「100年ダラダラしてたらレベル0のボスになってた件」➂
今度こそ最終回出します
文字数(空白・改行含む):2185字
文字数(空白・改行含まない):2119字
それからというもの、俺は時々ダンジョンを抜け出して村を訪れるようになった。村の人たちにとって俺は「ちょっと変わったけど頼りになるスライムのボス」として、なんだか妙に慕われている。正直、自分がスライムとしてこの状況にいるのが不思議でならないけど、居心地が悪いわけじゃない。
村でいろいろと頼まれごとをするうちに、俺の「ボススキル」も少しずつレベルアップしている気がする。先日は村の麦畑にモグラみたいなモンスターが大量発生したときも、俺の技で一網打尽にしてやったし、村人が喜んでくれるのを見るのも悪くない。
そんなある日、村長が深刻な顔で俺のもとを訪れた。
「のボス様、どうか力を貸してくれませんか?」
「おう、どうしたんだ?」
村長は静かに話し始めた。どうやら最近、この村から少し離れた大都市アルクレストのほうで不穏な動きがあるらしい。何でも、「闇の勢力」が勢力を拡大していて、近隣の村々を脅かしているとか。そして、ついにその影響がこの村にまで迫ってきたというのだ。
「この村も、いつ襲われるかわからんのです。せめて、街に行って事情を調べてきてはもらえませんか?」
「ふむ、なるほどな……」
俺は少し考えた。この村には随分と世話になっているし、ここでじっとしているだけでは「ボス」としての成長も望めないだろう。それに、俺のダンジョンの名が「闇の勢力」なんて奴らに汚されるのはごめんだ。
「いいだろう、俺が行ってきてやる」
こうして、俺は生まれて初めての「大都市アルクレスト」への旅に出ることになった。
アルクレストへの道中、初めて見る景色や生き物に俺は興奮しっぱなしだった。100年もダンジョンに閉じこもっていたせいか、外の世界はすべてが新鮮だ。街道を歩く商人や旅人たちも珍しそうに俺を見て、時には「スライムが旅をしてるぞ!」と噂されることもあった。
しばらく進むと、遠くに大きな城壁が見えてきた。これがアルクレストだろう。石造りの巨大な門の前には武装した衛兵が立っていて、俺を見ると訝しげに眉をひそめた。
「スライムが……街に入ろうってのか?」
俺は跳ねながら「おう、ちょっと調べたいことがあってな」と答えた。衛兵は怪訝そうな顔をしていたが、「スライムのボス」という噂は村々に広まっていたようで、「ああ、お前があの噂のスライムか」と最終的には通してくれた。
アルクレストの街中は村とはまるで違う活気に満ちていた。露店が立ち並び、商人たちが大声で商品を売り込み、行き交う人々のざわめきがどこか心地よい。俺がうろうろしていると、子どもたちが興味深そうに寄ってきたり、「スライムだ!」と指を差してはしゃいでいる。
しかし、街のあちこちで感じる妙な緊張感は見逃せなかった。どうやら「闇の勢力」とやらが近づいているというのは本当らしい。街の人たちも、どこか不安げに周囲を見渡している。
俺は情報を集めるべく、酒場に向かうことにした。酒場は冒険者や商人たちが集まり、情報が豊富に得られる場所だと聞いたからだ。酒場に入ると、薄暗い店内には屈強な男たちが酒を飲み交わしている。俺が入り口に入ると、ざわめきが一瞬止まり、全員がこちらを見た。
「……おい、あれってスライムじゃねえか?」
「しかもボスらしいぜ。妙な時代になったもんだ」
そんな囁きが聞こえる中、俺は意を決してカウンターにぴょんと跳ね上がり、酒場の店主に声をかけた。
「よお、おやっさん。闇の勢力とやらについて知りたいんだが、何か情報はあるか?」
店主は驚いた顔をしたが、話し始めた。
「最近、この街にも黒いフードを被った連中が出入りしていてな。彼らは『ナイトメア団』と呼ばれていて、近隣の村々を襲い、住民を脅して何かを探しているらしい。何でも、強力な魔法の遺物を狙っているとか……」
「魔法の遺物、か」
「そうだ。噂によると、その遺物を手に入れた者は莫大な力を得るらしい。それが本当かどうかはわからんが、ナイトメア団が必死になって探しているのは確かだ」
なるほど、闇の勢力の目的は「魔法の遺物」ということか。それを手に入れて、さらなる力を手に入れようとしているわけだ。俺はダンジョンのボスとして、この街や村人たちを守るために行動するべきだと感じた。
「どこに行けばそいつらに会える?」
店主は少し黙って考え込んだ後、静かに囁くように答えた。
「南の山岳地帯に『黒い塔』と呼ばれる廃墟がある。ナイトメア団の連中はそこを拠点にしているらしい」
こうして、俺はナイトメア団が待つ「黒い塔」に向かうことになった。スライム一匹で何ができるかはわからないが、村や街が危険に晒されているなら放っておけない。
塔に向かう道中、俺は自分がどこまで強くなれるのか、そして本当に「ボス」としてこの世界でどこまで通用するのか、少しずつ試していきたいという気持ちが芽生えていた。これは単なる退屈しのぎではない。自分のため、そして頼ってくれる人々のために――スライムのボスとして、俺は歩みを進めた。
塔に辿り着くと、空は不気味なほど赤く染まり、黒い雲が渦を巻いていた。その異様な光景に、俺は小さく気合を入れる。
「さて、100年ダラダラしてきたが……今日はちょっと、本気を出してみるか」
頑張ります