第3章 困惑の目覚め❨天界❩
## 天界・光明の間
意識が戻ったとき、ベルゼバルは自分が見知らぬ天井を見上げていることに気づいた。
それは魔界の血色の石材でも、業火に照らされた溶岩の洞窟でもなく、純白の大理石と黄金の装飾で彩られた、荘厳で美しい円蔵天井だった。そこには翼を広げた天使たちが人間を守護している光景が描かれており、全体が柔らかな光に包まれている。
「これは...一体...」
声を発しようとして、ベルゼバルは困惑した。自分の声ではない。澄んだ高い音色で、聞く者の心を癒すような、あの忌々しい神アルテミスの声が自分の喉から響いたのだ。
慌てて身を起こそうとして、異変は決定的となった。自分の手が、見慣れた浅黒い肌ではなく、雪のように白く、指は細く美しい。爪は自然な薄紅色で、まるで芸術品のように整っている。
「何だと...何ということだ...」
震える手で自分の顔に触れると、そこには全く違う輪郭があった。魔界で鏡に映していた自分の鋭く威厳に満ちた顔立ちではなく、穏やかで慈愛に満ちた表情。額には角の代わりに、薄っすらと光る神聖な印章が浮かんでいる。
「神...神の身体に...」
混乱の中、記憶が蘇ってきた。天魔大戦での激突。あの瞬間、世界が白い光に包まれ、そして...
「アルテミス!」
ベルゼバルは叫んだ。しかし、返事はない。代わりに、重厚だが優雅な扉が静かに開かれた。
現れたのは三体の上級天使だった。先頭を歩くのは、六枚の翼を持つ威厳ある大天使。その後ろには、竪琴を持つ美しい女性天使と、巻物を抱えた学者風の天使が続く。
「アルテミス様」
大天使が膝をついて頭を下げた。声は清らかで、まるで鈴の音のような響きを持っている。
「お目覚めになられましたか。戦いの後、三日三晩も眠り続けておられましたので、我々は深く案じておりました」
三日。ベルゼバルは内心で舌打ちした。魔界では今頃、自分の不在が問題になっているはずだ。
「私は...」
言いかけて、ベルゼバルは言葉を飲み込んだ。この身体が神アルテミスのものであることを悟られるわけにはいかない。少なくとも、状況を把握するまでは。
「私は...無事だ」
「もちろんでございます、アルテミス様」
大天使―ベルゼバルは天界の情報から、彼が神の右腕である大天使ミカエルであることを思い出した―が立ち上がった。
「しかし、戦いの影響でしょうか。何かお加減でも悪いのでしょうか?いつものアルテミス様でしたら、目覚めるなり魔界の者たちへの慈悲を説かれるはずですが」
ベルゼバルは内心で苦笑した。慈悲?魔界の連中に?
「...慈悲とな?」
「はい。あの邪悪な魔王ベルゼバルめ、アルテミス様に対して卑劣な攻撃を仕掛けてまいりました。しかし、アルテミス様は『彼もまた神の子である』と仰り、赦しを与えようとなさいます」
ミカエルの目が悲痛に曇った。その瞳に映る悲しみと愛の深さに、ベルゼバルは思わず戸惑った。
「し、しかし...」
「アルテミス様?」
竪琴を持つ女性天使が疑問の声を上げた。彼女はガブリエルといい、天界の芸術と愛を司る天使だった。
「いつものアルテミス様でしたら、『魔界の者たちも救われるべき』と仰るはずですが...」
ベルゼバルの眉がぴくりと動いた。救われるべき?魔界の連中が?
「それに」
巻物を抱えた学者天使ウリエルが穏やかな声で言った。
「アルテミス様の神聖な力の波動が...いつもと違います。まるで...」
「まるで?」
「まるで、闇の力が混じっているような...」
三体の天使の視線が一斉にベルゼバルに集中した。心配と困惑の色が濃くなっていく。
ベルゼバルは内心で警戒した。ここで正体がばれれば、間違いなく大変なことになる。天界の連中がどんな「浄化」を行うか、想像するだけでも恐ろしい。
「...私は無事だ」
ベルゼバルは努めてアルテミスの口調を真似しようとした。しかし、優しい言葉を口にするのは性に合わない。
「戦いで...多少の影響は受けたが、それだけのことだ。魔界の者たちについては...」
言葉に詰まった。「皆殺しにしろ」とは口が裂けても言えない。この身体が拒否する。
「については...よく考えてから決める」
「よく考えて?」
ミカエルが驚いた表情を浮かべた。
「アルテミス様、ベルゼバルは我々の不倶戴天の敵。しかし、アルテミス様はいつも『愛をもって接するべき』と仰います。なぜ今日は躊躇なさるのですか?」
ベルゼバルは苦しんだ。目の前の天使たちは、確かに美しく聖なる存在だった。しかし、彼らのアルテミスへの崇拝ぶりは、魔界の部下たちの忠誠とは質が違う。もっと...盲目的で、思考停止している。
そんな部下たちに偽りの慈悲を語ることの空虚さに、ベルゼバルの心は反発した。
「...私には私の考えがある」
「しかしアルテミス様—」
「黙れ」
思わず本性が出てしまい、ベルゼバルは慌てた。しかし、三体の天使は驚愕の表情を浮かべ、明らかに動揺していた。
神が怒りを露わにするなど、彼らには信じられないことだった。
「あ...いや...」
ベルゼバルは必死に取り繕った。
「静寂の中で考えたいのだ。下がってくれ」
「...承知いたしました」
三体の天使は困惑しながらも、深々と頭を下げて部屋を出て行った。扉が閉まる寸前、ミカエルが振り返った。
「アルテミス様...もし何かお困りのことがございましたら、何なりとお申し付けください。我々は永遠にアルテミス様の忠実なる僕でございます」
扉が閉まった。
ベルゼバルは大きくため息をついた。
「面倒なことになった...」
## 天界の現実
一人になったベルゼバルは、まず自分の置かれた状況を把握しようと決めた。立ち上がり、部屋を見回す。
これは神の私室らしく、魔王城とは比較にならないほど広大で美しい空間だった。しかし、その美しさは魔界のそれとは対極にある。魔界の装飾が力と支配を誇示するのに対し、ここの装飾は純粋さと調和を表現している。
壁には平和の象徴である鳩や、愛を表す薔薇の絵画が飾られている。床には天界の地図が描かれた美しいモザイクが敷かれ、そこには金色の印で天使たちの居住区域が示されていた。
窓に近づくと、天界の風景が一望できた。
「これが...天界...」
魔界から見上げていた時とは、全く違う光景だった。
確かに純白の雲海と黄金の建物群ではあるが、そこには想像していたような完璧な秩序はなかった。遠くに見える街では、天使たちが何やら議論を交わしている。中には表情を曇らせている者もいれば、不満そうな顔をしている者もいる。
まるで人間界の政治家のような、現実的な問題に頭を悩ませている光景がそこにはあった。
「天使にも...悩みがあるのか...」
ベルゼバルは意外だった。魔界にいる時、天界の住人は皆、何の苦労もない完璧な存在だと思っていた。しかし、窓から見える光景は、確かに理想と現実の間で葛藤している人々の姿だった。
その時、部屋の扉が再び開かれた。
「失礼いたします、アルテミス様」
現れたのは、先ほどとは違う天使だった。中年の人間のような外見をしているが、背中には立派な翼が生え、額には智慧の象徴である星の印章が輝いている。
「私はラファエル、天界の行政を司る者です。アルテミス様がお目覚めになったとお聞きし、急いで参りました」
「行政...」
「はい。実は、緊急にご相談したいことがございます」
ラファエルは分厚い書類の束を抱えていた。
「第三天域で不正が発覚いたしました。一部の天使たちが、人間界への奇跡の分配を不平等に行っていたのです」
「不正...」
ベルゼバルは驚いた。天界にも不正があるのか。
「はい。裕福な人間にばかり奇跡を与え、貧しい人間を見捨てていました。このままでは天界の威信が失墜いたします」
「威信の失墜...それは問題だな」
「アルテミス様?」
ラファエルが困惑した表情を浮かべた。
「いつものアルテミス様でしたら、『全ての存在は平等に愛されるべき』と仰り、即座に改善を命じられるのですが...」
ベルゼバルは内心で苦笑した。平等に愛される?そんな綺麗事で問題が解決するのか?
「それは...」
「もちろん、アルテミス様のお考えは理解しております。愛こそが全ての解決策であると。しかし、現実問題として、どう対処すればよいでしょうか?」
「現実問題...」
ベルゼバルは思わず身を乗り出した。
「具体的にはどんな方法がある?」
ラファエルの目が見開かれた。
「アルテミス様...まさか、現実的な解決策をお求めですか?」
「当然だろう」
言葉が出てから、しまったと思った。しかし、ラファエルは明らかに安堵の表情を浮かべた。
「実は...私も同じことを考えておりました」
「同じこと?」
「はい。不正を行った天使たちには厳罰を与え、システムを根本から見直すべきだと」
「厳罰...」
「はい。アルテミス様はいつも慈悲深くいらっしゃいますが、時には厳しさも必要ではないでしょうか?」
ベルゼバルは興味深く思った。
「続けろ」
「不正を見逃せば、他の天使たちも同じことをするでしょう。しかし、厳格な処罰を行えば、再発を防げます」
「なるほど...それで、お前はどうしたい?」
「不正を行った天使たちを一時的に人間界に派遣し、貧しい人々の世話をさせる。そして、奇跡の分配システムを完全に透明化する」
ベルゼバルは感心した。この天使は現実的で、効率的な思考ができる。
「良い案だ。実行しろ」
「し、しかしアルテミス様、本当によろしいのですか?厳罰は慈愛に反するのでは...」
「厳しさも愛の一形態だ」
ベルゼバルは自然に答えた。
「甘やかすだけが愛ではない。時には厳しくしてこそ、成長させることができる」
ラファエルは感動したような表情を浮かべた。
「アルテミス様...ついにお分かりいただけたのですね」
「?」
「実は、多くの天使たちが同じことを考えておりました。しかし、アルテミス様の優しさを慮って、言い出せずにいたのです」
## 夜の困惑
その夜、ベルゼバルは天界の静寂に包まれていた。神の寝室は美しかったが、どこか物足りない。魔王城の、あの力強く威圧的な空間が恋しかった。
窓の外では、天界の星が美しく輝いている。その光に照らされた雲海は、昼間見た複雑な現実とは違い、確かに神聖で美しかった。
コンコン。
軽いノック音が聞こえた。
「誰だ?」
「失礼いたします、アルテミス様。ミカエルでございます」
先ほどの大天使の声だった。ベルゼバルは身構えた。
「入れ」
扉が開き、ミカエルが現れた。しかし、昼間の威厳ある態度とは打って変わって、どこか不安そうな表情をしている。
「アルテミス様、お休みの最中に申し訳ございません」
「構わん。何用だ?」
ミカエルは少し躊躇してから、口を開いた。
「アルテミス様...率直にお尋ねします。今日のあなたは、いつものアルテミス様とは違います。何かあったのですか?」
ベルゼバルの心臓が跳ね上がった。やはり気づかれていたか。
「何のことだ?」
「不正の件です。いつものアルテミス様でしたら、『愛をもって導く』の一言で終わりです。それが今日は、厳罰を命じられた」
ミカエルはベルゼバルに近づいた。
「そして、魔界への慈悲についても煮え切らない。まるで...まるで愛することを躊躇しておられるような」
「それは—」
「アルテミス様」
ミカエルが跪いた。
「もしも、もしもアルテミス様に何か異変が起こっているのでしたら、この忠実なるミカエルにお聞かせください。アルテミス様のためなら、この命も惜しくはございません」
その真摯な眼差しに、ベルゼバルは複雑な気持ちになった。この天使は、確かに神を慕っている。しかし、その崇拝は...
「ミカエル...」
「はい」
「お前は...神である私を、なぜそこまで崇拝するのだ?」
ミカエルは驚いた表情を浮かべた。
「なぜって...」
少し考えてから、彼は答えた。
「アルテミス様は、完璧な愛そのものでいらっしゃいます。全ての存在を平等に愛し、決して見捨てることがない。その完璧さに、我々は救われているのです」
「完璧...」
「はい。アルテミス様には迷いがなく、怒りもなく、憎しみもない。純粋な愛だけが存在する」
ベルゼバルは違和感を覚えた。
「それは...息苦しくないか?」
「息苦しい?」
「完璧であることを求められ続けるのは、辛くないのか?」
ミカエルは困惑した。
「アルテミス様...何を仰っているのですか?完璧であることは素晴らしいことです」
「しかし、完璧でない者はどうする?見捨てるのか?」
「いえ、アルテミス様が愛で導いてくださいます」
「愛だけで?現実的な解決策はないのか?」
ミカエルは答えに窮した。
「アルテミス様の愛があれば、それで十分です...」
ベルゼバルは苛立った。この盲目的な信仰は、問題解決を妨げているのではないか?
「ミカエル」
「はい」
「もしも...もしもだが、私が完璧ではなかったら、お前はどうする?」
ミカエルは長い間沈黙していた。そして、震え声で答えた。
「そんなことはありえません。アルテミス様は完璧でいらっしゃいます」
「だが、もしもだ」
「...分かりません」
ミカエルの声は小さくなった。
「アルテミス様が完璧でなければ、私たちは何を信じればよいのでしょうか?」
その答えに、ベルゼバルは愕然とした。
## 天界の朝
翌朝、ベルゼバルは早く目を覚ました。神の身体は思っていたより繊細で、深い睡眠を必要とした。
窓の外では、天界の朝が始まっている。黄金の太陽が雲海から昇り、街に神聖な光が差し込んできた。
昨夜のミカエルとの会話が頭から離れない。神への盲目的な崇拝、完璧性への執着。それは確かに美しいが、同時に脆弱でもある。
コンコン。
またノック音が聞こえた。
「入れ」
現れたのはラファエルだった。昨日よりも表情が晴れやかだ。
「アルテミス様、おはようございます。昨日の件、ありがとうございました」
「何のことだ?」
「不正の件です。厳罰の実行が始まりました。天界全体の規律が改善されつつあります」
「それは...良かった」
「ただ」
ラファエルの表情が曇った。
「一部の天使たちから、困惑の声が上がっております」
「困惑?」
「はい。『アルテミス様が変わった』『これまでのような慈愛がない』と」
ベルゼバルは苦い気持ちになった。効率的な解決を図ったつもりなのに、批判される。
「しかし」
ラファエルが続けた。
「実務を担当する天使たちは、アルテミス様への信頼を新たにしております。『ついに現実を見てくださった』と」
「現実を見る...」
「はい。今までのアルテミス様は...失礼ですが、理想論に偏りがちでした。しかし、昨日のアルテミス様は違った。現実的で実践的でした」
その時、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「アルテミス様!」
現れたのはガブリエルだった。竪琴を持つ美しい天使は、明らかに動揺している。
「大変です!魔界の動きが異常です!」
「魔界の?」
「はい!魔王ベルゼバルが姿を消しました!三日前から行方不明です!」
ベルゼバルは心の中で安堵した。やはり魔界でも異変が起こっている。ということは、アルテミスも同じような状況にいるのだろう。
「そして」
ガブリエルが続けた。
「魔界の統治が変わりました。どうやら、慈悲深い政策が取られているようです」
「慈悲深い...」
「はい。魔王が消えたのは、アルテミス様との戦いの影響だと考えられます。天使たちは歓喜しています」
ベルゼバルは青ざめた。慈悲深い政策?まさか、アルテミスが魔界で...
「アルテミス様」
ミカエルが現れた。
「魔界討伐の準備を整えましょう。魔王不在の今なら、完全に制圧できます」
「待て」
ベルゼバルは手を上げた。
「討伐を避ける方法はないか?」
三体の天使は呆然とした。
「アルテミス様...討伐を避ける?」
「魔界が弱体化しているのに?」
「そんなことをすれば、せっかくの機会が—」
「構わん」
ベルゼバルは立ち上がった。
「私は...私はもう一方的な攻撃はしたくない」
その瞬間、部屋に沈黙が落ちた。
「アルテミス様...」
ミカエルが震え声で言った。
「まさか...魔界に同情を?」
「同情ではない」
ベルゼバルは窓の外を見つめた。
「ただ...一方的な勝利が正義ではないということを、理解したのだ」
「しかしアルテミス様、魔界は悪の巣窟です」
「本当にそうか?」
ベルゼバルは振り返った。
「我々が思っているほど、単純なものなのか?」
ミカエルは答えることができなかった。
「アルテミス様の仰る通りです...しかし、どうすれば...」
「それを考えるのだ。戦わずして、この問題を解決する方法を」
## 真実の重み
その日の午後、ベルゼバルは一人で天界の街を歩いた。神の外見では誰もが跪くため、フードで身を隠している。
街では、昨日の改革のおかげで、天使たちの働きぶりが変わっていた。以前より真剣に、現実的に職務に取り組んでいる。
「ねえ、聞いた?アルテミス様が厳罰を命じたんだって」
「本当?あの慈愛深いアルテミス様が?」
「うん。でも、おかげで不正がなくなったよ」
そんな会話が聞こえてきて、ベルゼバルは複雑な気持ちになった。
天界の隅にある小さな図書館に足を向けた。そこは、天界では珍しい現実主義的な書物が集められた場所だった。
図書館の中には、一人の老いた天使がいた。彼は天界では珍しく、理想と現実の両方を重視する知識人として知られていた。
「どなたですか?」
老天使が振り返った。ベルゼバルはフードを取った。
「!アルテミス様...」
「静かに。私はここに学びに来た」
「学び...ですか?」
老天使は困惑した。
「アルテミス様が学びに?」
「おかしいか?」
「いえ...ただ、アルテミス様が現実的な知識を求められるとは...」
ベルゼバルは書棚の前に立った。
「私は...迷っている。理想を追うべきか、現実を見るべきか」
老天使は驚いた。
「アルテミス様が...迷いを?」
「完璧でなければならないのか?完璧でない者は価値がないのか?」
「いえ、決してそんなことはありません」
老天使は確信を持って答えた。
「完璧性の追求は美しいですが、不完全さもまた価値があります。なぜなら、そこにこそ成長の可能性があるからです」
その言葉に、ベルゼバルは希望を感じた。
「ありがとう」
図書館を出ると、夕日が天界を金色に染めていた。しかし、その美しさの陰に、複雑な現実が隠れていることを、ベルゼバルは知っていた。
## 軍議の混乱
天界の宮殿に戻ると、緊急事態が待っていた。
「アルテミス様!」
ガブリエルが駆け寄ってきた。
「魔界で異変が起こりました!魔王の代理と思われる者が、和平を提案してきました!」
「和平...」
ベルゼバルは興味深く思った。
「軍議を開きます。全ての大天使を集めてください」
「はい!」
一時間後、天界の評議会場に天界の幹部たちが集まった。ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエル、そして他の大天使たち。
「諸君」
ベルゼバルは玉座に座り、全員を見回した。
「魔界から和平の提案が来た。これについてどう思う?」
ざわめきが広がった。
「アルテミス様、それは罠です」
「魔界の者は信用できません」
「この機会に完全に滅ぼすべきです」
ベルゼバルは手を上げ、静寂を求めた。
「聞け。私は諸君に正直に言おう」
一同が息を呑んだ。
「私は...完璧ではない」
衝撃が走った。数人の天使が立ち上がり、困惑の表情を浮かべた。
「私には迷いがあり、怒りもあり、そして...学ぶべきことがまだたくさんある」
「アルテミス様...何を仰って...」
「だから、私は諸君と一緒に考えたい。魔界との関係をどうすべきかを」
完全な沈黙が落ちた。