1-88 貴族
公都移転工事を始めた。もちろん僕独り、いや、工事を行うのは僕一人。
取り敢えず、最初は道路だよね。区画整理ね。計画的にやらないとね。うん。
でさ、僕、魔法で何でもできちゃうし、やろうと思えば何でもできるし~、なんて思いあがっていたけどね、違ったよ。
僕は呪文も必要ないしね、無詠唱で次元魔法も使えて、なおかつ魔力も枯渇しなくて魔法が使いたい放題でしょ、だからどんなことでもできるじゃん!
でもさ、新たな魔法を作るのにはイメージが「細部まで明確」じゃないとダメ。イメージが明確ってことはさ、見た目だけじゃなくてね、中身とか仕組みとか機構とか、そういうのも要求されてるの。
例えば、最近構築された、食紅魔法ね。
もちろん僕は食紅、知ってるよ。でもさ、食紅は何かを粉にするだけじゃできないの。カボチャを粉にしても、ただのカボチャパウダーなの。染料じゃないの……
だからね、何がどうやって染料として変化したのか、布だけじゃなくて木材とか、他のものにも色が付けられる染料がね、どうやってカボチャからできるのか、全然わからない。
そこで、ロイド氏の登場なんだね。ロイド氏がね、ピロン!って言って、僕の望みの機構を備えた魔法を作って?構築して?くれてたの。あまりにミラクル過ぎて、僕だけじゃ、何にもできなかった。もちろん僕だけでできた魔法もあるよ、アイテムボックスとかね。でも、色々ある魔法はね、なんでそうなる?っていう現象が起きるからね、僕には作れない。
ごめんね、ロイド氏。これからも、よろしくおねがいします。ぺこり。
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「どうしたの? ミチイル。何か深刻そうだけれど」
「ああ、母上。僕はね、反省してたの」
「ああ、昨日の……」
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――時は少し逆のぼって、昨日
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「さあ、公都予定地に南北街道も敷きなおして、市街地を1ヘクタールに区画整理も済んで道路も橋も設置済み。後は建物を建てていくだけ!」
「ほんとうに、ミチイルはすごいわね~ こんな道路だらけの土地にするのに一日二日で出来ちゃうんですもの」
「ハハ そうだよね~ なんか僕、色々何でもできちゃってさ、自分自身でもコワイくらいだよ~」
「ミチイルはミチイルよ! もう何でも好きにやっちゃって!」
「はーい。じゃ、わかりやすくするために、暫定住所表記の看板を立てちゃおう。まず、まな板魔法とすりこ木魔法で看板作ってピカピカピカっとな。さて、この木製看板に住所を記入しよう」
『記入!』
「あれ? 何にもならない……じゃ」
『ナンバリング!』
「うーん、じゃ」
『コピー!』
「え? 何で何も起こらないのさ……」
『インク!』
『マジック!』
『印刷!』
「何も起こらないわねえ、ミチイル」
「……どうして……僕は……なんでもできるはずじゃ……」
「ミチイル、いくらミチイルが救い主でも、できることもできないこともあるのよ、それは当然でしょう?」
「……うん」
「なにかできる方法を一緒に考えましょう!」
「……うん、そうだね、母上。うーん、何か書くものを作る? そして手書きする……しかないか。インクも無いし鉛筆とか……あ、炭にすれば、木の板に書けるかも知れない。竹もあるしね、竹炭とかつ」
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――ピロン 竹炭魔法が使えるようになりました。木材で炭が思いのままです。ご飯を炊くのに最適
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「ハハ ロイド氏、ありがとう。じゃ、竹炭を作ってチマチマ手書きするしかないかな。ま、僕以外は文字を書いても読めないけどね、数字くらいは読めると思うけど……区が四つでしょ、丁目が各区に四つに……今はとりあえずこれだけでいいけど、後で公営住宅に一つずつ記入しないとならないよね……っていうかさ、竹炭で記入しても、すぐに消えちゃうじゃん……炭と油とかでインクを作る? いや、全然わからないし。油だって何も処理しなかったら、いずれ流れてなくなるじゃん、毎日雨が降るってのにさ。うーん、木に落ちない印をつけるには……焦げ目……焼くとかすれば……うーん、区と丁目くらいならいいけどさ、その後、何千軒もの公営住宅に焼き入れるとしたら、最後の数字以外は大量に同じ数字が並ぶよね……うーん、金属でハンコを作る……うん、そうだ! まんじゅうとか、どら焼きとかにマークをつけたりするよね、焼き印で。うん、焼き印をつく」
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――ピロン 焼き印魔法が使えるようになりました。可燃物にプリント可能です。ナンバリングもコピーも思いのままです。どら焼きに最適
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「うん、ほんとうにごめんね、ロイド氏。僕、ロイド氏がいないと何もできなかったよ。ほんとうにありがとう」
「よくわからないけれど、何か解決したのかしら?」
「うん、母上。僕、感謝を忘れないようにしないといけない」
「そうね、ミチイルだけじゃなくて、わたしも民も全員、女神さまに感謝をしなければならないわ」
「うん。じゃ、暫定住所表記の看板に、住所をプリントしちゃおう」
『焼き印』
ピカッ ジュジュジュ……
「まあ、木の板に次々と数字が入っていくわ!」
「ほんとだね~ しかも、自動ナンバリング機能付きとかさ、至れり尽くせりだよ……女神様、ロイド氏、感謝いたします。あ、アイちゃんもね」
『とんでもない事にございます、救い主様』
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――時は戻る……ふぁんふぁんふぁんふぁんふぁわわわ~ん
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「ふう。さて、とりあえず街の中心に、大公屋敷を建てよう。僕の別邸を大きくする感じでいいかな。んじゃ、ピカピカっと。そして、男爵屋敷は、別邸を小さくする感じにピカピカっと。後は……市役所代わりの執務所を福利厚生施設で作っちゃおう。お風呂もたくさんあるしね。んじゃ、ピカッと。それでさ、母上~ 貴族の屋敷は、あとどのくらい必要?」
「ええっと、そうね……大公家の分家の分が二つばかりと、準男爵家の家が5家分くらいかしら」
「そういえばさ、あまり深く考えてこなかったけど、この公国の貴族って、どのくらいいるの? 伯爵とか子爵とか、全然聞かないけど」
「そうね。公国の主として、大公家があるでしょう? その大公家の分家が少し。これは代替わりした後、今代の兄弟たちが分かれるの。わたしたちも、表面上は一応、分家ね」
「ああ、それで分家の行かず後家なんだね」
「ええ。そして、その分家たちはね、大公が代替わりして新たな分家が出てきたときには、準男爵家に下りるの。そして、元々いた準男爵家の一部はね、平民に下りる。貴族の数は、だいたい一定になるようにしているわ。今回、お兄様が大公になったけれど、分家と準男爵家には変更は無いの。お兄様の姉妹は、わたしとお姉様だけでしょう? お姉様はセルフィンだし、わたしたちは特別だから所属は本家のままで、分家は増えなかった扱いね。だから、分家と準男爵家には変動はなかったの。今まで通りね。でも、もともと子供が少ない国だったから、増える新たな分家も一家とか、そんな感じだったのよ。そして、分家も準男爵家も、古い家から下に順送りで下りていく感じね」
「そうだったんだ……僕、分家の人も全然把握してないからね……そうすると、分家と準男爵家は、親戚だね、同じ血筋の」
「ええ、そうね。平民に下りた準男爵家の家は、平民のリーダーみたいな感じで取りまとめているわよ」
「町内会長みたいなもんか。だから、統率組織がある感じなんだね。公国の民に、色々周知徹底がなされているのが、少し不思議だったけど」
「そうね。そして後は、セバス男爵家ね。この男爵家は代々ケルビーンの執事の家系ね。これは決まっているの。男爵家も分家があるけれど、貴族としての扱いは、男爵家でひとつ。定義上は分家も無く、男爵家。この男爵家は大公家ともどもエデンの王国の承認が必要ね。後の分家と準男爵家は、王国は関係ないわ」
「ん、そうなのか……じゃ、公国に他の貴族はいないって事?」
「ええ、そうよ。公国では、大公家一族と準男爵家、そして男爵家が一家だけ。全員で100人も居ないかしら。後の伯爵だの子爵だのは、公国ではいなくて、エデンの三王国にいるわね」
「なんか、結構キチキチになっているんだね、貴族制度。そうすると、伯爵とか子爵と言っている段階で、エデン人ってのが確定か……」
「ええ。エデンの王室と王室の分家の公爵家、そして侯爵家と伯爵家と子爵家は王都に住んでいて、一番数が多い男爵家は、王都とか南部の牧草地帯に平民と住んでいるらしいわ」
「なんだか、ろくに働きもしないって聞いているけどさ、エデン人。そういう身分制度は案外ちゃんとしてるんだね」
「ほんとうね。ほんとうに無駄よ。とても腹立たしいし。学園なんて、行くもんじゃないわ」
「そっか。学園ってのあるんだったね」
「ええ、大陸中の貴族は全員、行かなければならないの。行かないと貴族として認められないのよ」
「ふーん」
「ま、学園の話はまた今度してあげるわ。そろそろ仕事に取り掛かった方がいいんじゃないかしら?」
「あ、そうだった、そうだった。じゃ、分家の建物は今のジェームズの家と同じにしていくつか建てよう。準男爵家は、同じ建物を小ぶりにしようかな。ピカピカピカ……っと。はい、完成です!」
「いつみてもすごいわね! わたしたちが世間話している時間の方が長いくらいじゃないの」
「ハハ ほんとだね~」
「後は明日にしたらどうかしら?」
「うん、そうしよう」
「じゃ、帰ってお茶しましょう」
「はーい」




