1-76 宅配ボックスの真実
無次元の力で、物を消したり出したりできるか試してみる。
呪文は必要ないもん。僕、無詠唱だから!
とりあえず、このお慈悲リンゴの次元を取り去って、無次元にしてみよう。
ピッカリンコ
うん、本当に消えたよ……
そして、取り去った次元を再付与してみる。
ピッカリンコ
うん、リンゴが出た。
もう一度。
ピッカリンコ
リンゴは消えた。消えたリンゴは? ……どこにあるかは分からないけど、僕の中にイメージがある。リンゴはパントリーにストックされている。この僕のパントリーは、多分無次元にあるんだと思う。うん、イメージって、考えようによっては魂と同じだよね。次元を超越してる感じだし。
そして、次元を再付与する時に、宅配ボックスに出してみる。
ピッカリンコ
うん、宅配ボックスにリンゴが出た。
これって、神の力と同じだよね……僕の魂を地球からアタシーノ星に出したのも、異世界食文化召喚スキルで地球の物を召喚したのも、女神様がスパイスを送ってくれたのも、地球の女神様がリンゴと鰹を送ってくれたのも……
そして、僕がお取り寄せするのも、今、僕がリンゴを収納したり、出したりしたのも……
時間も含めて次元を取り去ったんだから、収納中は時間も止まっているよね、きっと。
暖かいものと、冷たいもので試してみよう。
***
えっと、冷蔵、よりは冷凍の方がいいかな。
うん、牛のスペアリブがある。このスープ、美味しいからね。これの次元を取り去ろう。
うーん、僕はどうせ無詠唱で呪文なんて関係ないんだから、そのままアイテムボックス魔法でいいや。
んじゃ、アイテムボックス!
ピッカリンコ
うん、普通に消えた。次は、温かいお茶を収納。
ピッカリンコ
うん、僕の中のパントリーにちゃんと入ってる。湯気が出た状態で停止してるよ、アハハ
あ、ついでに、パウンドケーキも入れてみよう。
ピッカリンコ
うんうん、僕のパントリー、ええい、分かりにくいから、無次元パントリーでいいや、無次元パントリーにパウンドケーキがあるよ!
後は、数日後くらいに、取り出してみよっと~
***
――ミチイルは、神の力を使えるようになった。いや、もともと使っていたが……本人の自覚が生じたのである
***
うんとね、アイテムボックスって、多分生き物にも使えるんじゃないかと思う。いや、使えるよ。家畜お取り寄せしたんだから。
ということは……人間にも……使えるよね。
人間に使ったら、転移転送だもんね。
でも、怖いし、責任取れないから、人間には使わない。だってさ、無次元にするってのはさ、死ぬのと紙一重でしょ? 人間が魂になるのかどうかわからないけど、次元が無いんだもん、死んで体が全部無くなるのと現象事象は同じ。
……だから古代エジプトとかはミイラにして体を残そうと思ったのかな……無次元になるのを阻止しようとしたのかも知れない。
イメージは、記憶って言い換えてもいいよね。魂も記憶と同じようなもんなのかなって気もするし、僕が変なイメージしちゃったら、アイテムボックスに入れたものが、きっと死ぬよね。
うん。
生き物にもなるべく使わないつもりだけど、これは状況しだいかな。
とにかく、人間には使いたくないし、使わない。
人間が僕のパントリーに入っているの、嫌じゃない? 人間が冷蔵庫とかに入ってたらさ。
そんな想像したくないけど、万が一、冷凍庫で凍っちゃうような想像を一瞬でもしちゃったら……入れた人が後で死ぬかも。
なので、アイテムボックスは、人間には一切使用致しませんよ!
異論は受け付けません!
ささ、気を取り直して、今日は長年の懸念事項である? 調味料問題を解決しまーす。
でも、試作が必要だから、まずは別邸のキッチンで~
***
「あら? ミチイル。今日は何か作るの?」
「うん、母上。今日はね、研究って言うか試作っていうか、皆に披露する前に試してみようと思ってね」
「あら、じゃあわたしも、ここにいるわ」
「そう? 魔法の練習してたんじゃないの?」
「ええ、もちろんしてたわよ。でも、少しは息抜きが必要でしょ!」
「ハハ そりゃそうだ~ じゃ、一緒に研究しよう!」
「いいわね、研究! なんかキャリアウーマンっぽいわ!」
「いつも思うけど、ほんと、どこからその表現を……あ、いいやいいや~ じゃ、まずは大き目の鍋を用意しまーす。そこへ、醤油とみりんを合わせて鍋の半分まで入れまーす。そして、たっぷりのリンゴを皮ごと適当に切って入れまーす。皮剥いたタマネギとニンジンも適当に切って入れまーす。そしてケチャップを適量、砂糖を液体分の5%くらい一緒に入れまーす。圧力鍋魔法で柔らかくしたら、オールスパイスの粉末をドバっとたっぷり入れまーす。そしたら、鍋丸ごと石臼魔法をかけて、中身を形が無くなるくらい粉砕しまーす。中身が液体になったら、濃縮魔法で半分の量になるまで水分を飛ばしまーす。はい、おわったら、そこへワイン酢を、鍋の液体分の半分くらい入れまーす。そして、苦いカラメルを作って鍋に入れ、再度、よく混ぜたら、ウスターソースの、完成です!」
「ミチイル~、とってもスパイシーでいい匂いがするわ! ところで、これは何に使うものなのかしら?」
「うん、これはね、フライっていうものにかけて食べるのが多いかな。もう少しアレンジしたら、お好み焼きのソースにもなるし、まだ作ってないけど、焼きそばとか焼うどんとか、あ、目玉焼きにかけるのも美味しいし、野菜炒めや肉炒めの味付けにしても美味しいし、オムレツにかけたりもするの」
「なんだかよくわからないわ……」
「じゃあさ、ヒレカツと野菜フライを作ってみよう。本当はキャベツが欲しいところなんだけど、無いからね。それでは~ 食パンを用意しまーす。10枚切りを数枚取り分けて、後の残りは、石臼魔法でザザッと粉にしておきまーす。微粉末にならないようにね~ では、揚げ油を温めている間に、豚肉を用意しまーす。ロースかヒレがおすすめでーす。今日は、ちょうどあるので、豚ヒレを使いまーす。豚ヒレ肉を2cmくらいの厚さに切って、棒で叩いておきまーす。叩いた肉に、塩を少々すりこみ、薄力粉をまぶしまーす。その後、溶き卵にくぐらせて、最初に用意したパン粉を全面につけまーす。つけムラがあると、そこが焦げますので注意してくださーい。パン粉をつけたら、そのまま少々休ませまーす。その間に、ナスと種を取ったピーマンを縦半分にし、肉と同じ処理をして、パン粉をつけまーす。そうしたら、温まった油の中に、パン粉をつけたナスとピーマンを入れ、こんがりするまで揚げまーす。揚がったら、金網に取り出して油を切っておきまーす。次は、さきほどの豚ヒレを油に入れて、揚げまーす。浮かんできてパチパチ言い出したら、油から上げて、金網に置いておきまーす」
「とってもとってもいい匂いなのだけれど……お腹が空いてきたわ!」
「うん、肉を揚げる匂いはいい匂いだよね~ 唐揚げとはまた違った匂いなの、フライは。さて、10枚切り食パンにマヨネーズを塗りまーす。そしたら、揚がったヒレカツを、さきほど作ったウスターソースの中にドボンとつけて、マヨを塗ったパンにはさみまーす。上にまな板で重石をして、しばらくそのままにしておきまーす。その間に、ヒレカツを食べやすく切って、ナスとピーマンのフライとともに、皿に盛りまーす。さ、ヒレカツを挟んだパンを半分に切りまーす。これで、ヒレカツサンドと、ヒレカツと野菜フライの、完成です!」
「パチパチ~ ミチイル、これにウスターソースをかけて食べるのね?」
「うん。さ、お供えもして、ダイニングで試食しよう!」
***
「フライやカツの上からソースをかけてもいいし、別皿のソースにカツを浸けながら食べてもいいよ~」
「じゃ、いただくわ~ サクッ んまあ! この豚肉はとっても美味しいのね! 網焼きとも唐揚げとも全然違うわ!」
「うん、このパン粉をつけて油で揚げる料理をね、フライっていうんだけど、肉とかのフライの場合は、カツっていうの。鶏肉でも豚肉でも牛肉でも、どれでもカツは作れるよ。野菜や魚の場合は、フライっていうことが多いかな~」
「そうなのね! ナスもピーマンも、パン粉で揚げると、こんなに食べ応えのある味になるのね、というか、この香り高いソースがあるからかしら」
「うん。醤油をつけても食べられるけどね、ソースの味は、他で代用ができないくらい、独特な美味しさがあるね~」
「じゃ、こっちのサンドイッチもいただくわ~ ん? んん? これは……卵サンドともツナサンドとも、全然違うじゃない!」
「うん、ソース味がメインだしね、カツがボリュームあるし、パンに揚げ物を挟むのはね、とっても美味しいの。パンそのものがね、揚げ物と言うか、油と相性がいい食べ物だから。バターとかつけて食べるでしょ?」
「そうね。パンにバターは、ジューシーな感じになるし、風味もあるし、美味しいわね」
「うん、そのバターの役目を揚げ物が担うんだね。このカツサンドはね、冷めてもそれなりに美味しいし、卵やツナよりも、傷みにくいの。だから、お弁当にもいいかな~」
「そういえば、以前はお弁当、なんてなかったものね。入れ物も無かったし、食べ物も無かったし、平民に至っては加熱料理すらなかったんだもの……」
「そうだったね……」
「今じゃ、家に帰らなくても、おにぎりやパンやサンドイッチをもって仕事をしたりしている平民も多いわ。ビニール袋を殺菌消毒して再利用したりしているようね」
「ああ、それはいいね~ みんな、いろいろ考えるようになって、どんどん公国が良くなって行ってる!」
「ほんとうにそうね。みんなミチイルのおかげよ」
「うん、それはそうかも知れないけどね、僕は生み出して多少広めてるだけ。後は、他の人達が手配したり、仕事したり、頑張ったりしているでしょ。僕だけのことじゃないよ」
「まあ、それはそうね。でも、ミチイルが居てこそ、なのよ」
「うん……このフライとカツは結構ボリュームがあるでしょ? これ以上食べると晩御飯が入らなくなるからさ、残りはお手伝いさんたちに試食してもらおう!」
「そうね、そうしましょ!」




