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最弱の木こりはジョブスキル《必中伐採》で世界最強のモブキャラとなる  作者: 千秋 颯


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第2話 最初の標的②

 ダンジョンを進む中、勇者パーティーで《暗殺者(アサシン)》ジョブを持つ男、バーナビーは確かに優秀な能力を持った男だった。

 しかし勇者パーティーは腕利きの人物ばかりを集めた精鋭パーティー。

 その中の彼の立場は勇者達に媚を売る下っ端だった。


 そのことに腹を立てていたのだろう。

 ジャックがパーティーに加入してからというもの、バーナビーは仲間の目を盗んではジャックへ暴行を加えるようになった。


 弱者の癖にと、役立たずがと罵る彼の言葉が、彼自身が言われたくないことであるとジャックは気付いていた。

 彼は自分よりも強い者には下に出て、自分より弱い者には己の力を誇示した。

 そんな彼はダンジョンの先へ進む際、勇者達が救った他の探索者達の内、女性探索者に性的暴行を加えるようなこともしていた。


 勇者達が見ていないところで行われる非道な行いにジャックは何度か止めに入ったが、まだ力を手に入れていなかった彼では機嫌を損ねたバーナビーによって半殺しにされるだけであった。


 そして今――




 路地裏に少女の悲鳴が響き渡る。

 ジャックは日中に購入した外套のフードを深く被り、声のする方へ歩く。


「ナァんだよ、照れんなよ。オレは勇者パーティーのバーナビー様だぜ? 大人しくしてやれば……天国見せてやるからよォ……」

「いや! イヤァッ! 誰か……誰かぁっ!」


 組み伏せられた少女が助けを求めて地面を這う。

 先へ伸ばす手を地面へ縫い止め、バーナビーは舌舐めずりをした。


「無駄だぜ。こんなとこ通るやつなんていねぇし……仮にいたとしても、勇者パーティーと敵対しようとする奴なんているわけねぇ」

「あ……っ、ぁ……」


 涙を流す少女がゆっくりと首を横に振る。

 その姿を見て下品な笑みを溢すバーナビーは彼女の服を掴むと無理矢理引き千切った。


「イヤァァァッ」


 一層大きな悲鳴が上がる。

 その時だ。


 少女へ伸ばされた腕が音もなく斬り落とされる。


「…………あ?」


 ごとりと音を立てて転がった腕を見てバーナビーは唖然とする。

 遅れて血が噴き出る断面を見つめた彼は悲鳴をあげる。


「あ゛……っ、ああああ゛あ゛っ!? 腕ッ、オレの腕ェッ!」


 突然の出来事に混乱し、騒ぎ立てるバーナビーへ今度は蹴りが入れられる。

 だがその追撃は彼の動体視力が捉え、残った腕で見事に防いでみせた。


 しかし勢いまでは殺しきれず、重心が少女の上から傾く。

 その隙を吐き、襲撃者――ジャックは襲われていた少女を抱き上げて後退した。


 そしてバーナビーから距離を取ると少女を下ろし、その前に立つ。


「邪魔だ。行け」

「あ……っ、ありがとう、ございます……っ」


 ぶっきらぼうな声に背中を押されるように、少女がその場から逃げて行く。

 その気配が離れていった頃。バーナビーは憤りを顔に刻んで叫び散らした。


「何してくれてんだテメェッ!! お陰であのクソアマに頭下げなきゃなんなくなっただろうがァッ!」

(《聖女》か)


 失くした片腕に絶望してもおかしくない状況だが、バーナビーにその様子は微塵もない。

 何故なら彼が属するパーティーには驚異的な回復スキルを持つ《聖女》ジョブの少女がいる。彼女であれば一度切断された四肢を付け直すことくらい容易いだろう。


「クソ……ッ、クソクソクソッ、いってぇ……いってぇいってぇ痛え……ッ! オレの邪魔しやがって……恥かかせやがってぇ……っ! 何者だテメェ、国の英雄にこんなことしていいと思って――」


 怒りが収まらない様子のバーナビーを見つめながらジャックは小首を傾げる。

 そして自身の肩を指しながら言う。


「よく喋るな。自殺願望でもあるのか?」


 止血もせずダラダラと話していれば当然血は足りなくなる。

 そんな簡単なことも考えつかないのかという言葉はバーナビーの怒りにより大きな火をつけたらしかった。

 怒りのままに口角を釣り上げた彼は隠し持っていたナイフを取り出すとそれを構える。


「ハッ、止血なんざしてたら隙だらけだろうがバカが!! テメェを瞬殺してからじっくりやってやる!」


 刹那。

 バーナビーの姿が闇に消える。

 彼のジョブは隠密行動と俊敏性に長けたものだ。

 気配を消した彼はジャックの視界から外れると、瞬時に彼の背後まで回り込んだ。

 そしてその切先を首筋へ叩き込もうとしたその時――


 振り返ったジャックの瞳がバーナビーを映す。

 そして彼は斧の柄でそれを受け止めた。

 食い込む刃と、武器が動きを止めた事で隙を作ったバーナビー。

 彼に残された腕を強く蹴り付けた。


「あ、ガ……ッ――アギャァァァアアアッ」


 骨が砕ける鈍い音と共に、バーナビーの手からナイフが離れる。

 それを斧から取ったジャックは後方――バーナビーの手に届かない場所へとそれを放り捨てる。


 一方のバーナビーはというと、最早武器どころではなく、簡単に折られた腕の激痛から悲鳴を上げながら尻餅をついていた。


 冷や汗と涙でぐしゃぐしゃになった顔は、ジャックが足元にあった腕を遠くへ蹴りやったところで青く染まる。

 ようやく己の死の足音に気付いたのだろう。


 斧を片手にジリジリと近づくジャックを見上げ、バーナビーは引き攣った悲鳴を絞り出したのだった。

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