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思わぬ副産物

 ちょこんとした礼をしたその姿に、私はときめきを感じていた。


「ふふ、可愛いわ貴女。食べちゃいたいくらい」

「いつでも。お姉様になら食べられてもいい。私だけを見て」

「残念。アタシは可愛らしい女の子達みーんな大好き。貴女は特別だけど、アタシを縛れるほどじゃない。自分だけを見て欲しいと思うなら……精進しなさい?」


 あー、第四人格の今の発言で大体分かった。今回の人格は〈女好き〉だ。しかもとびっきりの女たらし。


「待て待て待て! おい女ぁ! こっちは何回か死んでんだぞ! 危険なら危険って言いやがれ! それになんで鑑定妨害が発動してんのに魔導の極みのスキルを持ってる事が分かったんだ! おかしいだろうが!」


 温度差よ。唾が飛ばんばかりの距離で怒鳴られたら普通の女の子なら怖がるところだと思うのだが、ティアラは感情が薄いようで無表情で返事を返した。


「私の読心術を使った時は危険はなかった。そして魔導の極みを持っている事はマギカの霊から読心術で分かった」


 便利だな読心術。心霊相手の読心術はラジオみたいなもので、ラジオなら貞子が出てこれない、みたいなものか?


「ラジオ? 貞子?」


 そんな現代知識に対し、読心術で疑問を浮かべるが、こちらにはもう一人納得のいかないという様子の奴がいた。


「うーん、君なんで鑑定メガネ持ってるの? いらなくない? 読心術で読み取れるんでしょ」

「鑑定メガネは撒き餌。鑑定妨害を持っているから鑑定メガネ相手でも大丈夫と油断した相手から情報を抜き取るため」

「……なるほどお」


 そう口にしたのは第二人格か第三人格か。身体は一つしかないからハモれないんだわ。


「なるほどお」

「……いやハモりたかったわけじゃないんだよ。でもありがとね」


 心の声に普通に言葉で返してくるから割と混乱するな。


『それよりも、スキルリストを見てみなさい? 面白いわよ』


 おっと、そうだった。しかしあれだな、人格って意外とまともなのか? しょっぱなの第二人格でハズレ引いただけか?


 それはともかく、改めてこれが私のスキルリストである。


【体術】【軽業】【隠密】【気配遮断】【忍び足】【弱者の見極め】【不意打ち強化】【魔刃作成】【短剣技術】【投擲】【霧操作】【回復魔法】【生活魔法】【毒物知識】【人体知識】【霊視】【暗天時強化】【吸血】【処女の見極め】【突剣技術】【魔力強化】【蝙蝠化】【暗視】【気品】【礼儀作法】【モンスター言語】【鷹の目】【知覚】【感知】【超聴覚】【反射神経】【眷属操作】【剛力】【頑強】【敏捷】【幻術】【魅了】【自動回復】【復活】【魔導の極み】【魔法高速発動】【無詠唱適性】【触媒無し魔法適性】【魔力制御】【錬金術】【鑑定妨害】【ガールハント・極】【不老不死】


 とりあえず説明していこう。

 【魔導の極み】、魔法と名のつくものは大体使えるようになる複合スキルといったところか。そのため、スキルリストからは【血液魔法】【影魔法】【氷魔法】が消えた。

 ただし、回復魔法だけは神官のスキルツリーであり魔導の極みには含まれないらしい。

 分かり辛いのは【触媒無し魔法適性】だろうな。これは本来杖とか指輪なんかの触媒を持って使う魔法が一般的で威力も出る。しかしこのスキルがあると、何も持たなくてもフルスペックで魔法が放てる。

 で、【ガールズハント・極】ってやつ。これは……うん、女性に対する行動判定に極限の補正がかかる、だそうだ。なんでTRPG風なの? えーと、つまり女性特攻。交渉だろうが攻撃だろうが、相手が女だったら特攻が乗って都合のいい結果が出やすくなる、と。

 最後に【不老不死】。え、なんでこんなもん手に入ったの? とりあえず不老はいいんだけど、不死の方が厄介で、死にかけた時、再生に結構な時間がかかるらしい。

 ただ私は【復活】を持っているので血液ストックさえあれば即座に復活できるのだ。

 ……あれ? 強そうなのにあんまいらないな?

 でも三人からコピーしただけあって随分強くなったな……


『強いアタシは美しい……そういう事よ』


 あ、第四人格こいつ女好きなだけじゃなくてナルシストだ!


「そう。お姉様は強い。強い女は好き」


 ティアラに肯定され、気持ちよくなっている。

 なんなら頭を撫でてあげるサービスつきだ。


『さて、アタシ? 全員集合ー!』


 なんか仕切りはじめやがった。


『おう、なんだ?』

『これからの方針を話し合いたいの』

『方針~?』

『そ。今のアタシは吸血鬼の身体能力を持った暗殺者のスタイルで戦える万能魔法使いなワケ――はあ、美しい』


 戻ってこい。仕切るなら仕切るで最後までやれ。


『で、そうすると次どんな相手をコピーするか選り好みできるわけね。どーせもう死なないんだから』

『そうだなあ。ま、話は分かるぜ。そんで?』

『足りないのはもうちょっと剣士的な近接』

『いいねえ! 殴り合いしたいぜ!』

『あとはもうちょっと回復系とかサポート系の神官技能』

「僕それ欲しい! 後ろでこそこそしたい!」


 いや待て待て、もうコピーはしないぞ。もうこれだけあれば充分だろ多分。


『そして……あとはもう自力でスキルが生えるまで努力する』


 努力か……これだけ強ければちょっとくらい努力してもいい気がする。


『この辺が選択肢。さ、どうしましょ』

『生きている人間は勿論。霊や魔物からもコピーできるもんね。それに今は巡礼の旅の途中だからどこにいくのもあり。伝説の剣士や僧侶の霊を巡って旅をしてもいいわけだし』


 しかし、ここにきて意外なやつが梯子を外した。


『は~、お前ら分かってねえ。分かってねえよ。確かに剣士とか武闘家とかコピーするのは賛成だ。だけどよお、大事な事を忘れてる』

『あら? なにかしら』


 そして、楽しそうに笑うのだ。


『まだ伝説の魔法ってやつを試し打ちしてねえ! 決めるのは闘技大会〈魔剣士杯〉で優勝してからでも全然遅くねえじゃねえか!』


 こいつ本当たまにまともな事言うんだよな……

 そう、机上の空論でしかないのだ。確かにあの伝説の霊は凄い魔力が出せた。出力は凄いとは思うが使いこなせなければ意味が無い。

 全員が納得して、じゃあそういう事でとなった時だった。


「お姉様。お願いがある」


 この脳内でわーわーやってたのを邪魔せず見守ってくれていたティアラが、話が一段落したとみてそう言いだした。


「なにかしら? かわいい子のお願いはなんでも聞いてあげたくなっちゃう」

「さっき脳内の整理してた時にお姉様のスキルを見た。【錬金術】のスキルで作って欲しいものがある」

「それは……?」

「賢者の石」


 あまりにも有名なファンタジーアイテム。石を金に変えるなど、万物を自由に操る錬金術師の目指す頂きだ。


「難しいわね……錬金術スキルはおまけくらいしか使ってなかったみたいで、スキルレベルあんまり高くないのよ」

「急いではいない。できたら十年程度を目安に考えて欲しい」

「なんでそんなもの欲しいの?」

「不老不死になりたい。お姉様と同じ時間を永遠に生きるため」


 そういえば、私は不老不死になったのだった。というかなんで不老不死なんかに。

 マギカも不老不死だったなら事故で死ぬはずがない。


「おそらく、霊からスキルをコピーしたから。霊は老いない、死なない」


 なるほど。それなら確かに納得。


『じゃあいっそもうこの女殺してだな』


 それはもうアーレンスなんだよ第二人格。


「ちなみに、伝説の魔法使いマギカが死んだ理由は痴情のもつれ。女の子に手を出しすぎて刺された。自身のスキルを過信しすぎた結果」


 ああ、【ガールズハント・極】……


「話が逸れた。旅の途中で賢者の石を作って欲しい。協力は惜しまない」


 うーん、目的の無い旅といえばそうなんだが。安請け合いするのもなあ。


『はーい、全員集合ー』


 またお前仕切るのかお前第四人格。主人格は私なんだよ!


『どう思う? 第二人格からどうぞ』

『いいんじゃね? てか鑑定スキルは必須だろ。コピーの旅に連れてってついでに作ってやりゃいいだろ』

『無理だと思う。戦闘力の無い女の子を連れて旅は無理だよ。寝てる時とかどうす――あ』


 第三人格が私の地雷に気付いてしまう。

 そう、無音のマジックアイテムを使われていたとはいえぐーすか寝てて護衛としての役目を果たせなかった。その結果、傷ついた人々――散った命。

 無責任な行動は、この可愛らしい少女の人生を終わらせてしまうかもしれない。

 最悪の自体になった時、耐えられるか……? 無理だ。

 ティアラと話したがる第四人格を押しのけて、身体の制御権を得る。


「悪いけど、連れていくことは」

「お姉様のトラウマを読んだ」

「っ!」


 無感情な瞳がこちらじっと見ていた。


「もしその時私がいたら、お姉様を起こせたはず。

 お姉様はすぐに起きて周囲の盗賊を蹴散らした。

 全てを守れた」


 なるほど……考えた事もなかった。

 足りないのは自分自身。そう思っていたのだが。


「他の人格が迷惑をかけるから人と深い交流ができないと思ってる。だからいつも一人」


 そうだ。これは仕方のないことなんだ。


「でも私なら、読心術ですべてが分かっている。お姉様を一人にしない。コピー能力の事だって相談に乗れる。お姉様に必要なのは相棒という存在」


 衝撃だった。本当に必要なのは困った人格を抑える事でも、一人ですべてを出来るようにすることでもない。

 俺に必要なのは、全てを理解してくれる相手だったのだ――


「……闘技大会が終わったら、一緒に旅に出よう」

「うん」


 僅かな微笑みと共に頷く彼女。

 ああ、ただの巡礼の旅の筈が賢者の石の作成だなんて、旅に思わぬ副産物ができた。

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