1-91 ナポリタン
「では、今日はそのナポリタンを作るために、スパゲティ麺を作りまーす。まず、強力粉を用意しまーす。強力粉に、パンを作る時くらいの量の塩を足して、溶き卵と水を、粉がギリッギリまとまるくらいのイメージで強力粉に加えて、石臼魔法でパラパラになるまでざっくりと混ぜまーす。そしたらキッチンロイド魔法で、ギュウギュウと捏ねまーす。ちょっと捏ねにくいかも知れませーん。ビニールで挟んで足で踏んで捏ねてもいいでーす。なんとか滑らかにひとまとめになったら、ぬれ布巾をかけて、1時間くらい、休ませまーす」
「スパゲティとは、結構大変なものなのね。パンみたいに時間がかかるとは思わなかったわ」
「そうですね、パンは時間も手間もかかりますよね、美味しいですけど!」
「うん、そうなんだよ。そういう所が、米の方が食べやすいって理由なの。米は加工しなくても炊けば食べられるからね」
「ほんとうにそうね。今じゃ炊飯器魔法もあるし、もっと手軽になったわ」
「うん。だからセルフィンには米を先に導入したの」
「セルフィンだけじゃなくて、アタシーノ公国も、最初は米から始まりました!」
「うん、一応僕の計画だったからね」
「さすが、ミチイル様です! 深謀遠慮が深謀です!」
「ハハ それにね、麺料理は、麺を作っただけじゃ終わりじゃないんだよね。そもそも、まだ麺も完成じゃないし」
「あら? そうなの?」
「うん。この後も作業があるし、時間もかかる」
「あら……もしかして、わたしとんでもない我儘を言っちゃったのかしら……」
「大丈夫。僕もナポリタン食べたいからね! じゃ、麺の生地を寝かせている間に、ソースを作ろう。まず、ナポリタンソースを作りまーす。鍋に、ケチャップ半分まで入れて、ウスターソースをその十分の一、味醂とワインを、ウスターソースの半分くらいの量で入れまーす。そこに、砂糖を味醂の半量、最後にバターをレードルに二杯くらい入れて、圧力鍋魔法で加熱しまーす。そしたら、石臼魔法で滑らかになるまで混ぜて、さらに濃縮魔法で液体が半分になるまで濃縮したら、ナポリタンソースの、完成です!」
「うわあ! なんだかとても、とてもいい匂いがします!」
「本当ね。見た目はケチャップとほとんど同じだけれど、つやつやしているし、匂いが美味しそうだわ!」
「うん、ナポリタンはケチャップ味の料理なんだけど、ケチャップをそのまま使うとね、酸味がきついからね、こうやって一度煮込んでソースにすると、とってもおいしくなるんだよ」
「ナポリタンって、とても手間がかかるのねえ」
「はい、そうしたら、ナポリタンの具を用意しまーす。まず、絶対に欠かせないのがベーコンもしくはソーセージでーす。これがダシになりますから、必ず入れてくださーい。今日はベーコンを薄切りにしまーす。そして、ピーマンとタマネギも薄すぎない程度に切ってから、ちょっとだけ圧力鍋魔法で火を通しておきまーす。具はこれで全部でーす。そしてトッピングを用意しまーす。適量のチーズに干物魔法をかけて、カチカチに乾燥させまーす。そしたら、その乾燥チーズを、オロシガーネで粉にするか、石臼魔法でツブツブ状態にしまーす。これで、粉チーズの、完成です!」
「これが、粉チーズね!」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「この粉チーズはナポリタン専用なんでしょうか?」
「いい質問です、ジョーン。粉チーズはほかにも色々使い道があります。たとえば、サラダにかけるとか、ドレッシングに混ぜるとか、マヨネーズに混ぜる、そういえばまだレシピを出していませんが、グラタンにかけるなど、味付けとしても使えます」
「グラタン……どうしましょう、なにか遥か彼方の心の奥底から、訴えかけてくるものがあるわ!」
「……うん、それはまた今度ね。では、スパゲティの麺生地をパスタマシーンにかけて、麺にしていきまーす。まず、生地を2mmくらいにパスタマシーン魔法で薄くのばし、さらにそれをパスタマシーン魔法で2mm幅くらいに細く切断してヒモ状にしちゃいまーす。スパゲティはパスタとも言いますから、これが本来のパスタマシーンの使い方でーす」
「そうだったんですね!」
「麺がヒモ状になったら、そのままでは長いので、30cmくらいに切りまーす。切ったら、それを重ならないように棒に吊るすか、台の上に並べて一日くらい乾燥させまーす」
「ええ? まだ終わりじゃないのかしら」
「うん。麺が生乾きになったら、それをさらに冷蔵庫で3日くらい寝かせまーす」
「うわあ! 本当に時間がかかりますね!」
「うん。手間暇がかかるから、いままでレシピを出してなかったの。作業人員に余裕がないと作れないから」
「ミチイル様、それなら大丈夫です! この頃はみんな魔法も上達して、食品製造にも調理にも、かなり余裕ができるようになりましたから!」
「あ、そうだったんだ。じゃ、他にも色々考えよう。で、今は時間がないから、乾燥と寝かせも僕がやっちゃうね~ はいピッカリンコ」
「ミチイルのそれ、みんなができるといいのだけれど」
「うん、残念ながら僕しか使えないんだ。アイテムボックスもそうだけどね。救い主限定の魔法なの」
「大丈夫です! 時間をおけばいいだけですから、魔法も魔力も必要ありませんし!」
「そう言われれば、そうね。なんでもミチイルに頼ったら、ダメね」
「ハハ あんまり深く考えないでね。それでね、このスパゲティの麺は、乾燥させる前に圧力鍋魔法で一旦、火を通してから、重ならないようにまっすぐ伸ばしてね、それで10日くらい完全に乾かしたら、冷蔵庫がなくても1年とか長い間、保存ができるの。後は、お湯で茹でたら食べられるからね」
「そうすると、また長期保存の食べ物ができた、ということですね!」
「うん。作るのに手間暇はかかるけど、茹でるだけで食べられる長期保存食として、とても便利だね」
「いまの公国でも作れるようなら考えた方がいいわね……」
「うん、さ、とりあえず、ナポリタンを完成させよう。スパゲティの麺が生乾きになった後に充分寝かせてから、これをたっぷりのお湯で茹でまーす。さ、鍋に水を入れて塩も多めに入れて魔石コンロの上に置き、電気ポット魔法で熱湯にしたら、魔石コンロの火力を強火にしまーす。塩水がグラグラいったら、スパゲティの麺を入れて、石臼魔法でゆっくり混ぜながら茹でまーす。この時、間違っても粉砕するイメージはしないでくださーい。せっかくの麺が台無しになり、ドロドロ塩スープができちゃいまーす。そして、麺を茹でている間に、フライパンにベーコンをと菜種油を入れて、炒めておきまーす。あ、そうだ、ついでにもう一つのフライパンで細かくしたベーコンを油でカリカリに焼いておきまーす。茹でている麺が浮いてきて、透明感がでてきたら、鍋からザルですくってベーコンを炒めているフライパンに入れて、混ぜながら少し炒めまーす」
「ミチイル、カリカリの方は使わないのかしら?」
「うん、違うものに使うの」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「はい! 麺を圧力鍋魔法で加熱しないのは、どうしてでしょうか?」
「いい質問です、ジョーン。麺を茹でるのにはたっぷりの水分が必要で、なおかつ、麺がくっつかないように混ぜながら加熱する必要があるからです。もし、圧力鍋魔法で生パスタを加熱してしまうと、一塊のダンゴ状態になってしまいます」
「それはそれで、とてもおいしそうです!」
「ハハ ダンゴ状態であって、ダンゴではないから、たぶん美味しくないよ。さて、ベーコンと麺が炒め終わったら、ここで少し置いておいて、サラダとスープを作りまーす。サラダは、小松菜と春菊とスライスタマネギでいいかな。卵をボウルに割り入れて、混ぜずにそのまま圧力鍋魔法で完全に火を通しまーす。これはゆで卵の代わりね。そしたら、これを石臼魔法でざっくりと混ぜまーす。サンドイッチの卵サラダと同じでーす。そこにマヨネーズと牛乳少しと砂糖少々、山椒の粉をほんの少し入れたら、粉チーズをドバっと入れて、混ぜまーす。そして、鍋でお湯を沸かし、ソーセージとキャベツのざく切りと塩を適量入れて煮て、スープを作りまーす。仕上げにスープに浮かべるアオネギの小口切りも用意したら、いよいよナポリタンでーす」
「うふふ、いよいよね」
「先ほど一旦中止していたスパゲティの麺のフライパンに、ナポリタンソースをドバっと入れて、強火で汁気がなくなるまで炒めまーす。汁けが無くなってパチパチ言い始めたら、軽く火を通して置いた野菜を入れて、全体を混ぜまーす。野菜には火が通っているので、混ぜるだけで大丈夫でーす。さ、皿に盛りつけたら、ナポリタンの、完成です!」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「はい! なぜ野菜を後から入れるのでしょうか?」
「とてもいい質問です、ジョーン。ナポリタンソースを入れる前に野菜を入れてしまうと、べちゃべちゃになってしまって、香ばしいナポリタンにならないのです。ナポリタンソースと茹でた麵だけで炒めることで、濃厚でしっかりとしたナポリタンができるのです」
「はい! わかりました!」
「では、サラダボウルに切ったサラダ野菜を入れたら、先ほど作っておいたカリカリベーコンを油ごと上からかけまーす。そして、卵サラダに手を加えて作った粉チーズ入りのドレッシングを上から回しかけ、さらに上に粉チーズをトッピングしたら、シーザーサラダの、完成です!」
「これはとてもおいしそうなサラダね! 見るからに濃厚そうだわ!」
「ほんとうですね、マリア様。見ているだけでコクが感じられます!」
「はい、スープをスープ皿に盛り付けてアオネギを散らしたら、今日の夕ご飯は、完成です! ジョーンも食べていくでしょ? 男爵家は大丈夫かな?」
「はい! ミチイル様。今日はレストランで最後まで仕事の予定でしたから、男爵家の方は別に食事を手配してありますので!」
「うん、じゃあ問題ないね。さ、ダイニングに運んで食べよう! もちろん、お供えも忘れずにね!」
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「さあ、ナポリタンの上に、好きなだけ粉チーズを乗せて召しあがれ! フォークでも箸でも食べやすい方で食べてね。そしてシーザーサラダは全体を混ぜちゃって、好きなだけ取り分けてね」
「では、いただきましょうか」
「いただきまーす」
「んまあ! なんて濃厚で香ばしくって、はっきりとしたお味で、ケチャップとは一味違って、チーズの香りも塩気も美味しいし、パンチがある料理だわ! これがナポリタンなのね! とっても美味しいわ!」
「ほんとうれす……このスパゲティの麺も、ダンゴとは違って弾力があって、細いせいか満遍なく味も絡んでいますし、味が濃厚なので、パンにはさんで食べてもおいしいかも知れません!」
「さすがジョーンだね、着眼点がいつも素晴らしいよ! ナポリタンをパンに挟む食べ方はね、冷めてもおいしいし、定番なんだよ」
「ミチイル、このサラダも、とてもコクがあって、いつものサラダとは別物よ!」
「本当ですね、マリア様。サラダはさっぱりしている料理と思っていましたけど、これはとても食べ応えがあります。男の方が喜びそうです」
「うん、そうだろうね。このシーザードレッシングをかければ、色々な野菜がサラダになるよ。たとえば茹でたジャガイモ、薄切りにしてオーブンで焼いたカボチャ、野菜だけじゃなくて、唐揚げとかトンカツの上にのせて食べてもおいしいんだ」
「んまあ! ドレッシングとか、なんちゃらソースと言うものは、ひとつ完成したら料理の幅がいっぺんに広がるものなのねえ」
「ほんとうですね。日持ちはしなさそうですけど、給食センターとかなら、何も問題ありませんし!」
「うん、ジョーン、あとはよろしく広めてくれる?」
「はい、かしこまりました」
***
――アタシーノ星に、麺が誕生した




