「100年ダラダラしてたらレベル0のボスになってた件」➁
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文字数(空白・改行含まない):2133字
大作ですね
ダンジョンの奥で百年も過ごしていると、さすがに暇になってくる。たまには外の空気も吸ってみたくなるというものだ。特に最近、ダンジョンを訪れる冒険者も減ってきて、刺激も減ってしまった。俺は意を決して、自分の体をぐにゃりと伸ばしながら入り口に向かってスライム特有の「ぬるぬる移動」を開始した。
「ま、ちょっとくらい出かけてもいいだろう」
俺は自分自身にそう言い聞かせ、ダンジョンを出た。
外の世界に出るのは実に百年ぶり。俺は心なしか興奮して、ふわふわと宙に浮かぶような気分だった。まずは近くの小さな村まで行ってみようと思い、のんびりと街道沿いを跳ねながら移動する。さっそく途中で通りがかる人間たちに驚かれた。彼らは目を丸くし、「スライムがこんなところに?」とつぶやきながら、みんな遠巻きに避けていく。
「なんだよ、そんなに怖いか?」俺は自分がそれほど強そうに見えるとも思えないのだが、どうやらダンジョンから出てきたというだけで妙に警戒されるらしい。
やがて村が見えてきた。小さな木造の家々が並び、農作業をしている人々や、子どもたちが元気に走り回っている。平和そのものの風景だ。俺は「こんにちは」とばかりに村の入り口でぴょんと跳ねてみたが、村人たちはびっくりしたようにこちらを見て、少しずつ距離を取っていく。
そのとき、子どもの一人が近づいてきた。まだ幼い、丸っこい顔をした少年だ。好奇心が勝っているのか、他の大人が止めるのも聞かず、俺に話しかけてきた。
「ねえ、君って……スライムだよね?ボク、初めて見た!」
「そうだ、俺はスライムだ。お前もダンジョンに来るといいぞ。百年ダラダラしててもボスになれるんだ」
少年はきょとんとした顔をし、それから目を輝かせた。「すごい!スライムでもボスになれるんだね!」
どうやら彼にとって「ボス」という言葉は絶大な魅力があるらしい。少年は興奮気味に他の子どもたちに「スライムのボスが来た!」と叫びながら走り回り、あっという間に子どもたちが俺を取り囲んだ。
「ほんとにボスなの?」 「技とかあるの?」 「強いの?」
子どもたちは興味津々だ。俺は得意げに「ぬめり返し」を軽く披露してみせた。地面にいる子どもたちの靴を少しだけ粘液で絡め取って、足元をふらつかせる。みんな「わぁー!」と大騒ぎだ。
すると、大人たちも俺のことを興味深そうに見始めた。そして、一人の老婆が近づいてきて「まあまあ、ボス様がわざわざ村まで来てくださるなんて珍しいことですなぁ」としわがれた声で言った。
「まあ、ちょっと気分転換にな」
「それはありがたいことですじゃ。この村も最近はモンスターに悩まされておってな。もしよろしければ、村の近くに住み着いたゴブリンどもを退治していただけんかのう?」
ゴブリンか。あいつらも昔はダンジョンでよく見かけたが、最近は出なくなっていたから、どこか懐かしい気もする。俺がレベル0のスライムボスだとは言え、ゴブリン程度なら相手にならないだろう。せっかくだから村人たちに「レベル0だけど強いんだぞ」というところを見せてやるのも悪くない。
「いいだろう。俺がそのゴブリンどもを追っ払ってやるさ」
翌日、村人たちに見送られながら、俺は近くの森へ向かった。ゴブリンどもの巣があるらしい場所に着くと、さっそくゴブリンたちが集まっている。何やら奇妙な言葉で喋りながら、武器を振り回している姿が見える。
俺は静かに近づき、一匹のゴブリンの背後から「不明な技です」を発動した。体をぐっと重くし、そのままゴブリンの頭上にのしかかる。
「ぐえっ!?」ゴブリンが潰れたような声を上げ、地面に押しつぶされた。仲間たちがそれに気づき、一斉にこちらを向く。
「おお、これはまさか……!」とゴブリンのリーダーらしき奴が俺を睨みつけた。「ダンジョンのスライムがここまで出てくるなんて!」
「お前たち、村人を困らせているらしいな?この俺が懲らしめてやる!」
そう言うと、ゴブリンたちは震えながらも武器を構えた。俺は彼らを囲むように体を広げ、ゆっくりとにじり寄った。そして、次々に「ぬめり返し」を駆使して彼らの武器を奪い、無力化していく。数匹のゴブリンはそれだけで戦意を失い、逃げ出していった。
結局、俺が本気を出すまでもなく、ゴブリンたちは全員森の奥へ逃げ去ってしまった。あまりのあっけなさに、少し拍子抜けするほどだ。
村に戻ると、村人たちが歓声を上げて出迎えてくれた。「ボス様、ありがとうございます!」と感謝の言葉が飛び交う。どうやら俺はここで少しは「英雄」らしい扱いを受けているらしい。
そして、あの少年が再び駆け寄ってきて言った。
「ボス様!これからも村に来てくれる?」
俺は少し考えた。100年もダンジョンで過ごしていたけれど、たまにはこうして外の世界を歩き回るのも悪くないかもしれない。俺が村に来るたび、誰かが困ったことを相談してきて、俺がその度に少しずつ村人たちの役に立つ。それもまた「ボス」としての新しい役割なのかもしれない。
「まあ、気が向いたらまた来てやるさ」
少年は満面の笑顔で「やった!」と叫び、村の人々も拍手で俺を送り出してくれた。こうして俺の「レベル0のスライムボス」としての冒険が、新たな形で始まったのだった
11月21日(今日)のうちに最終回出します