ジャパニーズソルジャー
ここはとあるアメリカ軍空母の艦橋。
「艦長、自衛隊による補給がおわりました。ここにサインを」
「うむ」
「しかし、あれですねえ。自衛隊のヤツらってオレたちが偉そうにあれこれ言いつけてもヘコヘコとすぐ言うことを聞くし、あれでも軍隊なんですかねえ」
「あれが、ジャパニーズソルジャーだ」
「戦っても負ける気なんか、これっぽっちもしないのですが」
「そう思えるか。 よし、オレが若いころオレの町にやってきた一人のジャパニーズソルジャーの話をしてやろう」
そいつは日本の電気メーカーの社員だった。なんでも新しい日本のテレビをセールスにきたらしい。
オレたちの町は田舎だったし、日本人なんかめずらしく、そんなもん誰も見向きもしなかった。
オレも端からそいつが気にくわなかった。背も小さく、どこかオドオドしてて弱っちい。
第一ここはアメリカだ。オレたちが必要なものは、オレたちの国のモノで満たされてるんだよ。
日本製?ハッ、そんなもんはいらないね、とっとと帰れ。そう思っていたんだ。
でもそいつは、毎日コツコツパンフレットを一軒一軒持っていったり、人通りの多いところで声をかけたりしてやがった。
そのひたむきな姿に、やがて町のもんでも話をきく人間がでてきたもんさ。
オレはそれが余計気にくわなかった。だから、仲間と一緒によく邪魔をしたもんよ。
パンフレットを取り上げて捨てたり、そいつに泥をぶっかけたりしてな。
ある日オレはついに仲間を集めてそいつを囲み、ボコボコにしてやったんだ。これで諦めて帰るだろうとな。
その晩、その日本人はオレたちの町の唯一のたまり場、スリーセブンにこっそり現れやがった。
てっきり復讐しにきたのかとおもったが、いよいよ諦めて明日日本へ帰るので、皆に挨拶にきたというのだ。
オレはヤツの肩を抱いて店の中に連れて行ってやった。そこでヤツは店主にこういったんだ。
この町は自分の初の海外勤務地だったと。精一杯努力をした想い出に置き土産をさせてほしいと。
それはなんと50インチの大型テレビだった。もちろん店主は断らなかったさ。
そんなテレビがあったら、また大勢の人がスポーツ観戦で店に集まるし、なんせタダなんだからな!
その夜の酒はうまかった。大きな戦利品による、鮮やかで迫力のあるフットボールの試合。皆で盛り上がった。
オレは端っこで小さくなって呑んでいるあの日本人が急に哀れになって仲間のところへ連れてきて、一緒に呑んだんだ。
おまえもよくやったよ。国に帰っても元気でな、みたいなことを言ったとおもう。
翌朝、日本人はそっと国へ帰っていった。
その後一年とかからなかったさ
オレたちの町じゅうの家のテレビが日本製になるのにな。
「ヤツらは個のプライドやメンツなどよりも、実利を優先できる人間だ。目的のために己を殺し、己を捨てることもいとわない。これが、ジャパニーズソルジャーだ。オレたちには 敵わない部分を秘めている。けっしてその見てくれを鵜呑みにするな」