1-72 11歳になった
去年は、かなり忙しかったけど、気がついたらなんか11歳になってた。誕生日を祝う風習とかは無いの、って言うかカレンダーもないからね、誕生日なんて知りようもないし適当なんだ。
パン、クッキー、鰹、マヨネーズ、リンゴ……なんだかようやく食文化らしくなってきた。
一息ついたので、ここらで懸念事項にとりかかる。そう、北から運んでもらっていた資源候補素材。結構放置しちゃったね……
まず、魔石。
これは、見た目も石炭みたいだしね、ガスコンロ魔法を使うと魔力で火力が大きくなることを考えても、この魔力のこもった石は、エネルギーに変換できると思う。ま、この世界では魔力がエネルギーだって、アイちゃんも教えてくれてたしね。
で、とりあえず魔石にフランベ魔法をかけて火をつけてみたら、そりゃ当然かのように問題なく火がついた。でも、フランベ魔法以外の方法では、火が着かないみたい。魔法を使わないと火がつかないし、普通に熾した火じゃ着かないってことだね、きっと。魔石の火は、煙も出ず臭いもせず煤もつかず、青い炎で静かにゆらゆらと燃えるだけ。しかも、一度火をつけたら、ぜんぜん消えないの。この火を消すには、自然消化を待つか、空気を完全に遮断するか、ガスコンロ魔法で消化イメージをするしかない。水をかけただけでは消えないの。でも水に完全に沈めれば空気が遮断されて消える。
そして、内包されている魔力がほとんど燃え尽きてしまったら、火は消える。そして後に残るのは、ガラス質の半透明な石。っていうか、ガラスかな。なんで燃えている間は溶けないのか良くわからないんだけど、ガスコンロの火が出ているバーナーキャップが溶けないのと同じなのかな。僕、全くわからない。
そして、魔石は火持ちがものすごくよくて、家庭で使う程度なら二か月も三か月も使える感じだと思う。鋳造とかだとどのくらいなのか、ちょっとわからないけど、何かうまいこと考えたら、何とか使えるだろう。僕、わかんないから、北部工業団地の職人たちに丸投げしたよ。
ということで、魔石は植物性の燃料にとって替わり、低公害かつ省スペースで長持ちする燃料として主に工業分野で使用し、工業団地の製造燃料はすべて魔石へ。特に威力を発揮したのは、オーブン魔法だね。今まで僕くらいしかオーブン魔法を使いこなせなかったんだけど、魔石燃料でオーブン魔法の温度調節が自在になった。
そして、うちではみんな魔法が使えるから、別邸の暖炉も風呂もキッチンも魔石を使っているんだけど、平民の家はね、なにせキッチンもないから、いまだに外で七輪調理だからね。七輪で魔石を燃やすのは、さすがに危険だから禁止している。なので、工業団地と別邸以外では燃料として魔石は使っていない。
しかし不思議だったんだよね。なんで圧力鍋魔法とかで、熱源も無いのに加熱調理されるのか。要は魔力が熱エネルギーに変換されているんだろうね。だから人によって魔法の継続時間とか調理時間に差があるんだろう。どのくらいの魔力を扱えるかは人それぞれだけど、僕がやれば、どれも一瞬で終わっちゃうからさ、気づくのが今頃になったよ、ほんとにもう……
でも、魔石は大きさが色々あるとはいえ、どの魔石もある程度の物量があるのにさ、人間の中の魔力器官は細胞一つとかでしょ? なんでそんなに小さいのさ?
『はい、救い主様。それは人間や魔獣の中では魔力が圧縮されているからでございます』
「ああ、アイちゃん、そうなの?」
『はい。魔石の魔力はあるがままの状態の魔力が詰まっておりますが、魔力器官の中では魔力が高次元圧縮されております』
「うん、よくわかんない~ ま、わかっても何ができるもんでもないし、いいか~」
『救い主様の、御心のままに』
そして、船盛魔法で舟を作れるようになったから、アタシーノ川を使った舟運も始まった。刺身が乗っている船盛の舟ね、底が平らな舟でしょ? だから川舟として都合がいいの。それにアタシーノ川は、頑張れば歩いて渡れるくらい流れが緩やかな上にいつも水量一定だからね、舟も揺れないの。舟は北部の資源採取場から魔石や金属石やスライムフィルムを、石切り場からは石を積んで、川を下ってくる。そして北部工業団地で積み下ろしをした後、桐の森辺りまで荷を運ぶの。ブドウ畑と桐の森のところには、橋がかかったからね、それより南には舟が使えないから。
そうそう、その橋から延長するようにして、セルフィン国境まで舗装道路が開通したんだって。土木作業員が漬物石魔法で延長していったみたい。あの辺りは周りに石がゴロゴロしてるからね、材料も充分だろうし。
そして舟が北に戻る時は、荷は積まずに、舟にロープを括り付けて牛に牽かせて川を上る感じだね。だから、北部工業団地と南村手前までの南北街道間の運送は、今まで通り牛がメインで、舟運は北の資源場から桐の森までの15km~20km程の区間の重量物限定かな。
それでも、牛の荷車よりは多くの荷を運べるし、牛の負担は激減するしね、北の資源を採取するようになっても、社会的な負担はそれほど増えなかった。むしろメリットが計り知れないレベル。
採っても採っても無くならない、無尽蔵のエネルギーを手に入れたんだもん。アイちゃんの話じゃ、魔石は魔力山から常に噴出しているらしく、枯れ果てることはないらしいしね。信じられる? 無尽蔵のエネルギーだよ! 竹が使えるようになってから、既に燃料は使いたい放題だったけどね、竹は燃料に加工しないとならないし、もちろん運搬しないとならないし、ある程度は煙も出て汚れるし、燃やした後は灰が出るしね、労力と言う点ではコストがそれなりにかかる燃料だったんだよね。でも、魔石は北部から運ぶのが少し大変なだけで、後は、燃料に加工する必要も無いし、少量で信じられないほど長持ちするし、灰も出ないの。
だから、エネルギー革命が起きた状態だね。
今じゃ、コンポスト燃料は使われなくなったから、野菜の茎なんかは本当にコンポストして土に帰しているよ。
そしてね、魔石から熱エネルギーを取り出せるという事は、魔力も取り出せるんじゃないかと思ったんだよね。でも、取り出し方が分からなかった。でね、魔力を流したら冷たくなる金属石があったでしょ、それに魔石をくっつけてみたの。そしたらさ、金属石がどんどん冷たくなって霜がつくレベルになってね、魔石から魔力は取り出せないけど、何かに吸わせることができる事が分かった。
その金属石は、普通の金属と同じように扱えるから熱で熔けて加工もできる。それで、その金属石をね、パスタマシーン魔法で板状にして魔石をくっつけたら、冷たいパネルになった。そういえば前世でも、なんかペルチェ板とかなんとか、電気を流したら冷たくなったりするのがあったのを思い出して、この金属はペルチェ石と呼ぶことに決定。僕が決定したら、この世界で呼び名が決まるからね~
そしてペルチェ石を色々検証したら、板を厚くすれば、魔石から吸われる魔力も増えるらしく、とても冷たいマイナスの温度、板を薄くすれば、吸われる魔力も少なくなって、冷蔵温度になることが分かったの。そして、使用魔力は板の面積にも比例するみたい。おそらくペルチェ石の質量に比例して魔力が吸われるんだろう。温度、というか冷却度合いは板の厚みに比例。
なので、茶箱の内側全面に、このペルチェ石の金属板を貼り付けてね、魔石を接触させて収納する仕組みもつけたら、冷蔵庫と冷凍庫ができた。しかも、どんなに小さい屑魔石でも数を入れたら稼働する。
ま、この世界の魔力は、地球の電力相当って言うし、魔石は電池と同じだと考えてみれば、不思議でも何でもないのかも知れないね。
これで、僕のスキルじゃなくても冷蔵庫も冷凍庫も作れることがわかったから、生産体制を整えて、少しずつ北部工業団地で製造が始まっている。なので、今まで公国内に設置して来た冷蔵庫、冷凍庫を全部、この魔道具に変更したよ。以前は冷蔵庫というより冷蔵ルームだったけど、さすがに金属板で部屋は作れないからね、クローゼット状の、ほんとうに冷蔵庫って感じのものになったね。
僕がスキルで作ったものはさ、いつまで作動するか、わかんないもんね。僕が死んだら、どうなるんだか。
なんか、訊くのが怖い気がして、アイちゃんには訊いてないんだけど、井戸スキルでね、地の魔力がある限り枯れないって説明があった事を考えると、冷蔵庫とかの時、何も言われていないから、多分、僕が死んだら使えなくなると思う。確か、僕が触媒みたいな働きをして、宇宙の無次元の力を使ってるとか、何とかって話だったから……
ま、考えてもしようがない事ではあったんだけど、魔道具?ができたなら、安心。魔石とペルチェ石がある限りは、僕じゃなくても作れるって事だもんね。
後は、平民にも冷蔵庫くらいは普及させれば、もっと食文化が進むんだけどさ、さっきも言ったけど、平民の家、それどころじゃないでしょ? トイレも無いし水道も無いしキッチンも無いんだから。なので、ちょっと保留中。
もっと根本的かつ抜本的に変えないといけない気がするんだよね……
そうそう、冷蔵魔道具付の荷車、冷蔵車を作ってね、刺身用の鰹をレストランまで運ぶことにしたの。とりあえず、レストランでのみ、刺身は解禁ね。食べなれないせいか、爆発的ヒットはしてないけど、僕の別邸では刺身食べ放題になったから、いいんだもん。
そして、魔道具ができた事で、魔石のさらなる特性が判明。
魔石をただ燃料として燃やしただけだと、魔石の魔力は全部なくならず、いわば燃えカス状態で魔石に残っていて、それで半透明のガラス石になり、魔道具で魔石を使うと、魔力は全部使い切っちゃって、残ったガラス石は透明なの。透明って言うか、クリスタルレベル。つか、宝石と同じな感じなのね。
だから、このクリスタルガラス石を皮むき器魔法で少しずつカットし、ブリリアントカットみたいな加工をしてみたら、ぶっちゃけ馬鹿デカい宝石が出現。でも、世に出すのは止めておいたよ。まだ服に色もついてないのに、宝石なんていらないでしょ。なんか母上もテンション爆上げになりそうだしね……
燃料として使い終わった魔石は、とりあえず各箇所の保管庫に入れてもらっておいて、冷蔵冷凍で使った魔石は、新たな魔石と交換で回収、別邸に保管することにしたよ。これは、もっともっと社会が成熟してから出そう。
このエネルギー革命で、工業用熱源、燃料、暖房、冷蔵、冷凍のすべてが、魔石一つで解決できるようになるはずだ。
そう遠くないうちに。




