1-71 巨頭解禁
あの後、とりあえず皿と箸を作り、臨時宅配ボックスで醤油をお取り寄せし、ジョン爺と刺身をお腹いっぱい食べたよ。わさび無いけど。
魚は、妙に大きかったけど、紛れもなくカツオ!
そして、ジョン爺も水揚げにトライしてみたけどね、成功率がとても低い。どうも、水揚げ魔法の「捕まえたら水揚げ」ってのがミソだったらしく、舟で少しだけ陸を離れて地引網を海に放り投げ、魚がいれば水揚げ魔法で陸へ、っていう流れにしてみたら、安定的にカツオが獲れることがわかった。
そして、獲れたカツオは、船盛魔法の舟無しイメージで、お好みのサイズの切り身にできることが判明。とりあえず、鰹節サイズの切り身にして、干物魔法で完全乾燥。その後、燻製小屋を作って燻製すれば、なんちゃって鰹節ができた!
さらに、ステーキ大の切り身に軽く塩をして、これまた軽く干物魔法をかけて、本来の魚干物をつくった。これで数日は日持ちがする鰹干物が完成。鰹節と鰹干物を製造するために、舟を作り足して、桟橋を漁港に作り変え、井戸と巨大作業場と冷蔵庫と燻製小屋、倉庫、配送センターに福利厚生施設も建設し、海産部の本部に。公都までは岩壁を超える必要があるから、以前作った階段とは別に、荷車で段差を超えられるよう舗装坂道をつくり、公都までの物流ルートを確保。
でも、当面は、刺身は厳禁にしておいたよ。冷蔵庫もろくに無いしね、なんか危険だもん。
これで、海産部は、名実ともに海産部に。塩と昆布、ワカメ、鰹節、鰹干物と鰹の廃棄物でコンポスト飼料、そしてマヨネーズボトルの制作を担当してもらう。
鰹の骨は鶏の飼料に優先的に使ってもらおう。鶏はカルシウムが必要だからね。
そしていよいよ、待ちに待ったその時がやってきた!
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今日は中央工業団地の一斉休業日。
今回は調味料工場でキッチンスタジアムだ!
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「さあ、今回は新たな調味料を、梱包手段とともにお教えしたいと思いまーす」
「パチパチパチザワザワザワ」
「さ、海産部から、鰹節が届いていまーす。これは、新たな料理の世界を開くものでーす! まず、鰹節は、皮むき器魔法で、薄~く薄~く薄皮一枚を剥くようにしてフワフワの状態にしまーす。これは、花鰹と言いまーす。次に、鰹節をスライサー魔法で薄~く小さくパラパラの状態にしまーす。これは削り節と言いまーす。鰹節一本から、かなりの量ができますが、あっという間に使ってしまいますので、いつも在庫があるようにしてくださーい。そして、これを梱包する手段ですが、北からフィルムが届いていますね? はい。これが梱包フィルムでーす。この状態で届きますが、これを新魔法の型抜き魔法で、均一な大きさに切りそろえまーす。今回は、二種類の大きさにしまーす。はい、ピカッ それぞれ、この大きさですね。すべて、この大きさになるようにしてくださーい。さて、これも新魔法、密閉シーラー魔法でーす。この魔法で、先ほど切断したフィルムを二枚重ねて三方を密閉シールし、袋状にしまーす。そうしたら、大きい袋には花鰹を、小さい袋には削り節を入れまーす。それぞれ入れたら、最後に密閉シーラー魔法で口を閉じまーす。その時に、袋の口の横に、切り口をつけるイメージを忘れないでくださーい。この切り口がないと、袋が開けられませーん。はい。すべて袋に入れて口をシールで閉じたら、最後の最後に、殺菌消毒魔法をかけまーす。これで、花鰹パックと削り節パックの、完成です!」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「これらは、何にどのようにして使うのでしょうか?」
「はい。これらは昆布や骨のスープ同様、出汁になります。今までとは全く違う味の出汁です。鰹出汁といいます。それではここで、鰹出汁の味見をしたいと思います。みなさんのお手元に湯呑は届きましたでしょうか? はい。では、ティーポットの中に、水と花鰹を適量入れて、電気ポット魔法をかけます。少し時間をおいて、塩を少しだけポットの中に入れます。はい、それではポットの中の鰹出汁を飲んでみてください」
「ミチイル様! とても美味しいです!」
「はい、ジョーン。これはいろいろな料理の味のベースとなります。味噌で溶けば味噌汁に、今日のように塩で味を足せば吸物に、おでんの出汁に、まだご紹介していませんが、麺類の出汁に、丼物の出汁、そして、お茶漬けをする際に番茶とともに花鰹を入れると、大変に美味なるお茶漬けとなります。また、削り節に醤油を少々混ぜたものは、おにぎりの具に最適です。食べ出すと手が止まらなくなる事でしょう」
「ありがとうございました」
「では、鰹節を使って、新たなる調味料をもう一つ、作りましょう。まず、万能ダレを用意しまーす。万能ダレを甕に入れまーす。そして、その甕の中に、乾燥昆布と鰹節を同量、石臼魔法で粉末にしたものを入れて混ぜまーす。一週間位そのまま置いて、布で濾せば、麺つゆの、完成です!」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「その麺つゆは、どのように使うのでしょうか」
「はい。麺つゆは、お好みの薄さに薄めれば、即座にスープになります。現在、一番おすすめの使用法は、お湯で5倍くらいに薄めたスープに天ぷらを浸して食べる使い方です。これは天つゆと言って、今まで塩だけだった天ぷらが、得も言われぬ味になります。この天つゆに大根を石臼魔法で下ろしたものを少々入れても、格別な味になります。そして、麺つゆの薄め具合によっては、先ほど話した丼物や、麺類のスープになるのです。わざわざ出汁をとったり骨を煮込んだりせずとも、ゴミも出ずに薄めるだけでスープができます。また、万能ダレと同じように原液でも使います。そうすると、万能ダレでは出せなかった深く香り高い味わいが出せます。おでんの味付けにも使えます。忙しいご家庭の料理に、革命を起こす事でしょう」
「ありがとうございました!」
「では、この麺つゆも調味料工場で製造し、在庫を切らさないようにしてください」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「そうしますと、醤油が足りなくなると思います……」
「はい、そうですね。今は味噌のおまけで醤油を取っています。そうですね、鰹節もできた事ですし、醤油も増やしましょう。なるべく古くなった味噌を甕ごと持ってきてもらえますか? それと空の甕と砂糖と塩もです。フライパンと火も準備してください。はい、ありがとう。では、空の甕に、味噌を四分の一くらい入れます。次に、10%の塩水を作ります。計量器魔法が使える人が行ってください。では、フライパンに砂糖と少しの水を入れて火にかけ、真っ黒いカラメルを作ります。その間に、味噌を四分の一入れた甕に10%塩水を8分目くらいまで注いで、大きなしゃもじで混ぜてください。カラメルが真っ黒になったら、すかさず味噌を塩水で薄めた甕に入れます。撥ねますので気をつけてください。後は、良く混ぜて一週間発酵させ、濾して醤油としてください。厳密には醤油とは違いますが、今までの溜まり醤油より色が黒く、多少風味がプラスされた、ほとんど同じ味の醤油ができると思います。溜まり醤油は製造中止してかまいません」
「かしこまりました」
「では、今日の本命、マヨネーズを作りたいと思いまーす!」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「マヨネーズとは、一体なんでしょう?」
「はい。マヨネーズは、卵の黄身と油と酢と塩を混ぜた調味料です。大変に美味しく、使い勝手が良いのですが、傷みやすく、今まで作っていませんでした。しかし、新しい梱包材料が手に入りましたので、ここでマヨネーズを解禁したいと思います」
「よろしくお願いします」
「はい。では、大きいボウルに油を半分、卵の黄身、卵黄と言いますが、酢と卵黄を油の十分の一、塩を全体の3%、砂糖は1%入れまーす。後は、最大出力で石臼魔法をかけまーす。ずっとかけ続けていると、全てが混然一体となってきまーす。生クリームのようになったら、マヨネーズの、完成です! これを、新素材のマヨネーズボトルに詰め、これまた新素材のコルク栓で密閉し、殺菌消毒魔法をかければ、常温で日持ちしまーす。なお、一度開封すると、半月くらいしか食べられません。そして、このマヨネーズを使った料理は、早く傷むので、その日のうちに食べきるようにしてくださーい。なお、大量に余る卵の白身、卵白と言いますが、卵白は全部まとめて醸造工場へ運び、ワインの火入れの時に使いまーす」
「はい! ミチイル様!」
「どうぞ、ジョーン」
「ワインに入れるとはどういうことでしょうか?」
「はい、ワインの火入れの前に、ワインに卵白を混ぜて置き、それから火入れをすると、卵白にアクがくっついて、大変にすっきりとした高級ワインになるのです。今までは行っておりませんでしたが、卵白が余りだしますので、これを機に行いたいと思います。ジョーン、そのように手配してください。それでも使いきれない卵白は、ハンバーグのつなぎに使ってください」
「かしこまりました」
「では、マヨネーズの簡単な料理をご紹介しまーす。パン工場から食パンを届けてもらっていると思いますが、はい、ありますね。では食パンを10枚切りにし、さらに半分にしておいてくださーい。次に、茹で卵を用意しまーす。はい、茹で卵の殻を全部剥いたら、ボウルに入れ、微塵切りになるようにササっと石臼魔法をかけまーす。そしたら、砂糖を少し入れ、山椒の粉もほんの少し、そしてマヨネーズを微塵切り卵の三分の一量をドバっと入れまーす。これをざっくり混ぜたら、卵サラダの、完成です! さささ、お次は、これも新食材、鰹の干物を用意しまーす。この干物の骨を全部取り、といっても骨はありませんが、骨が無いのを確認したら、鍋に入れて水も入れて圧力鍋魔法で短時間加熱しまーす。火が通ったら出てきた水分はしょっぱいので捨て、残った鰹の水分を濃縮魔法で飛ばし、そこへマヨネーズを適量入れて、鰹の身をほぐすようにしながら良く混ぜまーす。これで、ツナマヨネーズの、完成です! それぞれ、パンに乗せて試食してくださーい。それでは、お供えしてから、いただきまーす」
「いただきまーす」
「 !!!!! 」
***
――とうとう、アタシーノ星にマヨネーズが解禁された




