1-82 キャンプ
いよいよ、セルフィンに出発する日がやってきた。
荷車を最小限にするため、多くの荷物は僕のアイテムボックスに入れることにしたよ。
コーチは、僕と母上、伯母上とセルフィンからのお付きが2名、お祖父さまとジェームズ、平民が2台の、合計5台と御者一名ずつ。荷車も5台で、総勢25名の旅団になった。このうち、僕たちのコーチとお祖父さまたちのコーチ以外の3台のコーチは、セルフィンとアタシーノを往復する平民用の運用をする予定。お祖父さまのコーチはセルフィンにお祖父さまたちと残り、そして僕たちのコーチは僕たちを乗せてアタシーノへ帰る。荷車も、公国同士を往復して荷を運ぶつもり。
各工業団地始め、公国の業務もすべて、もう僕が居なくても影響ない。っていうか、もともと僕は自由にしてたからね、基本的な業務は、もうずっと公国民だけで行っている。職人の各親方たち、ジョーンやカンナや各部門のリーダー、伯父上始め、大公家と分家や貴族の面々がいるもんね。
物資も十分に持ったし、もし足りなくなっても、僕ならいつでもどこでも作れるしね、僕の別邸の管理だけ、お手伝いさんにお願いして、いざ、出発!
あっという間に桐の森近くの橋を越え、新しく作ったという舗装道路をセルフィンへ向けて、爆走、と言いたいところだけど、コーチが揺れる揺れる……そりゃそうか。なにせタイヤが木製に鉄製の輪っかをはめただけだもん。ガラゴロガラゴロいいながら、石の街道を東へ東へ。
でもさ、景色が全く全然変わらないの。この世界って、ほんとシンプル過ぎでしょ。何もかも、同じ。大昔のロールプレイングゲームの方が、まだ景色が変わるってなもんなの。聞くところによると、北部三公国とも、公都の位置や川の位置、街の様子や構造にいたるまで、ほぼ同じなんだって。ちょっと設定が雑過ぎだよね……
で、時速10kmくらいで進んで、途中、一回の休憩をはさみ、国境の街道が途切れるところまで到着。ということは、アタシーノ公国とセルフィン公国の中間地点ということだから、ここで野営。
これから両国を行き来する人たちも、ここで一泊だからね、宿場町というか、そんなのを作ろうと思う。
とりあえず、あらかじめ作って来たバンガローを出そう。平民は全員男性で18人だから、四人用バンガローを5つ、僕たち用のは男女別に一つずつ出した。まず、井戸を掘って各バンガローと水道管で接続して排水とトイレの地中処置を済ませ、それぞれ魔石燃料もセットしておく。後は、適当にやっといて~
僕は、ここに宿泊所を作っておこう。
井戸を別に掘って給食センターの建物を建てて、ミニ福利厚生施設を繋げたら完成。福利厚生施設には、休憩室とか部屋がいくつかあるからね、ここで適当に分かれて寝泊まりしてもらおう。ここで使う魔石は、それぞれ運んできてもらう事にし、ブロック塀で囲った草付きのミニ放牧施設に牛舎を設置。これで、最低限、宿場町として機能するだろう。魔石さえ切らさなければ、冷蔵庫も使えるし、倉庫も付属してるからね。
そして、15分くらい北に歩いたところに、井戸を掘って竹を植えまくり、促成栽培スキルでピッカリンコして、竹の森を作成。万が一燃料が無くても、筍掘り魔法が使えたら竹を切れるしね、何か木工をしたり家具を作ったりもできるから、用意しておくに越したことはないと思うの。
さらに、1ヘクタールくらいの畑も用意。ここに、葉物野菜とジャガイモを植えておく。これらは手入れが要らないっていうか、ほっといても勝手に育って勝手に種になるからね、収穫しなくてもいいから。持ってきた食料を食べてもいいし、ここで葉物やイモを採って食べてもいいよ~ イモは牛のエサにも使えるからね、飼料が足りなかったら牛に食べさせてもいいし~ あ、そこら辺にレモングラスもばら蒔いとこ。もしエサが足りなくて牛がお腹空かせたら大変だしね。
そして、綿花とリネンもすこしだけ植えて収穫する。後は自然に増えたらいいけど、魔法を使って畑にしないと、無理かな。母上がね、暇すぎて退屈だから、綿花とかで糸を作りながら移動するって。縫物までは揺れちゃって無理だけど、タコ糸魔法で糸くらいなら作れそうだってさ。
ああ、後はお慈悲リンゴも一本だけ、宿場村の中心に生やしておこう。年中実がなるしね、もし、育ったら自由にとって食べられるし。
こんなもんかな。
さて、バンガローの近くに、石の東屋をいくつか繋げて作ろう。これで、完全にキャンプ場だよ。
バンガローにミニキッチンはあるけどね、今日の食事はみんなで東屋で食べるから、七輪もいくつか作って、燃料をアイテムボックスから出しておく。給食センターもとい、宿泊所のキッチンで作って食べてもいいけどさ、せっかくの旅行でキャンプなんだからね!
***
「ミチイル~ 夕ご飯は何にするのかしら?」
「うんとねー、やっぱ、外で焼き肉じゃない?」
「お肉は普段から焼いて食べているじゃないの」
「わしは肉は毎日でも良いぞ! なんなら唐揚げでも」
「お父様は、お静かになさいませ! ミチイル様のお邪魔になりますから!」
「ミカエル様、先ほど出来たあちらの畑の様子をチェックしては如何ですか? ミチイル様だけでは負担が大きいと思いますので」
「そうかそうか、お祖父さまも仕事をするかの! グフグフッ」
「うん、お祖父さま、悪いけどお願いね、あ、もう行っちゃった」
「はあ、ジェームズが居てくれて助かるわねえ。お父様、ほんとうるさいのだもの」
「さ、ご飯を先に炊こう」
「ミチイル、わたし、やってみるわ!」
「いや、母上は無理だと思う。炊飯器魔法は難しいみたいだから」
「大丈夫よ! でも、無洗米の水加減はミチイルにお願いするわ!」
「はいはい。本当に母上は姫育ちだからね……」
「もう姫じゃないもの!」
「はい、母上、これで後は炊飯器をお願いね」
「ミチイル様、わたくしは何をすれば良いでしょうか?」
「伯母上は、フランベ魔法を使えるんだったよね。じゃあ、この七輪に竹燃料が入っているから、全部に火を熾してもらえる?」
「かしこまりました」
「さ、僕は牛肉を船盛魔法で切ろう。ピカッと。はい、舟に乗った焼き肉用牛肉20kgの、完成です!」
「まあ、ミチイル様、大変な量のお肉が木の上に並んで、とても壮観でございます。しかも、木の器など、北部では大公家など極一部しか使えませんのに」
「うん伯母上。いまじゃ木材は使いたい放題だからね。ほら、あそこにも竹林を作ったでしょ? 魔法じゃないと切れない木なんだけど、自由に使えるように植えたからね~」
「まさに、神の御業でございます」
「ほんとうだよねえ。さ、次は蒸し野菜を作りまーす。生から網で焼いてもいいけど、時間かかるからね、あらかじめ蒸しておきまーす。えっと、タマネギとナスとピーマンとブロッコリーと輪切りのトウモロコシと薄切りニンジンをデカいトレーに分けて乗せてから圧力鍋魔法でピカッと。そして、焼き肉のタレを用意しまーす。醤油と味噌と味醂と砂糖とトウガラシの粉末とニンニクペーストに隠し味のワインを石臼魔法で混ぜたら、最後にワイン酢を少なめに混ぜて、水差しに入れておきまーす。ささ、アウトドアで食器を洗うのは面倒くさいので、ここで使い捨ての紙皿、じゃなかった竹皮皿をつくりまーす」
「ミチイル、洗うのだって殺菌洗浄魔法で一瞬じゃないの」
「ハハ そりゃそうだけどね、様式美っていうか。んじゃ、それっピカピカ……はい、マフィンカップ魔法で竹皿と竹コップでーす。そうだ、すりこ木魔法で箸もたくさん作ろう。ピカピカ……うん、とってもキャンプっぽい!」
「ミチイル、ご飯が炊けたわ!」
「ありがと。じゃ、大きい竹トレーをまな板魔法で何枚か作って~ 秘儀、おにぎり魔法で塩おにぎりを山盛りにしまーす」
「秘儀、ってミチイル、おにぎりができるだけじゃないの」
「うん、そうなんだけどね、大昔の忘れ去られた魔法だから、現代に蘇らせてみました!」
「言われてみれば、あれは最初にお米を収穫した頃だったわね……」
「おーいミチイル! 畑はなんも問題なかったぞーい!」
「あ、お祖父さまとジェームズ、お疲れ様~ ちょうど夕ご飯の準備ができたよ! 後は最後に、飲み水の水差しに神の泉の水を入れて、氷も浮かべちゃおう!」
「氷と言えばミチイル、久しぶりにアレが食べたいわね!」
「あ、そうだよね、焼き肉の後と言えばアイスだよね!」
「アイス?」
「あ、間違った、シャーベットね。んじゃ、食後に食べよう! ではみなさま、お好きな席でお好きな七輪で、お好きな肉とお好きな野菜を焼いて、このピッチャーに入っているタレを、焼いた食材に付けて、さあ、召し上がれ!」
「では、いただきましょうか」
「いただきまーす」
「うお、こりゃまた焼き肉とは飯が進むもんじゃの! グフグフッ」
「お外でみんなで食べるのも、たまにはいいものね、ミチイル」
「本当に。食事が選べるだけでも、大変な神の恵みだというのに、外で料理をして食事をいただくなど、わたくしも初めてですが、楽しいものですわ」
***
「……なんじゃあ……これは~ こんなに冷たくてうまいもんが……」
「それはね、シャーベット……」
「うふふ……」
***
「ふう。マリア、お先にお風呂をちょうだいしたわよ」
「あらお姉様、もっとゆっくりなさっていても良かったのに」
「ええ、充分よ。それにしても、外で夜を明かすというのに、セルフィンの大公屋敷にいる時よりも、便利で清潔で食事も豪勢で……夢のような世界だわ」
「そうね。昔の事を思い返したら……とても想像もつかない暮らしね、今は」
「マリアは恵まれているわね」
「ええ。すべてミチイルのおかげ。でもお姉様、お姉様たちだって、これから神の恵みが与えられるのよ。これから徐々に、わたしたちと同じ暮らしになっていくはずよ」
「本当に、本当にありがたくて、民も飢えずに済むようになったら……わたくし……わたくし……」
「お姉様、感謝は女神様に捧げてちょうだいな。そして、ミチイルの救い主としての使命が果たされるように、協力してちょうだいね」
「もちろんよ、マリア。この命に代えても救い主様の御世の実現を、必ずや果たしましょう」




