閑話5 ミカエル・ケルビーン5
わしは、ミカエル・ケルビーン。
このアタシーノ公国の大公を務めておる。
わしの可愛い可愛い孫は、凄すぎる。
この世に唐揚げが誕生してからというもの、この公国では老いも若きも唐揚げ唐揚げだ。給食のメニューがしばらく唐揚げばかりになったそうだが、わしは毎日でも構わんぞ!
そして、しばらく続く怒涛の調味料祭りだ。公国の料理が、日を追うごとに豊かになって来ている。今じゃ、塩のみで食べることなぞ、考えられんな。エデンのやつらは、ざまあ! グフグフッ
わしは毎日女神様とミチイルに感謝の祈りを捧げておる。毎日腹いっぱい食べ、民が元気に明るく働いておる。これ以上、何を求めるというのか。
と思っておったら、今度は、竹だ!
なんなのだ、あの木は! 公国の北にいきなり竹の森が現れたと思ったら、なんと、切っても切ってもすぐに大木になり、とても使い切れないくらい木材が手に入ると言うではないか!
木だぞ、木! あのエデンのやつらが強欲にも囲い込んで、わしらアルビノ人には極わずかしか使わせない、あの、木だ!
よもや、その貴重な木材が、使いたい放題になるばかりか、燃料にもしておると言うではないか……わしは未だに信じられんが、なんと木製品の製造ラッシュが続いておるらしい。
そうしたら、ミチイルが神の御業で、エデンの泉もかくやの清水を湧き出させた!
なんじゃ、湧き出させるとは……そんな事が人にできるものなのか……あ、わしの孫は救い主じゃった! グフグフッ
そして、番茶なるものを作り出し、茶道具なるものも揃えだした。ようやく燃料が使いたい放題になったというのに、今度は燃料も無く湯が沸くという。もっと早くにその魔法があれば、民が冷たいものを啜らなくても良かったのではないか、と思ってしまうが、わしなどには到底理解できぬ、救い主の深い計画があるのだろうな。
と思っておったら、次はコーチだ!
人が乗って牛が牽く、などと言うことを、誰が考えつくというのか。神しかおるまい。
そのコーチは、さながら屋敷の部屋のごとし、小さな部屋には寝台のような椅子が設置されて、羽毛布団まであるのだぞ。何でも、尻が痛くならないのだとか。これがあれば、年に三回もしぶしぶ出かけるエデン会議の旅程も、かなり楽になるだろうがな、いかんせん、公国外では使えぬからな。ミチイルはまだまだ子供だ。ミチイルの移動が速く楽に安全になるのだ。これはいい事だな。本当はわしもコーチ欲しい……
なのにだ! 気が付いたらマリアが自分専用のコーチに乗っておるではないか! すぐさまわしの分も、と思ったのだが、お父様は屋敷で執務をするだけでしょう、と言って、わしのコーチは作ってもらえん……わしも欲しいのに……
と思う毎日だったがの、今度はなんと!
あの至高の料理、ハンバーグを超えるハンバーグが生み出された!
照り焼きハンバーグだ!
なんだ、あれは……ケチャップのハンバーグも至高であったのだが、照り焼きは別物だ。なんでも、味醂とかいうものが出来て可能になったらしい。照り照りとし、こっくりとした味わいは、ご飯がいくらあっても足りんぞ!
そして何より、その照り焼きの料理法で焼かれた、焼き鳥だ!
焼き鳥はの、ありゃ毒だ。毒。食べても食べても腹が膨れん。いや、本当は腹が膨れているのだがの、手が止まらないんじゃ! 酒が旨いんじゃ! ワインと照り焼きが、あんなに合うとはの。旨すぎて、わし、死ぬ。
そんなミチイルだがな、全部が全部、手放しでうまい料理、とは言い切れん。わし、あの卵かけご飯は、ダメじゃ。卵はオムレツならばあれほどうまいのにな、生だとダメじゃ。わし、どうしてもどうしても、あの生の白身が鼻水に思えてしまってな、スプーンが進まん。許せ。
まあ、人には好みと言うものがあるらしいの。今まで、好むも何も、食べ物がなかったからな。好み、などという嗜好があるとは知らなかったぞ。鼻水が食えんのは好みの問題じゃ! 決してわしが悪いわけではないぞ!
などと思っておったのは、今を考えるとまだ平穏なもんだったな……
なんとミチイルは、北部工業団地、なるものを作りおった!
そこでは、ありとあらゆる職人たちが一か所に集まり、互いを高め合って効率良く物を作れるようになった。まあ、原料も燃料も使いたい放題だしな、いずれも北で手に入るものだから、北部に施設を作るのは、施政者として正しいの。さすが、わしの孫じゃ!
ま、そのせいで南村が過疎ったがの……
まあ、そんなことは些細な事じゃ。南村はエデンのためにある村だからな。エデンなぞ、どうでもいいしな。職人たちも片手間でエデン税の仕事をやっつけて、さっさと戻ってくるようだぞ。
そうしておったら、次はクリームシチューだ!
牛の乳はな、わしはあんまり飲めんのだがな、クリームシチューは別だ! まろまろとした味でな、肉も野菜も沁み滲みで旨いぞ。しかも、栄養がいっぱいと言う事でな、食が進まない年寄りなぞも、クリームシチューを少し食べさせると、体力が回復していくそうだ。まさに命の料理だな。
などと……思っておったら……思っておったら……ミチイルが家を出るんじゃと?
なんじゃーーーそれはーーーわしはーーー絶対に許さーん!
噂を聞いてから、わしはプルプル震えておったわ。ミチイルが帰ってくるまで生きた心地もせんかったくらいだ。
しかしのー、さすがわしの可愛いミチイルじゃ。ミチイルはずっとわしと一緒に居たいらしいのう~ ミチイルの新居に、ちゃんとわしの部屋もあるんじゃ~ お祖父さまの部屋もあるよ~なんて、可愛いのう~ ああ、早く引っ越ししたいのう~ グフグフッ
わしは決めた。
さっさと隠居する!
さあ、ミハイルを呼び戻すのだ!
決意を新たに指折り数えておったらの、今度は粉ミルクだと。粉ミルクとは、母親の乳の代わりになる赤子の食事だそうだ……そんな……こんな事が……これで……残されてしまった赤子をむざむざ死なせんでも済む……最近では民も丈夫になってな、三人目の子を産むことができるようになってきておるから、毒草飲んで子を降ろす事も無くなってな、公国の人口も少しずつ増えてきた。
今なら、マリアを産んで死んでしまったミリアンも、死なずに済んだであろうな……
だが、今はもう、そんな心配もいらん! ああ、まさしく神の御慈悲じゃ!
わしは女神様とミチイルに、一層感謝の祈りをささげておる。民も、救い主様!と毎日毎日祈っておるそうだ。もちろん、ミチイルにそう呼びかけるのは厳禁じゃぞ!
わしの孫は、可愛くてすごいの! 可愛すぎて、わし、死ぬ。
などと日々感謝して両手で指折り数えておったら、今度は、中央工業団地だ!
あれは何だ。北部で作っとる以外の製品を一堂に集め、平民が皆で作業を分担し、今まででは考えられない速さで物ができていく。交流センターなるものでな、年寄りから赤子まで、一緒に時間を過ごしておってな、しかも、風呂まで自由に入れるらしいの。まだ大公屋敷にすら、風呂が無いというのに……
風呂といえばな、マリア達が日ごとに美しくなっていくというので、民の間では噂でもちきりだ。わしは良くわからんがな、風呂などの効果が高いらしいの。美魔女?とかなんとか言われておる。ま、獣の生き血を啜っておるだの、少々不穏な噂もあるにはあるがな……そういえば、時々夜にとんでもない臭いが敷地に漂っておる事があるが……噂、だよな? ……世の中には知らん方が良い事もあると聞く。わし、何も知らん!
そうだそうだ、アタシーノ川に、立派な、橋というものができたぞ。なんと、川を荷車で渡れるんだぞ! わしの孫はすごいのう~ 今は、隣のセルフィン公国まで街道を敷いている最中だ。もうそろそろ完成すると聞いておるがの。
ミハイルのやつ、早く戻って来んかの~ わしは両足の指まで使って指折り数えて待っておるが、一向にその時はやってこない。そうこうしているうちに、ジェームズのやつがミチイルの新居の隣に引っ越しおった! ミチイルが男爵別邸を建てたらしい……うう、わしより先にミチイルの所へいくなぞ、ジェームズもカンナも何を考えておるのだ!
わしも、一刻も早く引っ越さねば!
……と数える指がとうに無くなって、二周目だか三周目だかの指折りを数えてたらの、ミチイルが元気がなくなったらしい……
こうしちゃ居れん! いますぐにでも! ミチイルの所へ行かねば! ミハイルなぞ、待って居れん! 決めたぞ!
と引っ越しの準備をしておったらの、マリアがの……お父様はしばらく別邸に出入り禁止です! だと抜かしおる。出入りも何も、わし、まだ別邸に行った事もないのに。
なんでだ?
わしとミチイルの家でもあるのだぞ!
だが、仕方がない。母であるしな、しぶしぶ我慢しておる。
もう指も何周目かわからん!
せっかく、ミハイル一家もパラダイスから戻ってきたというのに。
何のためにミハイルに大公を任せることにしたと思っておるのだ!
そうだ!
誰がなんといっても、わしは可愛いミチイルの祖父だぞ!
ええい!
わしは決めた!
すぐに引っ越すぞ!
わしのかわいいミチイル、お祖父さまは直ぐに引っ越すからの!
もう何の心配もいらんぞ!
グフグフッ




