「100年ダラダラしてたらレベル0のボスになってた件」最終回
最終回
一日でよくかけましたね
「黒い塔」と呼ばれる廃墟に足を踏み入れると、周囲の空気が一変した。冷たく淀んだ空気が肌を刺し、辺りには異様な静寂が漂っている。塔の入り口には古びた石碑が立っており、そこに刻まれた文字にはこう書かれていた。
「ここより先、闇の力に魂を捧げし者のみ通ることが許される」
「おいおい、魂を捧げろってか……そんな大げさなことを言う割には、あっさり入れるな」
俺はふにゃりと体をゆるめながら、石碑をスルーして塔の中に入った。入口付近には誰もおらず、どうやら見張りは置かれていないようだ。おそらく、こんな場所に入り込む奴は限られていると踏んでいるのだろう。
暗い回廊を進んでいくと、やがてぼんやりとした灯りが見えてきた。そこには数人の黒いフードを被ったナイトメア団のメンバーが集まって、何やら呪文のようなものを唱えている。
俺は静かに近づき、壁の影から様子をうかがった。彼らの話を聞くと、どうやら「魔法の遺物」を召喚するための儀式を行っているらしい。そして、その遺物があれば大地を闇で覆い、全てを支配できると……どうやら本気で世界征服を企んでいるらしい。
「……こりゃあ、見過ごせねぇな」
俺はそっと体を広げ、じりじりとナイトメア団の連中に近づいていった。そして、目の前にいた団員の足元を絡め取るように「ぬめり返し」を発動。ぬるりとした粘液が団員の足に絡みつき、彼がバランスを崩して倒れると、仲間たちも驚いたようにこちらを向いた。
「なんだ!?スライム……だと?」
黒いフードの団員たちは驚きつつもすぐに武器を構え、こちらに向かってきた。だが、俺は動じない。スライムとしての柔軟な体を駆使して、次々に彼らの攻撃をかわしながら、逆に「のしかり」で地面に押し付けて動けなくしていく。
「ぐぬぬ……何だこいつ、ただのスライムじゃないぞ!」
「そうだよ、俺はただのスライムじゃない。レベル0のボスってやつだ!」
こうして次々に団員たちを無力化しながら、俺は塔の奥へと進んでいった。ナイトメア団の連中は次第に怯え始め、恐怖の表情を浮かべて逃げ出す者も現れた。闇の組織だとか大層なことを言っておきながら、意外と根性がない奴らだなと心の中で苦笑しつつ、俺はそのまま儀式の部屋にたどり着いた。
儀式の部屋には、大きな魔法陣が描かれており、その中心に暗黒色の水晶が浮かんでいた。周囲にはさらに強力なナイトメア団の幹部たちが集まっており、彼らが一斉にこちらを睨みつけてきた。
「誰だ貴様……!この聖なる儀式を邪魔するとは!」
俺はスライムらしくぴょんと跳ねながら、堂々と部屋の中央に進み出た。
「俺はレベル0のボス、ダンジョンのスライム様だ。お前らが何を企んでいるかは知らねぇが、村や街の人たちを脅かすなら、この俺が相手になってやる!」
幹部たちは小馬鹿にしたように笑い声をあげた。
「スライムごときが我らナイトメア団に立ち向かうだと?滑稽なものよ!」
一人の幹部が呪文を唱え始め、暗黒のエネルギーが俺に向かって放たれた。だが、俺はダンジョンで鍛えた粘液防御を使い、そのエネルギーを受け流す。弾かれたエネルギーが壁にぶつかり、爆発音が響き渡った。
「何……このスライム、普通じゃないぞ!」
「だから言ってるだろ?俺はただのスライムじゃなくて、ダラダラ100年鍛えたレベル0のボスだってな!」
俺は続けて「のしかり」周囲の重力を操りながら幹部たちを地面に押し付けた。彼らは身動きが取れなくなり、呪文も唱えられない。そうしている間に、俺は部屋の中央に浮かぶ暗黒の水晶にじわじわと近づいていった。
「この水晶が『魔法の遺物』ってやつか……」
水晶には強大な力が宿っているのが、俺の粘液を通して感じ取れた。どうやらこれを破壊すれば、ナイトメア団の計画を根本から潰すことができるかもしれない。
俺は体内に蓄えた全エネルギーを一点に集中し、水晶に体ごと突っ込んだ。
意外と脆いんだな
眩い光が部屋を包み込み、俺の体が水晶を飲み込むようにして光の中に溶け込んでいった。そして……次の瞬間、暗黒の水晶は砕け散り、部屋中に霧のように黒い煙が立ち込めた。
ナイトメア団の幹部たちは、俺が水晶を破壊した瞬間にその力を失い、呆然と立ち尽くしていた。彼らは次々に膝を突き、「こんなはずでは……」と呻いている。
俺は大きく跳ねながら、こう告げた。
「お前らが何をしようとしていたのかは知らないけどな、力ってのはこんな風に人を傷つけるために使うもんじゃないんだよ」
幹部たちは逃げるように部屋から去っていき、ナイトメア団はほぼ壊滅状態となった。これで村や街の人々も安心できるだろう。
俺が塔を出ると、外には再び青空が広がっていた。どうやら暗黒の水晶が放っていた闇の影響が消えたようだ。街に戻ると、俺の噂はすでに広まっていたらしく、村や街の人々が「ボス様!」と歓声を上げて迎えてくれた。
それからしばらくして、俺は再びダンジョンに戻ったが、もう「ただのスライム」とは呼ばれなくなった。村人や街の人々が訪れては「また助けてほしいことがあれば頼むぞ!」とか、「ボス様、いつかまたお会いしましょう!」とか言ってくれる。
100年ダラダラしていたスライムが、こんな風に外の世界で人に頼られる日が来るとは、思ってもみなかった。
そして俺は今日もダンジョンの奥でのんびりと、次の冒険に思いを馳せていた。
「何だこのチラシ」
「何だこのチラシ」
「100年ダラダラしてたらレベル0のボスになってた件 RPGゲーム発売?
買ってみるか」
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