1-69 焼菓子
前にアイちゃんが言っていた通り、この公国には使える資源と思しきものがあった。
とりあえず持ってきてもらったけど、僕が行ったら、もっと見つかるかもしれない。でも、とても寒い所だっていうし、石切り場よりも北だって話だったし、どう考えても許してもらえないよね。もっと大きくなったら、ま、大人になったら再度、考えようと思う。
僕の研究室に資源が集まって来るまで、少し時間がかかるだろうから、工場で作るお菓子を決めよう。
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ということで、今日は中央工業団地の一斉休業日。
そしてここは、パン製菓工場。
そう、今日はキッチンスタジアムの日。
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「さて、本日はお菓子を教えたいと思いまーす」
「パチパチパチザワザワザワ」
「今日作るのは、クッキーでーす。クッキーとは、乾燥していて、サクサクしていて、香り高くて、甘くて、日持ちもする小さな焼き菓子でーす。まず、薄力粉をボウルに入れまーす。次に、薄力粉の量の半分くらいのバターと同量の砂糖を、別なボウルに入れて、石臼魔法でふわっとするまで混ぜまーす。この時、必ず空気がたっぷり入って白っぽい色になってふわっとするまで混ぜてくださーい。これをバタークリームと言いまーす。混ぜ方が中途半端だとサクッと焼けないので注意してくださーい。次に、用意した小麦粉の五分の一、材料全体でなら十分の一くらいの溶き卵を、少しずつバタークリームに加えて、その都度、石臼魔法で良く混ぜまーす。ここでも良く混ぜないとバターと卵が分離といって、バラバラになってしまい、失敗するので気をつけてくださーい。良く混ざって、全体が泡立てた生クリームみたいになったら、ラム酒を少し入れて混ぜまーす。混ざったら、ここに最初に用意した薄力粉をパサパサっと入れて、上下を返すイメージで、ゆっくり石臼魔法をかけまーす。この時に、キッチンロイドで捏ねるイメージをしてはいけませーん。はい、ここまでは大丈夫でしょうか?」
「はい! ミチイル様。でも、パンに比べると注意点が多く、細かい気がします」
「さすがジョーンですね。正解です。お菓子はパンに比べると、とても繊細な手順が要求されるものです。しかも、料理の味付けと違って、手順が狂ったり、途中で失敗したりしたら、もう取り返しがつきません。この点が注意点です。できれば、計量器魔法で正確に分量を量って欲しいです。材料を用意するのは、計量器魔法が使える人の担当にすると、良いかも知れません」
「かしこまりました!」
「さて、これで基本のクッキー生地ができました。これをこのまま仕上げて焼けば、プレーンクッキーでーす。長いので、これはサブレと呼ぶことにしまーす。今日は他にも作りますので、ここで出来た生地は三分割しまーす。その三分の一はボウルに入れてとりあえず冷蔵庫に入れておいてくださーい。そして、紅茶の茶葉を適量用意し、石臼魔法で粗目に粉砕しまーす。そしたら、クッキー生地のボウルの一つに練らないように混ぜて、これも冷蔵庫に入れといてくださーい。さ、残りの一つはカボチャでーす。カボチャを薄切りにして干物魔法でカラカラに乾燥させまーす。それを石臼魔法で微粉末に粉砕しまーす。微粉末じゃないと食感が悪くなるので気をつけてくださーい。そうしたら、残りのボウルのクッキー生地に、紅茶と同じように混ぜまーす。ここまでは大丈夫でしょうか?」
「はい! ミチイル様。今日は三種類ということですが、基本のクッキー生地を用意すれば、他にもいろいろな種類が作れるのでしょうか?」
「大変良い質問です、ジョーン。その通りです。いろいろなものを入れることができますが、クッキーはサクサクした焼き菓子ですから、入れるものは乾燥したもので、細かい微塵切りか粉末が良いでしょう。例えば、ニンジンをパウダーにしたものや、春菊をパウダーにしたものなどを入れると色もきれいで味もそれぞれ楽しめます」
「かしこまりました!」
「では、これでクッキー生地が三種類できました。まず、プレーンクッキーのサブレ生地を冷蔵庫からだし、パスタマシーン魔法で3mmの厚さに延ばしまーす。その後は、新魔法の型抜き魔法で形を作りまーす。『型抜き』 」
ピカッ
「はい、これでクッキー生地が、花形というお花の形になりました。これを、油を塗ったオーブンに入るサイズの鉄板の上に、重ならないように並べていきまーす。ケーキサーバーを使うと、花形になったクッキー生地を剝がしやすく持ちやすいでーす。並べ終わったら、180℃のオーブンに入れ、横蓋をして四半時くらい焼きまーす。焼いている途中には、絶対に蓋を開けないでくださーい。焼ける前に蓋を開けてしまうと、せっかく膨らんでサクッとなりかけているクッキーがしぼんでしまって、堅い焼き上がりになってしまいまーす。後の二つの生地も、サブレと同じ手順でーす。四半時経って様子をみて、こんがりしていい匂いがしていたら、焼き上がりでーす。焼き上がりはフニャフニャしているので、できれば金網の上に移して冷まして欲しいんですが、数が多いと無理なので、鉄板のままでもいいでーす。クッキーが完全に冷めるまでは、どこかに仕舞わないでくださーい。サクサクしなくなりまーす。クッキーが完全に冷めて、サクサクした感じになったら、クッキー三種の、完成です!」
「ありがとうございました!」
「さあ続きまして、クッキーを冷ましている間に、新たなパン生地を教えたいと思いまーす。前回教えたパン生地は、リーンなパン生地といって、材料が少なく食事に向いたパン生地でした。今日は、リッチなパン生地というのを教えたいと思いまーす。まず、パン生地の材料はほとんど同じですが、違うのは菜種油の代わりにバターを使うこと、水の代わりに卵と牛乳を使うこと、そして砂糖を入れることでーす。卵はパンをボソボソにし、砂糖は発酵を遅くしてしまうので、食パンの生地よりも難しく繊細なパン生地になりまーす。これは、菓子パン生地といって、お菓子のパンの生地になりまーす。ここまでは大丈夫でしょうか」
「はい! 分量は同じなのでしょうか?」
「いい質問です。水の代わりになる卵と牛乳は同じくらいですが、油の代わりとなるバターは倍量になります。これは、卵を入れることでパンがボソボソになるのを緩和するためです。ですが、繊細なパン生地ですから、お菓子と同じく、計量器魔法を使う方が良いかも知れません。それと、発酵が遅いので、酵母の量を増やしてもいいかも知れません」
「かしこまりました!」
「はい、では強力粉に卵と牛乳、塩少しに砂糖と酵母は同量くらい、そしてバターをたっぷり入れて、キッチンロイド魔法でパン生地を捏ねまーす。この後、発酵させますが、時間は長めにかかりまーす。今日は時間が無いので、醸造スキルでピッカリンコ。その後、食パンとは違って、小さいサイズに切り分けまーす。今日は小さいサイズ50個分にしまーす。そして、ベンチタイムと言って、四半時くらいそのまま生地を休ませまーす。その間にフィリングと言って、中にいれる具を用意しまーす。今日は、カボチャの皮を皮むき器魔法でペロンと向いたら、抽出魔法でカボチャの種を取り出しまーす。そうしたら、砂糖をカボチャの半分くらいの量入れて、塩少しとバターも適量入れ、圧力鍋魔法でしっかり加熱して、柔らかくしまーす。終わったら、石臼魔法でペーストにし、濃縮魔法で水分を減らし、おにぎりのようにカボチャがまとまる感じに仕上げまーす。これはカボチャあん、と言いまーす。そしてこれを50個に分けておきまーす」
「さあ、ベンチタイムが終わったパン生地を、パスタマシーン魔法で幅狭く長く延ばし、端っこに先ほどのカボチャを乗せて、端からクルクルと巻いていきまーす。その時に、パン生地の両端からカボチャが見えないように巻いてくださーい。巻き終わったら、巻き終わりを下にしてオーブンの鉄板に油を塗って並べ、二次発酵を行いまーす。今日は醸造スキルでピッカリンコしまーす。後は、食パンと同じように180℃のオーブンで、四半時焼きまーす。食パンより小さいので時間は短いでーす。焼きあがったら、カボチャあんパンの、完成です!」
「なお、サブレもカボチャあんパンも、焼く直前に余った溶き卵を上に塗ると、とても濃い焼き色を付けることができまーす。サブレやクッキーの場合は、溶き卵が側面につかないように塗ってくださーい。側面に卵がついてしまうと、膨らみが減ってしまいまーす。クッキーづくりに慣れてきたら、お好みで挑戦してみてくださーい。それではクッキーも冷めたので、一種類ずつ合計三枚取って、焼き立てカボチャあんパンと一緒に、試食しましょう」
「お供えしてくれましたか? はい、ありがとう。それでは、いただきまーす」
「 !!! 」




