猫の瞳
猫の瞳って不思議ですよね
町はずれの古い神社に、一匹の猫が住み着いていた。誰が呼ぶともなく、人々はその猫を「四季」と呼んだ。
春になると、桜の花びらを追いかけるように舞い、夏には、日陰の石段で昼寝をしていた。秋には落ち葉をかき分けて参道を歩き、冬には雪をかぶった狛犬の上で、静かに空を見上げていた。
けれど、この猫にはひとつ、不思議な力があると噂されていた。それは、その瞳に季節の”記憶”が映るということ。
春、猫の眼には散った花びらに添えられた別れの涙が映る。
夏、夕立に濡れる子どもたちの無邪気な笑顔が揺れる。
秋、誰かが書いた手紙の一文字が、風にさらわれていく。
冬、凍えた手を繋ぐ恋人たちの小さな希望が、眼の奥に映る。
私は、その猫を毎週のように見に通った。理由は自分でもよくわからない。ただ、その瞳を見ていたいと思った。 ある日、猫がこちらをじっと見た。その金色の瞳の中に私が映っていた。
桜の下で泣いている私。
夏祭りの帰り道、一人歩く私。
秋のベンチで書きかけの手紙を破る私。
雪の降る夜、誰かの名前をそっとつぶやく私。
「あなたの四季は、どんな色だった?」そう言われたような気がした。
猫はそれっきり姿を見せなくなった。けれど、季節が巡るたびに、私は空を見上げる。風の匂いの中に、あの猫の気配を探しながら。だって今でも時々聞こえる気がするから
「にゃぁ〜ん」




