エピローグ いつか国を滅ぼす者
「ヒ……ッ、ヒィッ」
膝を笑わせ、ずりずりと後ろへ下がるバーナビー。
その時、風が吹いてジャックが被っていたフードが煽られる。
濁った瞳がバーナビーを冷たく映す。
黒い髪に黒い瞳。
それが露わとなっても尚、バーナビーはその顔に心当たりがないように取り乱した。
「な、なんなんだよお前……っ! なんでオレを狙うんだよォッ!」
「わからないだろうな」
淡々とした口調で呟きながら斧を弄ぶ。
ジャックは胸の奥から溢れそうになる怒りをなんとか押し留め、無表情を取り繕いながら言う。
「お前たちにとっては些細なことだった。そしてお前たちは――俺の顔を覚えられない」
「……っ! まさかお前、Eランク――」
Eランクジョブ共通のパッシブスキルがジャックの顔の認識を狂わせる。
それに加え、最弱ジョブの人間の命などゴミ同然だっただろうバーナビー達はジャックの声すら覚えていないのだろう。
だがそれは皮肉なことに、これから復讐を繰り返すことになるジャックにとっては都合のいいことだった。
そしてバーナビーがジャックのジョブランクを言い当てた直後。
ジャックはバーナビーとの距離を一瞬で詰める。
その風圧はバーナビーの前髪を揺らし、彼の眼前では斧が振り上げられている。
ジャックのランクを悟った彼は半狂乱になり、声を荒げた。
「う、うそだ。嘘だ嘘だ嘘だうそだうそだうそだうそだうそだぁぁぁッ! あ、ありえない! だってその身の熟し……Eランクがそんな動きできるわけがッ、Aランクのオレが、負けるワケが――」
【アクティブスキル:必中伐採】
ガラ空きの首――明らかな急所目掛けてジャックは斧を振るう。
それは確かな手応えを残し――
――バーナビーの首を刎ねた。
ごとりと首が落ちる音。それに続いて胴体が倒れる。
バーナビーの死体を見下ろし、ジャックは長い溜息を吐く。
そして更に死体をバラバラにしようと斧を強く握った。
だがその時、自分たちの元へへ近づく気配に気付きジャックはその手を止める。
斧を宙で振るって血を払い、足早に死体から離れる。
路地裏を出る。
(次だ。いつか必ず――この国を滅ぼしてみせる)
これはまだ序章に過ぎない。
目下の目標は国で一番権力を握るパーティーを壊滅させること。
その為にはバーナビーよりも強力な者達を相手取り、勝利を掴まなければいけない。
ジャックは気を引き締め、人気のない通りを足早に通り過ぎる。
(この復讐を果たしたら――一緒に眠ろう。誰にも邪魔されない場所で)
アンの遺骨が入ったポケットを優しく撫でる。
静かに立てられた誓い。
それを抱えながら彼は闇の中に姿を消した。
――これはいつか一国を滅ぼす、顔を持たないモブキャラによる復讐の一節。




