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1-78 客来る

アップルブランデーの醸造そして製造とダークラムの製造を、北の果樹園で現地生産するように手配してもらった。


近くには桐の森もあるしね、材料が全部そこで揃うし、そんなにたくさんの量はいらないしね~ 後は任せよう。


電球も、工業団地にはようやく行きわたって、後は平民なんだけどね……平民の家、何とかしないと。


そして、ウスターソースの生産も始まって、肉のカツと野菜のフライもレストランと給食センターで出すようになった。主に豚肉だね、だからトンカツ。豚肉の消費が、唐揚げで使う鶏肉よりも少なかったからね、トンカツメイン。もちろん、キャベツの千切り付きです!


平民の家で、揚げ物を作れる日が来るのは……いつかな。


いや、いつかな、じゃねえよ!


ダメだ。本当に考えないと。世の中が変わって行けば行くほど、平民の生活との乖離が激しくなってきた。


今の公国の文化レベルが中世初期とすると、平民の家は古代ローマ並み。そして僕の別邸は産業革命前夜あたり?


いや、いや、いや……はあ、僕のせいだけど。


新しい事を始めると、民に負担が増えるからなあ……うん、また僕ができるだけ独りでやればいいや。


うん、そうしよう。


とりあえず、お菓子作ろ。




***




まずは、定番のクッキーとパウンドケーキの在庫を確認して……うん、作っておこう。あ、たくさん作ってアイテムボックスにも入れておこうっと。


いや、僕さ、スキルを使い放題にしちゃってるでしょ? なんでもできちゃうの。


もともと料理やお菓子作りもね、仕込みや洗い物は魔法で一瞬だったけどさ、一番時間がかかるオーブン焼きね、あれ、オーブン魔法で温度を設定して、中に焼くものを入れてね、そして次元魔法を使ったらさ~ そりゃそうだよね~ 一瞬で焼きあがっちゃう!


ま、便利便利~ ってことで、僕は自重しないよ!


で、今日はね~


マドレーヌを作ろう!


パウンドケーキもそうだけどさ、マドレーヌも各材料が同量なのね、由緒正しいレシピは。


なので、バター、薄力粉、卵、砂糖は同量。そして、なんのお菓子もそうなんだけど、ご由緒正しきレシピはね、ベーキングパウダーは入らないの。バターの泡とか卵の泡とか、そんなので膨らますんだよ。


やっぱり、トラディショナルでコンサーバティブなレシピで作らないとね! っていう訳じゃなくてさ、この世界、ベーキングパウダー無いから。重曹もないでしょ、きっと。


ま、シンプルな焼き菓子はBP無くてもできるから、いいや~


で、溶き卵と砂糖を石臼魔法でまぜまぜ。泡は立てる必要がないから、砂糖が溶けるまで混ぜるだけ。そしたら、薄力粉をパラパラふるい入れて……そうそう、遅ればせながら、茶こしをデカくして粉ふるいを作りました! 焼き菓子、増えていくからね、多分。


えっと、薄力粉を入れたら、石臼魔法でしっかり混ぜる。ここでは、しっかり練っちゃっても大丈夫。この点はパウンドケーキとかクッキーと違って楽だよね。失敗無いし。そしたら、バターを火にかけて少し焦がし気味に加熱し焦がしバターにして、アップルブランデー少々とともに、さっきのボウルに入れて、焦がしバターが見えなくなるまで完全に混ぜる。


あ、絞り袋作らないとね~ ビニールが手に入るようになったからね、型抜き魔法と密閉シーラー魔法で絞り袋が可能に! で、先ほど混ぜたマドレーヌ生地を、絞り袋に詰めて、一晩冷蔵庫へ……は面倒だから、一晩冷蔵庫へ入れた気分で冷蔵スキルのピッカリンコ。使うまで冷蔵庫に入れておこう。


さて、型の準備を


「あら、ミチイル、今日は何を作っているのかしら?」


「うん、今日はね、マドレーヌ」


「まっ、マドレーヌ! それはまた、なんと高貴でエレガントで貴婦人にふさわしい響き!」


「ハハ 材料はパウンドケーキと同じなんだよ。すこし焼き上がりの食感が変わるだけで」


「じゃあ、美味しいに決まってるわね! 味はもちろん美味しいに決まっているけれど、名前がとても重要な要素なのよ!」


「そ、そう? ま、そうかも知れないね。パウンドケーキだって、一斤焼まんじゅう、とかだったら別物に思えちゃうしね~」


「それがなにか良くわからないけれど、わたしもここで見てるわ!」


「うん、それじゃあ、型を」


「失礼します……マリア様、大公屋敷から使いの者が来ております。はい、なんでも……ごにょごにょ」


「なんですって! すぐに行くから、絶対に外に行ったりしないように伝えてちょうだい! 私のコーチも準備しておいて!」


「かしこまりました」


「ミチイル、申し訳ないのだけれど、急用が入ったから、ちょっと出かけてくるわ……いい子でお留守番しているのよ? 外に出ちゃ、ダメよ!」


「わかったけど……大丈夫なの?」


「ええ、大丈夫よ。そんな大きな事ではないから、ミチイルは一切何の心配もいらないわ! だから外に出ちゃだめよ!」


「う、うん、わかった。気をつけてね~」




***




「母上、なんだか妙に慌てていたけど……ま、いいか。それじゃ、型ね。貝殻でもあればね、雰囲気も出るんだけど、この世界は貝もないしね。とりあえず、銅で丸くて浅い型をたくさん作ろうかな。一つひとつバター塗って粉をはたくのが面倒だけど。はあ、紙でもあればね、マフィンカップとか作」




***




――ピロン マフィンカップ魔法が使えるようになりました。お好みのマフィンカップが思いのままです




***




「いや、紙は? ……ん、まあいいか。『マフィンカップでマドレーヌ型ちょうだい』 」


ピカッ カサッ


「おお! ギザギザ付のマドレーヌ型じゃん! でも、素材は……竹の皮?かな。内側がツルツル面で剥がしやすそう。そういえば竹の皮、おにぎりラッピング用とかにも使えるよね、忘れてたけど。ま、ありがたく使いましょ。では、この使い捨てマドレーヌ型に、冷やして置いたマドレーヌ生地を絞って行きまーす。そしたら、180℃のオーブンでこんがり焼いちゃいまーす。もちろん、次元魔法でピッカリンコ。どれどれ……お、ちゃんとデベソまでついて美味しそう~ 正統派のマドレーヌは、こうやって一部がぴょこんと飛び出るんだよね~ さ、冷蔵スキルで軽くピッカリンコして粗熱とって、ガス袋に詰めちゃおう。袋に詰めるのもね、一度アイテムボックスに収納してから、袋の中に一個ずつ出現させれば、手間もかからないし速く袋詰め可能だしね~ 次元魔法って、すっごく便利! ふんふんふーん」




***




――次元魔法は、神しか使えない魔法であり、星の種、すなわち、星ですら収納可能な、大宇宙の深淵神髄魔法であるのだが……




***




「あら、随分なご出世ねえ。わたくしを待たせるだなんて」


「お、お姉様。突然、どうなさったっていうの?」


「どうもこうもございません! あれはなんですの? これはなんですの? この国は、なんですの!!」


「あれとかこれとか言っても、何のことだかわから無いだろうに」


「そこ、ミハイル! だまらっしゃい! さてお父様、よくもわたくしを除け者にしてくださったわね。それでも父親なのかしら? そろそろ女神様の元へご出発なさる?」


「い、いや」


「姉上、セルフィン大公夫人となったのでしょう? もっとゆったりと構えたほ」


「ミハイル、大公就任、おめでとう存じます。でも、それとこれとは別よ! こんなこと、ゆったりもくったりもあるものですか! なぜ、あなたたちだけ、このような夢の国で暮らしているのかしら? なぜ、セルフィンには慈悲をくださらないの? なぜ、この国の民は健康的でいきいきして幸せそうなのかしら? まあ、民が幸せなのは素晴らしい事ですが、セルフィンの民は……セルフィンの民も、わたくしも……」


「すまぬ、メアリ。これはご神託の結果なのだ。そなたも知っておろう?」


「ええ、もちろんですわ、お父様。救い主様が御生誕あそばされて直ぐにセルフィンに嫁いで行かなければなりませんでしたが、わたくしも救い主様の御謁見を賜る栄誉に浴しました。金に輝く神々しいお姿は、忘れも致しません!」


「なら姉上、しかたがないことでしょう。私たち一家も10年間もの間、パラダイスで原住民生活を送りましたよ」


「ええミハイル、隠してお育て申し上げねばならなかった事は理解しております。でも、でも、それなら隠してご支援くださればよろしかったではありませんか!」


「ですから少し前、お姉様にパウンドケーキをお届けしたでしょう?」


「ええ、マリア。いただきました。あのような女神様の食物、それは夢心地でございました。セルフィン大公一家、全員で、感謝の祈りを捧げながら、少しずつ、少しずつ、ちびちびと、ちびちびと、大切に大切に、いただいておりました。そうしたら……そうしたら……あれほど大切に致しておりましたのに……無くなってしまったのですよ! こんなことがございますか!」


「それはそうでしょう、ケーキは食べたら無くなるものですからね」


「そこ、ミハイル! だまらっしゃい! ああ、このような貴重な天国の食べ物を、わたくし達にお分けいただいて、ぜひとも感謝を申し上げねば……と思い、ミハイルの大公就任の挨拶もかねて、10年ぶりくらいに里帰りをしたと言うのに……」


「それはお姉様、長旅お疲れ様でございました。ごゆっくりなさっ」


「里帰りをしたと言うのに! この国では! 天国の食物を平民でも普通に食べていると言うではありませんの! どういうことですの?」


「サクサク……うん、まあ、今は公国中でお菓子も食べているね。あ、姉上も、クッキー食べます?」


「そこ、ミハイル! だまらっしゃい! それだけじゃないわ。ずっと石の街道が国境から続いていたのも驚いたけれど、この国に入ってみれば、森はございますし、果物の木もございますし、とても大きな石造りの建物がたくさんございますし、平民はステキな天国服を着て楽しそうに忙しくしておりましたし、なにより! 牛が荷車をひいているじゃないの! それに、街には良い匂いがぷんぷんしてございますし、この大公屋敷に帰ってみれば、なんなのですか!」


「なんなのですか、って言われても、大公屋敷ですけどね」


「そこ、ミハイル! だまらっしゃい!」


「そうね、思えば大公屋敷もだいぶん様変わりしたわね。キッチンも整備されてサニタリーもできたし、暖炉もドアも、コーチも常駐してるし……向かいにある給食センターの食事も食べ放題ですものね。まあ、別邸とは比べられないけれど、大公屋敷もそれなりね」


「……マリア。わたくし、救い主様の元へ、お慈悲をすがりに参ります! これは決定でございます! いいわね!」




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