1-68 資源
久しぶりに、気の置けない三人で料理を堪能した後、しばらく経って、北から資源候補の自然素材が届いた。
トム爺とドン爺と一緒に。
あ、どこで研究しようか……僕の研究室は母上のアトリエになったしね……東棟は全然空いているけど、お祖父さまの部屋を使っちゃったら、お祖父さまが泣くかも知れない……家具の移動も面倒臭いし、母上のアトリエの北側に、僕の小さい研究室を増築しよう。一瞬で出来るし、簡単だからね。
さて、別邸各居室の半分くらいの大きさの部屋を作った。と言っても20畳くらいあるし、充分。玄関が遠くて出入りが面倒くさくなったから、裏庭側に勝手口も作ったよ。そして、研究室っぽい作業台とチェアもいくつか作っておいた。
トム爺たちは、サロンでお茶を飲んでもらっているから、その間に、新研究室に荷車の荷物を運んでもらう。あ、甕もたくさん用意しとこう。どんな資源があるかわからないし、分類したいしね。
「はあ、甕か……重いし不便なんだよね、液体にはいいけどさ、僕も木箱作れればいいのに……小さいのなら日曜大工で作れるかもしれないけどねえ、茶箱くらいのサイズじゃないとね……」
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――ピロン 茶箱魔法が使えるようになりました。木製で密閉できるお好みの茶箱を思いのまま作れます
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「うん、とても欲しかったよ…… ささ、気を取り直して茶箱をたくさん作っておこう」
ピカピカピカ……
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「トム爺、ドン爺、研究室の用意ができたよ~ さあ、こっちへどうぞ~」
「お! 坊ちゃんのやる事は、相変わらずあっと言う間じゃの! カッカッカ!」
「ほんとうにのう、ほっほっほ」
「じゃーん! ここが僕の新研究室だよ!」
「ほうほう、シンプルじゃが、静かな環境じゃのう」
「カッカッカ! 坊ちゃんはいつもすごいの!」
「せっかくの静かな環境なんじゃがのう、おんしが居ると煩くて台無しじゃのう」
「なにおう! ドン、おぬし、そういう事いうんかの!」
「まあまあ、相変わらず二人とも、仲がいいね~」
「誰が!」「誰が!」
「はいはい。それで今日はね、何か有用なものが無いかと思ってね、北から物資を運んでもらったの。この中で、トム爺ドン爺が知ってるものを、まず教えて?」
「カッカッカ! わしに任せてくれ! これはの、鉄石じゃ。割とそこら辺に転がっておるの! してこれは、銅石じゃの! 銅石もごろごろしとる。してこれは」
「おんし! 金属関係なら、わしの出番じゃろう、ちいと黙っとれ!」
「なにおう! ドン、せっかくわしが坊ちゃんに」
「はいはい、じゃ、金属だからね、ドン爺、お願い」
「ほっほっほ! じゃ、続きじゃの。これは金砂じゃ。金貨を鋳造する時に、坊ちゃんも見たじゃろう?」
「うん、そういえば南村で小さいころ見たね」
「カッカッカ! わしの坊ちゃんはまだまだ小さいぞ!」
「誰がわしのじゃ! 坊ちゃんはのう、わし」
「はいはい、続きをどうぞ」
「ほっほっほ。そして、この小さいのが銀石じゃのう。アタシーノ公国ではあまり採れんでのう、銀はセルフィン公国が一番多いのう。ついでじゃから言うがの、銅石はスローン公国が一番じゃ。スローンでは、金砂は一切採れんがのう」
「そうなんだ。セルフィンで金砂は?」
「ふむ、少々は採れると聞いとるのう」
「ん、つまり、金砂はアタシーノがほとんどでセルフィンが少し、銀石はセルフィンがほとんどでアタシーノは少し、銅石はアタシーノでもたくさん採れる。スローンは、銅石はアタシーノよりあるけど、金砂は採れない、銀石は?」
「銀石も、スローンじゃあまり採れんのう」
「そうなんだ。スローンはかわいそうだねえ」
「なんでかのう? 坊ちゃん」
「だって、銅以外ほとんど採れないんでしょ? 金が一番産出するアタシーノが一番恵まれてるじゃん」
「金も銀も銅も、一緒じゃぞ! 坊ちゃん! 坊ちゃんは何でもできるが、変なところで色々知らんの! カッカッカ!」
「あ、そういえば小さいころ、お祖父さまから聞いてたかも知れない。大きさが違うだけで貨幣の価値は一緒、というか、貨幣の価値は無いんだった」
「そうじゃのう、貨幣は税にする以外は何も使い道はないのう」
「うん、それで、後は?」
「おお、そうじゃそうじゃ、してこれはのう、名前はついとらんが、危ない石じゃ。これを気合を入れて持ち上げるとのう、手が凍って貼りつくんじゃ。下手するとのう、手が血だらけになるんじゃよ。これは特に小さい石じゃからのう、普通に持っても何も起こらんがの、ほっほっほ」
「え? 手が凍るという事は、冷たいって事だよね?」
「そうじゃのう。温かくなる石ならまだしものう、冷とうなる石なんぞ、使い道などないのう。間違って扱ったら手が血だらけになるしのう」
「ちょっと触ってみてもいい?」
「ええぞい、気合を入れてはいかんぞい」
「うん。……ふーん、ちょっと冷たいけど、別にどうということも無いね。普通の何かの金属の石に思えるけど……ん? 気合? 気合って事は魔力って事だよね……ということは、魔力を流せば……ピカッ……おわ! 氷になった感じ!」
「坊ちゃん! 石から手を離すんじゃ!」
「うん、大丈夫。氷くらいの冷たさだから……うーん、ということは、この石は魔力を流すと冷たくなるって事な気がする、というか冷たい石、というか、冷たい金属? 魔力を流す、ねえ」
「カッカッカ! 次はわしじゃの! こん石はの、石じゃ!」
「いや、そりゃ見ればわかるけど、石炭?……っていうか光ってるから黒曜石かな」
「カッカッカ! ただの石じゃがの! 妙にツルツルしていての、魔獣が好む石なんじゃ!」
「え? 魔獣が好む石?」
「そうじゃ! なんでかわからんがの!」
「魔獣って、エサは魔力でしょ……ん、ちょっと僕が持ってみても危険じゃない?」
「おう! 何も危険な事などありゃせん! カッカッカ!」
「ふむふむ……ん? 凝視すると蛍光色なモヤモヤが見える……『ねえアイちゃん、これって魔力だよね?』 『左様でございます』……ねえトム爺、この石ってたくさんあるの?」
「おう! 北に転がっている石の中じゃ、一番多いの! 次に多いのは、こん石じゃ!」
「ん? これは半透明な……ガラス? さっきの石と似てるような気もするけど」
「カッカッカ! ガラス、いうもんが何なのかはわからんがの、キラキラしとるが……お? ガラス、そうじゃ! これはガラスじゃの! カッカッカ!」
「あ、そうなんだ……ということは使い道があるね」
「それからの! これはの! ゴミじゃ! カッカッカ!」
「いや、ゴミって……うん、ゴミはゴミだろうけど、薄汚れたフィルムでしょ。それともビニール、かな?」
「いや、何かはわからん! とにかく、石が転がっている場所の少し北の奥にの、これがわんさか積もっておるの! カッカッカ!」
「うーん、ビニールゴミって何か使い道あるかな……とりあえず、殺菌洗浄してみよう。ピカッ お? とてもきれいな透明ビニール?になった。でもねー、こんなビニールだけあってもさ、熱で溶けるのかなあ」
「いや、坊ちゃん、こんゴミはの! 煮ても焼いてもどうともならん!」
「え? そうなの?」
「おう! マジで何の役にもたたん! カッカッカ!」
「マジか……熱で溶けたりするなら、綺麗に裁断して熱で密着できるかと思ったのに……ま、熱で密着っていっても難しいか。密閉シーラーがあるわけでも」
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――ピロン 密閉シーラー魔法が使えるようになりました。なんでも接着できます
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「うーん。とりあえず、使ってみようかな『密閉シーラー』 」
ピカッ
「おお? 普通に接着してる!」
「おおお! 坊ちゃんはすごいの! 焼いてもなんしてもどうにもならんゴミが! カッカッカ!」
「ほっほっほ! さすがじゃのう」
「うん、これで使えそう、かな。でも袋にするなら大きさを揃えないとね。包丁とかカッターで切るか」
「坊ちゃん、こんゴミはの、切れんのじゃ!」
「え? そうなの?」
「そうじゃ! だから何の役にも立たんゴミなんじゃ!」
「うーん、刃物で切れなくても、金属枠に刃を焼き付けて、上からものすごい圧力で型抜きすれば」
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――ピロン 型抜き魔法が使えるようになりました。梅型でも桜型でも、なんでも思いのままに型抜きできます。おせち料理に。
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「いや、おせち料理に、マル、って言われても……ま、ちょっと試してみるか『型抜き』 」
ピカッ
「お、これはいいんじゃないかな」
「おおお! 何をしてもゴミじゃったんが、きれいに切れとる! さすがはわしの坊ちゃんじゃの! カッカッカ!」
「誰がわしの坊ちゃんじゃ! 坊ちゃんはのう、2歳の頃から」
「はいはい、じゃれないでね~ これで、密閉できるビニール袋が作れるね……でも切れないんじゃ……ピリッ……お? 切れるじゃん!」
「坊ちゃんは案外力持ちなんかも知れんの! カッカッカ!」
「ハハ 多分魔法をかけたから、ご都合主義が発生したんだろうね。ま、何にせよ、使える素材だよ」
「わしら、坊ちゃんの役にたったかのう?」
「うん、もちろんだよ、ドン爺。トム爺も、ピーター爺もジョン爺もだけど、僕、いつも助かってるの。ありがと」
「カッカッカ!」「ほっほっほ!」
「じゃさ、悪いんだけどね、ここの木箱があるでしょ? この木箱がいっぱいになるくらい、このフィルムと魔獣の好きな石……これは魔石と呼ぼう、この魔石と、半透明の石……これはガラスっぽいからガラス石と呼ぼう、それと……この冷たい石、っていうか、冷たくなる金属? ちょっと名前が思い浮かばないけど、これらの素材も、この木箱にいっぱい集めて、ここに届くように手配してくれる? 大丈夫かな?」
「おしきた! わしに任せとけば大丈夫じゃ! カッカッカ!」
「うん、ありがと。じゃあ、トム爺に任せるね。もしかしたら、これから継続的に大量に必要になる可能性もあるからね、その心づもりもしておいて~」
「合点じゃ!」
「じゃー、サロンでお茶の続きをしよう! 冷蔵庫にアップルタルトっていうお菓子があるからね、皆で食べよう!」
「カッカッカ! 楽しみじゃ!」
「ほっほっほ! 長生きはするもんじゃのう」




