1-70 神の恵み
「アイちゃん、訊きたいことがいくつかあるんだけど」
『はい、救い主様、何なりと』
「うん、北からビニールが届いたでしょ? なんでこの世界にビニールがあるの? 前に、この星には石油がないって聞いた気がするけど」
『はい。この星には石油を始め、化石燃料系のものは一切ございません。救い主様がビニールとおっしゃっているものについては、あれはビニールではございません。魔獣のようなモノのカスですので』
「え? あれって魔獣なの?」
『はい。より正確に言うと、魔獣のような何かが消滅し、その外側だけが乾燥したものでございます。その何かは、スライムといっ』
「ええええー? この世界にスライムがいるの??」
『はい。あの女神が、アタシーノ星を生み出したのならばスライムは絶対に必要不可欠である、などと仰いまして、導入されました』
「なんてファンタジーな! まあ、異世界ってスライムがいれば大概色々解決するもんね! それでそれで、そのスライムには、どこに行けば会えるの?」
『救い主様を始め、人は誰であっても動いているスライムを目にすることは叶いません。スライムは北極の魔力山にのみ、魔力に依って存在しております。エサや肉体などという概念も持たず、ただ透明な皮の中に神の恵みが詰まっているだけ、と思われます』
「ああ、そうなんだ~ 女神様の成すことなら僕にはわかんないよね~」
『そのスライムでございますが、魔力が無いと存在できません。北極の魔力山から流れ出るアタシーノ川を始め三本の川の流れに乗って魔力山から流れ出てきたスライムは、南下するごとに辺りの魔力が減って行きますので、その結果、中の神の恵みが次第と消滅致してゆきます。そして中で神の恵みを一つに纏めていた外皮が最後に残るのです。ビニールはスライムの皮でございます』
「そうなんだ……ま、もともと神の恵みなんだから、有効に活用させていただきまーす! あ、中の恵みは消滅してるんだった。神の恵みをラッピングしてた包み紙を再利用する感じ? なんてエコロジー!」
『救い主様の、御心のままに』
「それとさあ、この星の海には、何かいるの?」
『基本的には、何も用意されておりません。しかし、先ほどのスライムとほぼ同じ形態のモノがおります。魔力山から海へ流れ出たものの成れの果てかと思料致します』
「海スライム? とか?」
『特別な名は与えられておりません。スライムが多少形を変えたものでございますので』
「それは、どの辺りにいるの?」
『北へ向かえば向かうほど存在数が多くなりますが、スライムと同じく、動いているそれを目にすることは無いかと存じます』
「ということは、死骸、っていうか、皮?は海にあるんだ?」
『おそらく、この公国の海岸でも目にする事はあるかと存じます』
「そっか~ じゃ、海の包装紙を、あ、海の包装ビニールを確認しに行こう!」
***
「おう! ミチイルの坊ちゃん! 今日は一人なんじゃな! 久しいの! ガッハッハ!」
「あ~、わざわざごめんね、ジョン爺、ほんとご無沙汰しちゃって~」
「なんのなんの! ミチイルの坊ちゃんのおかげでな、塩づくりも、あっちゅう間じゃしな、楽しとるわい! ガッハッハ!」
「うわー、昆布がこんなにいっぱい! 適当に岩場にちぎった昆布をばらまいただけなのに!」
「じゃな! わしらは何もしとらんな! 採っても採っても勝手に増えていきよるな! ガッハッハ!」
「でさ、ジョン爺、この辺りにゴミとか落ちてない?」
「ゴミじゃな! ゴミはちいと北の、ほれ、あん辺りにな! ガッハッハ!」
「……ふう。革靴も作られるようになったから、前よりはマシとはいえ、岩場を歩くのは疲れるね……あ! これか~」
「じゃな! こんゴミはな、ようけ流れついとるな! ガッハッハ!」
「ふむふむ、ビニールっていうか、マヨネーズボトルがつぶれたみたいな、っていうか、そのもの? ビニールより厚くてしっかりしてる」
「ガッハッハ! 何を言っているかよくわからんがな、それは乾いたやつじゃな!」
「ん? 乾いていないのもあるの?」
「おう! ちいと待っとれな! ほい、これじゃな!」
「あー、デロッとしたマヨネーズボトル……ちょっと殺菌消毒、ピカッと。うん、キレイになった。これ、このまま乾いたらペタンコに潰れちゃうよね……何とか膨らませたまんま乾かさないと……広げて固定して乾燥させるかな、イカ徳利みたいに」
***
――ピロン イカ徳利魔法が使えるようになりました。どんな徳利でも作れます
***
「いや、イカじゃないし、スライムだし。ま、いいけどね~ じゃ、いっちょ新魔法『イカ徳利』 」
ピカッ ポテ
「おおー、マヨネーズボトルが、完成です! これでマヨネーズを作っても大丈夫~ 密閉容器が無かったから先送りしてたけど~ ん? ボトルは出来ても密閉じゃないじゃん……うーん、スクリューキャップは無理としてもね、木の栓じゃ弾力がね……密着もしないだろうし、せめてコルク栓くら」
***
――ピロン コルク栓魔法が使えるようになりました。弾力のある密閉栓が思いのまま作れます
***
「……コルク、この世界にないじゃん…… ま、試してみよう『コルク栓』 」
ピカッ コロ
「ふむふむ、ギュギュッ……うん、とっても問題ないね~ はい、一切問題ございません! ハハ」
「ガッハッハ! ようわからんがな! 良かったんじゃな!」
「ねえ、ジョン爺、このスライムっていうか乾いていないゴミね、たくさん手に入る?」
「おう! いくらでもっちゅー訳ではないんじゃがな、それなりには落ちてるな! ガッハッハ!」
「じゃさ、海産部でこれをなるべく集めてね、殺菌消毒魔法して、さっきの新魔法のイカ徳利魔法で、こんな感じに加工して、中央工業団地の調味料工場へ納入してくれる?」
「合点じゃな! ガッハッハ!」
「うん、よろしくね~ それでさ、話は別なんだけど、この世界は舟がないでしょ? 海の沖の方へ行ったことある?」
「ミチイルの坊ちゃん、海は入るもんじゃのうてな、塩をつくるもんじゃな! 間違うて海に入ったらな、体じゅう塩まみれになってな、ひどい目にあうんじゃな! ガッハッハ!」
「そっか。前は水もろくろく無かったしね、風呂も無かったし、そうだよね。この海スライムね、多分海の中にたくさん漂ってると思うの。それを集めたらマヨネーズボトル、たくさん作れると思うんだ。今は竹も使いたい放題だしね、舟とか作ってもらおう。ちょっと制作精度というか、水が漏れないようにしなくちゃならないから、すぐには無理かもしれないんだけどね、刺身の船盛くらいの構造なら」
***
――ピロン 船盛魔法が使えるようになりました。船盛が思いのまま作れます
***
「いやいやいや! 刺身が無いじゃん! ……ふむ。まあ、一応『船盛で舟!』 」
ピカッ プカ~
「おお、舟じゃん!」
「おお? ミチイルの坊ちゃん、舟、というもんは初めて見たがな、これは人が乗れるんじゃろうか?」
「……うん。乗れるだろうね。でも、どうやって漕ぐのさ……ま、タコ糸魔法で長い、もやい綱でも作って、岩場の石にくくりつけるか。ピカッ うん、後はこれを舟の舳先に……ジョン爺、このロープを舟の先にしっかり結べる?」
「おう! 訳もありゃせんな! ガッハッハ!」
「うん、良い感じ。じゃ、海には危険は無いからね、ちょっと海に出てみよう! スライムあるかも知れないし~ あ、もう少し北に行って、岩場を片付けようかな。舟、出しにくいしね。ピカピカッと。これで桟橋みたいになったから、あ、さっき作ったあの舟、ここに運べないから、もう一回ロープともども作り直そう。ピカピカッと。んじゃ、ロープを舟と桟橋に結んでもらえる? ジョン爺」
「合点じゃ!」
「うん、ありがと。オール無いけど、舟に乗ろう!」
***
「おおー、プカプカ~」
「わしゃ、海の上なんぞ、初めてじゃな! カッカッカ!」
「うーん、海スライムは透明だから、海見ても良くわかんないなぁ。あ、ザル作って掬ってみよう! ピカッっと。んしょ………あ! あるある!」
「ほー、これはあんゴミじゃな! これでボトル、じゃったか、いくらでも作れるな! ガッハッハ!」
「うん、悪いけど宜しくね! ん? 何か、でかい魚がいるんじゃない? これ、何?」
***
『私めは存じませんが…………少々お時間を……ふむ、これは……ログを検索致しましたところ、この魚は地球から転送されたようです』
「……と言うことは……お慈悲、なのかな。リンゴだけじゃ無かったんだね~」
『…………申し訳ございません。私め、あの際は熱暴走寸前だったため、色々確認を失念しておりました……かくなる上は』
「ああ、大丈夫、ありがと~」
***
「うーん、魚だとして、どうやって獲ったらいいのやら……なんか魚体がかなり大きい感じに見えるしね……こんなの、釣るのは無理でしょ。ロープで大きな網を編めば、地引網な」
***
――ピロン 地引網魔法が使えるようになりました。地引網ができます
***
「……うーん、弱いよ~よわよわ! 地引網じゃ、人数が大勢必要じゃん。それに、沖から魚を陸に水揚げするのだっ」
***
――ピピロン 水揚げ魔法が使えるようになりました。捕まえられたら陸に水揚げできます
***
「ハハ ロイド氏、なんか慌ててたね! でも、ありがとう! さ、ジョン爺、悪いけどさ、このロープを引っ張るの、一緒にやって!」
「おう! ほうほう、こうやってロープを手繰っていけば、桟橋に戻れるんじゃな! ガッハッハ!」
「うん、お疲れ様~ 早速早速、新魔法を試してみよう! 『水揚げ!』…………うん? ピカピカッは? うーん、もしかして捕まえる道具が必要? あ! 地引網だ! えっと『地引網』 」
ピカッ バサッ
「おお、麻縄の漁網が! さあて、さてさて、お待ちかねの~ 『水揚げ』 」
ピカッ ビタンビタン
「おおお! ミチイルの坊ちゃん! これは何じゃ? ようけ大きい……魚?言うたんじゃったな!」
「うわうわうわ~ こんなマグロみたいな大きな魚、どうやって捌くのさ…… ん? もしかして、これぞあの魔法の本領発揮? 『船盛』 」
ピカッ ジャジャーン
「やったー! 本当の本当に刺身の船盛じゃん! 一種類だけだけど~ それでも! 刺身さしみ~魚さかな~ 地球の女神様! 本当に本当にありがとうございまーす!」
***
――心の底から深く深く反省した天使は、ここ数か月のログを全検索した
――その結果、地球から郵送されたのは、オールスパイス一粒、地球から転送されて来たのは、リンゴの木とカツオであった
――天敵の存在しないアタシーノ星で、知らず知らずカツオは大繁殖をしていたのである。エサも無いのであるが……




