1-64 石窯
とりあえず、リンゴは美味しかった。
中に種もあったから、甕魔法で植木鉢を作って種を植え、促成栽培スキルでリンゴの苗をいくつか作り、それを北のブドウ園の辺りに植え付けてもらう事にした。
そして、オールスパイスの種も、品種改良スキルを繰り返し、わっさわさに実が成るオールスパイスが完成。敷地も余っているし、とりあえずは男爵別邸北の空き地一区画分に植え付け、収穫したよ。後は種を農業部に任せよう。収穫したオールスパイスはワインを仕込むサイズの甕に何十個もできたから、干物魔法で乾燥させて別邸と日用雑貨工場に一甕ずつ、後は全部、調味料工場へ運んでもらうようお願いしといた。
リンゴが来たし、オーブンが欲しくなったので、別邸のキッチンを少し改造して、オーブンを作ろうと思う。
ま、石でかまどを作って、そのかまどの上を、厚めの鉄板で塞ぐ。その上に石で石窯を作り足して鉄板で取り外しタイプの横蓋を作るだけ。下のかまどは後ろから排煙するように煙突をつけて、焚口以外の上部は石で覆った。手前に熱は必要ないからね。
これで下で火を燃やせば、上がオーブンになると思う。
早速、薪を燃やし、初オーブン魔法。
うーんと、180℃ ピカッ
うーん、温度計ないんだけど……下の薪が、なんか燃えカスみたいなっちゃったから、多分時間が進んでるんだとは思うけど……普通にかまどで火を炊くより薪が減るのが速いわ。とりあえず、下に薪を追加しておこう。
でも、この魔法、一般人は使えないかも知れない。魔力消費が多い感じだし、下の薪が一瞬で燃えてるってことは、僕だからだもんね。他の人がやったら、だんだん燃えるはずだもん。それならガスコンロ魔法と変わらないじゃんね。
ま、経験でオーブン温度は計ってもらおう。何なら小さな生地を入れて焼け具合を見てから使うようにすれば、この石窯でもたぶん大丈夫よね。地球でも昔はそうやってたはずだし。
さてさて、アップルパイでも試そうかな。
まず、薄力と思しき小麦を、石臼魔法で薄力粉に。バターを冷凍庫に入れておこう。後は、さっきの残りのリンゴをコロコロに切って鍋に入れ、リンゴの十分の一くらいの量の砂糖を上からかけておく。水分が出てきたら、ラム酒を振りかけて圧力鍋魔法で火を通し、濃縮魔法で水分を飛ばしてから冷ます。その間に、銅のパイ皿を数枚アルミカップ魔法で制作。さて、薄力粉に冷たいバターを入れて、ざっくりと石臼魔法をかけてパラパラの状態にしたら、溶き卵と牛乳を粉が何とかまとまる程度に投入、後は捏ねないようにパスタマシーン魔法で5mmくらいに延ばす。延ばしたら半分に折りたたんで再度パスタマシーン。そしたら今度は四分の一くらいに畳んで冷蔵庫に入れておく。そして、鍋に砂糖とほんの少しの水を入れ、火にかけて苦めのカラメルを作成する。薄煙が鍋から出てきたら火から下ろし、すかさず煮ておいたリンゴを入れて、石臼魔法でざっくり混ぜ混ぜ。パイ生地を冷蔵庫から出してパスタマシーンで再度5mmくらいに延ばして、パイ皿に敷き余分をスライサー魔法でカット、生地にフォークで少し穴を開け、その上にカラメルリンゴをザザッと乗せて広げ、バターを散らしてからオーブンへ……
後は一時間くらいかな~
これでアップルパイ、っていうか、上に生地を被せないタイプにしたから、アップルタルトかな、4枚作製完了。
焼くのに一番時間がかかるね。アップルタルトの仕込み時にかかった時間は、魔法を駆使したから30分くらいだし……後は、後片付けしとこう。あ、生クリームも用意されているよね、あ、あるある。これを少しだけ泡立てて……
「おわ? 泡立てる方法がないじゃん! 泡立て器なら魔法を使わなくても竹の木工で作ってもらえると思うけどさ、石臼魔法だと空気が入らずにバターになりそうだし……はあ、やっぱり実際にやってみないと必要な要素が分かんないんだよね……前世なら、キッチンロイドとかで」
***
――ピロン キッチンロイド魔法が使えるようになりました。キッチンロイドが使用可能です
***
「おし! やっぱりキッチンロイドが無いとね~ お菓子作りはね~ 大変だから~ さ、生クリームにラム酒を少し入れたら『キッチンロイドで七分立て』 」
ピカッ トロリ
「うん、ばっちりだね~ ささ、洗い物を食洗機魔法でやってしまおう。いやー、なんてラクチンクッキング! 料理で一番大変な洗い物と仕込みが魔法であっと言う間だもん。これは便利便利~」
「……ねえ、ミチイル、なにかとても香ばしくて美味しそうな匂いが屋敷中に蔓延してるのよ」
「えー? ま、お菓子作りって、そういうもんだから~」
「わたし、せっかくコックコート魔法の練習しているのに、気が取られちゃって集中できないのよ~」
「あ、ごめんごめん。でもさ、中断できないし、後少しで焼きあがると思うからさ、サロンでお茶しようよ~」
「え? サロン? サロンは……今、綿花とかなんとかで散らかっているのよ……」
「ああ、魔法の練習してたんだっけ。じゃさ、西棟の一番北に僕の研究室があるでしょ? そこを母上のアトリエにしたら? 僕、あの研究室、全然使ってないし」
「アトリエ……何かしら、このエレガントな響き……うふふ……せっかくのミチイルの好意だから、私のアトリエに使わせていただくわ! ねえ、ちょっとそこのあなた、悪いけどサロンの中で散らかっているものを全部、西棟の一番北の部屋に運んでちょうだい!」
「じゃ、サロンが空いたら教えて~」
「もちろんよ!」
「あ、まだ生ごみ処分してなかったから、リンゴの皮は取っておこう。干物魔法でもかけとくか。で、後はコンポストで捨てておこう」
***
「あ、ケーキサーバーを銅で作っておこう。ついでにパイナイフも匠の包丁魔法で作って~ そろそろ焼けたかな~ お! いい感じ~ そうだ、後でミトンを作ってもらおう」
「ミチイル、サロンの準備ができたわよ」
「はーい。あ、お手伝いさん、悪いけど、この棒でオーブンの中のパイ皿をこっちに寄せて、布巾で掴んで台の上に出してもらえる? ありがと。残りの三つとも、とりあえず出しておいて、上に薄い布巾被せておいてくれる? あ、この中の皿一枚分は、みんなで後で食べていいよ~ 休憩とかしてる? あ、じゃあさ、僕と母上はサロンでお茶するからね、その間、みんなでお茶いれてタルト食べながら食堂で休憩してよ。これはね、アップルタルトっていうものなの。熱くても美味しいからね。包丁で人数分に切ってたべて~ 申し訳ないけど生クリームはまた今度ね」
「あら、ミチイル、この皿をサロンに持っていけばいいのかしら? んまあ、いい匂い!」
「うん、熱いから気をつけてね。んじゃ僕は、パイナイフとケーキサーバーと、乾燥したリンゴの皮を持って行こうかな~ あ、生クリームのカップとスプーンも」
***
「お、すっかりお茶会の用意が整ってるね~ っていうか何人分もあるけど誰か来る?」
「もちろん、私たち二人だけよ。用意は貴女会でいつもしているの。たくさん並べると雰囲気が出るのよ。用意だって慣れたものでしょう? 湯呑でしょ、小皿でしょ、スプーンとフォークね。それと急須に水差しのお水。紅茶の葉に砂糖に練乳よ!」
「なんだか、本当にお茶会みたいなんだけどさ、どうしても道具のネーミングがね……いや、見た目赤茶色の武骨な和風陶器なんだから、正解なんだけどさ、やっぱりね、磁器とは言わないけど白いティーセットとか欲しいよね……」
***
――ピロン ティーセット魔法が使えるようになりました。甕魔法と良く焼いた骨で白いティーセットが思いのまま作れます
***
「なんつーピンポイントな魔法なのさ……ま、ありがたく使わせていただこう。でもま、今日はいいや。じゃ、僕が紅茶を用意するね。電気ポット魔法でお湯をわかしてーの、紅茶の茶葉を入れてーの、リンゴの皮も投入!」
「あら? ミチイル、もしかして、またゴミを入れたんじゃないのかしら? なんか野菜の皮が見えた気がするわよ」
「違う違う~ 紅茶がとっても美味しくなるから、待っててね。それじゃ、アップルタルトを切ろう。六等分くらいでいいかな~ 母上、そのお皿とって~」
「はい、どうぞ」
「うん、で、このケーキサーバーでタルトを取りまーす」
「……ミ~チ~イ~ル~ お祖父~さま~じゃ~」
「ん? お祖父さま?」
「……どういうことなのよ、お父様ったら……んもう、ただじゃおかないんだから!」




