1-80 それぞれの役割
結局、伯母上と伯父上に、別邸に来てもらう事にした。
僕、出かけるの面倒だから、だけじゃなくてね、セルフィンから伯母上に御付きで着いてきた人たちも居るし、大公家にも人が色々いるでしょ? だから、僕が大公家に行くのはね、色々面倒で。あ、結局面倒なだけだったわ。
せっかく、初めて伯父上と伯母上に会うしね、特別でスペシャルでマーベラスなお菓子を作ろうと思う。
うふふ
まずは、ジェノワーズ。圧力鍋魔法で溶き卵を人肌に温めながら、砂糖を入れてキッチンロイド魔法で、ふっかふかになるまで泡立てる。そこに薄力粉と少しの片栗粉を混ぜたものをふるい入れ、上下を返すように静かに石臼魔法、そして、溶かしバターとラム酒を少し入れて、生地につやが出るまで静かに混ぜる。泡は消したらダメ。そしたら、銅で作ったケーキ型に離型処理をして、出来た生地を高い所から流し入れる。そしてすぐさま、160℃のオーブンに入れ、次元魔法でピッカリンコ。ケーキが焼けたら、型から金網の上に取り出して、冷蔵スキルでピッカリンコ。
イチゴを賽の目にスライサー魔法で切って、アップルブランデーと砂糖を少しかけてしばらく置いておく。もう一つ、賽の目イチゴに干物魔法をかけてカラカラに乾燥させておく。
その間に、生クリームに砂糖とアップルブランデーを混ぜて、八分立てにし、口金つきの絞り袋へ入れて、冷蔵庫へ。
そして、砂糖と水と、アップルブランデーを混ぜて、シロップを作っておく。
イチゴに砂糖が浸みて汁気が多くなったら、濃縮魔法で汁気を飛ばし、全ての準備は完了~
ささ、しっかり冷めたジェノワーズをスライサー魔法で横方向に三枚おろし。大きな平皿に一枚乗せ、シロップを塗る。そして生クリーム、シロップイチゴの順にまんべんなく乗せていく。もう一回繰り返して上に生クリーム、最後にジェノワーズを乗せ、後は周りを生クリームで埋め尽くす。最後の仕上げに、天面のクリームの上に、ドライイチゴをみっちり乗せて、イチゴショートケーキの、完成です!
細ーいタコ糸を作って、上から押し付けるようにして、八等分にしておこう。もう一台つくったけど、これはアイテムボックス行きね。
その他、もろもろ用意して、準備万端~
***
「本日は、特別に御引見の御沙汰を拝し奉る栄誉を賜りました儀、誠に恐悦至極に存じ奉ります。ミカエル・ケルビーンが拙女、メアリ・セルフィンにございます。恐れ多くも救い主様の」
「母上~」
「お姉様、普通に話してもらえないかしら。ミチイルは堅苦しいのが好きじゃないのよ」
「無慈悲な姉上がそんな物言いすると、とても慇懃無礼に聞こえますね。逆にミチイル様の御不興を買いそうですが」
「そこ、ミハイル! だまらっしゃい!」
「ハハ 伯父上たち、とても仲がいいんだね。初めまして、ミチイルです。伯父上達には申し訳ないんだけど、僕、普通に話をさせてもらうね。本当は敬語を使わないといけないんだろうけど、色々考えるとね」
「そうですね、ミチイル様が私達に敬語など使っていては、民が暴動を起こしかねませんからねえ」
「そうね、お兄様。救い主様に頭を下げさせている、なんて噂が広まったら、国の運営に支障がでるかも知れないわ」
「かしこまりました。では、わたくしも普通に話をさせていただきたいと存じます」
「ハハ……」
「まず、お茶の準備をしましょうか。お兄様、お姉様、席にお着きになって」
「じゃ、紅茶は母上、お願いね~ では、僕はお菓子を準備~」
「 ! ……いま……どこから?」
「お姉様、いちいち驚いていては何も話が進まないの。驚きは後で女神様にお祈りして解消してくださいませ」
「……わかりました」
「まあ! ミチイル! 今日はまた一段とステキなお菓子ね!」
「うん、世界初公開! イチゴのショートケーキだよ!」
「さあ、お兄様もお姉様も、お紅茶が入ったわ。どうぞ」
「今日のお菓子は、とても濃厚だから、もしかしたら紅茶には何も入れずに、ストレートで楽しんだ方がいいかも~」
「ではミチイルのお菓子、いただきましょう!」
「いただきまーす」
「 !!! 」
「……これはまた、コクがあるのにさっぱりしていて、口の中でとけて無くなってしまいました」
「まあ! このような天の食物があるのでございますね! すべて、初めてのお味でございます!」
「ほんとうね! ミチイルはすごいわ! それに、これはとてもフワフワでエレガントね。見た目もお味も! 直ぐに貴女会で披露しないといけないわ!」
「ハハ それで伯母上、セルフィンの件なんだけど」
「はい、救い主様」
「お姉様、ミチイルの事を救い主様と呼ぶのは厳禁なのよ。いつ、どういう経路でエデンに知られるか、わからないから」
「わかりました。それでミチイル様、ミチイル様のお慈悲を、セルフィンにもお授けいただきたいのでございます」
「うん、もちろんだよ。でも、実際にセルフィンの人達に、たくさん頑張ってもらわないとならないの。僕たちが恵みをあげるんじゃなくて、セルフィンでセルフィンの人が農業をして食物を作って、食べて欲しいの。そのために、まずセルフィンで女神の信仰が篤い人をね、出来るだけ集めてもらって、このアタシーノ公国へ研修に出して欲しい。ここで農業を学んで魔法を使えるようになってもらって、そしてセルフィンに帰って作物を作ってもらいたい。同時に、セルフィンにアタシーノ公国から人を少し派遣して、セルフィンの中でも農業を勉強してもらうの。国内と国外、これを同時に進めていって、とりあえず、穀物を国民全員に届けられるように、できれば野菜もなんだけどね。まず、飢えを無くして、それからだね。後のものは、この公国の余剰分を、セルフィンに輸出していく。街道をセルフィンの公都までつなげて、牛運送で運べば、国民全体の需要は賄えなくても、ある程度は運べる。セルフィンでは、これらを争わないようにして、公平に使ってほしいの。そして、セルフィンからはね、魔石と金属石、スライムフィルムをアタシーノ公国へ納めて欲しい。税、という訳ではないんだけど、色々なものを融通する対価だと思って欲しいんだ。でも、魔石も金属石もスライムフィルムも、北で転がっているものだから、実質対価は無しと同じなんだけどね。ここまで、何かある?」
「いえ、ミチイル様の寛大なお慈悲に、喜びに打ち震えております。まず、民の飢えを最初に解消する、そのためにセルフィンの民、みずからが働く、その術をアタシーノ公国がセルフィンに授けてくださる、セルフィンではもめ事を起こしてはならない、北の資源をなるべく多くアタシーノへ納入する、こういうことでございましょうか?」
「うん、さすが伯母上。一度で理解するだけじゃなくて、とても分かりやすい。伯母上がケルビーン大公家を支えたから公国の今があると聞いたけど、本当だね」
「恐れ多い事にございます」
「それとお姉様、ミチイルの存在は、決してエデンに知られないようにして欲しいのよ。いずれどうなるかは分からないけれど、今はまだ知られる訳にはいかないの。エデンにもアルビノ人がたくさんいるしね、その民たちが危険な目に合わないようにもしなければ」
「わかっているわ。ミチイル様の存在が知れ渡ってしまったら、この私のようにお慈悲にすがりたい者が押しかけてくるものね。エデン人は北部に入れないけれど、エデンで働いているアルビノ人を人質にでもされてしまったら……」
「そうだね、姉上。ミチイル様は絶対に守らなければならないけど、民だって、守らないといけないからね。今のところ、このアタシーノ公国ではもめ事は一切起きていないし、この先も大丈夫だと思っているけど、セルフィンでも徹底してほしい」
「わかったわ、ミハイル。世話をかけるわね」
「うん、後の実務は、伯父上と伯母上に任せるから、調整して実現してね。とりあえずはね、米を最優先。米は麦より多く収穫できるし、加工しなくても粒のまま炊いて食べられるからね。そして野菜だけど、葉物野菜とジャガイモを優先ね。これで割と早く食べ物がたくさんになるけど、タンパク質が無いから、乾燥マッツァもきちんと食べないとダメ。乾燥マッツァも酵母があれば、マッツァナンで食べられるし、葉物野菜と米の廃棄物から燃料も作れるから。細かい事は、リサが良くわかっているから、リサに聞いて決めてもらえる? 伯父上」
「わかりました、ミチイル様」
「そして伯母上、セルフィン公国でも女神信仰を増やして欲しいの。教会を作ってね、祈りを捧げて欲しい。食べ物が手に入ったら、それを捧げて欲しいの。捧げたとしても食べ物が消える訳じゃないから、お祈りした後、食べられるからね。これは絶対。それとね、聞いたとは思うんだけど、女神信仰をしていない人は魔法を使えないの。だから、セルフィンで女神信仰をしていない人はね、信仰を始めた方がいい。ま、どうしても納得できないって人がいたら、それはそれで本人の自由だけど、この世界では不自由すると思う。それについては伯母上に任せるけど、強制だけはしないで欲しいの。お願いね」
「かしこまりました。しかと肝に銘じます」
「うん、それとね、母上、伯父上、伯母上、僕、一度セルフィンに行くから。そこで、出来ることはやってくる。ちょっと準備が必要だと思うけど、僕は一切自重せずに、セルフィンで色々やっちゃうから、後の調整はよろしくね」
「それは大丈夫よ、ミチイル。お兄様もお姉様もちゃんとするから。そして、ミチイルがセルフィンに行く時は、もちろんわたしもついていくわ!」
「ハハ じゃ、初めての旅行だね!」
「ええ、たのしみね!」
「それでね、伯父上。僕がセルフィンから戻ったら、アタシーノ公国の公都を移動したいの。今の南の畑の南に。今の公都を抜本的に直さないといけないんだけどね、人が暮らしながらじゃ追い付かないの。だから、最初から新しい街を作る方が、僕も楽で、速いの。多分、伯父上の負担もかなり増えると思うんだけど、僕がやりたいようにやった後の処理は、お願いね」
「それはだいじょうぶよ! お兄様は、ちゃんとやるわ! ね、お兄様」
「も、もちろんです、ミチイル様」
「それと伯母上、伯母上も魔法が使える方がいいと思うんだ。だから、セルフィンに出発するまで、この別邸の客室で過ごして、母上から魔法の手ほどきを受けたらどうかな」
「そのような栄誉をお許しいただけるのならば、是非に、お願いしとうございます」
「ええ、いいわ、お姉様。服も作って、頑張りましょう」
「ミチイル様、マリア、よろしくお願い致します」
「私からも、公国ともども、姉上の事もよろしくお願いします」
「こちらこそ。じゃ、ケーキの続きを食べよう!」
***
「わし、仲間外れなんじゃがの、どういうことじゃ? ジェームズ」
「うるさいからではないでしょうか」
「おぬしも、無慈悲じゃの」
「ミカエル様、せっかく修めた農業の魔法や知識をセルフィンにお伝えしてはいかがでしょう? 皆さま、この先、しばらく大変ですし、ミカエル様が御活躍なされば、ミチイル様の尊敬も得られる事でしょうし」
「なぬ? それは良い考えじゃな! グフグフッ」




