呆はもう駄目や。見逃せへん」
スバルが女を生まれつきの鋭い目つきで睨んでいた。
「は、はは。スバルさん。僕達ともだ……」
「鑑定。スキル【トモダチ】は自身を友人と錯覚させる。疑念を持たれたら発動しない」
ティアラが鑑定メガネで能力を看破する。そして彼女がいるという事は。
「うちの弟子に手を出す輩には神の裁きを与えましょう……!
ああ、暴れさせてもらうぜ!
うわあ、なんかたくさんのお金持ちっぽい人がそれぞれ護衛連れてるよお。
大丈夫? ヘイムちゃん」
その身に多重の人格を宿す少女と。
「ふむ。冒険者は正義の味方ではないのだがね。まあ、それらしいことをすることもあるか」
黄金の騎士がいた。
「ともだ、ち……じゃない! アルフ!」
「ヘイム! 正気に戻ったか!」
ティアラがスキルを看破した事で、効果が解けたのだ。
「お客様の中に、腕に覚えがある方はいらっしゃいませんかあ!?」
女は隠し持っていた短剣を取り出し、オークション参加者と共に最後の抵抗を始めた。
◆
「そんじゃ、オマエ。山と海どっちがええ?」
スバルが、【トモダチ】のスキルを使っていた女に笑顔で問いかける。
「ええと、山だとどうなります?」
「鳥のエサやな」
「……海だと?」
「魚のエサやね」
なんか怖い事言ってるけど、まあ今回は助かった。
なんでもあえてスバルは彼らのシマの警備に薄いところを作って彼女らを誘い込んでいたらしい。
今回はそこに踏み込んで御用となったとか。
それで今回暴れてご満悦な第二人格と、今までとは比べ物にならないほどいい動きを見せたアルフ。
やはりスキルに目覚めたのが大きかったのだろう。
「で、結局【貴方だけの騎士】ってどんなスキルなんですか?」
ティアラに問いかけると、彼女はあっさりと答えてくれる。
「愛する人の危機に対する行動に大きな補正を与える」
なるほど、ヘイムを助ける時だけ強くなるってスキルか。
あんな感じだけど、やっぱり好きなんだね。
「へへっ、今回は俺の活躍でどうにかなったな」
「もー、アルフったら」
今まではお世辞にも戦力とは言い難かったけど、これからは一味違うかもしれない。
少年戦士の目覚めに、私の心は踊っていた。




